異世界情報収集生活

スカーレット

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

70.一心の殺り方 一心視点

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怒りしか湧かない。


この感情に疎い身で、こんなにも強く怒りを感じることになろうとは。

天才であるマスターに作られた私でさえも、予測できませんでした。

ああ、どうでもいい馬鹿ばかりですね。あれも、それも、コレさえも。

異世界人だからと、国王も王太子も騎士団長も騎士も私を見下した。

これだけならば、私だけのことだから見逃そう。

しかし、私だけに収まらないのなら………いや、訂正が必要ですね。マスターがかかわってくるのであれば、徹底的につぶして差し上げましょう。それが、私の役目ですから。

「さて、何か言い訳はありますか?王妃様。」

数秒の思考の間に持ち直した様子の王妃は、毅然とした態度でこちらに向き直った。

「そのような虚言で私を揺らがせることは不可能です。」

それには失笑で返して、手の上に乗せた録音機を再生する。

それはとても小さいが、一切の雑音もなく再生された。

(「あの者、確か異世界人でしたね?あの者をわたくしに捧げなさい。異世界人としては見目がいいようです。わたくしのお気に入りにしましょう。」)

(「ではその様に。」)

「そこの騎士達!何をしているのです!早くその無礼な異世界人を連れてゆきなさい!」

その声に何人かがぼんやりとした目でこちらに向かってきました。

(この匂いは………依存性のある薬剤ですね。生育環境が限定されていますから、すぐに場所を特定できそうですね。同時に、これを売った人間も分かるでしょう。)

全員をねじ伏せて、開いたままだった扉から夕食の会場内に放り込む。
多少響いた悲鳴に野次馬が集まるが、いい証言と噂を流してくれることでしょう。

こんなことをしている間にも、マスターに手渡した録音機は音を出す。

(「……隣に過去の王妃様のお気に入りたちを用意させてあります。精霊妃はそちらに閉じ込めておけば良いかと。」)

(「そうね、そうしなさい。あの異世界人はいち早く媚薬を飲ませて私の寝室に。」)

(「かしこまりました。」)

「早く!早くあの者を不敬罪で捕らえなさい!」

「王妃よ!しばし黙っておれ!」

少なくない貴族が集まりザワザワしている場所を、失笑で鎮める。

(ああそうか。この薬を使ったのは、信頼できる騎士が一人もいなかったため。)

静かになった後、芝居がかった動きでマスターの前に跪いてマスターのドレスの裾に口付ける。

これは、この国で絶対的な忠誠をささげるときに行う行為。
幾人かの貴族が息を呑んだ気がした。

「マスターに永久の忠誠を。この命は貴方に仕えるためにあり、この体は貴方の命令を実行するためにある。」

(あなたと違って私は、薬などなくともマスターに誠心誠意仕えますよ?)

そんなことを知ってか知らずかマスターは、儀式通りのキスを額にした。

頭を上げる中で、ふとマスターの顔を見る。見えた顔は予想通りの微笑みで、知らぬうちに張っていた気が抜ける。

(薬を利用した信頼など、私達の間に必要ない。何が間違っていますか?)

体を起こし、ゆっくりと王妃を見据える。

いまだ自分が優位に立っていると信じているモノに、冷静に言い聞かせる。

「貴方は間違えました。精霊妃としてのマスターを称え、異世界人である私を蔑むだけで済ませばよかったのですよ。しかし、それももう意味を成しませんね。貴方がマスターを蔑まなければ、私はどうでもよかったのに。」

今つけている称号悪魔のようにニタリと笑い、ソレを追い詰める。

「マスターの手を煩わせ、マスターを不快にし、マスターの大切な時間を奪った。その罪は、重罪に値します。……もっとも!」

反論を口にしそうだった王妃を大きめの声で封じこめ、バサリと書類を舞わせる。


「「「…………?」」」


「これだけで十分、重罪でしょうが。」

貴族達が理解できなかった行動と撒かれた書類を、マスターは理解し、風に乗せて野次馬の元へ紙を運ぶ。

何部にもコピーした書類は他より時間をかけて騎士や国王の手に乗り、次々に驚愕の顔が増えていく。それもそうだろう。私がばらまいたのは王妃の不正の証拠の数々なのだから。

「なっ!あ、あなた達今すぐこれを回収しなさい!全てよ!」

当の王妃は自分が操る騎士に命じて集めさせ、書類を見た国王は怒号を飲み込んだ。

それを嘲笑いながら、罪を指折り数える。
「税金の横領、貴族達の誘拐、違法毒物の不正入手・不正使用、誘拐した貴族への性行為強制、他の貴族の横領を見逃す代わりに金銭の要求。これは見逃しも金銭の受け取りも違法です。そして、王妃が他の男を寝台に連れていた、なんて自国の貴族に知れ渡ったら大変ですねぇ?ねえマスター?」

クスクスと笑うと、マスターは、「他国はもっと大変ですわ!」と大きな声で言いました。
さすが我がマスター、いい性格をしていらっしゃる。

国王は野次馬貴族を見て、完全な回収の不可能を悟ったようでこちらに頭を下げた。

「グッ?!」

正確には、下げようとした。私が糸魔法で阻害したために、頭が下がらなかった。

「謝罪はさせません。国王が自ら頭を下げて謝罪すれば、私への謝罪は済んでしまいますからね。そう簡単に終わらせる気はありませんよ。それともここまでしてなお、自分のいいように事が進むとでも?」
さも不服だ、という顔で絞り出して何を言うかと思えば

「どうしろというのだ。要望は、願いはなんだ?」と言った。

その言葉に大笑いして、マスターと同じように狂気をにじませて言う。

「願い?要望?アッハッハッハッ!そんなものは一つですよ。この国の滅亡です。マスターが不快になる国は、必要ありませんからね。」

騎士達が私に剣を向け、国王が指示を出そうとしたその時。

「ふぁあ…………」
場違いなあくびが場を支配した。

「一心。」
ふと、暇そうにしていたマスターに呼ばれ、膝をつく。

「とりあえずお腹すいたから、帰ろうか一心。ニアも心配だしね。ウィール様と神様もどうです?」

状況を知っていれば頓珍漢とんちんかんだと思う言葉を放ったマスターは、クルリと背を向けた。
呼びかけられた一人はやや理解して、もう一人は精霊妃さえよければいいと言うように答えた。

「ごちそうになろうかな。姫の料理も食べてみたいし。」

「君、料理できたんだねぇ。」

「そんなにしみじみ言わないでくれませんかね?意外でしたか、神様?」

「ああもちろん。」

「なぁんでー?」

いつも通りのマスターを窓までエスコートし、ウィール様が作った世界樹の階段から家へ帰る。

「……………精霊妃様に、救われた……?」

そんなことを呟く国王は、マスターの非情さを知らないのでしょう。
そして、非情な人間に作られた人工知能の非情さも、知らない。

(なぜ他国にいけないと思ったのでしょうか?不思議ですね。)
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