異世界情報収集生活

スカーレット

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精霊達の土地編

34.毒

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マルクトリアの国王とライミリの国王と雑談をしながら時間は過ぎた。

シュークリームのレシピを手に入れられると思っているミセッシャスト国王はさっそくレシピを自慢しているようだ。

ふふっ、馬鹿を見るって面白い。
ニヨニヤしてしまうのを抑えて、人脈を得ておく。

ニアから飲み物を受け取る私に話しかけたのはカッセルラの国王。

「精霊妃様、ご自身でもお菓子を楽しまれましたかな?料理の才があるものがいない我が国では羨ましい限りです。」

そういってカッセルラの国王は宰相補佐を通してシュークリームを、渡した。

「お気遣い感謝いたしますわ。」

そう言ってニアを通して受け取る。

そのシュークリームを食べた。

ゆっくりと食べ勧める私を見て、ニヤリと笑い宰相補佐に目配せをする。

「精霊妃様。精霊妃様はこの大陸で起こっている問題についてご存じですか?」

宰相補佐は大陸全土で起こっている現象や、環境問題について私に質問し、答弁を始める。

「この問題には過去に……という解決策がとられていましたが……。」

「ですがその解決策では今とると……という問題が発生します。」

「そうすると………。」

「ええ、また……が起きて……。」

そのまま、渡されたシュークリームを食べる私を見て若干顔色が悪くなるカッセルラ国王。

言わずもがな、このシュークリームには媚薬がたっぷりだ。

量で言うと、お皿に乗った5つを全て食べると簡単に狂えるくらいだ。

そんな媚薬入りをパクリと3つ目。なんてことなく食べ進めていく。

異変に気付き始めた宰相補佐は挙動が少しおかしくなっていく。
それを見て近くにいたマルクトリアの国王は異変に気付いたようで、側近を私の様子が分かる場所に行かせた。

国王自身はライミリの国王と話し、ライミリ国王に伝えているようだ。

同じようにライミリ国王の側近も動いた。

そもそもこの媚薬は甘い香りが強いので、鼻がよく利く私にはすぐに分かってしまう。普通の人でも分かるくらい匂うしな。

そんなこんなでシュークリームも残り一個。

毒の解析がしたいのか、マルクトリアの側近がこちらに向かってきた。

「精霊妃様。誠に申し訳ないのですが、陛下方の安心のために全てのお皿に乗った菓子を検査させていただいております。ご協力をお願いいたします。」

「もちろんですわ。ニア、お渡しして。」

側近がニアから受け取り、一礼して去っていく。

カッセルラの国王は苦々しい顔をして、吐き捨てるように呟く。

「精霊妃様が毒など盛るわけがないだろうに。なんと不敬な。」

そんなあなたには、ブーメラン口撃こうげきをプレゼント!

「あら、お皿は置いてあるだけですので、お皿に塗ることで私以外の方が毒を盛ることも可能でしょう。見ての通りシュークリームはクリームを入れる穴がありますから、毒を注射することも可能です。不安を拭っていただくためにも、検査していただいた方がいいと思います。」

「それもそうですな。」

お皿と菓子を検査した側近二人は、真っ青な顔をして自国の国王に報告した。
すぐさまマルクトリアの国王が駆け寄ってくる。

「精霊妃様!お体に異変はございませんか!先ほどお渡しいただいた菓子から毒が検出されました!」

「私は大丈夫です。それよりもお菓子をいただいた宰相補佐様大丈夫ですか?お皿に塗られていたのなら大変ですわ。」

「ほう、宰相補佐殿から菓子を?」

「ええ、毒はどこから?」

「菓子そのものでした。ウィール様、精霊妃様を診ていただけませんか。」

「もちろんだよ。姫、こっちへ。」

「はい。」

言われるがまま、フォルじいによって簡易的に作られた医務室へ連れていかれる。
ウィンが遮音をしてから、ウィール様は怒った表情で私に向き合った。

「鼻がよく、毒を何度も受けてきた君が、こんな分かりやすい毒に気付かないわけない。分かっていて、食べたね。相手に衝撃を与えるために、いや、毒の存在自体を疑うように何度も食べたのかい?」

ニンマリと笑い、拍手を送る。

「そうですよ?やっぱり世界樹の精霊なだけありますね。お見事!こんな人に支持されて、私は光栄ですね。」

「はぐらかすんじゃない!!」

ウィール様は怒りと困惑の覇気を飛ばす。
殺気の欠片もないのが、彼の優しさの表れでもあり、甘さでもある。

優しいその人は、泣きそうな顔で座った私に縋り、話す。

「どうしてだい?どうして自分を大事にしないんだい?君に勉強を教えてきた僕は分かる。君は賢い。だからこそ分からないんだ。賢い君なら、情報を操る君なら、自分を犠牲にしない策だって出来るだろう?少なくとも、毒のほとんどを食らうような真似はしなくてよかっただろう?あの毒は即効性なんだから、時間をおいて平気なふりをしてればよかっただろう?どうして?どうしてなんだい………。」

その姿はまるで贖罪のようで、どうしようもない後悔のようで。


………まるで、自分が撃った銃の流れ弾で殺してしまった人に、謝っている様で。



……………この人は、優しすぎる。

「ウィール様。」

名前を呼ぶと、何の疑いもせずに頭を上げるウィール様。

グルリと見渡せば痛々しい顔で、泣きそうな顔で、私を見る精霊王達。

「私にとって、不意打ちでない毒は抗体を作るチャンスなんです。自分で調整できる時はあまりありません。だからこそ、毒をできる限り摂取して、自分の体に抗体を作ることで自分を守る鎧にします。」

「そんな、こと。そんなことしなくたって私達が…!」

「『守ってみせる』ですか?その確証が得られるほどの自信と力は素晴らしいことです。ですが『絶対』なんてないんです、100%なんてないんですよ。一心の予測でさえも、どんなに対策を練っても殺されてしまうことはあるんです。」

「でも、それだってわざわざ毒を飲む必要は…!」

「拷問されたときに、少しでも仲間を、情報を守るために必要です。今回の媚薬は特に。媚薬の効果は、体が受ける刺激である快楽を増幅される効果です。痛覚を増幅させるものや神経を麻痺させる毒物であれば、多少訓練することで毒の耐性がなくとも耐えることは可能です。ですが媚薬の場合、快楽は本来不快な感覚ではないので訓練で遮断はできません。幸福を自ら手放すものがいないのと同じように、ね。」

「で、も。それでも拷問の時なんて想定しなくても……。」

「いついかなる時でも最悪を想定しなければいけない。我が師の教えです。まぁ、大丈夫ですよ。拷問されそうなときように仮死薬はもってますから。相手が殺すことで口を封じるように、私達も自害して口を塞げばいいんですよ。」

死人に口無し、は私達にも有効なんですから。と少し笑って続ける。

私達が自白剤で情報を得るように、敵も私達を拷問して情報を得ようとする。

だからこそ、自害することで情報を閉ざす。
自分が余計な危害を加えられることを抑え、相手へ情報を渡さない手段。

響かせるように、パンッと手を叩き、思考を強制的に停止させこちらに向かせる。

「ほら、皆心配させても面倒ですからウィール様。『私は毒なんて飲んでなかった』って証言頼みましたよ?一心、解毒薬。」

「こちらです。」

解毒薬を少し飲み、顔に出ない程度に調整する。

「ご無理はなさらないように。」

ニアが心配そうな顔で言う。一心はそんなニアを諫める。

「ニア、慣れてもらわねば困りますよ。貴女もマスターの側近なのですから、本来ならば毒を不意打ちで仕掛けるくらいしてもらわねばいけませんよ。」

それを聞いて、鋭く目を光らせた精霊王達。

「………………詳しく、後で聞かせてもらおうか。姫、一心。」

「もちろん!」

「お時間がありましたら。」

そのまま、私達は会場に戻った。
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