166 / 205
ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
147.毒漬けの病人
しおりを挟む
めんどくさい
その一言を言い捨てて何度投げ出したくなったかもう分らないが、今回の事は放置すれば国が滅んでしまう。
(ライミリは大国の中に入る。国が滅べば大国を始め各国は競うようにして戦争を始めるだろう。だからこそ、滅ぶと後がめんどくさい。)
今は三つの国がにらみ合っている状況だからこそ、戦争が起きていない。
しかし、そのうちの一つであるライミリが滅べば、残りの二つの国はすぐに戦争を始めるだろう。
正直、神様からの依頼で人間を間引くから滅んだら滅んだで楽になるからいいけれど、数の調整がめんどくさくなるから滅んでほしくない。まとめて滅ぶと予定よりも数が多すぎてしまう。
だからライミリの膿出しを手伝わなければいけない。
そんなことを自分に言い聞かせながら動いてきた。
「私が来てからあったガストロ=ライミリはすべて偽物ですよ。精霊妃のお披露目の時も含めて、偽物です。」
「それじゃあ……監禁され始めてから、随分と時間がたっているってことかい?」
「ええ、本物はずっと監禁されていました。」
ニアに頼んでガストロの体温を測ってもらい、熱はない事を確認する。
「簡単に言って薬漬けの状態ですよ。まったく…私はこの世界の薬に精通しているとはまだ言えない状況なのに…。」
苦々しい思いから舌打ちをする。元の世界の解毒薬がこの世界の人間に効くかどうかも分からないから、この世界の薬草から薬を作らなければいけない。
「解毒は難しいのかい?」
「この世界の調薬技術を知りませんからね。はっきり言って絶望的です。時間と実験体と材料が大量にあれば可能でしょうが、薬草は貴重で持ってきてもらうにも数がないのでどうにもなりません。そのうえ、時間をかければ彼の体力が切れて衰弱死です。はぁ…。毒の原料はパラミウス国からミーロト伯爵家を通じて王妃に流されたようなんですけれどね、薬草自体の生産が難しいらしくって。」
「でも精霊王達に採ってきてもらっただろう?」
「あれは今回使われたであろう各種毒草です。同じ毒を作らないことには解毒薬を作っても試しようがありませんから。」
ああ、めんどくさい。
(毒の耐性くらい持っとけ国王!)
舌打ちをしてペシリと叩く。元気だったら握りこぶしだったからなこの野郎。
「待って小鳥美、同じ毒薬なんて作れるのかい?」
「どうにか作りますよ。幸いと言っていいのか分かりませんが、長期間使われていたせいで部屋に毒薬の匂いがこびり付いてます。枕元に染み付いていた毒薬を一心に解析してもらって、ニアに調合を手伝ってもらいながら、同じものを作ります。」
「………それを、夜会までに行うってことかい?」
「ええ。」
「時間が圧倒的に足りないよ、小鳥美。」
「公爵夫人たちによる『教育』は既に無効になっているようですし、もしまだ有効の様であれば相手の力量不足を理由に断ります。ダンスの練習はしたいところですが、ラトネスに頼んで相手をしてもらえばいいでしょう。そうすれば時間は空きますから、どうにかします。」
「……一応確認するけれど君の睡眠時間や食事、休憩のための時間は入ってるよね?」
「必要ありません。」
「小鳥美。」
こちらを睨むように見つめ、瞳に心配の色を表すウィール様。
その顔にはニタリとした笑顔を返して言い放つ。
「隊長を舐めてもらっちゃぁ困りますよ、世界樹様。こっちじゃ徹夜は日常茶飯事ですから。」
ため息を吐いて頭を振るウィール様を放り出し、足元に影を呼び出す。
「ご心配には及びませんよ、ウィール様。私の体力やら技術は師匠にみっちり仕込まれていますから。」
「それとこれとは別さ。君がどれだけ強くて優秀でも、心配するんだよ。」
「別に死地に行くわけじゃないんですから。ではまた、ウィール様。」
「ああ。ちゃんと休憩は取るんだよ。」
「はーい。」
影を広げて飛び跳ね、一心のいるライミリ王城の執務室へ戻った。
「一心。」
「家名の記録と処分一覧の作成は終了しております。」
「了解。じゃ、続きやっていくよ。」
「かしこまりました。準備はこちらに。必要な資料は探してまいりますので、マスターは他の書類を裁いていください。」
「りょうーかい。あ、そうそう一心。」
他に誰もいないことをいいことに「千利」の姿に戻り、にやりと笑う。
「この一件が終わるまでは食事の準備は必要ないからな。」
一心の顔が、何とも言い難い顔に歪んだ。
……爆笑したら怒られるよね、これ。
その一言を言い捨てて何度投げ出したくなったかもう分らないが、今回の事は放置すれば国が滅んでしまう。
(ライミリは大国の中に入る。国が滅べば大国を始め各国は競うようにして戦争を始めるだろう。だからこそ、滅ぶと後がめんどくさい。)
今は三つの国がにらみ合っている状況だからこそ、戦争が起きていない。
しかし、そのうちの一つであるライミリが滅べば、残りの二つの国はすぐに戦争を始めるだろう。
正直、神様からの依頼で人間を間引くから滅んだら滅んだで楽になるからいいけれど、数の調整がめんどくさくなるから滅んでほしくない。まとめて滅ぶと予定よりも数が多すぎてしまう。
だからライミリの膿出しを手伝わなければいけない。
そんなことを自分に言い聞かせながら動いてきた。
「私が来てからあったガストロ=ライミリはすべて偽物ですよ。精霊妃のお披露目の時も含めて、偽物です。」
「それじゃあ……監禁され始めてから、随分と時間がたっているってことかい?」
「ええ、本物はずっと監禁されていました。」
ニアに頼んでガストロの体温を測ってもらい、熱はない事を確認する。
「簡単に言って薬漬けの状態ですよ。まったく…私はこの世界の薬に精通しているとはまだ言えない状況なのに…。」
苦々しい思いから舌打ちをする。元の世界の解毒薬がこの世界の人間に効くかどうかも分からないから、この世界の薬草から薬を作らなければいけない。
「解毒は難しいのかい?」
「この世界の調薬技術を知りませんからね。はっきり言って絶望的です。時間と実験体と材料が大量にあれば可能でしょうが、薬草は貴重で持ってきてもらうにも数がないのでどうにもなりません。そのうえ、時間をかければ彼の体力が切れて衰弱死です。はぁ…。毒の原料はパラミウス国からミーロト伯爵家を通じて王妃に流されたようなんですけれどね、薬草自体の生産が難しいらしくって。」
「でも精霊王達に採ってきてもらっただろう?」
「あれは今回使われたであろう各種毒草です。同じ毒を作らないことには解毒薬を作っても試しようがありませんから。」
ああ、めんどくさい。
(毒の耐性くらい持っとけ国王!)
舌打ちをしてペシリと叩く。元気だったら握りこぶしだったからなこの野郎。
「待って小鳥美、同じ毒薬なんて作れるのかい?」
「どうにか作りますよ。幸いと言っていいのか分かりませんが、長期間使われていたせいで部屋に毒薬の匂いがこびり付いてます。枕元に染み付いていた毒薬を一心に解析してもらって、ニアに調合を手伝ってもらいながら、同じものを作ります。」
「………それを、夜会までに行うってことかい?」
「ええ。」
「時間が圧倒的に足りないよ、小鳥美。」
「公爵夫人たちによる『教育』は既に無効になっているようですし、もしまだ有効の様であれば相手の力量不足を理由に断ります。ダンスの練習はしたいところですが、ラトネスに頼んで相手をしてもらえばいいでしょう。そうすれば時間は空きますから、どうにかします。」
「……一応確認するけれど君の睡眠時間や食事、休憩のための時間は入ってるよね?」
「必要ありません。」
「小鳥美。」
こちらを睨むように見つめ、瞳に心配の色を表すウィール様。
その顔にはニタリとした笑顔を返して言い放つ。
「隊長を舐めてもらっちゃぁ困りますよ、世界樹様。こっちじゃ徹夜は日常茶飯事ですから。」
ため息を吐いて頭を振るウィール様を放り出し、足元に影を呼び出す。
「ご心配には及びませんよ、ウィール様。私の体力やら技術は師匠にみっちり仕込まれていますから。」
「それとこれとは別さ。君がどれだけ強くて優秀でも、心配するんだよ。」
「別に死地に行くわけじゃないんですから。ではまた、ウィール様。」
「ああ。ちゃんと休憩は取るんだよ。」
「はーい。」
影を広げて飛び跳ね、一心のいるライミリ王城の執務室へ戻った。
「一心。」
「家名の記録と処分一覧の作成は終了しております。」
「了解。じゃ、続きやっていくよ。」
「かしこまりました。準備はこちらに。必要な資料は探してまいりますので、マスターは他の書類を裁いていください。」
「りょうーかい。あ、そうそう一心。」
他に誰もいないことをいいことに「千利」の姿に戻り、にやりと笑う。
「この一件が終わるまでは食事の準備は必要ないからな。」
一心の顔が、何とも言い難い顔に歪んだ。
……爆笑したら怒られるよね、これ。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
ガチャからは99.7%パンが出るけど、世界で一番の素質を持ってるので今日もがんばります
ベルピー
ファンタジー
幼い頃にラッキーは迷子になっている少女を助けた。助けた少女は神様だった。今まで誰にも恩恵を授けなかった少女はラッキーに自分の恩恵を授けるのだが。。。
今まで誰も発現したことの無い素質に、初めは周りから期待されるラッキーだったが、ラッキーの授かった素質は周りに理解される事はなかった。そして、ラッキーの事を受け入れる事ができず冷遇。親はそんなラッキーを追放してしまう。
追放されたラッキーはそんな世の中を見返す為に旅を続けるのだが。。。
ラッキーのざまぁ冒険譚と、それを見守る神様の笑いと苦悩の物語。
恩恵はガチャスキルだが99.7%はパンが出ます!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる