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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
126.文句はどうぞ神様に
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呆れたようにため息を吐いてから、こちらを見て困惑を露わにしている陛下。
「いったいどうして情報屋として動かれているのでしょう、精霊妃様?」
「もうバレてしまいましたか、思ったよりも早くて驚いていますよ。」
メイドとしての服を一瞬のうちに男性用の服に変えて、「メイド」を脱ぎ捨てる。
「先ほどまでの情報屋は帰る直前までは貴方様でしょう?寸前にすり替えたようですが、一瞬姿がぶれていました。」
「あれりゃそれは残念。ああ、敬語は必要ありませんよ。こちらも楽に話しますから。」
「分かりました。では、普段通りになるよう努力いたします。」
呆れたように息を吐いて、執務用の椅子から会談用の椅子へ移動する陛下。
「クッ……さすがに精霊妃に対して執務机ははばかられますか。」
「当然です。それよりも、なぜこのような時間にまだこの場所へ?」
「情報収集とともに、ちょっとした所用を済ませておりました。陛下こそこのような時間まで執務とは……。」
ふと一度区切り、顔をぶしつけにならない程度に見る。
「…………陛下、寝てます?」
割と真面目なトーンで聞いたので、諦めのため息を吐いた後普段の口調で返してくれた。
「………私とて人間だ。睡眠はとっている。」
「何時間?」
「……………。」
「な ん じ か ん ?」
「……2時間ほど。」
「それは仮眠と言います、陛下寝て。」
グイッと引っ張ってソファーに寝かせる。
「しかしまだ執務が……。」
「あのねぇ……。」
一応医者としての知識もあるので、顔を覗き込んで軽く診察する。
「目の下のクマ、開き切っていない瞳。これだけでも睡眠不足なのは確実でしょう。おとなしく寝て。」
「ですが…。」
医者としての知識がない物が見ても睡眠が足りていないと分かる顔で、なおも反論を口にする陛下。
そんな陛下にはニッコリ笑顔で選択肢を。
「異世界の魔法で強制的に眠らされるのと自主的な睡眠、どっちがいい?」
「………。」
「ちなみに物理的に殴られて気絶、という方法もありますよ?」
「分かった、わかったから……。」
どこからどう見てもしぶしぶ部屋のソファーに移動して目を閉じた陛下。
「ああ、私が権限から見て行えるものは終わらせておきますから、執務の心配は不要です。」
「申し訳ありません。」
「返事はいりませんから、寝て。つーか寝ろ。」
月も傾き始めたこんな真夜中に、カリカリとペンの走る音が鳴り続ける。
体感10分くらいで、規則的な寝息が聞こえ始めた。やはり体の限界はとうに迎えていたらしく、気配を消していないにもかかわらず起きる様子はない。
(全く。)
倉庫にしまってある適当な毛布を掛けて、陛下の姿を私の姿に、私の姿を陛下の姿へと変化させた。
これでカーテンを掛けずに執務をしていても、覗かれた時問題になることは無い。幸いにも陛下が眠っているソファーは背もたれが窓の方へ向いている。見えることは無いだろう。
使用人を呼び出す呼び鈴を鳴らし、席を外してもらっていたルーシェリア嬢を呼ぶ。
「お呼びでしょうか、陛下。」
その声に応える前に、精霊達に頼んでこの部屋の遮音を施す。
何処にいるのかは知らないが、風の精霊王であるウィンは王を名乗るだけであって仕事はしっかりこなす。
「執務の仕分けを頼めるか。」
「かしこまりました。」
にこやかな笑顔に見える表情だが、おそらく近くに来た途端ナイフを突きつけられるだろう。
彼女なら同じ主に仕える者でも出さない情報の必要性をきっと分かってくれるだろう。
ウィンに姿を現してもらい、幻影で精霊妃小鳥美としての姿を自分に投影する。
「私ではできないの。頼めるかしら?」
ヒュッと息を呑んだのち、メイドとして美しい礼を見せたルーシェリアは「お任せください」と言った後、警戒心のない笑顔を見せた。
国王に仕えるメイドとして素早いが丁寧な仕事をしつつ、執務の基本を教わりながら終わった執務の確認をされること数時間。
「陛下、既に夜明けです。精霊妃様を起こされた方がよろしいかと存じます。」
「もうそんな時間か。分かった、カーテンを閉めてもらえるか。」
「かしこまりました。」
首を軽く回したいところではあるが、その前に本物の陛下を起こす。
カーテンが閉め切られたと同時に、姿を同時に戻して陛下をゆする。
「陛下、起きてください。」
「……………………。」
「陛下、起きて。」
「……………………。」
「陛下、起きないと。」
「……………………。」
「……………………。」
「…?!精霊妃様?!」
小声に抑えた声で叫ばれたが、そんなこと都合のいい耳には届かないのでぐにっと頬をつまんで神様たちにやられた分を陛下に返す。
グニグニグニグニグニグニグニ………
「………何をなさっているのでしょうか、精霊妃様。」
「陛下が起きないので起こしておりましたが?」
「精霊妃様はずいぶんと珍しい起こし方をなさるのですね。」
「何のことでしょう?」
少し機嫌の悪い陛下を横目に、先ほどの様に一瞬で着替えて情報屋としての姿に戻る。
「では陛下、私はこれで。執務は確認をお願いいたしますよ。」
「分かりました。」
「今後も情報屋をご贔屓に♪」
言い終わりと同時に影を広げて、軽く飛び跳ねる。
どうやらこちらの陛下はまともなようで、少し安心した。
「いったいどうして情報屋として動かれているのでしょう、精霊妃様?」
「もうバレてしまいましたか、思ったよりも早くて驚いていますよ。」
メイドとしての服を一瞬のうちに男性用の服に変えて、「メイド」を脱ぎ捨てる。
「先ほどまでの情報屋は帰る直前までは貴方様でしょう?寸前にすり替えたようですが、一瞬姿がぶれていました。」
「あれりゃそれは残念。ああ、敬語は必要ありませんよ。こちらも楽に話しますから。」
「分かりました。では、普段通りになるよう努力いたします。」
呆れたように息を吐いて、執務用の椅子から会談用の椅子へ移動する陛下。
「クッ……さすがに精霊妃に対して執務机ははばかられますか。」
「当然です。それよりも、なぜこのような時間にまだこの場所へ?」
「情報収集とともに、ちょっとした所用を済ませておりました。陛下こそこのような時間まで執務とは……。」
ふと一度区切り、顔をぶしつけにならない程度に見る。
「…………陛下、寝てます?」
割と真面目なトーンで聞いたので、諦めのため息を吐いた後普段の口調で返してくれた。
「………私とて人間だ。睡眠はとっている。」
「何時間?」
「……………。」
「な ん じ か ん ?」
「……2時間ほど。」
「それは仮眠と言います、陛下寝て。」
グイッと引っ張ってソファーに寝かせる。
「しかしまだ執務が……。」
「あのねぇ……。」
一応医者としての知識もあるので、顔を覗き込んで軽く診察する。
「目の下のクマ、開き切っていない瞳。これだけでも睡眠不足なのは確実でしょう。おとなしく寝て。」
「ですが…。」
医者としての知識がない物が見ても睡眠が足りていないと分かる顔で、なおも反論を口にする陛下。
そんな陛下にはニッコリ笑顔で選択肢を。
「異世界の魔法で強制的に眠らされるのと自主的な睡眠、どっちがいい?」
「………。」
「ちなみに物理的に殴られて気絶、という方法もありますよ?」
「分かった、わかったから……。」
どこからどう見てもしぶしぶ部屋のソファーに移動して目を閉じた陛下。
「ああ、私が権限から見て行えるものは終わらせておきますから、執務の心配は不要です。」
「申し訳ありません。」
「返事はいりませんから、寝て。つーか寝ろ。」
月も傾き始めたこんな真夜中に、カリカリとペンの走る音が鳴り続ける。
体感10分くらいで、規則的な寝息が聞こえ始めた。やはり体の限界はとうに迎えていたらしく、気配を消していないにもかかわらず起きる様子はない。
(全く。)
倉庫にしまってある適当な毛布を掛けて、陛下の姿を私の姿に、私の姿を陛下の姿へと変化させた。
これでカーテンを掛けずに執務をしていても、覗かれた時問題になることは無い。幸いにも陛下が眠っているソファーは背もたれが窓の方へ向いている。見えることは無いだろう。
使用人を呼び出す呼び鈴を鳴らし、席を外してもらっていたルーシェリア嬢を呼ぶ。
「お呼びでしょうか、陛下。」
その声に応える前に、精霊達に頼んでこの部屋の遮音を施す。
何処にいるのかは知らないが、風の精霊王であるウィンは王を名乗るだけであって仕事はしっかりこなす。
「執務の仕分けを頼めるか。」
「かしこまりました。」
にこやかな笑顔に見える表情だが、おそらく近くに来た途端ナイフを突きつけられるだろう。
彼女なら同じ主に仕える者でも出さない情報の必要性をきっと分かってくれるだろう。
ウィンに姿を現してもらい、幻影で精霊妃小鳥美としての姿を自分に投影する。
「私ではできないの。頼めるかしら?」
ヒュッと息を呑んだのち、メイドとして美しい礼を見せたルーシェリアは「お任せください」と言った後、警戒心のない笑顔を見せた。
国王に仕えるメイドとして素早いが丁寧な仕事をしつつ、執務の基本を教わりながら終わった執務の確認をされること数時間。
「陛下、既に夜明けです。精霊妃様を起こされた方がよろしいかと存じます。」
「もうそんな時間か。分かった、カーテンを閉めてもらえるか。」
「かしこまりました。」
首を軽く回したいところではあるが、その前に本物の陛下を起こす。
カーテンが閉め切られたと同時に、姿を同時に戻して陛下をゆする。
「陛下、起きてください。」
「……………………。」
「陛下、起きて。」
「……………………。」
「陛下、起きないと。」
「……………………。」
「……………………。」
「…?!精霊妃様?!」
小声に抑えた声で叫ばれたが、そんなこと都合のいい耳には届かないのでぐにっと頬をつまんで神様たちにやられた分を陛下に返す。
グニグニグニグニグニグニグニ………
「………何をなさっているのでしょうか、精霊妃様。」
「陛下が起きないので起こしておりましたが?」
「精霊妃様はずいぶんと珍しい起こし方をなさるのですね。」
「何のことでしょう?」
少し機嫌の悪い陛下を横目に、先ほどの様に一瞬で着替えて情報屋としての姿に戻る。
「では陛下、私はこれで。執務は確認をお願いいたしますよ。」
「分かりました。」
「今後も情報屋をご贔屓に♪」
言い終わりと同時に影を広げて、軽く飛び跳ねる。
どうやらこちらの陛下はまともなようで、少し安心した。
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