異世界情報収集生活

スカーレット

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

132.常識知らずの貴族達

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休憩と言う名目で少しソファーに腰掛ける。
この距離だと伯爵達もいるみたいだが、どうやらクィラッツ伯爵だけいないらしい。

(…面倒なことになったなぁ。)

予想していた一番の面倒な展開に、作戦会議の時に来ていたとある人物の顔を思い浮かべる。

確かに元気だったが予想通りならば不自然で、他国からの評判からかけ離れていたことも理解が出来る。

(ま、ひとまず)

「兄」と「一心」に合図を出して一心とニアに戻ってもらい、扉を押さえつけるのは一心と交代してもらう。

「ウィール様、どうやら情報規制がうまくいっていないようですが?」

しれっとニアが入れてくれたお茶を飲むウィール様をジトッと睨む。

「大丈夫だよ。たとえ今情報が入っても自分達の耳に一切入らなければ勝手に『大したことは無かった』と勘違いしてくれるだろうから。」

「それはそうですけれど…。」

「それに彼らの文句は表向き、自分たちがいないところでお披露目をしないで欲しい、とかだろうけど実際に言いたいのは私への文句だろう?」

「ウィール様が紹介した人物=本物ですからねぇ。」

勝手にするなと怒りつつ伯爵達の本心は、ウィール様がお披露目したことへの文句だろう。

王族が紹介したならば偽物を王族が紹介した、と責任問題にできるがウィール様だとそうはいかない。

そんなこんなで待っていれば、開かない扉に苛立ちを覚えた結果扉を破壊するという暴挙にでることにしたらしく。
バキィと音がした方を見ると槍が突き刺さっていた。

「あ゛ぁ?」

「小鳥美、声。まだ本性は隠さないとでしょう?」

「そんなことよりも一心の洋服が傷つけられたことの方が大事です。人の息子に何してくれてんじゃゴラァ?殺す気か?殺す気だな?精霊妃の側仕え暗殺未遂で死神自ら処罰してくれようじゃねーか。」

「小鳥美、まだ洋服だよ。」

知った事かそんなこと、と胸元から扇を取り出して戦闘態勢へと移行する。狙うは首一択。切る。

「マスター、駄目です。」

「うるさい一心。子供がやられて怒らない親はいない。」

「結構な数いますよ。」

「そんな奴は私が消す。」

「はぁ…。分かりましたから、ステイですマスター。ステイ。」

扉を世界樹様に任せたらしい一心は、こちらに来て私の頭を叩く。

「………………………ムカつくから大陸滅ぼす。」

「最終的には、でしょう?」

「…………。」

「マスター、マスターの主の遺言の為に頑張りましょう。私達もマスターの手足として頑張りますから。」

「私も微力ながらお使いください、マスター。」

「もちろん私達も使っていいんだよ、小鳥美。」

わざわざ言質をくれる協力者たちに慰められつつ、扉が壊れるのを見守る。
世界樹の一部がもういいか、とばかりに外れた途端なだれ込む貴族王族達は、私を見るなりこう言った。

「精霊妃様…!困りますよ!」

「精霊妃様、世界樹様………。」

呆れて何も言う気にはならないが、そうも言っていられない。

「私へ苦言を言う前に、ウィール様と私へこのような無礼極まりない入り方をしたことの謝罪が先ではないのですか?」

何度も言うようだが、世界樹ウィール様がこの大陸内で一番偉い。

つまり、ウィール様がいる時点でこの部屋に入るにはウィール様の許可がいる。

当然、入れてもらったら真っ先に挨拶をしなければならないし、そもそもこじ開けるなんて論外だ。誰にやったって怒られるぞ。

「私が一心君に頼んで入れないように押さえてもらったのに、それを破壊してこじ開けて第一声がそれかい?どうやら人間達の礼儀作法は、私の知らない間に変わったらしいね。」

ニコニコとなおも紅茶を飲むウィール様。

端麗な顔から発せられる声はどこまでも毒が無いようだけれど、目だけは怒りを冷静に伝えてくる。

「水の精霊王、アクス。氷の精霊王、アイセン。」

「「はっ。」」

「捕らえよ。」

珍しい命令口調に驚くそのわずかな時間で、アクスとアイセンは直ぐに全員を捕らえた。

(アイセンの氷で足を固め、アクスが攻撃の準備を見せつけて威嚇。うわぁ。)

なんとも甘々な拘束方法に不満の声がでそうになるが、一心が差し出したシュークリームと共に飲み込む。

「小鳥美、もらうよ。」

「殿下達以外はどうぞご自由に。」

「理由は?」

「奴等は私の教育対象ですから、私が絞めないと。」

手をヒラヒラ振ってそう言葉を交わせば国王を始めとした貴族達はバルコニーから投げられた。

「小鳥美とせっかくのお茶なんだ。扉を壊してまで邪魔しないでくれるかい?」

ふわりと外へ出ていく精霊達によって風で運ばれた声はきっと、集まった民全てに聞こえたのだろう。

これでこの国の貴族全ての心象は最底辺まで落ちる。逆にウィール様と私には同情の目が向けられ、援護する言葉が増えるだろう。

(ひとまずはこれでいいでしょう。最底辺から始めないと甘えが残るだろうし。)

…今は。

「言い訳があるなら聞こうか、カリストロ=ライミリ、ヤドゥール=ガディア、レイピスト=セルバ。」

主の望みをかなえるためこの馬鹿どもを締め上げることが先決だ。

ウィール様によって完全に閉ざされたのを確認し、一心に防音をかけてもらい、姿を「千利」に変えた万全の状態で私は三人と対峙した。

「「「………。」」」

三人をソファーに強制的に座らせ、その後ろに一心とニアが付く。

「楽しい楽しいオハナシアイといきましょう?紅茶とお菓子もどうぞ自由に。」

口を歪めて目で嗤えば、騎士二人が僅かに動いた。

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