少年が気持ちよくなる方法

三木

文字の大きさ
上 下
40 / 97

40

しおりを挟む
 良はじっと裕司を見つめて、そっと髪に触れてきた。まだ遠慮がちに、ゆっくりと頭を撫でて、耳から首に指が流れていく。
 ──子どものくせに、やらしい触り方しやがって。
 内心で呟きながら、もう拒まなくてもよいのだと思うと、良のしたいようにさせてやりたい気持ちが勝った。
 好意があって、安心できる相手の肌に触れたい気持ちはよくわかったし、その対象が自分だというのは不思議な気持ちだったが、嬉しくこそあれ不快に思う理由はなかった。
 良はひとしきり裕司に触れて、おもむろに腕を回してくると、呟くように言った。
「……あんたに触ってると……安心して眠くなるんだけど……」
 その声がどこか申し訳なさそうな、言い訳じみた響きを持っていて、裕司は笑う。
「ほんと警戒心がないな、お前」
「……今さらどう警戒したらいいの」
 そう言われて、裕司は反論できなかった。彼の警戒を解くことに腐心していたのは自分だし、今でも己の欲望より、彼を守ることの方がずっと大切なことだった。
「……眠くなったら、ちゃんと寝ろよ。寝足りないとお前、本当危なっかしいからな」
 良はやけに幼い目で裕司を見る。その顔は確かに眠たそうに見えた。
「あんたって……なんでそんなに俺に優しくできるの……?」
「え……?」
「俺にいらついたり、腹が立つこと、ないの……」
 純粋に疑問だ、と言わんばかりの声で、裕司はそこにまた良のいびつさを見る。彼の人生で、誰も彼に無償の愛を注がなかったのだろうか、と、うがったことを考えた。
「……お前が俺を怒らせるようなことしないだけだろ」
 良は納得がいかないようだった。裕司も何をどう言葉にすればよいのかわからなくて、手の平で良の目を覆って額に口づけてやる。
「眠たいときはおとなしく寝とけ。……俺はちゃんとここにいるから」
 ややあって、囁きほどの声で、キスしてくれたら寝る、と言われた。
 わがままなやつだな、と思うと同時に、彼がそんなわがままを言ってくれるのが無性に嬉しい自分がいて、裕司は黙って唇を重ねた。
 おやすみのキスというには幾分熱っぽい、求め合うような口づけをして、強がっておやすみと囁くと、良は何も言わずに穏やかに目を閉じた。
 自分の中に溜まった熱のやり場がないことに嘆息しつつも、裕司は良の安らかな表情に笑ってしまう。彼は明らかに裕司を信頼しすぎていたし、あまりにも無防備だった。
 これほど信頼されたらとても裏切れないと、すっかり負けた気持ちでその寝顔をしばらく眺めて、起こさないようにそっと灯りを消す。そして睡魔の訪れを待つために、温かい身体を抱いて目を閉じた。

 翌朝アラームに起こされて、ベッドの上に良の姿がないことに気付いて裕司は飛び起きた。
 慌てて寝室を飛び出して、そしてすぐに立ち尽くす。
 いつも裕司が起きた後、午前中の間の仮の寝床であるリビングのソファで、良は穏やかに寝息を立てていた。
 何故そんなところで寝ているんだ、と思ったし、何故自分はこんなに慌てたんだ、とも思って、裕司はその場にしゃがみこむ。起き抜けにバタバタと慌てていた良をおかしなやつだと思っていたはずなのに、とても笑えなくなってしまった。
 落ち着いて考えてみれば、良が先に起きることがあっても何もおかしなことではなかったし、喉が渇いたりトイレに起き出すことだってあるはずだ。家の中にいなくて慌てるのならまだしも、隣に寝ていないというだけで血相を変えるのは明らかに尋常ではなかった。
 幸いなことに、裕司の立てた音で良が目を覚ました様子はなかった。裕司は深くため息をついて、ソファの脇まで行って良の寝顔を眺めた。
「……なんでここで寝てんだよ……」
 呟いて頬をつまんでも、良はむずがって顔を背けただけで起きなかった。規則正しい寝息が聞こえて、気持ちよさそうに寝やがって、と心の中で毒づいてみる。
 起き抜けからひどく疲労した気分だったが、二度寝する気にもなれなかった。良の毛布を掛け直してやって、またため息をつきながら台所に向かう。コーヒーが飲みたくて湯を沸かした。
 ──入れ込むにも程があるだろう。
 良が可愛いし大事だと思う。それは何も悪いことではないはずだが、裕司の中で良の存在が予想をはるかに超えて大きくなっていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-いけない人妻、隣人夫と秘蜜の遊び-

おととななな
BL
タイトル通りの内容となっておりますので、大丈夫な方はお進み下さい。 楽しんでいただけたら幸いです!

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

学祭で女装してたら一目惚れされた。

ちろこ
BL
目の前に立っているこの無駄に良い顔のこの男はなんだ?え?俺に惚れた?男の俺に?え?女だと思った?…な、なるほど…え?俺が本当に好き?いや…俺男なんだけど…

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜

ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。 高校生×中学生。 1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。

潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話

ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。 悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。 本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ! https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209

【完結】オメガの円が秘密にしていること

若目
BL
オメガの富永円(28歳)には、自分のルールがある。 「職場の人にオメガであることを知られないように振る舞うこと」「外に出るときはメガネとマスク、首の拘束具をつけること」「25年前に起きた「あの事件」の当事者であることは何としてでも隠し通すこと」 そんな円の前に、純朴なアルファの知成が現れた。 ある日、思いがけず彼と関係を持ってしまい、その際に「好きです、付き合ってください。」と告白され、心は揺らぐが…… 純朴なアルファ×偏屈なオメガの体格差BLです 18禁シーンには※つけてます

処理中です...