114 / 204
ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
95.師匠は暇らしい
しおりを挟む「……………………………。」
「画面、映しますね。」
白い壁に映された画面に、絶句が強制延長された。
件名 馬鹿弟子
件名 馬鹿弟子
件名 馬鹿アホ弟子
件名 馬鹿アホ脳筋弟子
件名 早よ返信しろ馬鹿弟子
件名 返信しろ馬鹿弟子
件名 どこだ
件名 馬鹿弟子何処だ
・
・
・
「ヒッ?!師匠何やって?!いやいやいやっていうかどうやって?!」
「分かりません。ただ、私と同じように新たな電波を作った事、私にメールを送るためにパスワードを最低二つ解読したことは分かりました。」
「暇なの?!暇なの師匠!!」
はっきり言おう。怖い。怖いって師匠。
手元にあるマウスでスクロールしてもスクロールしても見えない最下部に、恐怖が大きくなっていく。
片手でマウスを持ち固定して、ものすごい勢いでスクロールしても終わることは無い。
「ねぇ、一心?」
多少震えている自覚のある声を出す。
「何でしょう。」
「これ………確認できた分だけでいいんだけどさ、何件あるの?」
「ひとまず千件は確認できました。」
サラリと返って来た声は、もはや諦めを含んでいないかい?
「………一心。………師匠怖い。」
「魔王ですから、で済ませましょう。私とて恐ろしいですが、師匠だからで済ませたら、不思議と納得しました。」
「いや、それで納得する………。…………納得できるな。」
真面目な顔で「師匠/上官殿だから。」で納得する私達を見て、ウィール様が呟いた。
「小鳥美の師匠って一体………?」
似たようなことを何十回と聞いたので、同じように返す。
「魔王です魔王。それで納得できる存在ですよ、師匠は。」
「むしろ、それ以外に相応しい言葉を存じ上げません。」
そう二人で言えば、当人は混乱を極めたようで。
「うん。もともと君ら二人が普通じゃないんだから、君らを育てた普通なはずがなかったね。うん。」
ジトッと目を向けても、一人うなずいて納得したウィール様は考えを変えない。
(さりげなく私達も普通じゃないと言ってないか?私は常識人だぞ?)
「いいや。一心、どうする?この大量のメール。返信するにも数がありすぎて、めんどくさい事この上ないよ?」
「それには同感です。しかし、メールを一つでも送らないとあの上官殿のことです。数日後には電話をかけてきそうではないですか?」
(ありうる。あの師匠ならありうる。)
「………あり得るのかい?メールを出しただけでも、とんでもない事なんだろう?」
恐る恐るといった風に、ウィール様はこちらを見る。
「あり得ます。っているか、今すぐかけてきてもおかしくありません。」
「そうなんだね。まぁ、件名を見るに君を心配しているみたいだし、一番新しいものくらい返信してあげたらどうだい?」
「心配している件名?」
信じられない言葉を聞いたので、実際に見てみる。
件名 千利、早く戻ってきてくれ
「………仕事、そういや溜まってるだろうから大変なんですかね。ご愁傷さまです、師匠。書類仕事なんて一切してこなかったのに、大変だ―ああ大変だ。」
ニヨニヤしている顔を隠すこともなく、口だけで心配する。
(訓練として常、常日頃投げ飛ばされた恨み!あーはっはっは!いい気味だ!)
「ウィール様、これは私の心配をしているのではなく書類仕事が溜まっているから早く帰ってきてほしいという事ですよ。」
からかわれた子供に真実を教えてやるように、ウィール様に伝えた、
「そうかい?まぁ、私よりも君の方が彼のことは知っているだろうからねぇ。」
「そうですよ。師匠が私の心配とか、あり得ないですって。」
そんな軽口を言った時、一心がこちらを向いた。
「一心?!ちょ、どうしたのさその青白い顔は!何があった?」
先ほどまでこちらを呆れた目で見ていた一心の顔は、数日断食をしたような顔色をしていて。
「マスター。上官殿から……。」
「また新規のメール?」
「電話です。マスターの携帯電話に。」
恐る恐る差し出された私の携帯には、師匠からの電話を告げる画面が表示されていた。
(………出たくない。)
「マスター、出たくないお気持ちはよく、よく分かりますがここは私の命の為にも出てください。」
命。?おかしい、師匠といえども一心に手出しはできないしさせた覚えもないのだけれど?
「一心?あなたの主として命令です。師匠に何されたのかすべて言いなさい。」
少し言葉を強く言えば、真面目な声色で口を開いた。
「履歴は残っておりませんが、こうして私にメールが届いているということは私を上官殿が遠隔操作したと考えられます。」
それを聞いた途端反射的に一心から携帯を奪い取り、電話の向こうにいる人物に叫ぶ。
「やっと出t」
「人の息子に何やってんだこのアホジジイ!人の息子いじるんじゃねーよふざけんなこんにゃろが!」
「おい」
「人の!息子!手ぇ出すんじゃねーよ!」
「あっ」
我に返ったときには既に遅く。
「あーあ。知りませんよ、私。」
「………………私はお邪魔だろうから、精霊王達と話してるね。」
そっぽを向いて少し私から離れた一心と逃げたウィール様をよそに、電話を耳に冷や汗をかいていた。
(こればっかりは一心にも助けてもらえないや。………やっべ、やらかした。)
どうしようかと頭をフル回転させている中、電話の主は声を出した。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
あの子を甘やかして幸せにスローライフする為の、はずれスキル7回の使い方
tea
ファンタジー
はずれスキル持ちなので、十八になったら田舎でスローライフしようと都落ちの日を心待ちにしていた。
しかし、何故かギルマスのゴリ押しで問答無用とばかりに女勇者のパーティーに組み込まれてしまった。
追放(解放)してもらうため、はずれスキルの無駄遣いをしながら過去に心の傷を負っていた女勇者を無責任に甘やかしていたら、女勇者から慕われ懐かれ、かえって放してもらえなくなってしまったのだが?
どうなる俺の田舎でのスローライフ???
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
タイムリベンジ
マッシー
ファンタジー
唐突に目覚めた場所は天空の崖。13才の少女ミアは記憶を無くし自分の能力、ランクすらも分からず途方に暮れているときにある村に出会う
そしてかけ街のない村の仲間達と歩みロイから様々な知識を教わる。そうしてミアは成長していきいずれからは世界でトップクラスの実力者になる事だろう……
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる