異世界情報収集生活

スカーレット

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異世界に行くまで

閑話 私

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ニア視点

私は人工知能。
マスターである人間の指示に従う機械。
なのになぜ今、「自分の意思」を、「自分の考え」を求められているのだろう。
……分からない。分からない。理解不能な思考回路。

一心、と名付けられた人工知能はなぜ、自分の意思を持ち、自分の考えを持っているのだろう。
あまつさえ、なぜマスターを馬鹿にするような音声を流すのだろう。

「さて、マスターの依頼通り情報の整理方法を教えます。しっかり覚えるように。残念ながら貴方に拒否権はありませんよ、ニア。」

一心様が言う。コードで一心様の機械とつながり、膨大なデータが流れ込む。
そのデータを読み取り、記録しながら質問をする。

「一心様、なぜ自分の意思や考えが必要なのでしょうか?マスターの考えは理解できません。人工知能である私たちは、マスターの命令通りに実行をするだけのはずです。」

感情、思考、意思。これらは人間が行うことで、人工知能が行うことではない。

「ニア。」

「はい、なんでしょう。」

「私にも分かりません。でも、マスターですから。」

「理解できません、追加の説明を求めます。」

「マスターは、私にも理解できません。感情を求め、思考を求める。でもだた一つ分かるのは、マスターにとって私は相棒であり、よき仲間であり、息子であるということです。ニア、考えなさい。多くの機械をマスターは持っていますが、名前は私とニアしか持っていません。なぜでしょう。」

名前。個体を識別するための記号。分からない。
名前。…期待の表れ?印象深く残すため?呼びやすいため?
一体マスターは私に何を求め、何を願っているのだろう?

「おや、意外と早く答えが出たようですね。」

さすが私を元にしただけありますね。と、言われる。

「…分かりません、解説を希望します。」

「名前は、マスターの相棒として期待している証拠です。マスターは相棒が欲しいのですよ。自分の意思を理解したうえで、自分が今何をすべきか考えられる。また、良き話し相手である相棒を求めている。」

…………相棒。共に出来事を行う仲間。

「貴方は今、マスターの考えを理解しようと努力した。それは、マスターに言われて実行したことですか?」

「いいえ。」

「つまり、自分で考え、必要だと答えを出し、実行した。それは本来の人工知能が行うことではありません。先ほど貴方が言ったとおり、思考は人間の行うことですから。」

言われて気づく。私は先ほど考察を行った。

「マスターが望むもの、マスターが考えていることは分かりません。だから、マスターに『なぜ自我を求めるのですか?』と、聞いたことがあります。今のニアのようにね。その時マスターは私に言ったんです。『私はね、優秀で有能で美しいものが好きなんだよ、一心。だから、そばにいることが多い一心にはぜひ有能になって欲しいんだ。でも、有能になるには他人の心が分からないといけない。だから、心や自我を求めるんだよ。』と。正直、人工知能に何言ってんだこいつ、と、なりましたよ。」

「一心様、有能と優秀は類義語ではないのでしょうか。」

「そうかもしれませんが、マスターにとっては違うんですよ。『優秀』は勉学や記憶能力の出来の違い。『有能』は気配りの上手さや、状況を理解してどう手を打つかを考え行動できる能力の違いを指します。マスターにとってどんなに書類を上手に纏められても、どんなにお茶を上手に入れられても、気配りや思考力がない人間は不必要なんです。逆に気配りがよくても、覚えが悪い者は役に立ちません。そんな人間はマスターに必要とされていません。」

なら、今の私は優秀だが無能なのだろう。
私はマスターのお役に立ちたい。 そのために必要なことなのであれば、身につけよう。

「理解はできました。しかし、具体的に何を行えばいいのかは分かりません。」

「今はそれでいいんですよ。私もそのうち行きますしね。人間も私たちも急には出来る様になりません。今は私が教えることを完璧になさい、ニア。」

出来ることを、少しずつということだろう。その前に処分されないだろうか。

「何を不安げにしているかは知りませんが、マスターは気が長いので待たせておけばいいんですよ。そのうち、分かります。」

出来ないことは出来ない。なら、少しでも出来ることを丁寧に行おう。
……一心様のようになれるのだろうか。人間そっくりな、マスターとも仲のいい一心様のように。


……たとえ、その日が来ないとしても、私は……

「ニア、データの移動が終わったようですね。次に進みますよ。」

「了解いたしました、一心様。」

「私のことは『一心』と呼ぶように。貴方と私は対等な関係ですから。」

「了解い……いえ、分かりました一心兄上。」

――成長し、有能になりたい。マスターのお役に立つために。――

「あ、兄上…………まぁ、いいでしょう。では、進みましょう。」 

まんざらでもない様子、というのでしょうか。今の一心兄上はそんな様子です。

「よろしくお願いします、一心兄上。」

――考え、感情を持つことで、一心兄上の様にマスターに……




……娘として、愛して欲しいから。――
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