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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

114.口だけではわからぬ馬鹿

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「…………………。」

先ほどから沈黙を保っている殿下は、空のカップを持ち上げて何がしたいのだろう。

「何か言えない理由でも?」

そう言っても誰も反応しない。

(沈黙=肯定、なんだけれどなぁ)

紅茶の飲むふりを続けているオガリスと目が合ったので、一心とニッコリ笑顔で対応する。

「っ………。」

そのまま目を閉じて、無視を決め込んだようだ。まだ言わないの君ら?ふーん?

「そうそう、本能と自分の目で理解したとは思いますが、一応言っておきますと。」

一心から書類を受け取り神様とウィール様に渡した後、ヒラヒラと書類を見せつける。……………これが相手にとって最後通告だと、こんな奴らは気づくのだろうか。

いや、気づいていてもすぐに忘れてしまうのだろう。だからこそ頭ではなくより深いところに刻みつけなければいけない。

「私にとってこの国はどうでもいいので、さっさと荒野に戻して精霊の土地に帰ったっていいんですよ?ああ、他国に観光へ行くというのもアリですね。」

そう言っても何も変わらない様子の貴族を見て、心底面倒だと思う。

(無能の馬鹿って大嫌い。生物として本能まで鈍っているなら、救いようがないね。殿下や騎士は磨けばダイヤのような美しさに成長するだろうけど、磨く手間をかけてまで行う価値は果たしてあるのかどうか。)

「神様、映しても?」

「かまわないよ。ああ、最高神様には僕から言っておくから、気にしないで。」
「助かります。」

一心に視線を向けると、慣れた手つきで壁を暗くした後映像を流した。

流れる映像は、この前依頼で言った屋敷。これ、最高神様の依頼を受けたら追加で女性陣の救出を依頼されただけだから本来は最高神様からの依頼なんだよね。

「精霊妃様、これは……?」

「お静かにお願いいたします、殿下。」

静かに、しかし有無を言わせずに言葉を遮る一心。どうやらここにいる貴族に対する評価は親子でそろったらしい。ちょっとうれしい。

(「……………………………」)

無音の中映像だけが動いていく。これは、私が片っ端から殺しまくっていた時の映像…だね、うん。合ってる。

サクサク人を殺しポンポン金庫を開けて、ひょいひょい証拠を集めている姿を見て、ようやく私の言葉に実感がわいたらしい。

今までは殺気を込めていたからその場で少し納得していたのだろうけど、先ほどは殺気を込めなかった。

つまり私の言葉を冗談だと、実現なんてできないだろうと思っていた。

精霊妃は口だけでない。

それを少しは実感してくれないと、一心の堪忍袋が切れる。

頼むから実感して?!ほら見て一心の顔!無よ、無!微笑みに定評がある一心が無!この恐ろしさに気付かないのなら、今後の生活の保障はしませんからね?

もう何度目かの青ざめた顔の貴族を見渡し、ふと視界の端に神様が映る。

「……………………。」

にっこりと笑っているものの、顔から感じられるのは恐怖。ついでに言えば顔がピクリとも動いていない。まぁ、固めているのだろう。

神様だって神々の中で一番尊い存在の最高神様に仕えられるほどの優秀な人材だ。馬鹿は理解できないのかもしれないし、自称女神を思い出して不快なのかもしれない。

「さて。」

そう言っただけでビクリと体を震わせて、こちらを見る貴族達。

「私の力の証明になりましたか?これで口だけではないという証明になったと思うのですが。」

そう言えば、我先に口を開いた。

「そのようなつもりはございません!」

「オガリスの言う通りでございます。我らが精霊妃様のお力を疑うなど…!」

「静まれ!」

似たようなことを言うと思った殿下は、大声を出して公爵二人を止めた。

「精霊妃様。今回の件、我らは策を考えておりますが実行しない予定です。」

「そのようなこと、存じ上げておりますよ?」

公爵二人がヒュッと音を出して、騎士二人がきつく目を閉じた。

当の殿下は何も変わらない、おそらく予想できたのだろう。私が影として動いていたことは伝えたからな。

「私達は精霊妃様の精霊妃としてのお力以外にも、精霊妃様が元の世界で培ってこられたお力が優れていること存じ上げております。しかし、我らはどうやら真の意味で理解できていなかったようです。重ね重ね国を支える者として謝罪と、この国を今なお荒野に戻さずにいてくださるご温情、感謝しかございません。」

そう言って立ち上がった時、一心が間に入って隠し持っていたナイフを喉に当てた。

「それ以上は、ご遠慮ください。」

その行動が示すことに気付けたようで、動き出していた騎士二人が殿下を後ろに下げた。

「……。」

無言で一礼し、元の位置に戻るヤドゥール。

殿下は少しショックを受けたような顔をした後、きつく目を閉じてから言葉を絞り出した。

「精霊妃様、我らはもともと立てていた策を実行いたします。」

ギョッとした公爵達は、声を荒げた。

「殿下!」
「殿下それは!」

「オガリス、宰相、これはもっと早くに行うべきことだったんだよ。それを私達の都合で先延ばしにした結果、世界樹様と精霊妃様を巻き込んだ。……王太子として、責任を取らないと。」

そう二人に伝え、騎士二人を見た後に私を見た。

「世界樹ウィール様、精霊妃小鳥美様。私は王になります。」

「そうですか。」

「母である王妃を、精霊妃様と精霊妃様の側近への無礼と横領を始めとした数々の罪で、処刑いたします。」

「そうですか。」

「父である国王陛下には、責任を取って退位していただきます。」

「そうですか。」

「横領を何度も繰り返し、王妃を誑かした伯爵家には当主夫妻の処刑し五年間代理の当主を立てたのち次代に引き継がせます。」

そこまで言って殿下は立ち上がり、一心に止められた場所まで行き、頭を深く下げた。

「指導を含め、ご協力していただけませんか。」

………きっと、公爵達は顔色が悪いまま、固まったのだろう。

彼らにとって殿下は、一番嫌な道を選ぼうとしているのだから。
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