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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
72.本
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「本日はどうされるおつもりで?」
一心が新しく入れてくれたお茶を飲んで、ホッと一息つく。
「今日はあちこち飛び回って噂を広めてこようかと思ってね。最初はマルクトリアかな。ついでに、これも売ってくる。」
そう言って私は一心に本を投げた。
紙が普及しているこの世界では平民でも買えるくらい本は安い。私の手元にあるのは貴族用の高い本。一心に渡したのは平民用の安い本。今回大事なのは、その内容。
「…ほう、なるほど。……………。」
ニタリと楽しそうに口元を歪めて、「貴方も大概ですよ」と言った一心。
「私も見たいよ、小鳥美。仲間外れは寂しいからさ。」
「どうぞ、ウィール様。」
本の内容はどこかで聞いたことのある内容になっている。
違法に異世界から呼び出された精霊妃と精霊妃の兄は精霊妃と気づかれないまま、異世界人として奴隷同然の扱いを受けた。それを見て怒りを露わにしたウィール様が、二人を国から連れ出した。
その後、精霊の土地で精霊妃として精霊達に認められた精霊妃は、この世界の人間たちの暮らしを見たくなった。そこでウィール様がすすめたのが精霊の信仰が深いと思われたこの国、ライミリ精霊信仰国。
しかし、内密に連れられた二人は精霊妃として国の貴族に認識されず、貴族を始めとした王妃にもひどい扱いを受けた。
異世界人だと思っていた国王は慌てて謝罪をしたが、精霊妃は自分の大切な側近を異世界人として見下した王族の謝罪を受け取らなかった。
さて、この国の運命やいかに!といった内容だ。もちろん、一心や私の名前、神様のことなどは伏せてあるものの、内容はほぼ事実だ。
これを他国で売れば精霊妃の存在を他国に知らせることもできるし、牽制もできる。
同時に、今代の精霊妃の性格や精霊妃に関する規則などをまとめた本を売る予定だ。
利益は高い本の方で出すので、安い本は薄利多売だ。
一心と人間になれているイア、ラトネスに本を大量に渡して各地で売ってもらう。
ちなみにラトネスは、推薦した人間が馬鹿だった罰として売りに出てもらう。
それぞれが別の国に飛び、本を売ってもらった。
そういう私は男装してライミリの隣、マルクトリア国で本を売る。
そして今日は、この国の国王がお忍びで城下町に来る情報を得ているので、国王にもぜひ買って欲しいものだ。
………念のため、この国の国王のフットワークが軽いだけであって、こんなことは他の国ではありえないことだけは言っておく。
まぁ、それはそこらに放り捨てて。
いつもの事ながら不法入国をして正式に商売の一日許可証を得る。町の広場まで歩き、ゆっくりと引いて来た台車を安定させてから声をはり上げた。
「さあさあ誰か買わないのか!巷で噂の精霊妃様の本だよ!精霊妃様が登場されている本は、この場限りの品しかないよ!値段はたったの銀貨5枚!」
精霊妃、という単語を聞きつけて複数人が興味深そうにこちらを眺め始めた。
そんな彼らに買ってもらうために、さらに声を上げる。
「精霊妃様や精霊王様はもちろん、世界樹ウィール様が登場するこの本!さらに精霊妃様に失礼がないためにはこちらが必須!精霊妃様に関する決まりごとが書かれている本だよ!こちらもたったの銀貨5枚!一緒に買えば子供と共に学べること間違いなし!」
振り返った人数を見ると、どうやら精霊妃に関する規則書の方が売れそうだ。
「ご友人の贈り物にはこちらもどうだい?ちょっと高いが美しい!精霊妃様が持つ精霊石とよく似た石で飾られたこちら!これ一つだと金貨一枚と銀貨10枚!規則書と一緒に買えば金貨1枚!」
華美ではないが美しい宝飾に目を引かれて、金持ちそうな男が買っていった。パラパラとその場で本を開き、声を上げる。
「ほう、こりゃ凄い!この内容は本当なのかい?!」
「もっちろんさ!これがたったの銀貨5枚!安いもんだろう?」
「よっし!あんたを信じようじゃあないか。規則書も買う!まとめて5冊だ!」
「まいど!」
それをかわきりに、次々と本は売れた。物語も、規則書も。
おそらく、最初に買った中年の男は有名人だったのだろう。
いったん区切りがついたので、持ってきたお昼を食べる。
(そういえば、貴族はどうせ馬車から出てこないだろうから見本がいるな。)
急遽3種類の本をごく薄いガラスの上に並べ、その枠を木で囲う。本が落ちないように下は厚めの木を使い、見本の本を取られては困るので紐で囲い取れないようにする。30分くらいで完成した見本をカタリと立てかけて、店を再開した。
再開と同時くらいに馬車が停車する。
慌てた風を装い洋服を正して、従者を待つ。ガタリと音を立てながら燕尾を着た老人がこちらに向かってくる。
「この店に精霊妃様が登場する物語があると我が主の耳に届いた。真実か。」
「はっ!はい。この店では3種の本を取り扱っております。精霊妃様が登場する物語、装飾が施された物語、精霊妃様や世界樹様への決まり事をまとめました規則書でございます。」
見本を渡し、物語の内容の違いを確認した後馬車の中へ見本が消えた。
少しして、装飾された方と規則書を5冊ずつ買って帰った。
(複製スキルで増やしているとはいえ、予想以上に売れてるな。)
水筒の中に入れた魔力ポーションを飲んで、複製スキルで増やした端から売り切れていく。しばらくしてヘロヘロになり始めたころ、夕暮れごろに待ち人は来た。
一心が新しく入れてくれたお茶を飲んで、ホッと一息つく。
「今日はあちこち飛び回って噂を広めてこようかと思ってね。最初はマルクトリアかな。ついでに、これも売ってくる。」
そう言って私は一心に本を投げた。
紙が普及しているこの世界では平民でも買えるくらい本は安い。私の手元にあるのは貴族用の高い本。一心に渡したのは平民用の安い本。今回大事なのは、その内容。
「…ほう、なるほど。……………。」
ニタリと楽しそうに口元を歪めて、「貴方も大概ですよ」と言った一心。
「私も見たいよ、小鳥美。仲間外れは寂しいからさ。」
「どうぞ、ウィール様。」
本の内容はどこかで聞いたことのある内容になっている。
違法に異世界から呼び出された精霊妃と精霊妃の兄は精霊妃と気づかれないまま、異世界人として奴隷同然の扱いを受けた。それを見て怒りを露わにしたウィール様が、二人を国から連れ出した。
その後、精霊の土地で精霊妃として精霊達に認められた精霊妃は、この世界の人間たちの暮らしを見たくなった。そこでウィール様がすすめたのが精霊の信仰が深いと思われたこの国、ライミリ精霊信仰国。
しかし、内密に連れられた二人は精霊妃として国の貴族に認識されず、貴族を始めとした王妃にもひどい扱いを受けた。
異世界人だと思っていた国王は慌てて謝罪をしたが、精霊妃は自分の大切な側近を異世界人として見下した王族の謝罪を受け取らなかった。
さて、この国の運命やいかに!といった内容だ。もちろん、一心や私の名前、神様のことなどは伏せてあるものの、内容はほぼ事実だ。
これを他国で売れば精霊妃の存在を他国に知らせることもできるし、牽制もできる。
同時に、今代の精霊妃の性格や精霊妃に関する規則などをまとめた本を売る予定だ。
利益は高い本の方で出すので、安い本は薄利多売だ。
一心と人間になれているイア、ラトネスに本を大量に渡して各地で売ってもらう。
ちなみにラトネスは、推薦した人間が馬鹿だった罰として売りに出てもらう。
それぞれが別の国に飛び、本を売ってもらった。
そういう私は男装してライミリの隣、マルクトリア国で本を売る。
そして今日は、この国の国王がお忍びで城下町に来る情報を得ているので、国王にもぜひ買って欲しいものだ。
………念のため、この国の国王のフットワークが軽いだけであって、こんなことは他の国ではありえないことだけは言っておく。
まぁ、それはそこらに放り捨てて。
いつもの事ながら不法入国をして正式に商売の一日許可証を得る。町の広場まで歩き、ゆっくりと引いて来た台車を安定させてから声をはり上げた。
「さあさあ誰か買わないのか!巷で噂の精霊妃様の本だよ!精霊妃様が登場されている本は、この場限りの品しかないよ!値段はたったの銀貨5枚!」
精霊妃、という単語を聞きつけて複数人が興味深そうにこちらを眺め始めた。
そんな彼らに買ってもらうために、さらに声を上げる。
「精霊妃様や精霊王様はもちろん、世界樹ウィール様が登場するこの本!さらに精霊妃様に失礼がないためにはこちらが必須!精霊妃様に関する決まりごとが書かれている本だよ!こちらもたったの銀貨5枚!一緒に買えば子供と共に学べること間違いなし!」
振り返った人数を見ると、どうやら精霊妃に関する規則書の方が売れそうだ。
「ご友人の贈り物にはこちらもどうだい?ちょっと高いが美しい!精霊妃様が持つ精霊石とよく似た石で飾られたこちら!これ一つだと金貨一枚と銀貨10枚!規則書と一緒に買えば金貨1枚!」
華美ではないが美しい宝飾に目を引かれて、金持ちそうな男が買っていった。パラパラとその場で本を開き、声を上げる。
「ほう、こりゃ凄い!この内容は本当なのかい?!」
「もっちろんさ!これがたったの銀貨5枚!安いもんだろう?」
「よっし!あんたを信じようじゃあないか。規則書も買う!まとめて5冊だ!」
「まいど!」
それをかわきりに、次々と本は売れた。物語も、規則書も。
おそらく、最初に買った中年の男は有名人だったのだろう。
いったん区切りがついたので、持ってきたお昼を食べる。
(そういえば、貴族はどうせ馬車から出てこないだろうから見本がいるな。)
急遽3種類の本をごく薄いガラスの上に並べ、その枠を木で囲う。本が落ちないように下は厚めの木を使い、見本の本を取られては困るので紐で囲い取れないようにする。30分くらいで完成した見本をカタリと立てかけて、店を再開した。
再開と同時くらいに馬車が停車する。
慌てた風を装い洋服を正して、従者を待つ。ガタリと音を立てながら燕尾を着た老人がこちらに向かってくる。
「この店に精霊妃様が登場する物語があると我が主の耳に届いた。真実か。」
「はっ!はい。この店では3種の本を取り扱っております。精霊妃様が登場する物語、装飾が施された物語、精霊妃様や世界樹様への決まり事をまとめました規則書でございます。」
見本を渡し、物語の内容の違いを確認した後馬車の中へ見本が消えた。
少しして、装飾された方と規則書を5冊ずつ買って帰った。
(複製スキルで増やしているとはいえ、予想以上に売れてるな。)
水筒の中に入れた魔力ポーションを飲んで、複製スキルで増やした端から売り切れていく。しばらくしてヘロヘロになり始めたころ、夕暮れごろに待ち人は来た。
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