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精霊達の土地編
40.武器の場所
しおりを挟む次の日の午前中、一心と一緒に情報の整理とまとめなどの書類整理をしていたら、
チュッ
「?」
「どうしたんです、マスター。」
「いや、………気のせいか?」
侵入者かと思い、その場を見るが誰もいない。
しかし、僅かに感触が残っているので不思議だ。唇を一撫でして書類に目を落とすと
「やあ、元気かい?」
神様が来た。
「私の真後ろの窓からのご登場ですか、神様。本日はいかがされましたか?」
「お話があるようですのでどうぞこちらへ。マスターの頭上にある窓枠よりも居心地はいいかと思いますよ。さぁどうぞ。」
二人ともニッコリ笑顔で対応すると、何かにぶるりと震えた神様。
失礼な。私はとーってもいい笑顔だし、一心は急遽片づけた机にお茶を入れ、椅子を引いただけじゃないか。
「ちょ、ちょっと命の、いや存在の危険を感じるから手短に話すね。まず一つ。異世界から来たモノなんだけど、これからは全部ウィールのとこに行くからそのつもりで。」
素早く移動してナニカに怯えたまま話す神様。頼むまでもなくサラサラと書き留めるのは一心。
「後今さっき異世界からナニカが来たんだけど、やっぱりこっちに被害はなさそうだね。よかったよ。じゃ、じゃあ僕はこれで!」
ちゃっかりお茶は飲んでさっさと帰ろうと立ち上がる神様を、力を込めた手で戻す。
「私の武器の場所はどこですか?もちろん、分かりますよね?」
「……君の脅しは心臓に悪いね。ちゃんと分ってるよ。だからそんな物騒な顔しないの。」
よしよしと頭を撫でられた。
………22の女性(男装中)にすることか?
無言で神様の手を私の頭から離して、私用の椅子を引いたのは一心。
無表情で分かんないけど……なんか怒ってる?
「ブフッ。」
吹き出して小刻みに揺れてる神様を睨みつけながら、コトリとお茶が置かれた。器用だね、一心。
私も座った所で、一心が神様に言う。
「情報を。マスターの武器はどこです?手元にない武器は斧、籠手、片手剣です。」
「まず片手剣ね。片手剣はねー今日来た奴が鞘ごと飲みこんじゃったよ。」
後で絞めることは確定だな。私の武器に何してくれてんだ。
「へぇ……。ずいぶんと愉快なことをしてくれたんですね、その阿呆は。一心?」
「今日のこのあと2時間で書類をまとめ終われば今日中に行けますよ。ニアも掃除が終わる頃ですので手伝わせましょう。」
「神様、他の武器は?」
「ライミリ精霊に斧が、マルクトリアの方に籠手があるよ。両方とも宝物庫に入ってる。」
「分かりました。情報提供に感謝いたします。」
感謝の印に優雅な一礼をしておく。
…多少芝居がかったことは無視して欲しい。
ふぅ。とお茶を飲んで一息ついた神様。そのままシミジミと言った。
「本当に君がこの世界に戻ってきてくれてよかったよ。本当にね。けれど人間は哀れな生き物だ。君の恩恵を独り占めすることしかもう頭にない。」
「今更でしょう。」
そう返せば、少し悲しそうにお茶の水面を見つめる神様。
「どこの世界でも人間なんて生き物はそんなものですよ。正義をでっち上げて私腹を肥やし、真っ黒が白くなる。他者を傷つけることを躊躇わず、自身の痛みを覚悟することさえしない。」
「その上、自身が不快に思ったなら玩具として弄び殺す。マスターと同じ人間と思いたくないのが現実ですね。」
「まったくその通りだ。そいつらの殺しを願う奴らも同じだがな。同じ穴の狢なんだから狢同士で勝手に殺し合ってくれればいいんだがな。」
「……………さすがに恨みがこもっているね。」
若干引きつつ話す神様の言葉に思わず、二人で声を揃えて返した。
「「なにいってるんですか。」」
「えっ?」
「恨みがこもっていたらこんなものじゃすまないですよ?」
「そ、そうかい。」
「はぁ。」
一心が呆れたところで「どれから手つける?」と切りだす。
「そうですね………。まず、マスターは書類がまとめ上がったらすぐに片手剣を取り戻しに行ってください。その後、マルクトリア帝国に精霊妃として行くことになってますのでそこで取り戻しましょう。ライミリの方は……王太子に恩を売りましょうか。」
「…………マルクトリアでは盗む気かい?」
「まさか。合法を目指しますよ。」
「………………はぁ。いいのかい千利。君の側近だろう?」
何かに気付いてしまった神様は、私の方に文句を言う。
「おや神様、私がいつ正義の味方なんて言いました?いいんですよ私達はこれで。死神ですしね。」
「まったく。………まぁいいや、そんな君だからこその頼みがあってきたんだよ。」
「どうせ情報提供の対価でしょうから、お受けしますよ。」
……さっさと借りは返したいからね。そのつもりが無くてもこう言っておけば対価として行うことになる。
「頼みとは?」
「人間の間引きだよ。大体大国一つ分くらいかな。」
「期限は?」
「10年くらいでいいよ。」
「分かりました。」
淡々と受ける私に、書類に情報をまとめる一心。
「……っ。……………。」
何かを言いかけて止めた神様は「じゃあ、頼んだよ。」と言って帰っていった。
ニアと一緒に書類を丁度まとめ終えた時、精霊王達が入ってきて一心に毒草やよく使われる毒薬を預けてくれた。
「姫の毒の耐性にお役立てください。我ら精霊王は姫の為に姫を苦しめる覚悟をしました。」
嫌々な雰囲気もないし、覚悟を決めてくれたんだろう。心苦しいが、仕方ない。
「ありがとう、皆。一心、ニア。何か言うことはあるかい?」
「ご協力に感謝いたします。」
先に答えたのはニア。
さっそく試験管に移し替えている。次に言うであろう一心の方を向くと…皆を睨みつけていた。
「一心?」
息子がなんだか怖い顔をしてた。
だいじょうぶ?だいじょうぶかな?
体を左右に小さく動かして心配していると、精霊王達が真っ二つに切られた。
「とりあえずこれらの毒草類は感謝いたします。しかし、まず第一に遅すぎます。マスターの為になどという言葉を使う権利はあなた方にはありません。毒に気付かず、マスターの体調を判断できず、マスターの毒の耐性の必要性さえ気づかない。マスターが嫌いなのは無能だということを覚えておきなさい。マスターはお優しいですから、あなた達を理由なく切り捨てはしないでしょう。しかし私達は基本的に少数精鋭です。マスターの邪魔になるのであれば、私が切り捨てます。ご理解ください。第二に自分達の力を過信しすぎです。精霊王らしいですが、マスターや私達は精霊の力がなくとも困りません。まったく問題ありません。それを自覚なさい。第三にマスターの優先順位です。一二が私達人工知能であることを理解していないように思えます。変わることはありませんので理解なさい。第四にあなた達が集めた情報についてです。精査されていなければどこから入手したのかさえ覚えていない。このような情報は有って無いに等しいものです。せめて国名と人名、信憑性の有無くらいは覚えていてください。で?」
急にくるっと後ろを向いた息子は私を見て言った。
「なぜマスターが震えているんです?ニアの後ろに隠れてどうしました。」
「いや………。なんか私も叱られている気がして……。」
息子がコワイ。気分は蛇に殺されかけている猫。
あれです。周りに蛇の胴体があって逃げられずに「シャー」って言われる状態。
相手はじゃれている気でもこっちは命の危険です。
「はぁ。何をやっているのやら。ニア、マスターをこちらに」
「はい、一心兄上。」
「待って待って待ってニア!ヘルプミー!」
ジタバタと動くも襟足を掴まれては動けない。そのまま一心に引き渡された私は
「プッ……な、何してるの?千利?」
その姿をウィール様に見られた。笑うことないじゃんかー。ぶーぶー。
今更後ろ向いて隠したって、肩震えてるの丸分かりですからね!
「御覧の通りつままれておりますよ、ウィール様。なにか?」
「おやウィール様、いらっしゃいませ。ニア、お茶をお出しして。」
「分かりました。」
トポトポとお茶の入れる音が聞こえる中、一心が近い顔をさらに近づけて言った。
「さてマスター?」
「ナンデショウ?」
なんだかコワイよ?内心ガクブル震えているとニッコリ笑顔で言われた。
そのまま窓を全開にした一心はそのまま爽やかな笑顔で言う。
「行ってらっしゃいませ!」
・・・はい?
「ぎゃああああああああああ!」
ブンッ!と音がして投げられたことを理解する。
あんにゃろ称号変えてスキルまで使ってやることか?!
ぜーったい、身体強化と投擲スキル使ったろ!
って、待て待てここダーネスの空間の中だよね。ってことは………。
「ヘブッ!」
………………………………………。
ダーネスが開けてくれた出口から出ると精霊の土地の外だったので、門番の元に行きました。
男装モードで行きました。
………………………あんにゃろ壁忘れてたろ。いったいなーもう!
応援ありがとうございます!
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