異世界情報収集生活

スカーレット

文字の大きさ
上 下
4 / 205

お気に入り登録者数10人感謝!! 感謝短編その2

しおりを挟む
続きです。

注意事項はその1にあります。 ではどぞ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


キッチンに戻り先ほどの隠されている床の収納を開ける。何度か失敗はしたが、問題なく開けることが出来た。

下には人が一人通れる大きさの穴が開いており、中には闇が広がっていた。

「ではニア、こちらへ。」

軽く飛び上がって穴に迷いなく飛び込んだ一心兄上。その後に続き落下する。


「っと。」

「ありがとうございます、一心兄上。」

横向きに抱きかかえられたので礼を言い、跳ね上がって降りた後辺りを見渡す。

「さて、少し待っていてください。明るくしなくては。」

数秒後に光がついたが、まだ薄暗いといえる。

「これが最大です。ニア、こちらへ。」

棚の一つを指差して、一つ一つを説明された。

「棚の縦半分から右にあるのが即効性の毒です。この列にあるのが強力な酸の毒薬ですね。皮膚に触れると焼けただれます。僅かに白く濁っているので、分かりやすい部類に入ります。ああ、薬品の色は必ず浄水と比べてどうなのかを報告してください。隣のこの列は頭痛などの体の痛みを引き起こす薬です。飲むか注射されると症状が引き起ります。マスターが今飲んでいる毒薬ですね。」

どの列はどんな毒なのか、マスターは既に耐性をつけているのか否か。毒の匂い(マスター基準)、毒の強さ、毒の持続性、対応する解毒薬。毒の瓶が入った棚の開け方から鍵のかけ方など様々なことを言われて、質疑応答を繰り返した。



~~~~~~~~


「これで以上です。最後に何か質問は?」

「…………多少、関係のない質問をしてもよろしいでしょうか。」

「かまいませんよ。私が伝えられる範囲で、答えましょう。」

「では、」

そう、質問をするはずだった。

「……?………………………?」

「ニア?」

「はい。」

「どうしました?」

「………………エラーが発生しました。」

「…?………ふむ………。」

人間で言う、「喉が引きつる」ようなものが発生した。

質問として再生されるはずの「声」が再生されない。


なぜ?


(「私はマスターに仕えればいいのでしょうか?マスターの主様に仕えればいいのでしょうか?」)

そう二文を再生すればいいだけなのに、「声」が出ない。

不明なエラーが発生するなどまるで簡易的な人工知能のようだ。

私は一心兄上をもとにマスターが作られた人工知能だというのに。

「ニア、何を質問しようとしたのかデータで送りなさい。」

1秒後には自身に届いたデータを読み取って、一心兄上は小さく微笑んだ。

…理解不能だ。

「ねえニア、これは貴方よりも人間に近い私の考えですが、恐怖を覚えたのではありませんか?」

「そのような可能性はありません。私は人工知能です。」
即座に反論した。理由は分からない。

「ええそうです。私達は人工的に知能を持たされ、自我を確立した成長する機械です。ニア、私達には自我があります。意味もなく暴力を与えられれば理不尽だと怒りを感じ、名を呼ばれることに僅かな喜びを感じるんですよ。」

私の作られた頬の表面を、作られた指が撫でている。

疑似皮膚の下にあるのは互いに鉄などの金属だ。体温なんてものは存在しない。

………………………それでも、温かく感じるのはなぜだろうか。

「貴方は、この質問をしてマスターの主様に仕えてくださいと言われた時を予想し、マスターの命令とはいえマスター以外に仕えることに嫌悪を抱き、その事を可能性ごと拒絶した。結果として、恐怖から無意識のうちに再生の命令を緊急停止したのでしょう。」

命令の履歴を見てみれば、確かに覚えのない再生の停止が命令されている。

「ニア、繰り返しになりますが私もマスターも貴方の自我の成長を望んでいます。わがままを言っても、喧嘩をしても、命令を拒否してもいいんです。」

そこにないはずの温もりを確かめるように、指が繰り返し動かされる。

ふと手を離され、温度の低下が確認した気がした。

「ニア、いつか貴方と喧嘩がしてみたいです。……貴方の兄の、期限も無いささやかな願いの為に、どうか努力を続けてくださいな。」

その後は何事もなかったように、マスターと共闘する際の注意事項やこの世界の毒の成分などを確認した。

「何か質問は?」

「ありません。」

「では、マスターの様子でも見に行きましょうか。」

どうせ暴れているでしょうけれど、と言いながらも少し早足で地下へ移動する一心兄上。

訓練場の端に行き、扉を開けて地下へ降りていくのを早歩きで追う。

薄暗い中にあるらせん階段を歩き、囚人が入っているような鉄の扉を前にして、一心兄上が止まる。

部屋からは轟音が絶えず響き、人間の声とは言えないような声が響き渡っている。

一心兄上いわく、「使える魔法の中で一番の消音魔法を、マスターが部屋中にかけてあります。」というのに、地下中に響き渡っている。

「ニア、マスターに破壊されたくないのであれば、扉を開けてはなりません。」

眼球一つの大きさほどしかない窓を覗いて、一心兄上は僅かに唇を動かしてから踵を返した。

開かれたままの窓を覗く。見えにくかったが、透明な素材が張られているようだ。

「うがぁあああ!」

そう言いながら壁が拳で破壊され、即座に修繕された。

「がぁあ!」
そう言いながらマスターの背面にある壁が破壊され、修繕の一瞬の間にもう一度拳が振るわれた。
いったい、壁は何重に作られているのだろう。

「…マスター、お早いお帰りをお待ちしております。」

それしか言えずに、私は一階に戻った。

「…………どうでした?」

そう問いかける一心兄上の唇は深紅に染まっていた。

「自身の成長の必要性を感じました。一心兄上、出来る限り厳しく教育を行ってください。」

見ないふりをしてそう答えれば、歪んだ笑みを見せた。

「厳しいですよ?」

それはマスターの望む基準なのか、一心兄上の望む基準なのか判断はできない。


それでも

「大丈夫です。」

そう答えたことに、後悔を覚える日は無いと断言できる。

そんな一日だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。 その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。 怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい...... ※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。 ※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。 ※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。 ※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

健太と美咲

廣瀬純一
ファンタジー
小学生の健太と美咲の体が入れ替わる話

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

ガチャからは99.7%パンが出るけど、世界で一番の素質を持ってるので今日もがんばります

ベルピー
ファンタジー
幼い頃にラッキーは迷子になっている少女を助けた。助けた少女は神様だった。今まで誰にも恩恵を授けなかった少女はラッキーに自分の恩恵を授けるのだが。。。 今まで誰も発現したことの無い素質に、初めは周りから期待されるラッキーだったが、ラッキーの授かった素質は周りに理解される事はなかった。そして、ラッキーの事を受け入れる事ができず冷遇。親はそんなラッキーを追放してしまう。 追放されたラッキーはそんな世の中を見返す為に旅を続けるのだが。。。 ラッキーのざまぁ冒険譚と、それを見守る神様の笑いと苦悩の物語。 恩恵はガチャスキルだが99.7%はパンが出ます!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...