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番外編 たった一つ 3
しおりを挟む体は凍り付いたように動かないのに、頭だけがどこか冷静に逃げろと警告を放つ。
無理やり動かした足はまともに動かずに、酔っ払いのようにふらふら走り出した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
転がり落ちるようにたどり着いた一階は、怒号と悲鳴が飛び交い混沌としている。
逃げる一般の人と案内の警察官と敵に対応している警察官でごった返し、誰もが恐怖と焦りが顔に浮かんでいる。
「お、おい!!何が起きているっていうんだ!!」
案内している警官に知り合いがいたので、思わず肩を揺らして問い詰める。
「それがよくわかんねぇんだよ!!他の言うやつが言うにはどこかの組のもんが入ってきたって……。」
「ヤクザか!それでこの乱闘戦かよ!!しかも相手、銃使ってるじゃねぇか!!」
何度も何度も鳴り響く銃声に、ドサドサ人が倒れていく。
地獄絵図、そう呼ぶのにふさわしい光景が目の前にある。
コレハ、現実ナノカ?
「ひとまずお前は怪我人を運べ!!いるだけで流れ弾が当たって危ねぇんだよ!!」
「あ、ああ!言われなくとも!!」
知り合いの声に正気を少し取り戻し、近くの怪我人から運んでいく。
自分の防弾チョッキを確認して、近くの一般人を緊急の介護室に運ぶ。
介護室ももう満室で、誰もかれも真っ赤な包帯が巻かれている。
「おい!こっち一人追加だ!!」
「床に毛布でも敷いて寝かせてくれ!!もう場所がない!!」
言われた通りに怪我人を寝かせ、その場から立ち去ろうと動いたとき。
「死にかけはここかぁあ!!」
ナイフを振りかざした明らかにヤバいやつが、入り口を陣取って出られなくなった。
足を止めたその一瞬で、肩を強く引かれ誰かが前に出る。
「邪魔だどけぇ!!」
そいつは見本のような膝蹴りをして、相手はそのまま後ろに倒れていった。
(??????)
何が起こったのか全く分からないが、ひとまずあの男が助けてくれたらしい。
戦えたのかあの男。というか。
おい待て後ろには窓しかないぞ?窓?窓から入ったのかこの優男(仮)は
ここの窓は目線くらいの場所に一番下の枠ががある。……え?こいつそこから入ってきたのか?
「柊!この場の護衛!!」
「ハッ!!」
というか待て、いろいろ待て。こいつこんなドスのきいた声出せたのか。
「第一部隊は避難者の護衛!第二部隊は俺と一緒に来い!!」
「「ハッ!!」」
何が何だか分からなくなってきたが、とりあえず戦闘員としてこいつらは動いてくれるらしい。
「あんたは毛布探して片っ端から敷いてあげてください。まだまだ怪我人は来ますよ。」
「あ、ああ。」
反射的にそう答えて、俺は言われた通りに動き始めた。
騒動が落ち着いたとき、俺の耳に死者が出たと入った。
久しぶりに飲みに行こうといった友人の声が、どこか遠くで聞こえた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
無理矢理眠った翌日。
俺は安置室で、一人立って待つ。
沈黙が支配するこの場では、息を吸うことすらためらわれた。
少しして入ってきた女性に、一礼して向かい合う。
「確認をお願いいたします。」
俺はそう言って、知り合いの顔にかかる白い布をめくった。
「……間違いありません。」
そう言ったのは、一度だけ見たことのある知り合いの妹。
他県に住んでいる両親は来ることができないため、今回呼ばれたらしい。
「同僚の方ですよね。………兄が………兄が、お世話になりました。」
ゆっくり一礼をして、涙をこらえながらお礼を述べた彼女は、そのまま帰っていった。
何を思ったわけではないが、知り合いの顔を見る。
別の場所で一度だけ見た遺体と同じ安らかな顔をしており、安堵の息を吐く。
そのまま部屋を出て、扉に体を預けて、扉を軽く蹴った。
「……………馬鹿が。」
そう呟いて俺は仕事に戻った。
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