異世界情報収集生活

スカーレット

文字の大きさ
上 下
130 / 205
ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

111.優先順位

しおりを挟む
神様にしては珍しい真面目な怒り顔で口を開いた。

「君が、自分の外聞を貶める内容の噂を立てる策を実行したんだね?」

「そうですが?……?」

そう答えれば、より一層神様の怒りは増したようだ。同時に、ウィール様は悲しげな顔を隠さなくなった。

他の顔を見れば、少しは神様が怒っている理由がわかるだろうか。そう思って周りの顔ぶれを見るが、一様に目を軽く見開いてからゆっくりと目を閉じて、何かを思案していた。

「なんなんです?一体どうしたっていうんですか、神様。」

本気で分からないので、素直に神様に聞く。たったそれだけで神様の怒りは頂点に達したようだ。

「ふざけるな!」

少年の見た目からは予想が出来ない大きな声を出して、最高神様の側近に相応しい鋭い眼光をこちらに向けた。その眼に含まれている感情は怒りと、……悲しみ?

金の眼に現れる感情を観察いるうちに、神様らしく浮き上がって胸倉をつかまれた。

「君は!どうして自分を大事にしないんだ!」

「私の命は主の物だからですよ?」

瞬時に顔を驚愕に染め混乱し続ける神様をなだめるために、私を掴む手をトントンと軽く叩く。

「いいですか神様。私の命は既に我が主に捧げてあります。たとえ、主が死んだからと言って私の命は主が持っていますから、返ってきません。まぁ、返ってきたところで再び捧げるだけですが。」

ワナワナと唇を震わせている神様の、力が入っていない手を洋服から離させる。

「主は、遺言を残されていました。私への遺言は、私の部下として成長した自分のように他の者を導き生きて欲しいというものでした。だから私は、見込みのある者たちを選別して成長を促します。………とりあえず、ここまではいいですか?」

一心の手によって体を動かされながらゆっくりと椅子に座って、頭を上げた神様。

「君の主は、君がそんなことをすることを望んでいるのかい?」

どこかすがる様に呟く神様。

「分かりません。主の考えを完全に把握する前に、我が主は逝かれてしまいましたから。だからこそ私は、主の遺言を最優先に動きます。」

一に主。二に師匠。三に千葉。四に一心とニア。

この命の順位が変わることは、未来永劫無い。

「私の外聞よりも、私の痛みよりも優先されるは主の遺言です。しかし、私が死ねば主の遺言である『導き生きてほしい』という言葉を実行できませんから、命は失わないように気を付けます。」



「…………………何ですか、その顔は。」

絶望によく似た、失望や驚愕を含んだその眼に映る感情が、私には分からない。

何かが信じられないといった様子でこちらの眼を見つめる神様。

他の者たちも固まる中、ハクハクと動かしていた口から声を出した。

「君は…………。君は、生きて欲しいと遺言がなかったらどうしたんだい?」

「即座に自決いたします。たとえ死後でも主の手足として動くことが私の願いですから。最善は、主の死亡が確定した時即座に自決し、主よりも先にあの世について場を整えて主を迎えることですね。」

ふと周りを見て、少し納得する。

私にとっては右手がある方が右であるのと同じように、主を最善に動くことが私にとって当たり前のこと。
しかし、周りの人たちにとってはそうではないのだろう。

狂気に近い忠誠。

それを抱くものがこの場にいないことは、彼らの顔を見れば十分伝わる。

(残念だなぁ。互いの主の素晴らしさを存分に語り合いたかったのに。)

「ほら、座ってください?皆様。立ちっぱなしでは疲れますよ?」

(「隊長!」)

思わず立ち上がっていた皆を座るよう促して、瞬き一つで感情を隠す。

(「的確なご指示、憧れてしまいます。そのうえ戦力としての力まで……。」)

(「隊長!書類仕事くらいは僕が行います!隊長はお休みください!」)

頭によぎる主の言葉、表情、目。

ゆっくりと現実に思考を戻して貴族の皆に向き直った。

ゾワリと沸き上がる狂気も、忠誠心も、怒りも憎しみも悲しみも嫌悪も
(全てを隠せ。)

私は、微笑みの顔を作った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。 その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。 怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい...... ※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。 ※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。 ※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。 ※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

健太と美咲

廣瀬純一
ファンタジー
小学生の健太と美咲の体が入れ替わる話

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

ガチャからは99.7%パンが出るけど、世界で一番の素質を持ってるので今日もがんばります

ベルピー
ファンタジー
幼い頃にラッキーは迷子になっている少女を助けた。助けた少女は神様だった。今まで誰にも恩恵を授けなかった少女はラッキーに自分の恩恵を授けるのだが。。。 今まで誰も発現したことの無い素質に、初めは周りから期待されるラッキーだったが、ラッキーの授かった素質は周りに理解される事はなかった。そして、ラッキーの事を受け入れる事ができず冷遇。親はそんなラッキーを追放してしまう。 追放されたラッキーはそんな世の中を見返す為に旅を続けるのだが。。。 ラッキーのざまぁ冒険譚と、それを見守る神様の笑いと苦悩の物語。 恩恵はガチャスキルだが99.7%はパンが出ます!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...