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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
146.顔合わせの相手
しおりを挟む「……すまないね、リーザル。君に多くの精霊を守ってもらっているのに。」
思わずと言った様子で謝罪を口にするウィール様。精霊達は良くも悪くも正直で純粋だ。
リーザルには見えていないと分かっていても、「ごめんね。」「仲間外れ。」「ちがうの!」「でも…!」と呟く下級精霊達。
ポロポロと涙を流す小精霊達。
リーザルは何処か寂しそうに返す。
「滅相もございません、ウィール様。私は精霊達と暮らしているこの状況があるだけで満足でございます。ご協力できるほどの力がない自分が恨めしいばかりです。」
自分の無力を嘆く様子に嘘は見当たらない。静かになった時に聴力を強化しても嘘の心音は聞こえない。
本人も数百年前にいたエルフの先祖返りという事で、何年たっても若々しい外見を他人から不気味がられては移動したらしい。だからこそ、他者の痛みが分かるのかもしれない。
そして同時に、どうにもならない無力感を味わったのだろう。何度も、何度も。
「ところでリーザル、君に頼みがあってね。連れてきたこの人、病人なんだよ。一部屋提供してくれないか?」
「……!是非!どうぞこちらへ!」
パッと顔を変えて私達を笑顔で招き入れるリーザル。ウィール様にその場にいる精霊達を任せて、後ろをついていく。
…こんな単純なことで喜ぶほど、疲弊しているのだろうか。
それとも純粋に病人を助ける手助けできることを喜んでいるのだろうか。
穢れきった心と頭で考える答えは何処までも醜く、柔らかく微笑まれた優しい笑顔を信用できない。
(「隊長の為だと思うと仕事も楽で、なんだか嬉しいんです。」)
ふと頭に響く優しい、優しい声。
リーザルが微笑む姿に重なって聞こえた声は、「精霊妃様?」と呼ぶ声に消えていった。
意識して瞬きを一つし、リーザルの案内についていけば客室代わりだという部屋に案内された。
「普段は遠くからくる上級精霊達が使っているんです。自分達の住処の近くで取れた綺麗なものを見せ合いっこしているんです。」
「ならおとなしくベッドだけ借りるよ。せっかくの会場を邪魔しちゃ悪い。」
「では、私は一度失礼いたします。ご用件がございましたら、ベルをお使いください。」
そう一礼したリーザルを見送って、腕の中にいる人物を丁寧におろす。
僅かに声をもらしながらうなされている事を良い事に、額をペシペシと叩く。
「君が選んだ奴らどうなってるのさー。与えられた仕事ちゃんとできないって貴族以前に大人としてどーなの、ねぇー。」
ついでに文句を添えて叩く。
ペシペシペシペシペシペシぺ…
「…寝てる暇なんてないんですよ?貴方の息子はてきとうな教育と間違った常識を植え付けられて、騎士は正義感だけで動く使い物にならない馬鹿。……王城は貴方の偽物が我が物顔で政治を動かしている。貴方の友人たちでもある公爵はそれに気づきもしない。」
強制的に寝かせたためかはたまた日頃の疲れのせいか、起きる様子が全くない。権力的には目上の私を動かしてグースカ寝ている額にデコピンを一つ。
「小鳥美、顔合わせは彼のことかい?」
一通り文句を言い終わった時にウィール様が入って来た。
「ええ。……まぁ、豪華絢爛な場所で挨拶されたことあると思いますけれど。」
「うん。覚えているよ。私に対しても真っ直ぐな目を返してくれた。だからこそ分かった。」
笑顔を失くしスッと私を真面目な目で見るウィール様は、そのまま確信をもって質問を投げかけた。
「小鳥美。私達が会っていた彼は偽物だね?」
「ええ、そうですよ。」
横たわっているのは壮年の男性。
ライミリ精霊信仰国国王、ガストロ=ライミリその人だ。
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