異世界情報収集生活

スカーレット

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

58.爆弾と赤の災難  レイピスト視点

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男女両方から送られる熱視線を無視して、私は今日も殿下の元へと向かう。

我が主ガストロ陛下のご子息、カリストロ=ライミリ様の元へと。

カリストロ様は、私が幼いころからお仕えしている王太子であり、不敬にも「爆弾殿下」と呼ばれている当人だ。

過去には才能、性格、容姿全てにおいて優秀を修めた故に、世界樹様に愛された子と呼ばれていたが、世界樹様はたった一つ、愛ゆえに加減を間違えられた。

それが魔力。多すぎる魔力は殿下の命を削っている。

同じ殿下を守るよう命じられた同僚であり、我が友人でもあるヤドゥールは今なお情報をかき集めて救おうとあがき続けている。

しかし、彼のように魔術具の知識もなく、闇にまぎれて情報を集めるには向いていないこの容姿では足を引っ張るだけだろう。

ならば私は殿下を救うのではなく、殿下が救われた後役に立つ知識を殿下に与えようと考えた。我が友人はきっと、いや、確実に殿下を救ってくれる。

ならば私はその後を支えよう。

護衛の騎士すら居ない質素な扉の前で入室の許可を得る。

ご挨拶の後、殿下に施すのは精霊に関する知識。しかし、すっかり覚えきられた殿下との考察や情報を伝える時間になりつつある。

「今年の精霊妃はどんな方だい?以前の精霊使い様は温厚な方と聞いているけれど。」

さっそく始まった質問に、できる限り主観を入れずに話す。

「恥ずかしながら、まったく情報がありません。ガストロ陛下を気に入っている上級精霊様が「姫」と呼んでいたので、精霊妃ということだけは分かっております。」

「では、ペカニブル国が以前召還したといわれている異世界人の事は?」

「そちらもまったく情報がありません。ただ、兄と妹の二人であると報告を受けています。」

「…………2組がすでに別の国に保護されている可能性は?これだけ情報が集まらないんだ。国ぐるみで隠されていると考えた方がしっくりくる。」

「それならば他国に潜ませている者達から連絡が来るでしょう。そのような報告は聞いておりません。」

殿下が気になった点を次々と返す。

陛下はこれらの事から、異世界人の兄妹は民家に保護を求めて身を潜めていると考え、精霊妃様は精霊の土地にいると考えられた。
しかし、殿下の考えとは違ったようで。

「では、異世界人は転々と移動を続けている?精霊妃様は精霊の土地だろうけど、異世界人には長旅をするだけの体力と知力が…?」

「長旅…ですか?陛下は民家にひそめていると考えられましたが……?」

「つい先日、ヤドゥールが異世界人と思われる人間と会えるかもしれないと報告を受けた。」

!ヤドゥールが偽の情報を持ってくるとは考えにくいので、それは確かなのだろう。
しかし、それならば異世界人はこの国まで移動を……?

「ペカニブル国と我が国ライミリ精霊信仰国までの距離を移動したとは考えられません。この距離を移動したとなると、馬車でも軽く数か月はかかりますよ?」

「異世界人がこの世界にもたらした知識はこちらがまったく考え付かないようなものが多い。料理を始め、椅子や寝台に使われているスプリングもそうだ。そう考えれば、こちらが思いつかない方法で移動していると考えれば辻褄はあう。」

それから数分の間質問と考察を繰り返していると、突如女性の大声が聞こえた。

「ニア!」

かなりの怒りが込められているのか少し女性の声にしては低いが、城中を響き渡るほどの声だった。

騎士がならすガチャガチャという音と、使用人達がならすコツコツという音が何度も鳴り、異常事態を知らせる。
(侵入者か?)
騎士として殿下の側で守りを固める。

廊下とは違い沈黙と緊張が走る中、貴族らしからぬドタドタと走る音とノックの音が部屋に響く。

「「………………。」」

無言で向けられた視線に頷きで答えてから、静かにドアの前に立ち剣を構える。
「………どうぞ。」

そう殿下が答えると同時に開いた扉。剣を向けた先に居るのは、焦った顔をした陛下と宰相

「ガストロ陛下!」
慌てて剣をしまい、礼をとる。

「挨拶も前触れもなく済まない。しかし緊急事態だ。異世界人の側近である魔術具を青の騎士団員が害したと報告があった。それを怒った異世界人が暴れ手を付けられないと。」

出来れば利用したかったが異世界人の怒りを買っては、協力は取り付けられないだろう。

いま行うべきは、最善を尽くし国へ怒りを向けないようにする事。

「その騎士団員は?」

「魔術具を研究して何が悪いとわめいている。騎士団長であるヤドゥールはここにいないのか?」

「……本日は休暇ですし、異世界人と思われる人間と会う予定があると言っておりました。」

「なんと間の悪い…。」

額に手を当て、天を見上げる宰相殿。
そんな中耳打ちされたことは状況をより悪くするものだったようで、顔を青くしている。

「陛下。」

普段顔色の変化を隠すことに長けている人物が、これほどまでにとりつくろえない事。正直、聞きたくない。

「新たな情報です。光の上級精霊様が、異世界人の元へ行き、姫と呼んだと。」

「「「!」」」」

「!…では、今この国にいる異世界人は、精霊妃様だということですね。」

ヒュッと喉が音を鳴らす。精霊妃様の側近を害するということは、精霊の加護を国ごと失ってもいいと言っていると同義だからだ。

精霊の加護を受けないと人間は死んでしまう。それは右手がある方が右である事と同じくらい当たり前の事だ。

「すぐに、すぐに精霊妃様を貴賓として招き入れろ!なんとしても怒りを解いていただかねば!」
国が滅ぶ。

それは、言うまでもないことだった。
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