異世界情報収集生活

スカーレット

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

106.伯爵は処刑フラグがお好き

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王城と門番がいる場所を繋ぐ通路を抜けて、ゆっくりと歩いていく。

王城にいる人数に対してすれ違う人が少ないのは、人払いがしっかりされているからだろう。……楽でいいや。

「そう言えば精霊妃様、殿下と夜を共に過ごされたと聞きました。」

顔がピシリと固まるのが分かった。もちろん、笑顔のままだが。

「あら、情報が早い事で。」

「これが事実ならば、国の政治に携わる者として然るべき対処を精霊妃様にしなくてはなりません。」

どうやら無理に囲われる(軟禁される)ことはなさそうなので、呆れる息子の視線を受けながら小さく笑って真実を伝える。

「そう眉間にしわをよせなくても大丈夫ですわ。オガリス様が心配するようなことはありませんから。」

「と、いいますと?」

「本当に同じ部屋で寝ただけですから。夜の営みはもとより、触れてもおりません。」

「それを聞いて安心いたしました。しかし、こういった軽率な行動は貴族社会では噂として広まり、突かれる原因となりますゆえ、慎んでくだされ。」

「あら、わざとですわ。それについてはご心配なく。」

「ほう?本日はマフィックスも同席することですし、部屋についてから詳しくお聞きいたしましょう。」

その後は簡単な国の産業などの基本的なことを聞きながら進むと、影や後ろ姿すら見えなかった廊下に人影が現れた。

(……?公爵がした人払いの指示だろうし、聞かない馬鹿なんていないと思ったけど……厳命はしなかったのか?)

情報屋としての品物を仕入れているときに、確か見たような……?

ふと、オガリスと見れば「不快だ」と言う様子を隠すことなく眉間にしわを寄せて相手を睨みつけていた。

その顔を見て一心と2人目が合い心を交わした。

((伯爵家の奴か。))

はぁ。とワザとらしく溜息を吐いた一心は首を横に振った。やれやれと言った言葉がよく似合うその姿はまるで、幼い子供が勉強したくないと泣きじゃくる様子に辟易している教師の姿で。

「フフッ。」

そんな息子の姿を見た私は、一心よりも多分に蔑みが含ませた笑顔を向けた。

「幼い子供なら、仕方がない(まぁ、あれは子供じゃないけど)」と。

そんなことをやっているうちにすれ違う近さになったが、その場で礼すらしない伯爵に公爵が声を上げた。

「ロウ伯爵。こちらは精霊妃様だ。わしにも精霊妃様にも礼がないとはどういうことだ?不敬だという事すら分からぬほどの幼子ではないはずだが。」

「おや。これは失礼いたしましたセルバ公爵。しかし……そちらの方はウィール様をうまく誑し込んだだけの異世界人とお見受けする。そのようなものに伯爵である私が例などすれば、国の品格を疑われます。」

「へぇ?それは興味深い話だね?」

冷静に不敬を指摘したオガリスと同じように、あくまで冷静に相手を見据えるウィール様。
しかし、その後ろに控えている精霊王は今にも伯爵を殺しそうだ。

「………。」

無言のまま

(動くな)

と凄みのある笑顔を向けておき、精霊王達を牽制しておく。そうでなければすぐにでも動くだろうから。

振り向いた首を戻すと同時に、ウィール様が口を開いた。

「私の目が曇っているといいたいんだね?君は。フゥ―ン?じゃあ、」

伯爵を見てそれだけを言うと、オガリスの方に向いた。

「そんな曇った目の僕が選んだ精霊妃の加護なんて不要だよね?明日にでも取り消しておくよ。ごめんよ、いやな加護を押し付けえて。でも安心して、この国ごと加護を取り消しておくから」

面白いくらいサッと一瞬で、この場にいる貴族全員の顔色が青に染まった。

当然だろう。加護ななければ生きていけないのは、この大陸の共通認識なのだから。

いち早く冷静さを取り戻した公爵は、音がなるほど勢いよく伯爵の方を向いた。

「…………………………………。」

睨み殺す眼力で数秒睨みつけると、先ほどよりも数段低い声を出した。

「このことは、国王陛下に報告させていただく。これは、この国の貴族である義務だ。」

それだけ言って伯爵を捨て置いた公爵は射殺す目を戻して跪き、ウィール様と私に首を差し出した。

「この首一つで、今回の無礼を治めていただきたく。」

小首をかしげて、ウィール様と顔を見合わせる。

「……?おかしなことを言うね?オガリス。ねぇ小鳥美、そうは思わない?」

「ええ、実に不思議ですわ。」

音無く床から生やした自身の一部で、サクッと伯爵を捕らえてくれるウィール様。

「ガッ……。」

わざとゆっくり歩き、お腹に拳を一撃だけ入れて気絶させる。

そのまま馬鹿はウィール様に支えてもらい、頭をたれ続ける公爵に頭を上げてもらう。

「貴方が死んだところで、何も変わりません。貴方の願いが、国のために命を差し出すことではなく馬鹿の尻拭いにもならぬ場で命を散らすことであるのならば、何も止めませんが。」

そう言って視線を外し、ただ立ち尽くしているヤドゥールを見て、首を軽く横に振る。

(連れて行け。)
「!」

体を軽く跳ねさせて、伯爵を引きずり連れて行くヤドゥール。

その姿にヤドゥールの評価を下方修正した。その間にもゆっくりと立ち上がった公爵をウィール様は促す。

「案内を。」

姿勢と洋服を軽く整えると、覚悟を決めた顔で礼をした。

「仰せのままに、世界樹様、今代の精霊妃様。」

その礼は全ての仕えている者に見せたいほど美しく、まだ幼い貴族達に聞かせたいほどの忠誠と感情が込められており、

「…ほう。」

録画して見本にしたいほどの敬意を纏っていた。

(所作だけは、綺麗なんだなぁ。)
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