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番外編 たった一つ 4
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(……救えたはずだったのに。)
俺の知り合いの、あの案内をしていた警察官は死んでしまった。
いいやつだった。
どこにでもいるような明るいやつで、いわゆるムードメーカーだった。
何を言うでもなく飲み会はあいつが仕切っていたし、あいつが休んだ日は妙に部屋の空気が重かった。
そんないい奴は、あのカスを庇って死んだらしい。
あの男。
あの形だけは警察官の、隊長とかいうあのクズ。
最前線で戦っていたあいつを庇って、銃弾をその身に受けた、と。
確かあいつは、あの男を優秀だとよく言っていた。庇ったといわれても、納得できてしまった。
一応あの男は先に気づいてあいつを蹴り飛ばし、心臓からは外したらしい。
だが、結局失血死してしまった。死んでしまったならば結局一緒だ。
「………役立たずのクソ野郎が……。」
俺のいた部屋に、あいつは来なかった。
緊急だったため、手当はあの男の部下がしたと聞いた。
あんな奴らにまともな処置ができるわけもない。だから死んでしまった。
………俺のいた部屋にいたら、俺があんな奴らを庇うことを止められれば、
あいつは死ななかった。あいつは生き延びることが来た。
どうして俺は、あいつの案内を手伝わなかったのだろう。
無性にイライラする。理由もないのに腹が立ち、何かに怒りをぶつけたくてしょうがない。
パソコンを操作してもいつもよりミスが増え、いらだちは夕方まで続いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「お前、もうそろそろ帰れ。」
顔をしかめた同僚が、机にある仕事をもっていった。
「大丈夫だ。それに、今日はそういう気分なんだ。」
「全然大丈夫じゃないだろ。お前今日何回ミスしてると思ってんだ。」
俺が作った書類を片手に、ミスの場所に貼られたふせんをこれ見よがしに見せられる。
そのまま俺は半強制的に、自宅に帰ることになった。
警察署から出るその少し手前に、あの男がいた。
何事もなかったように書類を片手に持ち、忙しそうに指示を出している。
「………ああ、そのままでいい。その他の被害は?………怪我人が想定より多いな。病床と場所は足りるか?」
部下らしい奴らが慌ただしく移動しては報告し、指示をしてはどこかへと電話している。
「………お前が代わりに死ねばよかったんだ。」
無意識のうちにそう呟き、警察署を後にした。
憐れみと呆れを含んだ何十もの黒い目と、深淵を思わせる黒い目が、こちらを見ていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
自分の車に乗り込み、一息吐く。
昨日今日といろいろなことがありすぎて、なんだか徹夜明けみたいに疲れ切っている。
運転は上手いほうだが、今日は普段よりスピードを落として慎重に行こう。
「そう思っていたくせに、このザマかよ俺!」
結論から言おう。事故を起こした。
俺が100%悪い、追突事故だ。
相手は赤信号で停車中で、どうあがいたって俺が悪い。
幸い相手は怪我だけで済み、腕を痛めたといっている。
「大変申し訳ございません。」
「ええ、こちらは大丈夫です。ああ、でも……どうするか。」
何か追加でやらかしているのかと、少し食い気味に聞く。
「いかがされましたか。」
「ああ……えっと、この腕では運転が難しいので、この後どうしようかと。」
それならば、と警察の許可を取り提案をする。
「よろしければ、私の車でその場所までお送りいたします。」
「え。…しかし、車を動かしてもいいのでしょうか。」
「御心配には及びません。先ほど警察の方にも確認いたしましたが、もう動かして構わないそうです。」
そういうと相手は少し考え始めたようだ。
もう一押しするために再び口を開き、どうにか説得する。
「私の車は故障していませんし、けがをさせたのは私のほうです。このまま送らせていただけませんか。」
「………少し、入り組んだ場所ですが、よろしくお願いいたします。」
その言葉に安堵の息を吐き、こちらこそと返事を返す。
今夜は遅い帰りになりそうだ。
俺の知り合いの、あの案内をしていた警察官は死んでしまった。
いいやつだった。
どこにでもいるような明るいやつで、いわゆるムードメーカーだった。
何を言うでもなく飲み会はあいつが仕切っていたし、あいつが休んだ日は妙に部屋の空気が重かった。
そんないい奴は、あのカスを庇って死んだらしい。
あの男。
あの形だけは警察官の、隊長とかいうあのクズ。
最前線で戦っていたあいつを庇って、銃弾をその身に受けた、と。
確かあいつは、あの男を優秀だとよく言っていた。庇ったといわれても、納得できてしまった。
一応あの男は先に気づいてあいつを蹴り飛ばし、心臓からは外したらしい。
だが、結局失血死してしまった。死んでしまったならば結局一緒だ。
「………役立たずのクソ野郎が……。」
俺のいた部屋に、あいつは来なかった。
緊急だったため、手当はあの男の部下がしたと聞いた。
あんな奴らにまともな処置ができるわけもない。だから死んでしまった。
………俺のいた部屋にいたら、俺があんな奴らを庇うことを止められれば、
あいつは死ななかった。あいつは生き延びることが来た。
どうして俺は、あいつの案内を手伝わなかったのだろう。
無性にイライラする。理由もないのに腹が立ち、何かに怒りをぶつけたくてしょうがない。
パソコンを操作してもいつもよりミスが増え、いらだちは夕方まで続いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「お前、もうそろそろ帰れ。」
顔をしかめた同僚が、机にある仕事をもっていった。
「大丈夫だ。それに、今日はそういう気分なんだ。」
「全然大丈夫じゃないだろ。お前今日何回ミスしてると思ってんだ。」
俺が作った書類を片手に、ミスの場所に貼られたふせんをこれ見よがしに見せられる。
そのまま俺は半強制的に、自宅に帰ることになった。
警察署から出るその少し手前に、あの男がいた。
何事もなかったように書類を片手に持ち、忙しそうに指示を出している。
「………ああ、そのままでいい。その他の被害は?………怪我人が想定より多いな。病床と場所は足りるか?」
部下らしい奴らが慌ただしく移動しては報告し、指示をしてはどこかへと電話している。
「………お前が代わりに死ねばよかったんだ。」
無意識のうちにそう呟き、警察署を後にした。
憐れみと呆れを含んだ何十もの黒い目と、深淵を思わせる黒い目が、こちらを見ていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
自分の車に乗り込み、一息吐く。
昨日今日といろいろなことがありすぎて、なんだか徹夜明けみたいに疲れ切っている。
運転は上手いほうだが、今日は普段よりスピードを落として慎重に行こう。
「そう思っていたくせに、このザマかよ俺!」
結論から言おう。事故を起こした。
俺が100%悪い、追突事故だ。
相手は赤信号で停車中で、どうあがいたって俺が悪い。
幸い相手は怪我だけで済み、腕を痛めたといっている。
「大変申し訳ございません。」
「ええ、こちらは大丈夫です。ああ、でも……どうするか。」
何か追加でやらかしているのかと、少し食い気味に聞く。
「いかがされましたか。」
「ああ……えっと、この腕では運転が難しいので、この後どうしようかと。」
それならば、と警察の許可を取り提案をする。
「よろしければ、私の車でその場所までお送りいたします。」
「え。…しかし、車を動かしてもいいのでしょうか。」
「御心配には及びません。先ほど警察の方にも確認いたしましたが、もう動かして構わないそうです。」
そういうと相手は少し考え始めたようだ。
もう一押しするために再び口を開き、どうにか説得する。
「私の車は故障していませんし、けがをさせたのは私のほうです。このまま送らせていただけませんか。」
「………少し、入り組んだ場所ですが、よろしくお願いいたします。」
その言葉に安堵の息を吐き、こちらこそと返事を返す。
今夜は遅い帰りになりそうだ。
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