異世界情報収集生活

スカーレット

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

128.嘘にまみれた者達の会合

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一心、ニア、アクス、アイセン、ラトネス、ダーネスを連れて本来の予定通り王城に向かい、公爵夫人二人と相まみえる。
二人の表情にはありありと不満が現れており、貴族としてそれはどうなのかと思うほどだ。

「「お初にお目にかかります、精霊王様方、精霊妃様、一心様、ニア様。」」

一応席を立って行われた挨拶は、ニコリと微笑まれて行われた。

貴族らしく一応扇で隠してはいるものの、貴族のマナーである紅茶の毒味はいつになっても行われない。
(紅茶などは用意した側が最初に飲んで毒味をしなければならない。)

この場にはウィール様がいない。なので、この場の最高権力者は本来精霊妃である私となる。次に精霊王達(四大、五精霊の順)、私の側近(一心、ニア)、公爵夫人となるが……。

(先ほどのあいさつでは、精霊王の後に私だった。)

細かいようだが、これはとても重要なこと。貴族を名乗るならば誰でも分かるようなことを公爵夫人が「知りません
でした」は許されない。

つまり、わざと。
(「「貴方を精霊妃とは認めない。」」)

挨拶一つでそう宣戦布告されたのだ。狡猾で、慣れていない人間ならばスルーしてしまう方法。

だけれども、こちとら一言間違えば死ぬ世界で生きてきた人間。

「あら、公爵夫人ともあろうお二人が挨拶を間違えられるとは!フフッ、お疲れなのでしょうか?見なかったことにいたしますから、どうぞやり直してくださいな?」

そう言って扇を広げ、その場で待つ。

「…………大変失礼いたしました、精霊妃様。」

そう絞り出したのはマフィックスの妻である、ガディア家公爵夫人。驚いた様子で見ているのは、セルバ家の公爵夫人。

(屈辱だろうね。年下の、しかも人間以下の価値である異世界人に間違いを指摘されるなんて。今訂正すればわざとだという事が露見する。そして気付いていないだろうけど、このことは逐一精霊王達からウィール様に報告されている。)

改めて正しい挨拶を受けた後、貴族として必要な知識を学んでいく。

学習は表面上、何事もなく進んでいき予定よりも早く勉強は済んだ。
実際には嘘を真実として教えられて出題されたことには「真実」を返していたが、何事もないように進んでいく。

解答や立ち振る舞いは王族以上のレベルを求められたけれど、どうってことは無い。

自分達も知らないことを解答として答えられて、顔が驚愕に染まっていたけれど知った事ではない。

一分前に教えられたことは嘘ばかりでも、私は常識的で正しい行動と回答を答えていく。

「あら、紅茶が冷えてしまったようですね。一心、淹れてくれる?」

「ご命令のままに。」

結局毒味のされなかったお茶を強制的に下げさせると、チラリとカップを見るセルバ公爵夫人。

ああ、毒でも入っていましたかそうですか。予想通り過ぎてつまらない結果ですね。

扇に隠して鼻を引くつかせる。薄いのと異世界なので確定はできないが、おそらく睡眠薬。

(誘拐?狙いは私で合っているだろうけど、命か身体か区別がつかないな。)


待て。あのカップは公爵夫人の元に置かれていた。なら狙いは

ガシャン!

窓が割られると同時に精霊王達が動き、私と公爵夫人の元へ移動した。

一心がガラスの欠片を拾い石が投げられた方向へ投げると同時に、扉が乱暴に開かれる。

「おとなしくしろ!」

そんなよくある事を言って、真っ先に彼らが向かったのは私ではなく公爵夫人たちの方。

(やっぱりか)

精霊王達に頼んで侵入者を捕らえてもらい、公爵夫人たちに刃が向かうことは無かったものの嫌な思いが心に残る。

私を犯人に仕立て上げたかったのだろう。精霊妃と公爵夫人がいるのであれば、優先して狙うは精霊妃。それを狙わなかったという事は、公爵夫人たちを捕らえたかった誰かがいるという事。そしてこの場には、高貴で異質な異世界人がいる。

その証拠と言うように、二人は口々に叫びだした。

「精霊妃様!何をなさるのです!」

「おやめください精霊妃様!」

無論、私は側にいないし触れてもいない。彼女たちが勝手に言っているだけだ。

それでも、貴族たちに信頼があるのはこの二人の方。事実がどうであれ、噂として流れる話は私が悪者になっているだろう。分かっていたとはいえ、面倒なものは面倒だ。

はぁ、とため息を吐いてアクスから紙を受け取る。ラトネスとダーネスが抑えてくれた公爵夫人二人にそれを見せつける。

「これ、私が知らないとでも思いましたか?嘘ばかりのお二方。」

内容は、私を犯人として眠る自分達を誘拐して欲しいこと。ウィール様に「正しく」伝えて、居場所を伝えて欲しいこと。

それが達成できた場合、報酬として私をくれてやること。

じたばたと暴れこちらを睨む二人に飽き、一心がいれた紅茶に口を付けた。

うん、息子がいれた紅茶は美味しいね。
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