異世界情報収集生活

スカーレット

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精霊達の土地編

25.世界樹様との歓談

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森の中をどんどん進んでいく。何となく精霊たちが多いのは分かるが、まったく見えない。
しかし精霊たち以外もいるようで、人のような気配もする。

「姫様!ここだよ!」

「世界樹ウィール様、お連れいたしましたぞ。」

二人がそう話した先にはとても青い大樹があった。高く、神聖な感じがする。

…一体これほどまでになるにはどのくらい時間がかかるんだろうか。

ヒュッと息をのむ音がする方を見るとニアが固まっていた。
そうだな。これほどまでだと神聖を通り越して恐怖すら感じるだろう。

心なしか小刻みに震えているニアを片腕で抱き寄せて、世界樹様にあいさつをしている精霊王達の傍に行く。

世界樹と呼ばれる大樹の近くに行くと私の下だけに草木が茂り、私を上に押し上げていく。

「マスター!!」

まるで敵の組織に自ら捕まっていく私を呼び止めるような声。

落ち着かせるように柔らかく微笑み、私を持ち上げようとする草木に問う。

「彼女もいっしょに持ち上げてくれないかい?私の可愛い娘でね。安心させてやりたいんだ。」

風に揺られてカサカサと揺れる大樹。
ニアは警戒を強めて、私はそんなニアを抱きしめる力を強めて草木の答えを待った。

少しして、ゆっくりと丈夫そうな植物で出来た籠が降りてきた。
先に乗る私が出した手を見てなお警戒するニアに、ラトネスとダーネスが声をかける。

「ニア、大丈夫ですよ。世界樹様が呼んでいるだけです。姫にはこれから姫様は私達が分けた力で、世界中の人の子や精霊達に向けて見えるように光の柱を立てるんです。その補助を世界樹様が行います。」

「本来であれば、姫が力を暴走させたときに被害を受けないために姫以外は近寄れない。だがその様子じゃ、お前が心配で姫が暴走する可能性の方が高いと判断されたようだ。いってこい。」

「………皆様の様子や言動からこの大樹が世界樹である可能性は99%です。しかし、皆様が信頼しているからという理由では安心できません。ご不快かと思いますが、世界樹様が攻撃してこない確証などどこにもないのですから。」

ニアの言うことも一理あるが、それよりも。

「言外に私じゃ世界樹様が攻撃してきたときに、ニアを守り切れないといいたいの?私はニアや一心を守るために強くなったつもりなんだけどねぇ。」

「そのようなつもりではありません!そしてマスターは守る側ではなく守られる側だということをご自覚ください!」

やなこった、と言いたいところだけど………。
今日一番のニッコリ笑顔で言う。

「じゃあニアがちゃーんと守ってよ。よろしく!」

そのままニアをお姫様抱っこで持ち上げ、籠に乗る。
驚いて固まった後、諦めたように息を吐くニア。

おでこの右上あたりに手を置いて軽く頭を振るため息の仕方は一心にそっくりで、じんわり嬉しくなる。
兄妹だね~。

籠の中は見た目通り私とニアが乗っても危なっかしい様子は全くなく、安心して上に上がった。
到着したのは世界樹の上の葉が広がっている部分。

その上には、アフタヌーンティーセットをいそいそと立派なテーブルに並べる青年がいた。

「「……………………。」」

紅茶を入れ、お菓子が積まれた三段のお皿のやつ(ケーキスタンドというらしい)を置き、個々にお皿とカラトリーを並べると、満足したようにこれまた立派な白い椅子に座る。
その姿には威厳がある………様に見えなくもない。

私はともかく、ニアも警戒を忘れて呆れたような視線を青年に向ける。

自分達が大樹の葉の部分にいることも忘れそうになるほど、しっかりとしたティーセットや白を基調にして金の飾り(本物の金が埋められている)がついた家具。そしてここは大樹は大樹でも「世界樹」の上だ。ここにいるのは十中八九世界樹の精霊ウィールだろう。

―――――今のこの瞬間、親と娘の心は一つになった。――――――

(「「何やってんだあんた………。」」)

これほどまでに脱力という言葉がしっくりくることはなかったと断言できる。

優雅に紅茶を飲み、小さくほくそ笑むウィール様。
大方これで準備万端だ!なんておもってんだろうなー。

「…ウィール様?もういいですかね。」

「姫!……いつからそこに?もしかして見てた?」

「私とマスターはウィール様がテーブルのセッティングをしているときからこの場にいました。」

「私の威厳が――。……はあ、いいやこっちおいで。柱は姫自身が基本やらないとだめだからね。説明ちゃんと聞きなよ?」

威厳もへったくれもないウィール様を前に少し警戒を解いたように見えるニア。

私はそれを指摘せずに、元気よく返事をする。

「分かりました!…と、その前にニア!」

「お任せくださいマスター。世界樹ウィール様、少しの間ご起立願います。」

「どうかした?」

「いえ。ただ一心様と同じで、マスターの前にあるものは完璧でないと気が済まない性格なだけですので、どうぞお気になさらず。」

そういうとニアは、ウィール様とは全く違うテキパキとした動きでテーブルクロスを引いていく。

「マスター、こちらに。ウィール様はこちらです。」

おそらく、ニアはテーブルクロスのしわやカラトリーの場所などが許せなかったのだろう。一心もそうだったし、毒の有無も確認がてら整えてもらおうかな。

ニアに引いてもらった椅子に座り、ニアの行動を観察する。

紅茶は昨夜練習したといった魔法でお湯を沸かすと紅茶を準備し、その間にカラトリーと食器を私達二人の前に並べる。もちろんガチャガチャとした音は一切ない。三段に並んだお菓子はルール通りに上下に移動させ、丸々と乗っていたホールのケーキは小さめに切られて並べられた。
極めつけはタイミングよく温度調整が終わった紅茶。

「お待たせいたしましたマスター。どうぞ。」

音も無く私の前に置かれる淹れ立ての紅茶。うん、おいしい。

「……すごくおいしいよ、ニア君どうやって入れたんだい?」

「おそらくウィール様が思っている以上に紅茶は様々なことで味が変化しますので、今教えても無駄になるかと。」

「そうか、残念。」

ニアの紅茶で一息ついたところで、本題に入ろうか。
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