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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
143.(死神が考える)一般レベルの護衛
しおりを挟む「じゃあアクス、アイセン、ダーネス、ラトネス、殿下達の護衛お願い。ニアは教育係頑張って!」
そう言えば昨日一心が教えた内容を確認していなかったことを思い出し、書類を受け取って読み進める。
どうやら毒の知識を中心に詰め込んでいたらしい。机にカトラリーが置いてあるところを見ると、マナーも厳しく見ていたらしいね。
(一心達のレベルは私と同じくらい。なら軽く様子を見れば平気かな。毒は実践しないことにはどうにもならないし……。そういえば一般の護衛って毒の耐性持ってるのかな?)
普通のレベルが分からずに一人首をかしげる。
確か私が毒の耐性百数十個くらいで、師匠が数千で、部下が………?数十個だっけ?十数個だっけ?
………まぁいいや。
(……弱いよりは強い方がいいでしょ。うん、部下レベルまでは頑張ってもらおう。)
勝手に納得してから倉庫に手を突っ込み、騎士二人にパスタとスープを差し出す。
「昨日一心にマナー教えてもらったんでしょう?ニアが許してる間は食べていいですよ。」
殿下と同じ席に着くことを断った騎士二人にも有無を言わせずにカトラリーを握らせ、目の前に料理をのせればしぶしぶ食べ始めた。
昨日と比べすっかり逆らう気が失せた様子の騎士二人を見つつ、ニアに後を任せる。
食事は、公爵でなければ許されるレベルのマナーだったので最後まで取らせて、再び隣の部屋へ。
ふと一心が警戒を強めて、呆れた様子でこちらを見て緩めた。
それにつられるように苦笑を返して、窓に近づき無言でカーテンを開ける。
予想通りそこにはウィール様とウィンとフォルじいがいた。
呆れ顔で「何やってるんですか、ウィール様。」と伝えれば
「今回の全貌が読めて来たよ。」とウィール様は返す。
「ひめさまー!」
「グフッ。お疲れ様、ウィン。」
「いっぱい持ってきたよー!」
予想していたとはいえ、やはりみぞおちに突撃してきたウィンを撫でつつ、フォルじいから薬草を受け取る。
「姫様、量は足りますかな?」
「十分だよ。フォルじいもお疲れ様。」
「これくらい苦ではありませぬ。我らが姫の為ですから」
なおもグリグリと頭を押し付けているウィンに声をかけて、伯爵達に情報が届かないように頼む。
「分かった!姫様のために頑張るね!」
「ありがと、ウィン。」
「まかせて!」
ウィンはえへん!と効果音が付きそうな様子で再び窓から飛び立ち、すぐにその姿は見えなくなった。
「そう言えばウィール様。国王とか今どこにいるんです?」
「説教して力を見せつけた後、私の土地に閉じ込めてあるよ。精霊達には、罪人だと伝えてきた。」
「おおう…。ギャアギャア喚いている様子が目に浮かびますね。」
「フフッ。自業自得だろう?」
「全く…。死んでると困るんですけどねぇ。」
「土地の中にいる門番によく似たもののことを覚えてるかい?彼らに死なないように見張るよう命じてきた。だから安心していいよ。」
ニコッと笑うウィール様の目は全く笑っておらずちょっとコワイ。
まあでも、それなら死ぬことは無いだろう。
(じゃ、忘れかけてた私の斧取り返しに行こっと。)
責任者となる者達や文句を言えるものたちが、まとめて精霊の土地に閉じ込められていることをいいことに、私の武器を取りに宝物庫へと向かう。
「ウィール様宝物庫行きましょ宝物庫。私の武器がそこにあるので。」
「この世界の宝物庫に異世界から来た君の武器が?誰からの情報だい?」
「神様ですよ。依頼を引き受ける対価にこの情報貰いました。」
「依頼は……聞かない方がいいんだね?」
「純粋な精霊達をまとめる王にはむごい話かと」
精霊妃として城の中を堂々と歩き、頭を下げる人たちに軽く手を振ることで業務に戻す。
依頼の内容を簡単に察したらしいウィール様は、私を呼んで真剣な顔で目を合わせた。
「……いいかい千利。君がどんなに悪逆非道な極悪人だとしても、元の世界で恐れられる大罪人だとしても、私達は君の望むままに動く。私の本体を傷つけるとかこの大陸を海に沈めなければだけれど、それをしたって君の利益にはならないからきっと君はしないだろう?」
「その通りですよ。」
「だから、私達精霊は君の味方だよ。」
「そりゃどーも。なら作戦に戦力として組み込んでおきますよ。」
クルリと振り向いて再び歩きだす。後ろから小さなため息が聞こえるが無視して進む。
(それを簡単に信用できるほど、私は優しい世界で生きていない。)
「……そういった奴らに何回殺されかけたっけな。」
思わずぼそりと呟く。
『精霊妃』らしく上品に歩きながらも、思い出すのは下品で騒がしい部下達だった。
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