異世界情報収集生活

スカーレット

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

110.本人ですってば

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皆が待つ部屋の扉を開けてもらい、中に入る。

「いや~お待たせしました。どうも小鳥美です~。」

ガッツリと男装した状態のためか、神様とウィール様以外は目を見開いている。

今は一応緑の洋服を着ているが、緑よりも紺が主体となっている服だ。何かおかしなところはあったかと思い、一心が見たから何も問題ないだろうと思いなおす。

………十秒くらいたっただろうか。まだ目を見開いている。

(目、乾燥しますよ?)

「おーい。だいじょうぶですかー?」

殿下の前で手をひらひらさせた後、宰相、公爵二人、騎士と移動していく。

「精霊妃様?」

「はい。」

「精霊妃小鳥美様?」

「なんでしょう?」

殿下に呼ばれたので振り返れば、まだ半解凍くらいの殿下と目が合った。

「………………。」

「………………?」

「精霊妃様の、兄君ですか?」

「違います。」

沈黙を律義に待ったら、男にされました千利です。

「ああ、弟君。」

「違います。」

「では、いとこ殿でしょうか?」

「違います。本人です本人。」

「お声が低く感じるのですが……。」

「男の姿で女の声を出したら違和感がすごいと思います。」

「確かに………しかし…………。」

そう言って移動した殿下の目線に合わせて、視線が二か所に分かれた。

……………おい貴族?女ならふくらみがある上半身と男ならナニがついている下半身を見るんじゃないよ。慎みどこいった。慎み―!帰っておいでー!

「ゴホッ」

見かねた一心がわざとらしい咳をして、笑顔すら消して睨みを利かせた。
「!……失礼いたしました。」

「他でやったら殴られても文句言えませんからね。皆様、お気をつけて。」

皆様に力を入れて、ぐるりとあたりを見渡す。一心の咳払いが無ければ、まだ見ていただろう。

…………………貴族達じゃなく変態集団と呼びたくなるね。

(まったく、礼儀がなっているんだかなっていないんだか分かった物じゃない。)

「本題に戻りますよ?口調はこんなものですから、慣れてください。」

ドカリと椅子に座り、先ほど渡した書類を改めて見ながら今後の詳細な予定を決めていく。
「まず、この書類に書かれている情報は全て精査してあります。したがって正しいと確信を得た上でこの書類にまとめているので、正しい情報として扱ってください。また、屋敷もしくは王宮と場所の欄に書かれているものは保管されている場所になります。」

書類には簡単に伯爵家三つとその分家が犯した罪状とその証拠の保管場所が載っている。

「国の膿出しにはこれを活用してくださいね?これを活用すれば、ある程度の膿出しはできるでしょうから。」

「ご配慮、深く感謝いたします。」

「そうそう、そちらが膿出しする際に私が出る夜会を利用するのは勝手ですが、先に連絡をお願いします。そちらを優先する気はありませんし、邪魔をされたら怒りでつい、国を滅ぼしそうですし。」

「それに関係して、わしから少々よろしいですかな?」

声を上げたオガリスを促し、先を待つ。

「先ほど精霊妃様にわしから、殿下と一夜を共にされたという噂が立っていると苦言申し上げましたところ、わざとだと返されました。精霊妃様、あれはいったいどういう意図か聞きたく存じますのう。」

その言葉に顔で驚きを表現したのは宰相殿。

(「あの噂でどれだけ私が苦労したと……!」)

なんて声が聞こえてきそうだが、無視だ無視。

「ええ、言う通りあれはわざとです。あの噂が広まれば広まるほど、後から噂を広めたロウ伯爵の首を絞めることに繋がりますから。一応言っておきますと、同じ部屋に一心とレイピスト様いましたから後程好きに確認してください。」

「………!……………。」

「おや、宰相殿は気づかれたようですね?」

宰相殿はハッとしてこちらを見ている。対照的なのは殿下で、顔が引きつっている。どうせ、悪辣だろうとか思っているのだろうが、これでも甘い方だ。

騎士達にはもう言ってあるので、残るオガリスを促す。

「オガリス様。理解できました?」

こちらを不敬にならない程度に軽く睨み、紅茶の水面を睨みつけながら口を開くオガリス。

「わざと殿下と同じ部屋で眠ることであらぬ噂が立ち、精霊妃様には貴族としての常識がない下賤な異世界人だとロウ伯爵が言いふらしている状況です。しかし貴族の常識として、男女が同じ部屋にいるときには騎士を同室させるもの。これは精霊妃様が異世界人だから貴族の常識を知らないと思っているのでしょう。」

確かめるようにこちらを見るので、微笑で静かに先を促す。

「しかし真実はそうではない。精霊妃様は正しくこの世界の恐ろしさを知っている。精霊妃様は分かっていて噂を流された、敵をより追い詰め自らの力らで首を絞めさせることを選ばれたという事ですかな?」

固めていた微笑を柔らかい笑顔に変えて、口を歪めた。

「そうだよ?フフッ。皆頭が良いとやりやすいねぇ。」

そう言って足を組み、こちらを睨みつけるオガリスと宰相殿を眺める。

「どこか策の穴でも見つけたかい?」

「穴……いえ、お聞きしたいことが。」

「何だろうか、宰相殿?」

「これは、精霊妃様が考えられた策でしょうか。」

「そうだが?」

そう言ったとたん、策をザックリと知っている殿下達も眉根を寄せた。

何をそんなに驚いているのか全く分からないが、一心だけは納得の顔をしていた。

「?」
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