異世界情報収集生活

スカーレット

文字の大きさ
上 下
86 / 205
ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

67.だいげきどー

しおりを挟む
「ヒッィ。だ、なんだ貴様らは!」

「その人?たち、この国の神様ですよ。貴方を睨みつけている方の説明はいらないでしょう?君ら騎士団員なら会っているでしょうから。」

後ずさり、戻ってきたレイピストの足元にしがみつく騎士。まぁこんな姿では、騎士もへったくれもないが。

「僕の子供達を偽物扱いとはいい度胸だね?精霊王しか成人した姿になれないことも知らないのかい?それともあの罪人が連れていた、いや、あの罪人から強制的に精霊の力を奪われていた上級精霊が精霊王だと言いたいのかな。」

静かな嘲りあざけりの言葉とともに、ゆっくりと部屋の中に植物の芽が無数に生える。
それはウィール様が手をかざすだけで芽は立派な幹へ成長し、騎士の足を、剣を、首元を囲う。

「だ、団長!助けてください。」

「お断りですよ。彼女が精霊妃なのはこの場でウィール様が証言されましたから、疑いようがありません。」

わざとゆっくり足を上げた後、容赦なく騎士の顔を踏み潰してカリストロ殿下の後ろに戻っていった。



それを傍目にこちらでは。

「神様、神威を弱めてください。この場にいる私とマスターとウィール様以外の人間が死ぬ可能性があります。」

「あれ、これでも強いのかい?細かくいうと神威じゃないんだけどなぁ。千利は平気そうだったから、大丈夫だと思ってたんだけだけど。」

「神様、訂正があります。マスターが異常に強いだけであって、通常の人間はそこに居るこの国の王くらいの強さしかありません。」

「へぇ。やっぱり千利って人間やめていたんだね。なんだか安心したよ。」

呆れた目を向ける神様に、しみじみと思い出しながら呟く。

「まぁ魔王の弟子から死神になって、今や精霊妃ですからねぇ。」

なんだか感慨深いですわ、なんて呟いたら二人そろって微妙な顔された。

?なんかおかしなこと言ったっけ?

(そこじゃないよ千利/そこではありませんマスター!)

なんて心の叫びは千利の元に届かなかった。

「…………精霊妃様。そちらにいるのは神とウィール様なのですか。」

「ええ、ガストロ陛下。驚かせてしまい申し訳ありません。二人とも来てくださいな。白い髪をした方が神様で、もう一人がウィール様です。」

一心によって洋服を整えられた二人が、改めて挨拶をする。

「やぁガストロ、元気そうで何よりだよ。姫のお披露目会以来かな?」

「ウィール様……。」

「僕はこの世界の神の一人だよ。ウィールと同じように扱ってくれればいいから。」

堂々と神であることを告げた神様は、国王を見定めているように見えた。

「そういえば神様はなぜこちらに?」

「最高神様に、君の補助をするように頼まれたんだよ。……もう必要ない気がしてきたけど。」

はぁ、とため息をついて私の頭を叩き続ける神様。
少し前から私の頭を打楽器としてリズミカルな音が鳴っております。………いたい。

「神様、この手はいったい?」

「馬鹿な君への嫌がらせ。まったく、軽く国を滅ぼそうとしないの!それが出来ちゃうから怖いんだよ君は!」

「エェー。」

最後にペシッ!と強めに叩いて、あきらめた様子の神様。

別にいいじゃん、一つくらい荒野にしたって大した問題になるのは10年くらいですよ。




「……………皆様、本題に戻らせてください。ひとまずお二方は、どうぞ椅子へ。」

しばらく放心していた宰相が場の空気を元に戻す。大変だねぇ。

「今回の精霊妃様への度重なる非礼、この国の王としてお詫び申し上げる。そのうえで、お詫びを兼ねてパーティーを開かせていただきたきたく存じます。目的の一つとしては、今回の騒動の情報を開示すること、精霊妃様が本物でありライミリへ正式にいらしたことを知らせるため。そして、これ以上の非礼を起こさせぬためです。」

「パーティーを開くことは私の負担ですので、お詫びにはなりませんわ。しかし、それ以外の事には賛同しましょう。…………ここは、こちらが折れた方がよさそうかしらね。」

「マスターの思うままに行動されてはいかがでしょう。それらを支えるのが我ら側近と精霊王達の役目ですので。」

そう言いながら新しい紅茶を入れる一心。
ちなみに、少し前にレイピストが入れた紅茶が机の上にあるが、一心が素知らぬ顔で机の端にどかした。

「うーん。じゃあ、こうしましょう!」

パチンと手を叩いて、全員の視線を集める。

「国王主催のパーティーは開きますが、貴族を集めた断罪の場としましょう。ああ、ご安心を。今回の事を精霊妃として裁くのではありませんわ。、今回の騒動をきっかけに該当する貴族を調べたところ、悪事の証拠が出てきたという事にしましょう。」

殿下と宰相と騎士団長2人人がピクリと反応した。考え込む4人を置いて、言葉で反応したのはカリストロ殿下。

「なるほど。おおやけに精霊妃として貴族を処罰すれば、貴族達から反感をかい恐怖を広めることになります。しかし、私達が謝罪と疑惑から調べたという事にすれば、貴方が反感を買うこともなく、政治に巻き込まれる可能性も減る。こちらも国の膿を出せ、誠意を見せるためにという事にできる。両名に利があり、貴方も面倒ごとにかかわる回数を減らせる、ということでしょうか。」

言葉を聞きながら、内心ニンマリと笑顔を浮かべる。

(ああ、やはり貴方は美しい。その考え方も、その鋭さも、優秀さも素晴らしい。)

(ただ、経験が圧倒的に足りていない。それさえあれば、きっと…………。)

「そういうことにしておきましょうか。」

これからさらに磨きがかかることを想像して、思わずふふっと笑みがこぼれる。

どう解釈したのか、騎士二人が同情の眼差しでどこかを見ていた。他も似たような中で、正しく意味をくみ取った一心だけが、呆れた視線を主に向けた。

(まったくこの人は………。)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。 その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。 怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい...... ※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。 ※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。 ※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。 ※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

健太と美咲

廣瀬純一
ファンタジー
小学生の健太と美咲の体が入れ替わる話

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

処理中です...