異世界情報収集生活

スカーレット

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

125.国王と公爵

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「情報屋。」
ふと呼ばれた声に反応するよりも早くクッキーを口に放った当人は、口を動かしながら向き直った。

「………精霊妃様に関する今回の事態の情報を。」

「ん……………っく。ヘイヘイ。まったく、国王様は人使いが荒いねぇ。」

再びどこに隠していたのか分からない書類を取り出すと、ポイッと宰相に放り投げた。

「…だから!」

「ちゃんと宰相殿に投げたじゃありませんか。」

そんなことより、と情報屋は話し出す。

「精霊妃様の怒りによってこの国の隣国、ライミリ精霊信仰国は滅びるかもしれませんね。」

「我が友好国に対し不敬だ……と言いたいところではあるが。」

「ああ、実際になる可能性が出てきたな。まさかここまで実態が酷いとは思わなかった。」

無言でうなずく騎士やメイドを横目に、毒の検査を終えた書類が国王に渡された。

「王妃による精霊妃様の側近への侮辱行為。伯爵家の娘による無礼と嫌がらせ。伯爵家当主による世界樹ウィール様と精霊妃様に対する侮辱行為。………国王は無能確定だな。」

「そのようですね。そして、国王を支え見極めるために存在する公爵家も、この様子では動いていないのでしょう。」

「そろいもそろって無能とは……精霊信仰国の名が聞いて呆れる。」

「情報屋、世界樹ウィール様と精霊妃様のご様子は。」

「現在は国王の判断を待っている状況ですね。事態の把握と非公式の謝罪はありましたが、王妃は公式には何も発表されずに自室に謹慎中です。ちなみに、今後は公爵家の当主の奥方二人にこの世界について教えてもらう予定だそうですよ?」

「情報屋。」

言葉の最後にかぶせるように口を開いた国王は、銀の眼を光らせた。

「そんなことは間者からの報告で分かっている。私が欲しい情報は、実際の情報だ。あの国王と公爵の事だ、うやむやにする為に世界樹様方の機嫌を取って夜会までの時間を稼いでいるのが精いっぱいだろう。そんな上辺の建前は結構。私がよこせと言っているのは事実だ。」

僅かに目を細めた情報屋は芝居がかった動きで謝罪し、事実を話し始めた。

「精霊妃様の考えた策に王家と公爵家共々乗るらしいですね。今はより計画を詰めるために精霊妃様がライミリの内情を徹底的に調べて、師事を頼んだ王太子殿下に教育を施しています。」

「精霊妃様が考えた策とは。」

「自身が伯爵家に誘拐されることを利用すること、また、神様と呼ばれる人物に何か頼まれているようですが、そこまでですね。いやーガードが堅い堅い。」

「十分だ。」

そう言ってお茶を飲み、宰相と再び話し始めた。

その後も質問と回答が続きしばらくした後、立ち上がり一方的に情報屋は言った。

「頂いた報酬分はこれで十分でしょう?では、私はこれで。」

「ああ。」

空返事の様な返答に

「次回のご利用お待ちしておりますよ、国王陛下。」

トンッと軽くその場で跳ねた情報屋は、一瞬で黒く広がった何かに消えていった。

少しの間静寂がその場を支配したのち、壁に控えていた騎士が呟いた。

「恐ろしい者ですね。」

ああ、と呟いて同意を示した国王は続けてだが、と呟いた。

「利用するにあたってこれほど使い勝手がいい駒もない。」

盤上を大陸に変えて自由に動き回り、相手の懐に潜りすぎて捕まることも警戒し過ぎて情報が少ないことも無い。
まさに情報屋の理想と言える。

「ユストリアム。」

「はっ。」

「他の情報屋は切れ、あの情報屋一つで十分だ。」

「かしこまりました、その様に。」

「ビスタ、お前もこれは覚えておけ。夜会当日の警備される場所とその騎士の派閥が書いてある。」

「はっ。」

「ビア、公爵家を探れ。本来ならばさっさと処断すべき国王をいつまでも王位に座らせているのは何かの意図を感じる。それを探れ。」

次々と指示されてく事柄に対して静かに、しかし迅速に動いていく忠臣たち。

その少し後、コンコンコンとノックの音が響き渡る。

「入れ。」

「失礼いたします。陛下、書類をお持ちいたしました。」

「ご苦労。………ああ、しばし待て。」

一人のメイドが書類を差し出し、頭を下げた時に呼び止められる。

「ルーシェリア、しばし席を外してくれ。」

「かしこまりました。では、隣の部屋で待機しておりますので、何かあればお申し付けください。」

「ああ。」

そうして部屋には国王とメイド一人と言う通常ではありえない状況の中、通常と何ら変わりない様子で立ちあがり、国王は口を開いた。

「ご挨拶が必要でしょうか。」

「わたくしの様なメイドに敬語は必要ございません!」

国王に敬語を使われたメイドは慌てふためくが、国王は冷静に見つめる。

「貴方様はメイドではないでしょう?」

そう返せば、メイドはニコリとニヤリとも取れる表情を返した。
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