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精霊達の土地編
閑話 ペカニブル王都では
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北の大国ペカニブル国。その国の王都では今、たった一つの話題で持ちきりだった。
情報には詳しい情報屋から、貴族様の情報なんて話題に上がらない平民まで、誰も彼もがそこら中で話していた。
『王弟が今代の精霊妃とその妹を情婦扱いしたらしい。そのせいで世界樹ウィール様を始めとした精霊王達は、緑のドレスと相まって怒り狂っているとか。』
誰かが話している。
「おい聞いたか、精霊妃しか着てはいけない緑のドレスをお貴族様が着ていたんだろう?」
「もちろん聞いたさ。俺達平民に白のドレスを作らせて、自力で緑の染料で染めてまで着たんだってさ。精霊妃様のことを貴族様方は信じちゃいないが、毎年城に来てくださるウィール様は精霊妃様の愛し子なのになあ。」
「お貴族様はウィール様の怒りが怖くないのか?」
「さあな。だけどよう、精霊妃様と妹君を情婦扱いはよくねぇよな。」
「………この国はもう終わりだな、ウィール様の怒りを買って平凡な人生はおくれねえ。」
「やっぱそうだよな!もう終わりだ!」
「クソっ。王弟があんな事しなきゃよかったのによ!」
「クッソ!国王は何やってんだ!」
また、ある平民がふとこぼした。
「ねえあんた聞いたかい?すぐそこの染織工房で働いていた奴が、白いドレスを緑に染めて工房を追放されて捕まったとか。世界樹のウィール様に逆らうもんじゃないねー。」
「そりゃ当然さ!ウィール様は私達の畑や田んぼに祝福を与えておいしくしてくれるんだ。あたしらがこうして元気でいられるのも、ウィール様が祝福してくれるおかげさ!感謝しないとね。」
小首をかしげた子供が問う。
「ねーねーおかーさん。ウィール様のしゅくふくって何?」
「ウィール様がご自身の魔力を土地に流して、野菜や果物をおいしくしてくれることさ。あんた、モモは好きかい?」
「うん!甘くてとってもおいしいんだ!」
「桃が甘くてとってもおいしいのは、ウィール様のおかげなんだよ。食べ物を食べたらお腹がいっぱいになるだろう?それもウィール様のおかげさ。」
「おやそうなのかい?そこまでは知らなかったよ。」
「そうさ。ウィール様の祝福が無ければ、あたしらがどんだけ食べたところで、味もしなけりゃ栄養ないし腹もふくれない。あたしらはウィール様の祝福がないところでは生きていけないのさ。」
「お貴族様はそんな方を怒らせちまったのかい!怖いね―どうなっちまうんだか。」
「あたりらが出来るのは、この土地を見放さないでくださるよう祈るだけさね。」
町の中心にある城では、ささやく声で満ちていた。
そんな城の茶会室では、貴族の令嬢が話している。
「皆様聞きまして?最近、緑のドレスを着ていたご令嬢方に不可解なことが起きているとか。」
「もちろん聞きましたわ!わたくしが聞いたのは、雨も降っていないのに目の前でご自分の屋敷に雷が落ちて崩れた話ですわ。」
「まぁ、わたくしが聞いたのは緑のドレスを着て夜会に出た方が、参加者全員が丁度来たときにドレスがほどけた話ですわ。目の前でドレスが糸に戻ってしまいましたの。驚きましたわ。」
「わたくしもこの目で見ましたわ!夜会に出た時、目の前で誰も触っていない窓が開いて、緑のドレスを着たご令嬢に無数の切り傷が出来たんですの。わたくしの夫は魔法に詳しくて、一緒にいたので聞いたのですけれど風によるものだとか。」
「まぁ恐ろしい、早く犯人が捕まればいいのですけれど。」
「本当ですわね。怖くて安心して眠れませんわ。」
緑のドレスを着た令嬢方は、そう話す。
バン!と派手な音を立てて窓が開かれる。季節は秋、涼しい風が通り抜ける。
しかし令嬢たちには冷たすぎたようで。
「ね、ねぇ皆様、少し風が冷たすぎません事?」
「そ、そうですわね。そこの侍従!閉めなさい。」
ある令嬢が侍従に命じる。銀髪に少し水色がかかったその侍従は、無表情のまま
「断る。我が主は精霊妃のみなのでな。緑の意味を知りながらその身に纏う愚か者には制裁を。」
と言い放った。
1日ほどたった後、帰ってこない娘を不審に思った親族達に言われて見に来た騎士は、氷漬けの部屋に苦戦したとか。
ささやき声すら鮮明に聞こえる中、嫌なそれらの声をかき消すように謁見の間からは怒号が響き渡っていた。
「ザガスト!なぜわしに呼び出されたかは理解しているだろうな!」
「もちろんです兄上、少し落ち着いてはいかがかと。私の愚息の処分が決定したのでしょう?穀潰しには処刑がふさわしいと思うのですが。」
「そんなことではない!其方異世界人の召還をしたそうではないか!それだけでも重罪だというのに、呼び出した精霊妃様と妹君を情婦扱いだと!息子の処遇の前に己の罪深さを考えよ!」
「はぁ。兄上、よくお考え下さい。精霊妃様が異世界人である訳ないでしょう。この大陸を守る守護者が異世界人など……。無能な異世界人に大陸が守れるとは考えられません。兄上もそうでしょう?」
「精霊妃様は我らを守って下さっているにもかかわらず何を言っている!精霊妃様は生まれる前の神々の領域で選ばれる。今代の精霊妃様は神々の手違いで別の世界に生まれ、この世界に今年来られる予定だと昨年ウィール様が仰っていただろう!其方は何を聞いていた!」
「兄上こそあんな男一人に何をへりくだっているのです!出自も分からぬ者に国王が頭を下げるなどおやめください!国の品格が下がります!」
「其方は……!」
「兄上こそ………!」
醜く映る口論は、国王の侍従が時間を知らせ、終了したとか。
誰かが嘆いた。
「旅商人を口止めしなくては。」
誰かが呟いた。
「まだだ、まだ耐えなくては。」
誰かが、ゾッとするほど残酷で、見惚れるほど美しい顔で、嘲笑った。
情報には詳しい情報屋から、貴族様の情報なんて話題に上がらない平民まで、誰も彼もがそこら中で話していた。
『王弟が今代の精霊妃とその妹を情婦扱いしたらしい。そのせいで世界樹ウィール様を始めとした精霊王達は、緑のドレスと相まって怒り狂っているとか。』
誰かが話している。
「おい聞いたか、精霊妃しか着てはいけない緑のドレスをお貴族様が着ていたんだろう?」
「もちろん聞いたさ。俺達平民に白のドレスを作らせて、自力で緑の染料で染めてまで着たんだってさ。精霊妃様のことを貴族様方は信じちゃいないが、毎年城に来てくださるウィール様は精霊妃様の愛し子なのになあ。」
「お貴族様はウィール様の怒りが怖くないのか?」
「さあな。だけどよう、精霊妃様と妹君を情婦扱いはよくねぇよな。」
「………この国はもう終わりだな、ウィール様の怒りを買って平凡な人生はおくれねえ。」
「やっぱそうだよな!もう終わりだ!」
「クソっ。王弟があんな事しなきゃよかったのによ!」
「クッソ!国王は何やってんだ!」
また、ある平民がふとこぼした。
「ねえあんた聞いたかい?すぐそこの染織工房で働いていた奴が、白いドレスを緑に染めて工房を追放されて捕まったとか。世界樹のウィール様に逆らうもんじゃないねー。」
「そりゃ当然さ!ウィール様は私達の畑や田んぼに祝福を与えておいしくしてくれるんだ。あたしらがこうして元気でいられるのも、ウィール様が祝福してくれるおかげさ!感謝しないとね。」
小首をかしげた子供が問う。
「ねーねーおかーさん。ウィール様のしゅくふくって何?」
「ウィール様がご自身の魔力を土地に流して、野菜や果物をおいしくしてくれることさ。あんた、モモは好きかい?」
「うん!甘くてとってもおいしいんだ!」
「桃が甘くてとってもおいしいのは、ウィール様のおかげなんだよ。食べ物を食べたらお腹がいっぱいになるだろう?それもウィール様のおかげさ。」
「おやそうなのかい?そこまでは知らなかったよ。」
「そうさ。ウィール様の祝福が無ければ、あたしらがどんだけ食べたところで、味もしなけりゃ栄養ないし腹もふくれない。あたしらはウィール様の祝福がないところでは生きていけないのさ。」
「お貴族様はそんな方を怒らせちまったのかい!怖いね―どうなっちまうんだか。」
「あたりらが出来るのは、この土地を見放さないでくださるよう祈るだけさね。」
町の中心にある城では、ささやく声で満ちていた。
そんな城の茶会室では、貴族の令嬢が話している。
「皆様聞きまして?最近、緑のドレスを着ていたご令嬢方に不可解なことが起きているとか。」
「もちろん聞きましたわ!わたくしが聞いたのは、雨も降っていないのに目の前でご自分の屋敷に雷が落ちて崩れた話ですわ。」
「まぁ、わたくしが聞いたのは緑のドレスを着て夜会に出た方が、参加者全員が丁度来たときにドレスがほどけた話ですわ。目の前でドレスが糸に戻ってしまいましたの。驚きましたわ。」
「わたくしもこの目で見ましたわ!夜会に出た時、目の前で誰も触っていない窓が開いて、緑のドレスを着たご令嬢に無数の切り傷が出来たんですの。わたくしの夫は魔法に詳しくて、一緒にいたので聞いたのですけれど風によるものだとか。」
「まぁ恐ろしい、早く犯人が捕まればいいのですけれど。」
「本当ですわね。怖くて安心して眠れませんわ。」
緑のドレスを着た令嬢方は、そう話す。
バン!と派手な音を立てて窓が開かれる。季節は秋、涼しい風が通り抜ける。
しかし令嬢たちには冷たすぎたようで。
「ね、ねぇ皆様、少し風が冷たすぎません事?」
「そ、そうですわね。そこの侍従!閉めなさい。」
ある令嬢が侍従に命じる。銀髪に少し水色がかかったその侍従は、無表情のまま
「断る。我が主は精霊妃のみなのでな。緑の意味を知りながらその身に纏う愚か者には制裁を。」
と言い放った。
1日ほどたった後、帰ってこない娘を不審に思った親族達に言われて見に来た騎士は、氷漬けの部屋に苦戦したとか。
ささやき声すら鮮明に聞こえる中、嫌なそれらの声をかき消すように謁見の間からは怒号が響き渡っていた。
「ザガスト!なぜわしに呼び出されたかは理解しているだろうな!」
「もちろんです兄上、少し落ち着いてはいかがかと。私の愚息の処分が決定したのでしょう?穀潰しには処刑がふさわしいと思うのですが。」
「そんなことではない!其方異世界人の召還をしたそうではないか!それだけでも重罪だというのに、呼び出した精霊妃様と妹君を情婦扱いだと!息子の処遇の前に己の罪深さを考えよ!」
「はぁ。兄上、よくお考え下さい。精霊妃様が異世界人である訳ないでしょう。この大陸を守る守護者が異世界人など……。無能な異世界人に大陸が守れるとは考えられません。兄上もそうでしょう?」
「精霊妃様は我らを守って下さっているにもかかわらず何を言っている!精霊妃様は生まれる前の神々の領域で選ばれる。今代の精霊妃様は神々の手違いで別の世界に生まれ、この世界に今年来られる予定だと昨年ウィール様が仰っていただろう!其方は何を聞いていた!」
「兄上こそあんな男一人に何をへりくだっているのです!出自も分からぬ者に国王が頭を下げるなどおやめください!国の品格が下がります!」
「其方は……!」
「兄上こそ………!」
醜く映る口論は、国王の侍従が時間を知らせ、終了したとか。
誰かが嘆いた。
「旅商人を口止めしなくては。」
誰かが呟いた。
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誰かが、ゾッとするほど残酷で、見惚れるほど美しい顔で、嘲笑った。
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