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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
66.事態の共有がしたかった
しおりを挟む「今回の始まりから説明をさせていただきます。青の騎士団員が街にいた精霊妃様の側近、ニア様を魔術具として研究しようと連れて行きました。これについては、騎士団員が本人の了承を得ていると言っておりましたが……。」
「ニア本人から、(『来い』と言われたので断りを入れたが、『魔術具ごときが人間に逆らうな』と言われた)と聞いています。これについては、録音をしていたらしいので後程提出しましょう。もちろん、録音の魔術具一つでも研究をさせる気は無いので確認でき次第返却してもらいますが、問題はありませんね?」
「それについては問題ありません。今回の非礼を少しでも詫びるために、騎士団長の名にかけて約束しましょう。」
「こちらに非はありませんので、当然の事でしょう。」
「まぁ一心。心の中で思っていても言わない方がいい事だってあるのよ?ライミリ国の皆様もこれぐらいのことでお詫びになるなんて思っていないでしょうし。」
フフフ、と笑って先を促す。
(何を青くなっているのやら。私の心の状態は、ここにいる精霊王達計四人が表しているでしょうに。)
精霊王達は王城に来た時から見えるようにしている。その精霊王三人は既に怒りを露わにして静かに佇んでいる。
光の上級精霊は事態をはじめて理解したらしく、顔を青くして処罰におびえている。
(契約している精霊は、契約者の感情に同調する。まぁ、今更気づいたところでどうでもいいし、処分とかそんな面倒なこといちいちしないけど。)
「次に騎士団員は、研究の為と言って魔術具であるニア様の腕を切断したと聞いております。その際にいつくかの部品が破損、紛失したと考えられます。また、ニア様の表面に貼られていた皮膚と血のようなものが広がったそうです。その後、騎士団員が部品を眺めているときに精霊妃様がニア様を呼び、王城の者を含めて事態の異変に気付きました。」
「精霊妃様はその後王城に入られた、という事でしょうか。」
「その通りですわ。ニアから異常事態だという報告のみ受けておりましたので、精霊達に頼んで居場所を探してもらいましたの。」
「左様でしたか。」
国の頂点である国王が異世界人に敬語を使っている。
その事実が表すことに納得していない騎士が複数名。私を精霊妃として見ていない、見る気が無いのが陛下と殿下と宰相と騎士団長達以外全員、ってところかな。
この国にもまだ、精霊妃でないのに緑を纏う命知らずがいるようだしね。
その証拠に、ほら。
「……?何やら廊下が騒がしいようですな。しばし確認してまいります。」
そう宰相が言って外に出ようとしたときには、既に扉が開いていた。
宰相殿のために騎士が開けた、なんてことはなくそこに立っているのは緑を纏う令嬢。
(「一心、誰だっけ?」)
(「国王に批判的なロウ伯爵のご令嬢ですね。」)
(「なるほど、馬鹿だった。」)
持参していた扇を広げさも不快ですと表しながら、一心に教えてもらう。人覚えるの、精霊で精一杯よ?
口を開いたのは宰相殿。貴族として当然の微笑みすら消して、鋭く睨みつける。
「ロウ伯爵令嬢、非礼にも程があります。誰の許可を得てこの場に侵入したのか、説明してもらいましょうか?」
疑問形でありながらも命令している宰相様。
それはそうだろう精霊妃を怒らせる事態の後にさらなる非礼を行えば、どうにもならないまま国が滅ぶ。
そんな宰相と国王、殿下に騎士団長を総スルーして向かうはここ。
(暇だなぁ。……だって精霊妃らしく人使えって一心が言うんだよ?)
(野球実況風)さぁ既に救いようがないロウ伯爵令嬢、紅茶を手に取り投げたー!茶器ごとだぁ―!
(隣によくいる解説)これは驚きですね。(実況アナウンサー)彼女は命がいらないのか―?!
えっ?ストライクゾーンにいる私には届きませんよ?
一心が茶器を素早く取って、こぼれたお茶はフォルじいが生やした植物に当たったからね。
ちなみにピッチャーは自慢げな様子のまま赤の騎士団長(レイピスト)に捕らえられて連行されてます。そんな彼女の捨て台詞?がこちら!
「私の婚約者に色目使うんじゃないわよ!私はぜーんぶお見通しなのよ!偽精霊妃の異世界人!」
…………………………………………
「処分は精霊妃様に従います。いかがいたしましょう。」
国王としての威厳を最低限まとって、震え声で許しを請う陛下。
「あらガストロ陛下、処分などおかしなことを言いますね?」
「……といいますと?」
「赤子が泣いたからと言って、処分を告げるような心の狭い人間ではありませんわ。」
赤子、と誰かが呟いているが当然だろう。
後ろに精霊王達いるよ?見えなかった?
君達の目、開いていたよ?っていうか言わせないよ?そんなくだらないこと。
「なぜ精霊王や世界樹であるウィール様に『姫』と呼ばれる私を偽物と言ったのかは分かりませんが、はっきりとここにいる全員の姿を見た上で、私を偽物扱いしました。ならば、それは教育を施した当主の責任でしょう。教育法一つで、人間にも傀儡にもできますからね。」
ニコニコと子供の様に笑えば、私の本質に気付いた数人は顔色を悪くした。
ただ、納得も気付きもしなかった人間は彼女の肩を持つわけで
「貴方が偽物なのは事実でしょう?確かに彼女の行動は非礼でしたが、彼女こそ本当の精霊妃です。この大陸で唯一、緑を纏っておられるのですから。それに、たいして綺麗でもないその宝石は、精霊石ではないでしょう?本当の精霊王達に攻撃されたくないのであれば、早くその粗末なドレスを脱ぐことをお勧めます。」
この言葉に、青の騎士団長(ヤドゥール)がはじかれるように動いたが、それを遮り動いたのはこの場にいないはずの人物たちだった。
……なんか、次から次へと騒がしいねぇ。ゆっくり情報屋として動けるのはいつになる事やら。
私は紅茶を一口飲んだ。
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