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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
123.隣国にて
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とある夜
「いやーどうもどうも情報屋です。窓からおじゃましますよっ…と。」
ライミリ国の隣国、マルクトリア国ではいかにも怪しい人間が執務室に入っていた。
黒い服をまといケラケラと笑う情報屋は、生粋の貴族と王族に睨まれ続けているのにどこか楽しげに見える。声は男のようだが、細身の男にも長身の女性にも見える姿に、これと言った特徴は無い。しかし女性らしい膨らみも無いため、この者の性別を問えばだいたいの人間が男だと答えるだろう。
日がとうに沈んでいるにも関わらず執務を続けていた国の主は、疲労の濃い銀の眼を情報屋に向けた。
「情報を。」
「あい変わらずのせっかちですねぇ。情報はこれで全部ですよ。これとこれ、あ、あとこれ。」
どこに隠し持っていたのか、折り目の無い書類を次から次へと取り出して国王に投げつける情報屋。
国王の前にすかさず手を伸ばして直撃を止めた男は、呆れと怒りを含んだ声と紫の眼で情報屋を射抜く。
「陛下に書類を投げないでください。そして、毒の検査をしなければなりませんので、こちらに。」
「おおっとこれは失礼宰相。そして陛下。」
芝居がかった動きで礼をすると、その動きに合わせて風がとこからともなく吹いた。
「……。」
風は書類を運び、ゆっくりと宰相の手の上に載っていく。
しかめた顔の理由は詠唱も時間もかからない魔法ゆえか、悪びれも無く自らを笑う目の前の人間のせいかはたまた――。
…………情けない。
その声に音は無く、ひっそりと唇を読める情報屋だけが笑みを深めた。
やがて書類の検査は終わり、潔く国王の元へ運ばれる。
「…………。」
国王はクマの濃い顔を歪めて一枚、また一枚と読み進めるたびに眉間にしわを寄せていく。
「……………これは、真実なんだろうな?」
貴族たちに睨まれる中、そんなもの知ったこっちゃないといわんばかりに用意されていた菓子を摘まむ情報屋はその手を止め、わざとらしく目を見開き非難する。
「ひっどいこといいますねぇ、国王様?こっちだって信用得るために必死なんですよ?お客様にお渡しする情報は、ぜーんぶ真実だっていう裏付け取れてからお渡ししてますよ。」
そういうと、机の上に置かれていた誰かの分のお茶を飲みほした。
「こちらからする質問には答えてくれるのか?」
「今回の情報に関することなら、ちゃーんと答えますよ。それを含めて報酬決めてますから。ま、質問してこない奴らにわざわざ教えてやるほど優しくありませんが。あ!俺らの事は勘弁してくださいよぉ。」
「もとより、尋問したところで話さないだろう。」
「分かってるじゃないですか、国王様。」
ケラケラと笑い、近くのメイドにお茶のおかわりを頼んだ。
「まず、ライミリの王妃が色事にふけっていたということについて詳しく。」
国王は書類を宰相に渡し、手を組んで考えを巡らせながらも質問して予想の精度を上げてく。
「ライミリの王妃様ですか。あの人、もともとかなりの数の男を囲ってましたよ。ま、嫁いだ昔はちゃーんと表向き良い王妃の皮をかぶっていたようですが。」
「では、昔から色事にふけっていたと?」
「嫁いですぐ位は多少散財しているぐらいで、そんなに害悪じゃなかったって話です。でも、伯爵家にそそのかされて悪事に手を染め、より散財が酷くなって最終的には誘拐と色事を繰り返したってことです。」
「結婚前に、国王は調べなかったのか?」
「この国に比べて貴族全体の質が悪いのはありますが、もともとミーロト伯爵家の出身で可もなく不可もない女性だったそうです。敵対派閥を取り込むための、政略結婚ですね。」
「そのころには散財は無かったと?」
「ゼロではありませんが、月に一度ドレスか装飾品を強請るくらいだったと。」
「陛下よろしいでしょうか。」
「かまわん。」
先ほどの国王と同じように一枚めくるたびに眉間のしわを深めていた宰相が、一度は国王に向けた目を書類に戻して、情報屋に質問を投げかける。
「情報屋、貴族の質の違いはどの程度だ。」
どうやら書類の内容に思うところがあったらしく、書類を睨みつけながら読み進める。
「だいたいこの貴族一人の執務量と比べると、ライミリの貴族2人でちょうど位ですかね。」
「ほぼ倍ではないか………。」
「ちなみに一番優秀で、ですよ?だいたいの奴らは三人くらいでこの国の貴族1人分くらい動く感じですよ。」
きつく目を閉じる陛下と額に手を当てる宰相。情報屋がチラリと騎士を見れば、静かにしているが呆れがにじみ出ている。
「王太子にまともな教育が行われている形跡がない…?!王太子の教育係は何をしている……!クソッ…情報屋!」
「なーんにもしてませんよ。なーんにも。」
「………どういうことだ。」
「唯一王位継承権を持つ男、カリストロ=ライミリのことでしょう?教育係、誰なんでしょうねぇ?」
ケラケラとニヤニヤと笑う情報屋に、少し怒りが湧いている宰相がしびれを切らして口を開いた。
「いやーどうもどうも情報屋です。窓からおじゃましますよっ…と。」
ライミリ国の隣国、マルクトリア国ではいかにも怪しい人間が執務室に入っていた。
黒い服をまといケラケラと笑う情報屋は、生粋の貴族と王族に睨まれ続けているのにどこか楽しげに見える。声は男のようだが、細身の男にも長身の女性にも見える姿に、これと言った特徴は無い。しかし女性らしい膨らみも無いため、この者の性別を問えばだいたいの人間が男だと答えるだろう。
日がとうに沈んでいるにも関わらず執務を続けていた国の主は、疲労の濃い銀の眼を情報屋に向けた。
「情報を。」
「あい変わらずのせっかちですねぇ。情報はこれで全部ですよ。これとこれ、あ、あとこれ。」
どこに隠し持っていたのか、折り目の無い書類を次から次へと取り出して国王に投げつける情報屋。
国王の前にすかさず手を伸ばして直撃を止めた男は、呆れと怒りを含んだ声と紫の眼で情報屋を射抜く。
「陛下に書類を投げないでください。そして、毒の検査をしなければなりませんので、こちらに。」
「おおっとこれは失礼宰相。そして陛下。」
芝居がかった動きで礼をすると、その動きに合わせて風がとこからともなく吹いた。
「……。」
風は書類を運び、ゆっくりと宰相の手の上に載っていく。
しかめた顔の理由は詠唱も時間もかからない魔法ゆえか、悪びれも無く自らを笑う目の前の人間のせいかはたまた――。
…………情けない。
その声に音は無く、ひっそりと唇を読める情報屋だけが笑みを深めた。
やがて書類の検査は終わり、潔く国王の元へ運ばれる。
「…………。」
国王はクマの濃い顔を歪めて一枚、また一枚と読み進めるたびに眉間にしわを寄せていく。
「……………これは、真実なんだろうな?」
貴族たちに睨まれる中、そんなもの知ったこっちゃないといわんばかりに用意されていた菓子を摘まむ情報屋はその手を止め、わざとらしく目を見開き非難する。
「ひっどいこといいますねぇ、国王様?こっちだって信用得るために必死なんですよ?お客様にお渡しする情報は、ぜーんぶ真実だっていう裏付け取れてからお渡ししてますよ。」
そういうと、机の上に置かれていた誰かの分のお茶を飲みほした。
「こちらからする質問には答えてくれるのか?」
「今回の情報に関することなら、ちゃーんと答えますよ。それを含めて報酬決めてますから。ま、質問してこない奴らにわざわざ教えてやるほど優しくありませんが。あ!俺らの事は勘弁してくださいよぉ。」
「もとより、尋問したところで話さないだろう。」
「分かってるじゃないですか、国王様。」
ケラケラと笑い、近くのメイドにお茶のおかわりを頼んだ。
「まず、ライミリの王妃が色事にふけっていたということについて詳しく。」
国王は書類を宰相に渡し、手を組んで考えを巡らせながらも質問して予想の精度を上げてく。
「ライミリの王妃様ですか。あの人、もともとかなりの数の男を囲ってましたよ。ま、嫁いだ昔はちゃーんと表向き良い王妃の皮をかぶっていたようですが。」
「では、昔から色事にふけっていたと?」
「嫁いですぐ位は多少散財しているぐらいで、そんなに害悪じゃなかったって話です。でも、伯爵家にそそのかされて悪事に手を染め、より散財が酷くなって最終的には誘拐と色事を繰り返したってことです。」
「結婚前に、国王は調べなかったのか?」
「この国に比べて貴族全体の質が悪いのはありますが、もともとミーロト伯爵家の出身で可もなく不可もない女性だったそうです。敵対派閥を取り込むための、政略結婚ですね。」
「そのころには散財は無かったと?」
「ゼロではありませんが、月に一度ドレスか装飾品を強請るくらいだったと。」
「陛下よろしいでしょうか。」
「かまわん。」
先ほどの国王と同じように一枚めくるたびに眉間のしわを深めていた宰相が、一度は国王に向けた目を書類に戻して、情報屋に質問を投げかける。
「情報屋、貴族の質の違いはどの程度だ。」
どうやら書類の内容に思うところがあったらしく、書類を睨みつけながら読み進める。
「だいたいこの貴族一人の執務量と比べると、ライミリの貴族2人でちょうど位ですかね。」
「ほぼ倍ではないか………。」
「ちなみに一番優秀で、ですよ?だいたいの奴らは三人くらいでこの国の貴族1人分くらい動く感じですよ。」
きつく目を閉じる陛下と額に手を当てる宰相。情報屋がチラリと騎士を見れば、静かにしているが呆れがにじみ出ている。
「王太子にまともな教育が行われている形跡がない…?!王太子の教育係は何をしている……!クソッ…情報屋!」
「なーんにもしてませんよ。なーんにも。」
「………どういうことだ。」
「唯一王位継承権を持つ男、カリストロ=ライミリのことでしょう?教育係、誰なんでしょうねぇ?」
ケラケラとニヤニヤと笑う情報屋に、少し怒りが湧いている宰相がしびれを切らして口を開いた。
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