異世界情報収集生活

スカーレット

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

62.客という名の餌 一心視点

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客が来た。

ヤドゥール=ガディア、青の騎士団団長であり、カリストロ殿下の友人。

目が合ってしまったので、一応申し訳ない顔をしておきますかね。

「申し訳ありません。我が主は、側近である我らの命をとても大切に思ってくださっているのですが……。」

一度切り、辺りを見渡すフリをする。遮音は既に張ってあるので、本来は心配ない。

「どうやら、側近のニアが誘拐されたようでして。大層お怒りなのです。我が主はニアを取り戻しに行ってしまいました。本当に、申し訳ない。」

寄せた顔を戻し、お詫びの一番安い情報を渡してわざと話を切り上げる。

予想通り金貨を一枚投げてきたので、予定通りに話を続ける。
「どうやら王城に勤める青の騎士団員が、ニアを誘拐したらしくて。そのうえ研究のためと言って、ニアを分解していると聞きました。」

「待て、分解だと?ニアは人間ではないのか?」
以外にも人間だと思っていたようで、少し落胆する。
「ええ、魔術具です。ですから、研究のために一部ですが分解されてしまいました。それを知り激怒した主が、王城からニアを取り戻しに行ったのです。」

しかし、硬貨を投げてもらって助かった。
むしろ、金貨を投げられていなかったら「貴方様を信用してお話しますが………。」と、適当に言ってこちらから言い始めなければいけなくなっていた。

(しかし金貨を投げてきましたか……。ふむ、値段だけは高い情報屋と多く取引して慣れているのか、お坊ちゃんであることを見抜かれて金を絞られているのか………………。まぁ、どうでもいいですけどね。)

ふと、この場にいないマスターを心配する。

「それは…………(ガストロ陛下とカリストロ殿下の身の安全が)心配になるな。」
「ええ(マスターがこの国を滅ぼしてしまわないか)心配です。」

(マスターが怒りのままに国を滅ぼさなければいいのですが……。後々面倒になりますしね。)

※一心は、千利によって国が滅ぼされないことを共に心配していると感じ、ヤドゥールは陛下と殿下の身の安全を共に心配していると思っている。 by作者

((主を思う気持ちだけは、この者と気が合いそうだな/ですね。))



ヤドゥルール=ガディアに黒魔石と情報を渡して、帰らせる。

「またのお越しを、お待ちしております。…………………ああ、やっと帰りましたか。こちらもこちらで忙しいのですがね。」

すぐにマスターに呼ばれることが予想されるので、フェイク(小さなナイフ)を持って洋服を整えておく。

「おや、予想よりも早いですね。」

自身の影からマスターの影へと移動して、マスターの周囲の状況を確認する。

「来たか一心。ニアを頼むよ。私はどうやらこの国を滅ぼさないといけないらしい。」

マスターの腕に横たわっているのは、ボロボロのニア。驚愕に顔が自動的に変わる。

両腕は雑に外され、一番外側に取り付けられている人工皮膚はもう、人工血液で汚れた上に切り離されて二度と使えないことを物語っている。

これが人間ならば非常にグロテスクな状況だが、ニアは人工知能。人工皮膚の下にある物は筋肉ではなく、コードと鉄が見えるだけ。

「魔術具を研究して何が悪い!たかだか街にいた魔術具一体を持って帰ってきただけだろうが!あの魔術具の主は異世界人だぞ!世界の異物が持ってきた者をこの世界の人間が利用してやるんだ!光栄に思うべきだろう!」

マスターの足にいるのは、不快さを増す発言しかできない馬鹿。

(ふむ。家が一つ滅ぶことが確定しましたね。)

マスターの地雷はいくつかありますが、その中でも私達人工知能を魔術具と呼ばれ物扱いされることを嫌います。
地雷を踏んだ者たちは、全員が様々な意味で殺されました。

今回は……ああ、可能な限り全てですか了解しました、我がマスター。
目に宿る純粋な殺意に、それを悟る。

マスターの手からニアを渡される。こんな状況に直面するたび、人間がおろかだと再認識する。

(誇りを持ち他者のために自らを高める努力をするマスター方と、他者から奪い欲望のままに生きる醜い下種ゲス。同じ人間とは思えませんね。)

そんなことを思いながら、ニアを影伝いで連れて行く。いち早く、しかし丁寧に運び出す。

「申し訳ありません、一心兄上。攻撃を禁止されておりましたので、反撃をしなかった結果です。」

「気にすることはありません。貴方はマスターの命令を実行した。これは予想できなかった私とマスターの罪ですから、貴方が罪悪感を背負う必要はありません。」

家の前で口を開いたニアに、おとなしく休みなさいと言うとやっとシャットダウンした。

(それでいい。貴方はまだ、この血生臭さになれなくていいんです。)

極力動かさないようにニアを家の治療室につれ、CPUの7割を預けて修復を命令する。これで、部品さえそろえば一日で完治するだろう。問題は、その部品だ。

今足りない部品は、人工皮膚、人工血液、盗られた部品。

一番の問題は、人工皮膚だ。意外かもしれないが、人工皮膚はマスターの皮膚を私が増殖することで作ってきたため、一番時間がかかる。さらに残念なことに、予備を全て今私が使っているボディに使い切ってしまったため、予備もない。

人工血液は予備があったから急遽増やしているが、元が少ないため時間がかかる。

さて、完治までの予定時間は……………?


……はぁ。

「……………それで、そこでいつまでも立っているつもりですか?私とて暇人ではないのですが。」

わざわざ姿を消してまで近くに佇むソレに、不快な顔を作って声をかけた。
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