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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
111.優先順位
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神様にしては珍しい真面目な怒り顔で口を開いた。
「君が、自分の外聞を貶める内容の噂を立てる策を実行したんだね?」
「そうですが?……?」
そう答えれば、より一層神様の怒りは増したようだ。同時に、ウィール様は悲しげな顔を隠さなくなった。
他の顔を見れば、少しは神様が怒っている理由がわかるだろうか。そう思って周りの顔ぶれを見るが、一様に目を軽く見開いてからゆっくりと目を閉じて、何かを思案していた。
「なんなんです?一体どうしたっていうんですか、神様。」
本気で分からないので、素直に神様に聞く。たったそれだけで神様の怒りは頂点に達したようだ。
「ふざけるな!」
少年の見た目からは予想が出来ない大きな声を出して、最高神様の側近に相応しい鋭い眼光をこちらに向けた。その眼に含まれている感情は怒りと、……悲しみ?
金の眼に現れる感情を観察いるうちに、神様らしく浮き上がって胸倉をつかまれた。
「君は!どうして自分を大事にしないんだ!」
「私の命は主の物だからですよ?」
瞬時に顔を驚愕に染め混乱し続ける神様をなだめるために、私を掴む手をトントンと軽く叩く。
「いいですか神様。私の命は既に我が主に捧げてあります。たとえ、主が死んだからと言って私の命は主が持っていますから、返ってきません。まぁ、返ってきたところで再び捧げるだけですが。」
ワナワナと唇を震わせている神様の、力が入っていない手を洋服から離させる。
「主は、遺言を残されていました。私への遺言は、私の部下として成長した自分のように他の者を導き生きて欲しいというものでした。だから私は、見込みのある者たちを選別して成長を促します。………とりあえず、ここまではいいですか?」
一心の手によって体を動かされながらゆっくりと椅子に座って、頭を上げた神様。
「君の主は、君がそんなことをすることを望んでいるのかい?」
どこかすがる様に呟く神様。
「分かりません。主の考えを完全に把握する前に、我が主は逝かれてしまいましたから。だからこそ私は、主の遺言を最優先に動きます。」
一に主。二に師匠。三に千葉。四に一心とニア。
この命の順位が変わることは、未来永劫無い。
「私の外聞よりも、私の痛みよりも優先されるは主の遺言です。しかし、私が死ねば主の遺言である『導き生きてほしい』という言葉を実行できませんから、命は失わないように気を付けます。」
「…………………何ですか、その顔は。」
絶望によく似た、失望や驚愕を含んだその眼に映る感情が、私には分からない。
何かが信じられないといった様子でこちらの眼を見つめる神様。
他の者たちも固まる中、ハクハクと動かしていた口から声を出した。
「君は…………。君は、生きて欲しいと遺言がなかったらどうしたんだい?」
「即座に自決いたします。たとえ死後でも主の手足として動くことが私の願いですから。最善は、主の死亡が確定した時即座に自決し、主よりも先にあの世について場を整えて主を迎えることですね。」
ふと周りを見て、少し納得する。
私にとっては右手がある方が右であるのと同じように、主を最善に動くことが私にとって当たり前のこと。
しかし、周りの人たちにとってはそうではないのだろう。
狂気に近い忠誠。
それを抱くものがこの場にいないことは、彼らの顔を見れば十分伝わる。
(残念だなぁ。互いの主の素晴らしさを存分に語り合いたかったのに。)
「ほら、座ってください?皆様。立ちっぱなしでは疲れますよ?」
(「隊長!」)
思わず立ち上がっていた皆を座るよう促して、瞬き一つで感情を隠す。
(「的確なご指示、憧れてしまいます。そのうえ戦力としての力まで……。」)
(「隊長!書類仕事くらいは僕が行います!隊長はお休みください!」)
頭によぎる主の言葉、表情、目。
ゆっくりと現実に思考を戻して貴族の皆に向き直った。
ゾワリと沸き上がる狂気も、忠誠心も、怒りも憎しみも悲しみも嫌悪も
(全てを隠せ。)
私は、微笑みの顔を作った。
「君が、自分の外聞を貶める内容の噂を立てる策を実行したんだね?」
「そうですが?……?」
そう答えれば、より一層神様の怒りは増したようだ。同時に、ウィール様は悲しげな顔を隠さなくなった。
他の顔を見れば、少しは神様が怒っている理由がわかるだろうか。そう思って周りの顔ぶれを見るが、一様に目を軽く見開いてからゆっくりと目を閉じて、何かを思案していた。
「なんなんです?一体どうしたっていうんですか、神様。」
本気で分からないので、素直に神様に聞く。たったそれだけで神様の怒りは頂点に達したようだ。
「ふざけるな!」
少年の見た目からは予想が出来ない大きな声を出して、最高神様の側近に相応しい鋭い眼光をこちらに向けた。その眼に含まれている感情は怒りと、……悲しみ?
金の眼に現れる感情を観察いるうちに、神様らしく浮き上がって胸倉をつかまれた。
「君は!どうして自分を大事にしないんだ!」
「私の命は主の物だからですよ?」
瞬時に顔を驚愕に染め混乱し続ける神様をなだめるために、私を掴む手をトントンと軽く叩く。
「いいですか神様。私の命は既に我が主に捧げてあります。たとえ、主が死んだからと言って私の命は主が持っていますから、返ってきません。まぁ、返ってきたところで再び捧げるだけですが。」
ワナワナと唇を震わせている神様の、力が入っていない手を洋服から離させる。
「主は、遺言を残されていました。私への遺言は、私の部下として成長した自分のように他の者を導き生きて欲しいというものでした。だから私は、見込みのある者たちを選別して成長を促します。………とりあえず、ここまではいいですか?」
一心の手によって体を動かされながらゆっくりと椅子に座って、頭を上げた神様。
「君の主は、君がそんなことをすることを望んでいるのかい?」
どこかすがる様に呟く神様。
「分かりません。主の考えを完全に把握する前に、我が主は逝かれてしまいましたから。だからこそ私は、主の遺言を最優先に動きます。」
一に主。二に師匠。三に千葉。四に一心とニア。
この命の順位が変わることは、未来永劫無い。
「私の外聞よりも、私の痛みよりも優先されるは主の遺言です。しかし、私が死ねば主の遺言である『導き生きてほしい』という言葉を実行できませんから、命は失わないように気を付けます。」
「…………………何ですか、その顔は。」
絶望によく似た、失望や驚愕を含んだその眼に映る感情が、私には分からない。
何かが信じられないといった様子でこちらの眼を見つめる神様。
他の者たちも固まる中、ハクハクと動かしていた口から声を出した。
「君は…………。君は、生きて欲しいと遺言がなかったらどうしたんだい?」
「即座に自決いたします。たとえ死後でも主の手足として動くことが私の願いですから。最善は、主の死亡が確定した時即座に自決し、主よりも先にあの世について場を整えて主を迎えることですね。」
ふと周りを見て、少し納得する。
私にとっては右手がある方が右であるのと同じように、主を最善に動くことが私にとって当たり前のこと。
しかし、周りの人たちにとってはそうではないのだろう。
狂気に近い忠誠。
それを抱くものがこの場にいないことは、彼らの顔を見れば十分伝わる。
(残念だなぁ。互いの主の素晴らしさを存分に語り合いたかったのに。)
「ほら、座ってください?皆様。立ちっぱなしでは疲れますよ?」
(「隊長!」)
思わず立ち上がっていた皆を座るよう促して、瞬き一つで感情を隠す。
(「的確なご指示、憧れてしまいます。そのうえ戦力としての力まで……。」)
(「隊長!書類仕事くらいは僕が行います!隊長はお休みください!」)
頭によぎる主の言葉、表情、目。
ゆっくりと現実に思考を戻して貴族の皆に向き直った。
ゾワリと沸き上がる狂気も、忠誠心も、怒りも憎しみも悲しみも嫌悪も
(全てを隠せ。)
私は、微笑みの顔を作った。
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