異世界情報収集生活

スカーレット

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

130.民への紹介

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「…?」

平気なふりをしつつ内心首をかしげてその手を取り、エスコートされるままに混乱している王城を突き進む。

「ウィール様、どちらへ?」

「バルコニーがあるらしいから、君が精霊妃だと大々的に広めてやろうと思ってね。」

「それだと、ロウ伯爵令嬢出てこない可能性があるのですが。」

「大丈夫だよ。どんな家だろうと、情報収集の基本は人から人への口伝。ウィンに手伝ってもらって風で掻き消してしまえばいいんだよ。」

「……ロウ伯爵家だけは情報を得ることが出来ないように妨害し、他の家へは積極的に風で声を流して拡散するおつもりですか。」

「そうだよ。やっぱり頭がよく回るね。」

いい子いい子、と撫でるウィール様に続いていいこー!と頭をわしゃわしゃ撫でる?精霊達。

(一心、ステイ!そうだね、髪が乱れるけれどステイ!)

一人何事も無いように後ろから付いてくる一心、しかし内心の怒りがもれだしこちらまで来ている。

こわいこわいこわいこわい。

静かにしている君の妹を見習って感情は抑えてね。そもそもニアは気づいてないとか言っちゃいけない。

王城の人達が精霊に様々な様子で関わるその隣を通り過ぎて、ダーネスとラトネスによって開けられたバルコニーに立つ。

地上に広がる城下町を見渡せば、精霊達の誘導のおかげかはたまた自然に集まった民がこちらを見上げていた。

(晴れてる。王城だけが嵐の中ってことかな。)

「世界樹様だ!」

無邪気に目を輝かせこちらを見る少年の声をきっかけにウィール様と私を呼ぶ声で溢れかえり、建物から出てくる人数も増えて道は人で埋め尽くされた。

「どうするんです?ひとまず、笑顔で手振ってますが。」

「簡単な事さ。私が宣言すればいい。」

そう言った数秒後に風は完全に吹き止み、シィと人差し指を立てれば何の音も聞こえなくなった。

(世界樹ウィール、改めて恐ろしいね。戦闘になったら苦労しそうだ。)

天候そのものと言える精霊達に好かれた人間、精霊妃。不本意ながらもその役割をする私は、完全に理解出来ていなかったらしい。

(今のうちに弱みでも探っておくか。)

つらつら考えながらも、目の前の世界樹様はニコリと笑って民に声を届ける。

「私を覚えているかな?世界樹ウィールだよ。今日は突然出てきてもらって悪いね。」

そんな言葉から始まり、説明が始まったのは私が売り出した本の内容とほぼ同じこと。

「今日はどうしても私達の姫を紹介したかったんだよ。私の隣にいる女性が見えるかい?彼女が今代の精霊妃、小鳥美だよ。」

話しに合わせてぼんやりとした円が浮かび上がり、私の姿があちこちで映し出された。おそらく光の精霊達だろう。

「生まれる前に精霊妃を決めることは知っているかい?私達は生まれる前の彼女に会って、精霊妃になってもらおうと決めたんだ。でも、その後トラブルが起きてね。彼女は別の世界に生まれてしまった。」

少し悲しげに目を伏せるウィール様を見て(こんなに取り繕いが出来たのかと)驚きながら静かに聞く。……本心か?これ。

「彼女は精霊妃とは知らずに幸せに生きていたんだ。私達が優先するのは精霊妃の幸せ。……だから私達は決断したんだ。精霊妃をこの世界に戻すことなく、この大陸を維持しようと。」

ここで音はしないが、訝しげな視線が増えた。……一心、動くなステイ!

「その彼女はここにいる。それはなぜか……?」

ゆっくりと怒りを言動にのせながら威圧を深めるウィール様。それに同調してぶ厚い雲が上空を覆う。

「……君らは知らないかな?とある国が違法に異世界人を呼び出し、呼び出された兄妹は食料さえ手にいれることが困難だったという事。そんな話を聞いたことはないかい?」

ここまで聞いて、ようやくウィール様がしたいことをなんとなく理解出来たので即座に一心に姿を変えるよう命令を出す。

「一心。」

「まったく執事使いが荒いですよ。」

「なら主使いがひど過ぎるんじゃないですかねぇ?」

「おや人聞きの悪い。」

私の男装時の姿をした一心が一歩私に近づく。
それだけで群衆から全く見えない状況が変わり一心は「呼び出された異世界人の兄」として認識される。

「幸い呼び出された時に私が感知して迎えに行ったからいいものの、あのまま軟禁されていたら餓死だって考えられた。そしてその国から逃げだし、私達が古い情報から勧めたこの国。まさか貴族たちが精霊妃である小鳥美はもとより、精霊王や私さえも甘く見て無意識のうちに見下されるとは思わなかったよ。」

1度だけ稲光が光った後天候は快晴に戻り少しの自嘲と皮肉たっぷりにウィール様は嗤って、こちらに微笑みエスコートの手を差し出す。

「「どうぞ?」」

ウィール様と「兄」に手を引かれてバルコニーの先に立つ。

(演じろ。ここにいるのは心優しい精霊妃。誰も恨むことなく、平穏と幸福を望むもの。)

慣れていない人間特有のぎこちない笑顔を顔に張り付け、体を強張らせたまま顔を上げた。
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