異世界情報収集生活

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

147.毒漬けの病人

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めんどくさい


その一言を言い捨てて何度投げ出したくなったかもう分らないが、今回の事は放置すれば国が滅んでしまう。

(ライミリは大国の中に入る。国が滅べば大国を始め各国は競うようにして戦争を始めるだろう。だからこそ、滅ぶと後がめんどくさい。)

今は三つの国がにらみ合っている状況だからこそ、戦争が起きていない。
しかし、そのうちの一つであるライミリが滅べば、残りの二つの国はすぐに戦争を始めるだろう。

正直、神様からの依頼で人間を間引くから滅んだら滅んだで楽になるからいいけれど、数の調整がめんどくさくなるから滅んでほしくない。まとめて滅ぶと予定よりも数が多すぎてしまう。

だからライミリの膿出しを手伝わなければいけない。

そんなことを自分に言い聞かせながら動いてきた。

「私が来てからあったガストロ=ライミリはすべて偽物ですよ。精霊妃わたしのお披露目の時も含めて、偽物です。」

「それじゃあ……監禁され始めてから、随分と時間がたっているってことかい?」

「ええ、本物はずっと監禁されていました。」

ニアに頼んでガストロの体温を測ってもらい、熱はない事を確認する。

「簡単に言って薬漬けの状態ですよ。まったく…私はこの世界の薬に精通しているとはまだ言えない状況なのに…。」

苦々しい思いから舌打ちをする。元の世界の解毒薬がこの世界の人間に効くかどうかも分からないから、この世界の薬草から薬を作らなければいけない。

「解毒は難しいのかい?」

「この世界の調薬技術を知りませんからね。はっきり言って絶望的です。時間と実験体と材料が大量にあれば可能でしょうが、薬草は貴重で持ってきてもらうにも数がないのでどうにもなりません。そのうえ、時間をかければ彼の体力が切れて衰弱死です。はぁ…。毒の原料はパラミウス国からミーロト伯爵家を通じて王妃に流されたようなんですけれどね、薬草自体の生産が難しいらしくって。」

「でも精霊王達に採ってきてもらっただろう?」

「あれは今回使われたであろう各種毒草です。同じ毒を作らないことには解毒薬を作っても試しようがありませんから。」

ああ、めんどくさい。

(毒の耐性くらい持っとけ国王!)

舌打ちをしてペシリと叩く。元気だったら握りこぶしだったからなこの野郎。

「待って小鳥美、同じ毒薬なんて作れるのかい?」

「どうにか作りますよ。幸いと言っていいのか分かりませんが、長期間使われていたせいで部屋に毒薬の匂いがこびり付いてます。枕元に染み付いていた毒薬を一心に解析してもらって、ニアに調合を手伝ってもらいながら、同じものを作ります。」

「………それを、夜会までに行うってことかい?」

「ええ。」

「時間が圧倒的に足りないよ、小鳥美。」

「公爵夫人たちによる『教育』は既に無効になっているようですし、もしまだ有効の様であれば相手の力量不足を理由に断ります。ダンスの練習はしたいところですが、ラトネスに頼んで相手をしてもらえばいいでしょう。そうすれば時間は空きますから、どうにかします。」

「……一応確認するけれど君の睡眠時間や食事、休憩のための時間は入ってるよね?」

「必要ありません。」

「小鳥美。」

こちらを睨むように見つめ、瞳に心配の色を表すウィール様。

その顔にはニタリとした笑顔を返して言い放つ。

「隊長を舐めてもらっちゃぁ困りますよ、世界樹様。こっちじゃ徹夜は日常茶飯事ですから。」

ため息を吐いて頭を振るウィール様を放り出し、足元に影を呼び出す。

「ご心配には及びませんよ、ウィール様。私の体力やら技術は師匠にみっちり仕込まれていますから。」

「それとこれとは別さ。君がどれだけ強くて優秀でも、心配するんだよ。」

「別に死地に行くわけじゃないんですから。ではまた、ウィール様。」

「ああ。ちゃんと休憩は取るんだよ。」

「はーい。」

影を広げて飛び跳ね、一心のいるライミリ王城の執務室へ戻った。

「一心。」

「家名の記録と処分一覧の作成は終了しております。」

「了解。じゃ、続きやっていくよ。」

「かしこまりました。準備はこちらに。必要な資料は探してまいりますので、マスターは他の書類を裁いていください。」

「りょうーかい。あ、そうそう一心。」

他に誰もいないことをいいことに「千利」の姿に戻り、にやりと笑う。

「この一件が終わるまでは食事の準備は必要ないからな。」

一心の顔が、何とも言い難い顔に歪んだ。

……爆笑したら怒られるよね、これ。
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