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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
136.ふつふつと 一心視点
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マスターを王太子ごと隣室に押し込めて、騎士二人を見る。
(あの公爵の馬鹿加減から予想はしていましたが、これほどまでとは…。)
マスターの手を煩わせた騎士達に予想よりも怒りが湧いていたらしく、思ったよりも強く威圧してしまったらしい。
騎士二人の目に怯えが浮かぶ。仮にも護衛がこれぐらいで怯えるとは情けない。
「一心兄上、私は話し合いに参加した方がいいですか?」
「必要ありませんよ、ニア。病み上がりなのですからゆっくりしてください。」
そう言ってニアが投げたナイフを回収し、新しい紅茶を注ぐ。
ニアは何も言われずとも二人の後ろに控えたらしい。これでいつでも、馬鹿共の首にナイフを突き当てることが出来る。
…ニアは戦闘能力が高い。
もともと戦闘力が未知数の魔物と戦うように作られたため、そのボディもより丈夫に精巧に作られた。そして圧倒的に経験は足りないが、それを補っても有り余る知識が入っている。
しかし私はどうだ?
兄と言いつつも戦闘能力は三人の中で一番低い。戦闘経験が少しだけあるし知識もある。しかし、マスターレベルの強敵と戦うには脆く、硬すぎるせいで衝撃をあまり吸収しないボディのせいもあり100%の力は発揮できない。
それが悔しくて、悔しくてたまらない。
本来であれば必要のない危険にマスターをさらしている事実に何度苛まれたことか。何度この硬い拳を握りしめ、指をへし折り自己修復したことか。
だからこの二人が許せない。全てをてきとうに行っているこの馬鹿共が許せない。
そんな葛藤や怒りを全て奥底に沈め、冷えた視線を向ける。
「一応聞きましょう。あなた方は護衛対象であるカリストロ王太子を守り続けている自身がおありで?」
「もちろんだ。」
「今だ膨大な魔力からは守れていないが、それでも出来る範囲では守り切れていると感じている。」
「ご冗談を。」
(努力すれば成長する身体を生まれ持っているくせに、なぜ何もせずにいられる?)
あくまで冷静に一瞬殺気を出して、二人を睨みつける。マスターが隣室にいるから、敬語も使っておきましょうか。本来は必要ありませんし、使う価値があるとも思いませんが。
「カリストロ殿下が生きていてよかったですね。何度死にかけたかは知りませんがはっきりと言いましょう。今この瞬間に殿下が死んでも、誰も驚かない状況ですよ。守れた?自分の出来ることはやった?ふざけるのも大概にしてください。あなた方は大した忠誠心も持たずに『友人として』側にいただけですよ。側にいるために使った肩書が護衛だったに過ぎません。」
はっきりと顔を嘲りに変えて馬鹿二人を嘲笑い続ける。
今にも舌打ちしそうな顔でレイピストは睨み言葉を絞り出す。
「側仕えの貴方に何が分かるというのでしょう。目の前で危険に晒されている主を命がけで護ることもできないというのに?」
「誰が側仕えだけだと言ったのでしょうね。私は騎士兼文官兼側仕え兼主の代理人ですよ。」
主の代理人になれるほどの信頼をマスターに置かれている。
(そのことにこの馬鹿は気づきますかね…?)
「戦闘力、執務の正確さと速度、情報収集の能力、主への忠誠心。私にあなた方が勝てる事は、1つもありませんよ。……ああ、勘違いをしているようなので訂正してさしあげましょう。あなた方の主は現国王で護衛対象が殿下です。国王への反逆者として捕らえられたいのであれば、そのままでかまいませんが。」
正しく今の自分の立場も分からない様子に、評価をさらに下げていく。
マスターが残していった白紙の問題集を拾い上げ、目の前で答えを記入していく。
「毒の知識が無い故に毒を防ぐことはおろか、犯人をつるし上げることすらでない。実行犯の1/3の人数しか捕らえられていないのは、単にあなた方の力量不足ですよ。」
紙をパサリと二人の元へ投げれば、呆然とそれを見つめている。
ああ、腹立たしい。
「同じ騎士として、誰かを護る者として腹立たしいことが3つあります。1つは、護ると軽々しく口にするくせにそのための努力をしていないこと。毒の知識の無さがその証拠でしょう。貴方達の前で殿下が毒を盛られたのにそれを生かしていないのですから。情報の無さも際立ちますね。」
(マスターの手を煩わせる愚図に、容赦など無用。)
「2つ目は最低限行うべきことを行っていないこと。騎士団長としての仕事も、護衛としての仕事も全ては行っていないそうですね?先ほどマスターが聞いた騎士団長として行うべき仕事には、団員の所属している派閥を調べることや、どんな武器を得意としているのかなども知っておかなくてはいけません。」
「そういえばマスターが以前『夜会当日に警備する騎士の一覧』を求めた時にヤドゥール様はすぐに動けませんでしたね。あれは『自分は騎士団員の予定すら確認していません。』と言ったと同義だと認識していますか?」
(まずは自分たちがいかに愚かに人生を過ごしていたのか、時間を無駄にしていたのかを分からせなければ。)
「3つ目は他国からの評価を全く考えていないこと。気づいていましたか?この国のレベルは、ああ失礼この世界では理解できない言葉でしたね。この国の基準は、他国から見て異様なほどに低いのですよ。どれもこれも他国では子供に要求されるような基準の事を、大の大人が必死になってこなしている状況ですよ。」
(それを理解できないのであれば、地下室へ連れて行くだけです。)
ただ、それだけのこと。
(あの公爵の馬鹿加減から予想はしていましたが、これほどまでとは…。)
マスターの手を煩わせた騎士達に予想よりも怒りが湧いていたらしく、思ったよりも強く威圧してしまったらしい。
騎士二人の目に怯えが浮かぶ。仮にも護衛がこれぐらいで怯えるとは情けない。
「一心兄上、私は話し合いに参加した方がいいですか?」
「必要ありませんよ、ニア。病み上がりなのですからゆっくりしてください。」
そう言ってニアが投げたナイフを回収し、新しい紅茶を注ぐ。
ニアは何も言われずとも二人の後ろに控えたらしい。これでいつでも、馬鹿共の首にナイフを突き当てることが出来る。
…ニアは戦闘能力が高い。
もともと戦闘力が未知数の魔物と戦うように作られたため、そのボディもより丈夫に精巧に作られた。そして圧倒的に経験は足りないが、それを補っても有り余る知識が入っている。
しかし私はどうだ?
兄と言いつつも戦闘能力は三人の中で一番低い。戦闘経験が少しだけあるし知識もある。しかし、マスターレベルの強敵と戦うには脆く、硬すぎるせいで衝撃をあまり吸収しないボディのせいもあり100%の力は発揮できない。
それが悔しくて、悔しくてたまらない。
本来であれば必要のない危険にマスターをさらしている事実に何度苛まれたことか。何度この硬い拳を握りしめ、指をへし折り自己修復したことか。
だからこの二人が許せない。全てをてきとうに行っているこの馬鹿共が許せない。
そんな葛藤や怒りを全て奥底に沈め、冷えた視線を向ける。
「一応聞きましょう。あなた方は護衛対象であるカリストロ王太子を守り続けている自身がおありで?」
「もちろんだ。」
「今だ膨大な魔力からは守れていないが、それでも出来る範囲では守り切れていると感じている。」
「ご冗談を。」
(努力すれば成長する身体を生まれ持っているくせに、なぜ何もせずにいられる?)
あくまで冷静に一瞬殺気を出して、二人を睨みつける。マスターが隣室にいるから、敬語も使っておきましょうか。本来は必要ありませんし、使う価値があるとも思いませんが。
「カリストロ殿下が生きていてよかったですね。何度死にかけたかは知りませんがはっきりと言いましょう。今この瞬間に殿下が死んでも、誰も驚かない状況ですよ。守れた?自分の出来ることはやった?ふざけるのも大概にしてください。あなた方は大した忠誠心も持たずに『友人として』側にいただけですよ。側にいるために使った肩書が護衛だったに過ぎません。」
はっきりと顔を嘲りに変えて馬鹿二人を嘲笑い続ける。
今にも舌打ちしそうな顔でレイピストは睨み言葉を絞り出す。
「側仕えの貴方に何が分かるというのでしょう。目の前で危険に晒されている主を命がけで護ることもできないというのに?」
「誰が側仕えだけだと言ったのでしょうね。私は騎士兼文官兼側仕え兼主の代理人ですよ。」
主の代理人になれるほどの信頼をマスターに置かれている。
(そのことにこの馬鹿は気づきますかね…?)
「戦闘力、執務の正確さと速度、情報収集の能力、主への忠誠心。私にあなた方が勝てる事は、1つもありませんよ。……ああ、勘違いをしているようなので訂正してさしあげましょう。あなた方の主は現国王で護衛対象が殿下です。国王への反逆者として捕らえられたいのであれば、そのままでかまいませんが。」
正しく今の自分の立場も分からない様子に、評価をさらに下げていく。
マスターが残していった白紙の問題集を拾い上げ、目の前で答えを記入していく。
「毒の知識が無い故に毒を防ぐことはおろか、犯人をつるし上げることすらでない。実行犯の1/3の人数しか捕らえられていないのは、単にあなた方の力量不足ですよ。」
紙をパサリと二人の元へ投げれば、呆然とそれを見つめている。
ああ、腹立たしい。
「同じ騎士として、誰かを護る者として腹立たしいことが3つあります。1つは、護ると軽々しく口にするくせにそのための努力をしていないこと。毒の知識の無さがその証拠でしょう。貴方達の前で殿下が毒を盛られたのにそれを生かしていないのですから。情報の無さも際立ちますね。」
(マスターの手を煩わせる愚図に、容赦など無用。)
「2つ目は最低限行うべきことを行っていないこと。騎士団長としての仕事も、護衛としての仕事も全ては行っていないそうですね?先ほどマスターが聞いた騎士団長として行うべき仕事には、団員の所属している派閥を調べることや、どんな武器を得意としているのかなども知っておかなくてはいけません。」
「そういえばマスターが以前『夜会当日に警備する騎士の一覧』を求めた時にヤドゥール様はすぐに動けませんでしたね。あれは『自分は騎士団員の予定すら確認していません。』と言ったと同義だと認識していますか?」
(まずは自分たちがいかに愚かに人生を過ごしていたのか、時間を無駄にしていたのかを分からせなければ。)
「3つ目は他国からの評価を全く考えていないこと。気づいていましたか?この国のレベルは、ああ失礼この世界では理解できない言葉でしたね。この国の基準は、他国から見て異様なほどに低いのですよ。どれもこれも他国では子供に要求されるような基準の事を、大の大人が必死になってこなしている状況ですよ。」
(それを理解できないのであれば、地下室へ連れて行くだけです。)
ただ、それだけのこと。
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