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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
148.中断された執務
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私の言葉にピシリと固まった一心。凄みのある笑顔をこちらに向けて、ゆっくりと私を呼ぶ。
「……マ・ス・タ・ー?」
「時間が足りないんだよ!」
「………終わり次第、叩きのめしてでも寝かせますからね。」
「おー怖い怖い。」
目は書類に固定し、手はペンを動かしながら適当にあしらう。
一心は資料を取り出すために動き回りながら互いに軽口を叩き合う。
「一心、顔の絵付き貴族一覧。」
「こちらです。」
「一心、宝物庫の財宝一覧。」
「机の右奥にございます。」
だんだんと集中していけば軽口は事務的な指示に変わっていった。
元の世界ではよくあったこの光景は、傍から見ればどう映るのだろう。
そんなくだらない事を思いながら、計算の合わない書類に「不可」とサインをした。
そして次の書類に許可証代わりの印鑑を押そうとして、ふと、気づく。
「一心、国王専用の印鑑ってどこ?」
「こちら……に…………?」
「……ん?」
一心が無言で探った引き出しの中には印鑑は無く、思わず声が漏れた。
二人で顔を見合わせ、手を止めて探し回る。
国王しか使うことが許されない印鑑は国王が直に出した命令と同じくらい効力がある。
(伯爵家や偽物の手に渡ってたら面倒だ。)
流石に見つからないと大問題に発展することはもとより、書類の一部が処理できない。
こんなことで国を終わらせたら誰の得にもならない。この場にいない管理していた者に対して舌打ちをして、お互いに真面目な顔で部屋中を探す。
そして出した結論は「この部屋にはない」という事。
一応後で国王(偽)と国王(本物)に聞いてみるが、国王(本物)は何時正常な状態に戻るかも分からないから期待はしていない。
緊急で持っていそうな人の家や別荘を探るとしても、既に書類に使われていた後の可能性もある。
「一心、国王の印鑑使われている書類あった?」
「いいえ。この場にある全ての書類に目を通しましたが、ただ一つとして印が使われた書類はありませんでした。全てサインで処理されています。」
「ならこの王城にある書類を邪魔者がいない今のうちに調べよう。特に伯爵家に関する書類は厳重に確認を頼むよ。横領を印鑑で決済している可能性だってあるからね。ついでに印ももちろん頼むよ、まぁ、本物の国王が持っているだろうから後回しでいいけれど。」
「かしこまりました。ではマスター、私は地下の東側から調べますので…」
「私は最上階の反対から調べるね。」
「お願いいたします。2時間ほどで一度集合いたしましょう。ではマスター、一時護衛から離れますことをお許しください。」
「護衛がいなくたって私が死ぬわけないだろう?じゃあ一心、そっちよろしく!」
「マスター!過剰な自信は身を滅ぼしますよ!」
「私は何時でも警戒心マックスだよ!」
なおもマスター!と呼びかける一心を無視して部屋の外に出る。。
どうせ姿を隠すからと男装のまま窓枠に足をかけたその時、逃がすかと言わんばかりに肩を掴まれた。
ゴギッっとなった音に顔をしかめて仕方なしに振り向けば、まぁいい笑顔で一心が佇んでいた。
「マスター、何度もお呼びしましたが声が小さかったようで大変申し訳ございませんでした。」
「ウンソレデドウシマシタカ。」
ミシミシミシ
「こちらをお届けに参りました。お忘れ物でございます。それからマスター、私の様な執事に敬語は不要でございます。」
ミシミシミシ
「ハイ。」
「では。」
バキャッ
肩から手を離し手の平にころりと転がされて来たのは毒の検査薬が入った小瓶。
(めんどくさーいな♪)
「ちゃんと、調べてくださいね。」
「ハイ。」
全く笑っていないのにきれいに見える笑顔で、お手本のような一礼を見せた後、クルリと回転して姿を消した。
(まったく…物騒なんだから。)
ボキッと綺麗に外れた肩が見えていないのかアイツは。まったく。
反対の腕でゴギッと肩を戻して、光魔法で姿を隠した後に適当な窓から身を投げた。
「……マ・ス・タ・ー?」
「時間が足りないんだよ!」
「………終わり次第、叩きのめしてでも寝かせますからね。」
「おー怖い怖い。」
目は書類に固定し、手はペンを動かしながら適当にあしらう。
一心は資料を取り出すために動き回りながら互いに軽口を叩き合う。
「一心、顔の絵付き貴族一覧。」
「こちらです。」
「一心、宝物庫の財宝一覧。」
「机の右奥にございます。」
だんだんと集中していけば軽口は事務的な指示に変わっていった。
元の世界ではよくあったこの光景は、傍から見ればどう映るのだろう。
そんなくだらない事を思いながら、計算の合わない書類に「不可」とサインをした。
そして次の書類に許可証代わりの印鑑を押そうとして、ふと、気づく。
「一心、国王専用の印鑑ってどこ?」
「こちら……に…………?」
「……ん?」
一心が無言で探った引き出しの中には印鑑は無く、思わず声が漏れた。
二人で顔を見合わせ、手を止めて探し回る。
国王しか使うことが許されない印鑑は国王が直に出した命令と同じくらい効力がある。
(伯爵家や偽物の手に渡ってたら面倒だ。)
流石に見つからないと大問題に発展することはもとより、書類の一部が処理できない。
こんなことで国を終わらせたら誰の得にもならない。この場にいない管理していた者に対して舌打ちをして、お互いに真面目な顔で部屋中を探す。
そして出した結論は「この部屋にはない」という事。
一応後で国王(偽)と国王(本物)に聞いてみるが、国王(本物)は何時正常な状態に戻るかも分からないから期待はしていない。
緊急で持っていそうな人の家や別荘を探るとしても、既に書類に使われていた後の可能性もある。
「一心、国王の印鑑使われている書類あった?」
「いいえ。この場にある全ての書類に目を通しましたが、ただ一つとして印が使われた書類はありませんでした。全てサインで処理されています。」
「ならこの王城にある書類を邪魔者がいない今のうちに調べよう。特に伯爵家に関する書類は厳重に確認を頼むよ。横領を印鑑で決済している可能性だってあるからね。ついでに印ももちろん頼むよ、まぁ、本物の国王が持っているだろうから後回しでいいけれど。」
「かしこまりました。ではマスター、私は地下の東側から調べますので…」
「私は最上階の反対から調べるね。」
「お願いいたします。2時間ほどで一度集合いたしましょう。ではマスター、一時護衛から離れますことをお許しください。」
「護衛がいなくたって私が死ぬわけないだろう?じゃあ一心、そっちよろしく!」
「マスター!過剰な自信は身を滅ぼしますよ!」
「私は何時でも警戒心マックスだよ!」
なおもマスター!と呼びかける一心を無視して部屋の外に出る。。
どうせ姿を隠すからと男装のまま窓枠に足をかけたその時、逃がすかと言わんばかりに肩を掴まれた。
ゴギッっとなった音に顔をしかめて仕方なしに振り向けば、まぁいい笑顔で一心が佇んでいた。
「マスター、何度もお呼びしましたが声が小さかったようで大変申し訳ございませんでした。」
「ウンソレデドウシマシタカ。」
ミシミシミシ
「こちらをお届けに参りました。お忘れ物でございます。それからマスター、私の様な執事に敬語は不要でございます。」
ミシミシミシ
「ハイ。」
「では。」
バキャッ
肩から手を離し手の平にころりと転がされて来たのは毒の検査薬が入った小瓶。
(めんどくさーいな♪)
「ちゃんと、調べてくださいね。」
「ハイ。」
全く笑っていないのにきれいに見える笑顔で、お手本のような一礼を見せた後、クルリと回転して姿を消した。
(まったく…物騒なんだから。)
ボキッと綺麗に外れた肩が見えていないのかアイツは。まったく。
反対の腕でゴギッと肩を戻して、光魔法で姿を隠した後に適当な窓から身を投げた。
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