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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
80.罠
しおりを挟む「ドアを守る騎士といい、この騎士といい、王家や貴族といい。精霊の何を学んでいるのか……。ああ、失礼。他の国と違って、この国の貴族は精霊に関することは必ず学ぶ必要がありませんでしたね。」
ひっそりと隠された鋭い棘に気付かないで、陛下は口を開く。
「ええ、そうなのです。今緊急で学んでいる最中でございますが、目に見えぬ力と存在故に、納得しきれていないようでして。」
「あら、そうでしたか。………ところで陛下。」
ニッコリと笑みを深め、王族を見つめる。
「なぜ、精霊に関することを必ず学ばなくていいなどと言ったのでしょう?15年ほど前の事だそうですね?理由をお聞かせくださいな?」
「それは……。」
「他に学ぶことがあり忙しかった、なんてことは聞きませんよ。その前の貴族は王族を含めて学んでいたのですから。矛盾が生まれますよね。」
ゆっくりと確実に首を絞める。じわりじわりと苦しむといいよ?
「おや、何も理由はありませんか?ならば、私達はは見下されていると取ってもいいですよね?」
「そのようなことはございません!現に、私自身が義務として学んでおりました。」
「殿下。私が来た後から急いで学んでいること自体、可笑しいのですよ。……まるで、私が来なければ学ぶ必要はなかったようではありませんか。陛下が殿下に、殿下がそのお子に将来継承しなければ、精霊に関する知識は途絶えてしまう。それが現実になった時の、事の重大さが分からない陛下ではないでしょう?」
殿下の言い分を返して、陛下へと目を向ける。
苦悶の表情を見せ、申し訳なさそうにこちらを見た。事の重大さを理解して驚愕を浮かべているのは、殿下と殿下の護衛騎士だけだ。
……残りの騎士は私達が下なのは当然、といった様子でこちらを睨んでいる。自殺志願は受け付けておりませんよ?
しばらくの間、この部屋は沈黙が支配していた。言い訳も他の騎士による騒ぎも一度収まったので本題を言って欲しいのだが、なぜか知らんが言わない。
(めんどくさー。)
はぁ。と大きめにため息をついた後、こちらから話しかける。
「それで、ご用件は?ないのであれば部屋に戻りますが。」
思い出した様子の陛下に促され、赤の騎士団長(レイピスト)が数枚の書類を持ってきた。
「こちらはウィール様方と精霊妃様方が出席される夜会の、貴族一覧となります。」
王妃の事件があった当日、お詫びと精霊妃のお披露目として夜会に招かれた。
ちょうどぶった切る場所が欲しかったので、正式な招待状をもらって行動しているわけだが……。ふむ、役者が足らないね。
「そうそう陛下。私、招待したい人物がおりますの。こちらで招待状を送っても?今回の件、気になっているようですし。」
「人数さえ教えてもらえるのでしたら、問題ございません。」
「相手から人数を聞いておきますわ。その後、ラトネスを通じ伝えてましょう。」
その後一心が紙を複製して返却し、王族は帰っていった。
「一心、店主に今夜客が私の部屋に来るけど、賊じゃないから気にしないように伝えて。」
「了解しました。……念のため、客は私の部屋に招きますか?」
「いや、相手への失礼になるから私の部屋かウィール様の部屋じゃないと。いざというときは、気絶させてお帰り頂くから大丈夫。」
「分かりました。……同席はしますからね。」
「もとよりそのつもりだよ。今日もよろしく、一心。」
そう言って一心は歩き出した。私とウィール様は夕食を食べに移動する。
「順調かい?」
「ええ、今のところは。後は相手が乗っかってくれることを祈るばかりです。」
「………一応言っておくと、過ぎた謙遜は嫌味だよ?」
「謙遜ではなく、この世界の貴族がどう動くのか全く分からないので。はっきり言って今回はお試しですよ。」
宿で店主と共に夕食をとり、覚えたてのマナーを見てもらう。王族に対してならば合格ギリギリらしいが、異世界人のレッテルを利用すればいいだろう。
そうして夜は深まり、大人も寝付く時間になる。普段ならば寝ている私は、一心が写した書類を眺めていた。
「ああ一心、人工皮膚と人工血液分、これで足りる?」
ふと思い出し、利き手とは反対の左腕を切り落として投げる。
「ええ、十分です。………………マスター、死体はあと十ほどですからね。」
「そっか、了解。」
そう言って影から影へと移動した一心が戻った途端、コツリと音がした。
(………さすがにグロいかな?先に治しておくか。)
腕が復活した後に、窓を叩く音に耳を澄ませる。2・1・5回で叩かれた窓を開けると、誰もいない。誰もいないように見える。
「どうぞ、お待ちしておりました。」
虚空に一心が頭を下げて、見えぬ相手を招き入れた。
布が擦れる音が聞こえ、現れたのは四人の男。陛下、殿下、赤の騎士団長レイピスト、青の騎士団長ヤドゥール。
「どうぞおかけください。作戦会議と行きましょう?」
共犯者を招いた二回目の会議が、始まった。
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