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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
129.(たとえ恐ろしいことを言っていても)小精霊は可愛い
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勝ち誇った様子で、もしくは勝利の美酒に酔いしれている様子で叫び続ける二人。
「遅いのよ!これで噂が広まるわ!貴方はわたくしたちを誘拐しようとしたのよ!」
「そうよ!あなたはもう手遅れなのよ!……アハッ」
口に放ったクッキーを飲み込んで、書類をトンッと叩く。
「貴方たちが自分でサインした書類。貴方たちの分にのみ睡眠薬が入った、貴方達が用意した紅茶とクッキー。そして、今のあなた達の発言。」
馬鹿でもわかる様に指で叩き、最後に胸元あたりにあるボタンを叩く。
「これには、録音と録画機能が付いておりますの。……お気づきになりませんでした?」
ついでに言えば先ほど食べたクッキーはもともと机に置かれていた物。もちろんそれなりに強力な睡眠薬が入っているが、あくび一つで効果は切れた。
もう何も言う気力もなさそうなので、その場でウィール様に頼んで夫達を呼びつける。
「精霊妃様!」
「精霊妃さ…?!この度は、本当に申し訳ありません!」
迷わず謝罪を選んだ宰相マフィックスに向き直り、イイ笑顔で迎える。
「一心、睡眠薬入りのクッキーと紅茶は片づけてお二人に新しい紅茶を。」
「かしこまりました。」
わざと睡眠薬が入っていたことを言い、チラリとウィール様を見れば冷静になろうと努めている様子。
ならば話は私が進めた方がいいだろう。
「宰相殿、私は何度あなた方に失望したらいいのでしょうか。」
ニコリと微笑えむが、確実に威圧して怒りを分かりやすく示す。
(殺気を飛ばさないだけ温情を与えているものの、精霊王達が飛ばしているからあんまり変わらないかなぁ?)
そんな温情にすら公爵は気づいていない様子なので、さらに目の前の二人を下方修正しつつ話を聞く。
曰く、彼女たちが勝手にやった事であり自分たちは全く知らなかったこと。
曰く、妻と即座に離婚して、実家に帰すため公爵家の罰はそれで終わりにして欲しいこと。
曰く……。
「『私達が勝手に来た』ときに行われたことだから罪に問うのは難しい、と?」
「はい。」
「へぇ?」
流石に呆れてため息をこぼす。勝手にも何も、光の精霊を通じて連絡は入れたしそもそも予定されていた会合だ。
ウィール様もお怒りの様なので、私は一心の用意したクッキーを食べる係に徹する。
「私達の予定よりも優先しなければならない予定って、何だい?」
「はい?」
「私達の予定よりも優先した予定は何かを聞いているんだよ。大陸そのものを支えている私と、その世界樹である私の愛し子たる精霊妃に関する予定よりも、他の予定を優先したのだろう?その予定と、優先した理由は何だい?」
ゴゴゴゴと効果音が付くくらい世界樹であるウィール様が怒りを露わにしたことで、他の精霊達すべてが怒り始める。
精霊達の怒りによって日が陰り、雨が降り始め、雷が轟く。
あっという間に嵐となったなと窓を見れば、自由に移動できる中級以上の精霊達がびっしりと張り付いていた。
……ちょっと虫みたいで気持ち悪い。何も言わないけれどね。
誰も口を開かないこの場で、ふと思い出したようにウィール様は呟いた。
「……そうだね。君達の怒りもしっかり伝えないといけないね。」
いつもの気やすい年上の友人の様な雰囲気を潜め、世界樹としての威厳を纏って窓を開けたウィール様。
不思議だが当然、雨粒一つ入ってこない。
「さぁ、おいで。」
公爵達四人の目には、何も見えない空間に向かって手を伸ばすウィール様が映っていることだろう。
しかし実際には、うまく飛べずに落下してきた下級精霊を受け止めただけのこと。
そんな聖人ウィール様は威厳と崇高な気配を持つ世界樹ウィール様に戻り、自分の本体がある方を向いて告げた。
「この国にいる全ての精霊に、認可許可命令を下す。その姿を人間達に示し我らの存在を、力を、畏敬をその魂に刻み込め。世界樹ウィールは、1つの例外も認めない。」
その瞬間、緑の薄い膜がみるみる広がって行き、通り過ぎたところから精霊達が誰にでも見えるようになっていく。
「姫様!」
「ひめさまー!」
「―!」
本来は他の人間に見えない小精霊達がとことこ走ってくる。うん。かわいい。いつもかわいいけどかわいい。
もちろん他の精霊達も突撃してくるが、だいたいが公爵達の近くで停止して周りを取り囲んでいる。
当事者の公爵達は、顔を青くしたまま短い悲鳴を繰り返し上げている。
「姫様悲しませた。」 「姫様苦しませた。」 「ひめさまにめーわくかけた。」 「ウィール様に迷惑かけた。」 「うぃーるさまおこらせた。」 「ウィール様と姫様見下した。」 「にんげんのくせに」「ちからないのに」
「「「…いらない?」」」
公爵達の顔色はこれ以上ないくらいに青白い。
「消す?」 「けすぅ?」 「いらないねー。」 「にんげんいらないねー。」 「ウィール様。」 「うぃーるさまー。」 「ねーウィール様。」
「「「「にんげんけすー?」」」」
ふわりふわりと飛び回り、精霊達はウィール様に判断を仰ぐ。無邪気に、楽しそうにアリを踏み潰していく幼子を思い出させる下級精霊達。そんな彼らに
「今は絶滅させるときじゃないよ。」
と、それだけを言うとウィール様は私に手を差し伸べた。
絶望と驚愕の狭間にいる公爵達四人を置き去りにして。
「遅いのよ!これで噂が広まるわ!貴方はわたくしたちを誘拐しようとしたのよ!」
「そうよ!あなたはもう手遅れなのよ!……アハッ」
口に放ったクッキーを飲み込んで、書類をトンッと叩く。
「貴方たちが自分でサインした書類。貴方たちの分にのみ睡眠薬が入った、貴方達が用意した紅茶とクッキー。そして、今のあなた達の発言。」
馬鹿でもわかる様に指で叩き、最後に胸元あたりにあるボタンを叩く。
「これには、録音と録画機能が付いておりますの。……お気づきになりませんでした?」
ついでに言えば先ほど食べたクッキーはもともと机に置かれていた物。もちろんそれなりに強力な睡眠薬が入っているが、あくび一つで効果は切れた。
もう何も言う気力もなさそうなので、その場でウィール様に頼んで夫達を呼びつける。
「精霊妃様!」
「精霊妃さ…?!この度は、本当に申し訳ありません!」
迷わず謝罪を選んだ宰相マフィックスに向き直り、イイ笑顔で迎える。
「一心、睡眠薬入りのクッキーと紅茶は片づけてお二人に新しい紅茶を。」
「かしこまりました。」
わざと睡眠薬が入っていたことを言い、チラリとウィール様を見れば冷静になろうと努めている様子。
ならば話は私が進めた方がいいだろう。
「宰相殿、私は何度あなた方に失望したらいいのでしょうか。」
ニコリと微笑えむが、確実に威圧して怒りを分かりやすく示す。
(殺気を飛ばさないだけ温情を与えているものの、精霊王達が飛ばしているからあんまり変わらないかなぁ?)
そんな温情にすら公爵は気づいていない様子なので、さらに目の前の二人を下方修正しつつ話を聞く。
曰く、彼女たちが勝手にやった事であり自分たちは全く知らなかったこと。
曰く、妻と即座に離婚して、実家に帰すため公爵家の罰はそれで終わりにして欲しいこと。
曰く……。
「『私達が勝手に来た』ときに行われたことだから罪に問うのは難しい、と?」
「はい。」
「へぇ?」
流石に呆れてため息をこぼす。勝手にも何も、光の精霊を通じて連絡は入れたしそもそも予定されていた会合だ。
ウィール様もお怒りの様なので、私は一心の用意したクッキーを食べる係に徹する。
「私達の予定よりも優先しなければならない予定って、何だい?」
「はい?」
「私達の予定よりも優先した予定は何かを聞いているんだよ。大陸そのものを支えている私と、その世界樹である私の愛し子たる精霊妃に関する予定よりも、他の予定を優先したのだろう?その予定と、優先した理由は何だい?」
ゴゴゴゴと効果音が付くくらい世界樹であるウィール様が怒りを露わにしたことで、他の精霊達すべてが怒り始める。
精霊達の怒りによって日が陰り、雨が降り始め、雷が轟く。
あっという間に嵐となったなと窓を見れば、自由に移動できる中級以上の精霊達がびっしりと張り付いていた。
……ちょっと虫みたいで気持ち悪い。何も言わないけれどね。
誰も口を開かないこの場で、ふと思い出したようにウィール様は呟いた。
「……そうだね。君達の怒りもしっかり伝えないといけないね。」
いつもの気やすい年上の友人の様な雰囲気を潜め、世界樹としての威厳を纏って窓を開けたウィール様。
不思議だが当然、雨粒一つ入ってこない。
「さぁ、おいで。」
公爵達四人の目には、何も見えない空間に向かって手を伸ばすウィール様が映っていることだろう。
しかし実際には、うまく飛べずに落下してきた下級精霊を受け止めただけのこと。
そんな聖人ウィール様は威厳と崇高な気配を持つ世界樹ウィール様に戻り、自分の本体がある方を向いて告げた。
「この国にいる全ての精霊に、認可許可命令を下す。その姿を人間達に示し我らの存在を、力を、畏敬をその魂に刻み込め。世界樹ウィールは、1つの例外も認めない。」
その瞬間、緑の薄い膜がみるみる広がって行き、通り過ぎたところから精霊達が誰にでも見えるようになっていく。
「姫様!」
「ひめさまー!」
「―!」
本来は他の人間に見えない小精霊達がとことこ走ってくる。うん。かわいい。いつもかわいいけどかわいい。
もちろん他の精霊達も突撃してくるが、だいたいが公爵達の近くで停止して周りを取り囲んでいる。
当事者の公爵達は、顔を青くしたまま短い悲鳴を繰り返し上げている。
「姫様悲しませた。」 「姫様苦しませた。」 「ひめさまにめーわくかけた。」 「ウィール様に迷惑かけた。」 「うぃーるさまおこらせた。」 「ウィール様と姫様見下した。」 「にんげんのくせに」「ちからないのに」
「「「…いらない?」」」
公爵達の顔色はこれ以上ないくらいに青白い。
「消す?」 「けすぅ?」 「いらないねー。」 「にんげんいらないねー。」 「ウィール様。」 「うぃーるさまー。」 「ねーウィール様。」
「「「「にんげんけすー?」」」」
ふわりふわりと飛び回り、精霊達はウィール様に判断を仰ぐ。無邪気に、楽しそうにアリを踏み潰していく幼子を思い出させる下級精霊達。そんな彼らに
「今は絶滅させるときじゃないよ。」
と、それだけを言うとウィール様は私に手を差し伸べた。
絶望と驚愕の狭間にいる公爵達四人を置き去りにして。
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