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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
95.師匠は暇らしい
しおりを挟む「……………………………。」
「画面、映しますね。」
白い壁に映された画面に、絶句が強制延長された。
件名 馬鹿弟子
件名 馬鹿弟子
件名 馬鹿アホ弟子
件名 馬鹿アホ脳筋弟子
件名 早よ返信しろ馬鹿弟子
件名 返信しろ馬鹿弟子
件名 どこだ
件名 馬鹿弟子何処だ
・
・
・
「ヒッ?!師匠何やって?!いやいやいやっていうかどうやって?!」
「分かりません。ただ、私と同じように新たな電波を作った事、私にメールを送るためにパスワードを最低二つ解読したことは分かりました。」
「暇なの?!暇なの師匠!!」
はっきり言おう。怖い。怖いって師匠。
手元にあるマウスでスクロールしてもスクロールしても見えない最下部に、恐怖が大きくなっていく。
片手でマウスを持ち固定して、ものすごい勢いでスクロールしても終わることは無い。
「ねぇ、一心?」
多少震えている自覚のある声を出す。
「何でしょう。」
「これ………確認できた分だけでいいんだけどさ、何件あるの?」
「ひとまず千件は確認できました。」
サラリと返って来た声は、もはや諦めを含んでいないかい?
「………一心。………師匠怖い。」
「魔王ですから、で済ませましょう。私とて恐ろしいですが、師匠だからで済ませたら、不思議と納得しました。」
「いや、それで納得する………。…………納得できるな。」
真面目な顔で「師匠/上官殿だから。」で納得する私達を見て、ウィール様が呟いた。
「小鳥美の師匠って一体………?」
似たようなことを何十回と聞いたので、同じように返す。
「魔王です魔王。それで納得できる存在ですよ、師匠は。」
「むしろ、それ以外に相応しい言葉を存じ上げません。」
そう二人で言えば、当人は混乱を極めたようで。
「うん。もともと君ら二人が普通じゃないんだから、君らを育てた普通なはずがなかったね。うん。」
ジトッと目を向けても、一人うなずいて納得したウィール様は考えを変えない。
(さりげなく私達も普通じゃないと言ってないか?私は常識人だぞ?)
「いいや。一心、どうする?この大量のメール。返信するにも数がありすぎて、めんどくさい事この上ないよ?」
「それには同感です。しかし、メールを一つでも送らないとあの上官殿のことです。数日後には電話をかけてきそうではないですか?」
(ありうる。あの師匠ならありうる。)
「………あり得るのかい?メールを出しただけでも、とんでもない事なんだろう?」
恐る恐るといった風に、ウィール様はこちらを見る。
「あり得ます。っているか、今すぐかけてきてもおかしくありません。」
「そうなんだね。まぁ、件名を見るに君を心配しているみたいだし、一番新しいものくらい返信してあげたらどうだい?」
「心配している件名?」
信じられない言葉を聞いたので、実際に見てみる。
件名 千利、早く戻ってきてくれ
「………仕事、そういや溜まってるだろうから大変なんですかね。ご愁傷さまです、師匠。書類仕事なんて一切してこなかったのに、大変だ―ああ大変だ。」
ニヨニヤしている顔を隠すこともなく、口だけで心配する。
(訓練として常、常日頃投げ飛ばされた恨み!あーはっはっは!いい気味だ!)
「ウィール様、これは私の心配をしているのではなく書類仕事が溜まっているから早く帰ってきてほしいという事ですよ。」
からかわれた子供に真実を教えてやるように、ウィール様に伝えた、
「そうかい?まぁ、私よりも君の方が彼のことは知っているだろうからねぇ。」
「そうですよ。師匠が私の心配とか、あり得ないですって。」
そんな軽口を言った時、一心がこちらを向いた。
「一心?!ちょ、どうしたのさその青白い顔は!何があった?」
先ほどまでこちらを呆れた目で見ていた一心の顔は、数日断食をしたような顔色をしていて。
「マスター。上官殿から……。」
「また新規のメール?」
「電話です。マスターの携帯電話に。」
恐る恐る差し出された私の携帯には、師匠からの電話を告げる画面が表示されていた。
(………出たくない。)
「マスター、出たくないお気持ちはよく、よく分かりますがここは私の命の為にも出てください。」
命。?おかしい、師匠といえども一心に手出しはできないしさせた覚えもないのだけれど?
「一心?あなたの主として命令です。師匠に何されたのかすべて言いなさい。」
少し言葉を強く言えば、真面目な声色で口を開いた。
「履歴は残っておりませんが、こうして私にメールが届いているということは私を上官殿が遠隔操作したと考えられます。」
それを聞いた途端反射的に一心から携帯を奪い取り、電話の向こうにいる人物に叫ぶ。
「やっと出t」
「人の息子に何やってんだこのアホジジイ!人の息子いじるんじゃねーよふざけんなこんにゃろが!」
「おい」
「人の!息子!手ぇ出すんじゃねーよ!」
「あっ」
我に返ったときには既に遅く。
「あーあ。知りませんよ、私。」
「………………私はお邪魔だろうから、精霊王達と話してるね。」
そっぽを向いて少し私から離れた一心と逃げたウィール様をよそに、電話を耳に冷や汗をかいていた。
(こればっかりは一心にも助けてもらえないや。………やっべ、やらかした。)
どうしようかと頭をフル回転させている中、電話の主は声を出した。
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