異世界情報収集生活

スカーレット

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

76.鍛冶屋

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沈黙を破ったのは、アーシェだった。

「………理由を、聞いてもいいかしら?」

こちらも驚いたのだろう。動揺を押し殺して声を出したのがよく分かった。

「一つ。この手は、剣の手じゃねぇ。槍でも、斧でも、鞭でも杖でも盾でもねぇ。俺が完璧に作れる武器はこいつが普段使っている武器じゃねぇっつうことだ。完璧に作れねぇ半端な武器は鍛冶屋として渡せねぇ。二つ。この手はとんでもねぇ強さを持つ奴の手だ。こいつが全力で振ることができる武器を作る技術はあるが、素材がねぇ。幻級の素材でもつり合うかどうかだ。同然、武器を作る量は確保できねぇ。」

アーシェにこっそり聞くと幻級の素材とはオリハルコンの事で、精霊の土地にある山脈から大量に採れるらしい。

「一心、籠手のレプリカ作れる?」

「必要になるのではと思い、既に作成済みでございます。どうぞ。」

「頼りになるねぇ、鍛冶屋さん作って欲しいのこの武器なんだけど、作れそう?作れそうなら、素材はこっちで用意してくるよ。」

本物そっくりの籠手を渡し、一応実際に使っているのと構造は同じものだと伝える。

手を差し込んでいた隙間に籠手のレプリカを渡して、反応を窺う。

またも息を吸い込んだ鍛冶屋は、先ほどの沈黙とは打って変わってガシャン!と大きな音を立てた。

数秒の静寂の後、ドタガシャガチャン!と様々な音が鳴り響く。それだけで想像される酷い状況に、皆で顔を歪ませた。
ドアを開けた音の後にドタドタと聞こえる走る音。壊すほどの力で開かれたドアの音。

「おいあんた!」

様々な音を立てた本人は予想通りの顔をしていて、それに苦笑する間もなく質問をされる。

「これはどういう武器なんだ?使い方は?右腕で使うのか?ここの材料は?こっちは?ここはどうなっているんだ?解体していいのか?これは誰が作ったんだ?会えるか?ここもどうなっているんだ?これは何のためにあるんだ?これは?こっちは…」

「鍛冶屋殿、落ち着かれてはどうでしょう?」

側近らしく水を差し出した一心。

ゴクゴクと飲み干した後にやっと状況に気付いたようで、小さく「済まない」と謝られた。

「お気になさらず~。ちなみに、自己紹介いります?」

「必要ない。これだけの精霊王様を連れていて、世界樹ウィール様がいる。精霊妃様だろう?まぁ、これだけ武術に優れていることは知らなかったが。」

「へぇ、よく知ってるね?この国の騎士団員と王妃より知ってるよ。」

「はっ!あの貴族どもは自分達に絶対的な権力があると疑わない。この世界じゃ異世界人は貴族に蔑まれてる。そんな奴らに自分達がヘコヘコしたくないんだろうよ!」

吐き捨てるように言った鍛冶屋は、こちらを向いて言い続ける。

「俺たち平民は、精霊に祈れば飢え死ぬことが少なくなるから、よく精霊に祈る。命に直結してるから、心から祈る。精霊はたまに答えてくれるから、何度も真摯に祈る。だが、貴族は違う。自分達が一番偉いと信じ、飢え死ぬことも無いからな。真摯な祈りも、理解も敬いもしない。………貴族は理解していないのさ。この世界の地盤は、精霊だってことによ。」

理解は出来た。
貴族なんてそんなもの、で終わってしまうことが悲しくもあり、可笑しくもある。だが、権力に魅入られ溺れた者たちなど、そんなものだ。

「…………一度貴族全てを滅ぼしてしまおうか。」

「大して変わりませんよ。人間が権力に魅入られた結果ですからねぇ。」

嫌いな空気になってきたので、手を叩き、空気を変える。

「で!武器、頼める?残念ながら製作者は異世界なので、答弁できないのだけれど。」

「作る。いや、作らせてくれ。」

謎のやる気に満ちた鍛冶屋に、注意として言う。

「顔の口止め料は必要ないよ?」

そういえば、「そんなんじゃねぇ」と言われた。

「これはとんでもなく精密で、とんでもない技術と、俺の知らない材料で作られている、俺の知らない武器だ。」

そう呟くと、好戦的な笑みを見せて宣言した。

「これはこの世界の材料で、俺が作る。作って見せる。鍛冶屋の腕が試されるってもんだ。もちろん、材料さえもらえれば金は要らん。」

アーシェを促して、大量のオリハルコンを出してもらう。驚く鍛冶屋に、先ほど彼が浮かべていたような笑みを浮かべて、私もそのやる気に答える。

「それは私の情報網の中で一番腕が優れた、とある女鍛冶師が作ったものだ。私の手、私の骨、私の使い方のクセに合わせて作ってある。……それと同等・同等以上の物を作って見せて?土の精霊王に認められし鍛冶師さん?」

瞬時に足元に跪き、「必ずや。」という声を聞いた後、店の外に出た。

「楽しみですね。」

街の噴水に戻りながらも、にやけ顔の私に言う一心。

「そうだね。ぜひ早めにほしいところだけど、数年はかかるかもね。」

そこの言葉にふと一心が足を止め、鍛冶屋がある方を向いて苦笑をした。

「数日かもしれませんよ?あの気合の入れようだと。」

「さすがにないでしょ。本物の籠手だって3年かかったんだよ?」

苦笑するだけで何も言わない一心を不思議に思いつつも、そう笑い飛ばした。
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