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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
71.一心の殺り方2 ほぼ一心視点
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次の日の朝、各国は執務机の上に置いてある、見知らぬ書類に首を傾げた。
それは各国独自の書類様式に合わせてあり、自国の間者(スパイ)が持ってきた物かと納得した。
その内容は、ライミリ王妃の不正の証拠の数々。
「清くお淑やかであり、淑女の鏡として自国の貴族達を率いる存在。しかし、あくまで王を支えであることを崩さないその姿は、まさに王妃の鏡と言える。」
そんな認識が広まっているからこそ、その書類は各国の上層部に激震を与えた。
彼らはすぐさま裏付け確認を取るとともに、ライミリ国がどういった行動をとるかを見張るよう指示を出した。
(これで、各国から見張られる状況になるでしょう。)
~~~~~~~~~~~~~~
昨日の出来事から一夜が過ぎました。
ニアの様子を見てからマスターを起こし、朝食を用意し、食後の紅茶の下準備をする。
「昨日のアレ、わざとでしょ?」
朝食の際に、神様にいたずらっ子のように言われました。
(いい年をした男に首を傾げられても困るのですが。)
「アレ、とは一体何でしょうか?」
わざととぼければ、試されていると感じた様でした。苦笑しながら答えを言う。
「昨日、千利に家に帰るように目で合図したのは、今回の件を他国に広めるためだね?」
「ええ、その通りです。」
ブーブー言いながらも精霊妃として緑を纏うマスターは、意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見ました。
(ちなみに、しっかりと男装をしておりました。まったく。いつの間に男性用の緑の服を作ってもらったのやら。)
「一心は相変わらずねちっこいねー。ねっちこい男は嫌われるぞぉ―。」
「誰かに懸想する予定はございません。」
きっぱりと答えれば、神様とひそひそと話し始める。
「まったく、貴女という人は……。」
「仲がいいねぇ。羨ましいよ。」
のほほんというウィール様は、表情を険しくして言う。
「ねえ姫、あの国どうする気かな?君が望むのなら、あの国を滅ぼすこともできるよ。君の手を一切汚さないし、今日君が寝て明日起きれば全部終わらせられるよ。どうするかい?」
優雅に紅茶を飲みながら、今後の予定を聞くウィール様。
「こちらとしては、あのサイズの国一つくらい荒野に戻っても平気だけど?」
「うーん。わざわざ荒野に戻しても他の国が煩くなるだけだろうから、荒野に戻すは無し。めんどくさいし。最善は、私に忠実な国になることだけどそれは難しいかもね。精霊信仰国、といわれるわりに教育がなってない。自分が溺愛する王太子にさえ私がこの世界に来た後に大慌てで行われた。他も似たような者、いや、精霊妃自体の存在を理解していない貴族の方が多いだろうね。」
「嘆かわしい。」
吹雪を呼ぶような低音でウィール様が呟かれた後、何事もなかったように戻りました。
(「「こっわぁ――。」」)
そんなマスター達の無言の叫びを聞いていると、フワリと光と闇の精霊王が降り立った。
「姫、ウィール様。昨日話し合いに同席しました上級精霊が、姫に王城に来るよう伝えてほしいと頼まれたそうです。出来るだけ早く、王城に来てほしいと。」
「3日後の昼食後、マスターと私とウィール様で行くと伝えてください。それと、夕食も寝台がある客室も必要ないと伝えてください。くれぐれも、マスターの言葉として伝えてくださいね。」
「わかった。必ず姫の言葉として伝えよう。」
間髪入れずに精霊王一人を帰し、残った闇の精霊王に視線で話を促す。
「ライミリにも、精霊達を博愛している人間がいてな。その者は精霊が中級まで見え、精霊達にも愛されているんだが、そのものが所有している広大な土地の一部をもらえることになったんだ。そこにこの家を建ててはどうだろう?」
「………そんな人間居たんだ?全然知らなかった。」
マスターが驚きから呟く。
情報収集を主として動いているマスターや私が知らないことはほぼ無い。(客観的事実)だからこそ、私も驚きに表情を変える。
そんな様子を見て、さも当たり前のことを呟くように言った。
「俺が隠しているからな。姫にも後で居場所を教えておこう。」
部屋の隅に机を出し、上に広げた地図に印をつける。
「マスター、ここならば王都外壁のすぐ傍です。」
「なら、そこに家を建てさせてもらってから、正式に精霊妃として入国しようか。ダーネス、ライミリの国王に言って正式な招待状をもらってきてくれる?」
「分かった。」
「くれぐれもラトネスに確認して、本物であることを確認してね。あと、最低限しか話さない事。」
こくんと頷いて消えたダーネス。マスターの中で出来上がっていく計画を実現するために、こちらも準備に動く。
「じゃあ明日の行動予定聞いてくれる?一心は、ライミリにいる人に許可取ってこの家のコピーを建てた後、馬車を連れて入国審査に並んで。後で馬車の中に直接ダーネスに頼んで移動するから。私は精霊妃として動けるよう着替えておく。ウィール様は馬車の中で、他の精霊王達は馬車の護衛として待機を。ウィール様は入国の時にたぶん呼ぶことになると思うので、私の身元保証人になってください。ウィール様は目立つし、この国の人たちも知ってるからさほど時間はかからないと思います。その後は、神様と合流して私と国を回ります。神様は最高神様に報告した後、可能であれば神威を纏ってウィール様と合流してください。何か質問は?」
「僕が報告に時間がかかって合流できない時は?」
「王城に直で来てください。」
「了解。じゃあ、僕は先に報告に行くね。また明日。」
そう言ってふわり浮き上がった神様は、心配そうな目をマスターに向けながら消えた。
マスターの言葉に従うことを前提とした話し合いに、人知れず苦笑が漏れる。
相変わらずマスターは美しい誰かの支えになる事を願っているというのに、他者を無条件に従わせる力をお持ちだ。
それをマスターは当然のように受け入れ、他の者たちもこの不可思議な力に気付いていない。
(それに引かれ続けている私が言えたことではありませんがね。)
クッキーをきっちり食べてから戻られた神様のお皿を下げ、新しく紅茶を入れた。
それは各国独自の書類様式に合わせてあり、自国の間者(スパイ)が持ってきた物かと納得した。
その内容は、ライミリ王妃の不正の証拠の数々。
「清くお淑やかであり、淑女の鏡として自国の貴族達を率いる存在。しかし、あくまで王を支えであることを崩さないその姿は、まさに王妃の鏡と言える。」
そんな認識が広まっているからこそ、その書類は各国の上層部に激震を与えた。
彼らはすぐさま裏付け確認を取るとともに、ライミリ国がどういった行動をとるかを見張るよう指示を出した。
(これで、各国から見張られる状況になるでしょう。)
~~~~~~~~~~~~~~
昨日の出来事から一夜が過ぎました。
ニアの様子を見てからマスターを起こし、朝食を用意し、食後の紅茶の下準備をする。
「昨日のアレ、わざとでしょ?」
朝食の際に、神様にいたずらっ子のように言われました。
(いい年をした男に首を傾げられても困るのですが。)
「アレ、とは一体何でしょうか?」
わざととぼければ、試されていると感じた様でした。苦笑しながら答えを言う。
「昨日、千利に家に帰るように目で合図したのは、今回の件を他国に広めるためだね?」
「ええ、その通りです。」
ブーブー言いながらも精霊妃として緑を纏うマスターは、意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見ました。
(ちなみに、しっかりと男装をしておりました。まったく。いつの間に男性用の緑の服を作ってもらったのやら。)
「一心は相変わらずねちっこいねー。ねっちこい男は嫌われるぞぉ―。」
「誰かに懸想する予定はございません。」
きっぱりと答えれば、神様とひそひそと話し始める。
「まったく、貴女という人は……。」
「仲がいいねぇ。羨ましいよ。」
のほほんというウィール様は、表情を険しくして言う。
「ねえ姫、あの国どうする気かな?君が望むのなら、あの国を滅ぼすこともできるよ。君の手を一切汚さないし、今日君が寝て明日起きれば全部終わらせられるよ。どうするかい?」
優雅に紅茶を飲みながら、今後の予定を聞くウィール様。
「こちらとしては、あのサイズの国一つくらい荒野に戻っても平気だけど?」
「うーん。わざわざ荒野に戻しても他の国が煩くなるだけだろうから、荒野に戻すは無し。めんどくさいし。最善は、私に忠実な国になることだけどそれは難しいかもね。精霊信仰国、といわれるわりに教育がなってない。自分が溺愛する王太子にさえ私がこの世界に来た後に大慌てで行われた。他も似たような者、いや、精霊妃自体の存在を理解していない貴族の方が多いだろうね。」
「嘆かわしい。」
吹雪を呼ぶような低音でウィール様が呟かれた後、何事もなかったように戻りました。
(「「こっわぁ――。」」)
そんなマスター達の無言の叫びを聞いていると、フワリと光と闇の精霊王が降り立った。
「姫、ウィール様。昨日話し合いに同席しました上級精霊が、姫に王城に来るよう伝えてほしいと頼まれたそうです。出来るだけ早く、王城に来てほしいと。」
「3日後の昼食後、マスターと私とウィール様で行くと伝えてください。それと、夕食も寝台がある客室も必要ないと伝えてください。くれぐれも、マスターの言葉として伝えてくださいね。」
「わかった。必ず姫の言葉として伝えよう。」
間髪入れずに精霊王一人を帰し、残った闇の精霊王に視線で話を促す。
「ライミリにも、精霊達を博愛している人間がいてな。その者は精霊が中級まで見え、精霊達にも愛されているんだが、そのものが所有している広大な土地の一部をもらえることになったんだ。そこにこの家を建ててはどうだろう?」
「………そんな人間居たんだ?全然知らなかった。」
マスターが驚きから呟く。
情報収集を主として動いているマスターや私が知らないことはほぼ無い。(客観的事実)だからこそ、私も驚きに表情を変える。
そんな様子を見て、さも当たり前のことを呟くように言った。
「俺が隠しているからな。姫にも後で居場所を教えておこう。」
部屋の隅に机を出し、上に広げた地図に印をつける。
「マスター、ここならば王都外壁のすぐ傍です。」
「なら、そこに家を建てさせてもらってから、正式に精霊妃として入国しようか。ダーネス、ライミリの国王に言って正式な招待状をもらってきてくれる?」
「分かった。」
「くれぐれもラトネスに確認して、本物であることを確認してね。あと、最低限しか話さない事。」
こくんと頷いて消えたダーネス。マスターの中で出来上がっていく計画を実現するために、こちらも準備に動く。
「じゃあ明日の行動予定聞いてくれる?一心は、ライミリにいる人に許可取ってこの家のコピーを建てた後、馬車を連れて入国審査に並んで。後で馬車の中に直接ダーネスに頼んで移動するから。私は精霊妃として動けるよう着替えておく。ウィール様は馬車の中で、他の精霊王達は馬車の護衛として待機を。ウィール様は入国の時にたぶん呼ぶことになると思うので、私の身元保証人になってください。ウィール様は目立つし、この国の人たちも知ってるからさほど時間はかからないと思います。その後は、神様と合流して私と国を回ります。神様は最高神様に報告した後、可能であれば神威を纏ってウィール様と合流してください。何か質問は?」
「僕が報告に時間がかかって合流できない時は?」
「王城に直で来てください。」
「了解。じゃあ、僕は先に報告に行くね。また明日。」
そう言ってふわり浮き上がった神様は、心配そうな目をマスターに向けながら消えた。
マスターの言葉に従うことを前提とした話し合いに、人知れず苦笑が漏れる。
相変わらずマスターは美しい誰かの支えになる事を願っているというのに、他者を無条件に従わせる力をお持ちだ。
それをマスターは当然のように受け入れ、他の者たちもこの不可思議な力に気付いていない。
(それに引かれ続けている私が言えたことではありませんがね。)
クッキーをきっちり食べてから戻られた神様のお皿を下げ、新しく紅茶を入れた。
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