63 / 205
神々編
48.逆転
しおりを挟む圧倒的な雷属性の光が収まった時、番人は私の「片手剣」によって貫かれていた。
「なぜ……?なぜおまえが…!?」
剣を握りしめ、虚ろな目で番人を貫くのは自称女神。
その目には苦しむ番人が映っているのだろうか?
番人の答えには何も答えずに、剣を力任せに引き抜く自称女神。
ボタボタと血を流しながら、疑問をぶつける番人のその姿は哀れですらある。
「なぜ英知が私を攻撃する!なぜおまえの剣は3本もある!その剣に複製スキルは使用不可だったはずだ!」
ご自慢の技すら無効化されたことにも気づかずに、叫ぶ番人。
ヤケクソじみた叫びに私はゆっくりと笑い、ただ一言吐き捨てた。
「ばぁか!」
一番の得意武器を取られた恨み!
ゆっくりと歩き出した私は自称女神に命じる。
「それを押さえろ。」
虚ろな目のまま番人を押さえつける自称女神。
恐怖に引きつる番人の顔に「日常」を正しく思い出した私は、いつも通りの残忍な顔を番人に見せつける。
圧倒的な恐怖を与え、戦闘を楽しんでいることを確実に伝えるために。
ニタリ、と笑った私に連動するように自称女神もニタリ、と口角を上げる。
「ひっ!」
神らしい姿を捨て去った番人は、ジタバタと体を動かして私から逃げようとする。
しかしニタニタと笑っている自称女神の両手を振りほどけずに、力業は無理だと悟ったようで。
「おい!私にこんな事をしていいと思っているのか!ただでは済まさんぞ!早くその手をどけんか!」
説得を試みる番人を見てもなおニタニタと笑い続ける。
自分でやったとはいえ、不気味だなこれ。
そんなくだらないことを考えつつ、情けない声を上げ続ける番人を掴む。
「……なんか言うことある?遺言として最高神様に伝えておくよ?」
私の言葉に光を取り戻した番人は、笑って高らかと宣言する。
「そ、うだ。私は!私は神だ!人間ごときが持っている武器で私の体が消滅するはずない!神の体は特別なのだ!」
…………………。
永年拷問をご希望で?え、なに。こいつ実はドMだったの?
表情には一ミリも出さないが内心ドン引きしつつ、静かに聞いてやる。
「そうだ!英知を操ったのだって消滅されられないからだろう!はっ!残念だったな!貴様らの願いはかなわぬ!最高神の奴がなんだ!あの阿呆はもう私の手に落ちた!貴様らの願いなど聞き届けはしない!決してな!」
ある単語を聞いた途端後ろに控える息子からの冷気が増したことに気が付いた私は、さっさとこいつを殺したくなった。
………ヤバイ。こいつよりも武器!武器より私の命!私の命よりも我が子の怒りの鎮火!
そんな私の気持ちに気付いてか、「さっさと殺せ。」の意思表示なのか称号死神時専用の大鎌を差し出す一心。
……。
仕舞ったんだけど、それ。今称号「皇帝」だから使えないの分かって
「理解していますよ?」
……そうじゃないよ!私の思考を予測して回答するんじゃないよ!
ため息をつきつつ、渡された鎌を持って鎌を番人の首にあてる。
地面についた手から伝わる生温い感触と、首から伝わるひんやりとした感触に再び恐怖がよみがえった番人は、情けない声を上げたまま、その首を落と
ドスッ
バチバチバ……チ
「…………ガハッ。」
………?
何が、起きた?
なぜ一心は、倒れこんだ?
「はっ?は、あーっはははははは!!!馬鹿め!さあ神々たちよ!私を害したあの愚かの者の首を私に!」
大きな雑音を無視して、重い大鎌を放り捨てて、一心に駆け寄る。
人間でいう心臓を狙ったのだろう。まっすぐに体が貫かれている。
一心が早く気づいてくれたおかげで、僅かに逸れたため一番大事な核は無事だ。
しかし、ほとんどの人工臓器が傷ついている。早く目的を果たして、家に帰らなければ。
どこか他人事の事のように考えながらも、立ち上がろうとすると剣を首にあてられる。
自称女神とは違い目に光のある誰かは私に「動くな」といった後、部下に指示をしたようだ。
ゴミを投げるように投げつけたのは、ニア。
ニアは偽物を最高神の元に置いて、わざと見えやすいようにしていたはず。なら、これは偽物だ。……そのはずだ。
「三人そろって死ぬといい。神に逆らったことを後悔せよ。」
そういった男は私を押さえつけ、剣を体に突き刺した。
何も問題はない、計画は進んでいるのだから。
的確に心臓を突き、雑にひかれた剣。
自分の血がボタボタと零れ落ちていくのを確認した私は、向かい合わせに倒れた一心の口元が動くのが分かった。
(い・ま・で・す・し・に・が・み)
あぁ、そうかお前は生きたいか。ならばそれに答えよう、愛しい息子と娘のために。
ただの木偶として死のうとしていた私が馬鹿だったらしい。
称号の変更は本人しかできない。でも、私たちは称号を共有している。
本来ならば許されないそれができる事、それが示すことは私の称号を一心やニアが変更できるということ。
「称号を皇帝から死神へと変更しました。複数の死神スキルが使用可能になりました。また、複数の皇帝スキルが使用不可になりました。」
瞬きの間に気持ちを整え、始まった称号変更の説明を待たずに死神のスキルを使う。
異変を感じ取った男は私に再び剣を刺した。
「死ね。」
そう吐き捨てた男の剣を体内で腐らせて、言い返す。
「息子の期待を裏切るわけにはいかないだろう?」
立ち上がり、男の剣だったものを引き抜いて放り投げる。
人間ごときになにももうできないと踏んでだろう。男はそのまま動かなかった。
戦闘にならないまま男の横を通り過ぎて、男の部下らしき者の傍を通り抜けてゆく。
後ろでこちらを睨みつける男は、そのまま動こうとするも何もできていない。
一通り通った後で、ボタボタとたれ続ける血を止血する。
「死神スキル、復活」
後ろから飛んできた粒子をもとに、醜い肉が私の臓器を復元していく。
他者の死体を代償に自分を回復するスキルだ。
そう、「死体」を使うスキル。
「ガッ…………。」
「……………。」
粒子になって消えてゆく男の部下たち。目を見開いて凍り付く、私を刺した男。
「なぜ………?」
称号を変更し終えて、自分の回復を終えた一心が冷たい瞳で睨み言う。
「マスターは貴方たちの首を切っていましたよ。見えない貴方の力不足です。」
男が一心の方を向いたことで、私が切った部分の上のみがくるりと回転した。
……結果、首だけこちらを向いている状態。とっても不気味。
理解できないというようにそのまま首を傾けた男は、首が落下して死亡した。
ぐるりと見渡せば辺りは壁でおおわれており、壁の上にいる指揮官らしき人物がこちらには聞こえない声で号令をかけた。
視力が足りず口が読めないので、一心に聞く。
「一心?」
「詠唱開始、と。詠唱の内容からして、火炎魔法と火炎防御の魔法でしょう。」
「向こうは?」
「問題ありません。誰一人として死んでいませんし、洗脳も解けたようです。当事者と共に向かっている、と。」
「了解、じゃあ。」
相手は焼き殺す用意をしているらしい。でもこちらの方が早い。
いつの間に拾ったのか、恭しく大鎌を渡してくれた一心に礼を言って頭を撫でた。
「っ!」
照れ隠しに手を払いのけた一心に笑って、深呼吸をする。
私は大鎌を構えて、ただ一言呟いた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる