1 / 157
プロローグ1
しおりを挟む
私、生駒 縁は自宅にいた
夕食も風呂も洗い物も済ませ、寝る前にテレビを付けながら母の遺品整理をしていると足下が青色に光った
そう思った瞬間、ズドンッと凄まじい音と共に目の前が真っ白になり、一瞬で暗闇に包まれた
「嘘…」
携帯は何処に置いただろうか、勿論ひとり暮らしの部屋に懐中電灯なんて買っていない
きっと雷が落ちたのだろう
木造の古いアパートである家は数分もしないうちに火が回るのだろう
今すぐ逃げないとならないが、こんな暗闇の中では動くに動けない
確か机の左手側に携帯が…と手を伸ばして心臓が嫌な音をたてる
ない、机がない
宙をきる左手を伸ばして辺りを探っても手に触れる物が無い
手の届く範囲を探って腕をめいっぱい伸ばす
確か届きやすい位置に缶ビールを置いていた筈だ
「…ッ!?」
やっと手に触れたのは冷たくさわさわと揺れる物
「…草?」
そう、それは草、それも1本や2本ではない
暗闇に馴れてきた目には広がる草原のような…
しかしそんなはずはない
だって私がいるのは部屋の中、絨毯の上の筈だ
そう言えば心なしか呼吸がし辛い
まるで山頂にでもいるような空気の薄さだ
ソレと同時に肌寒さを感じてやはりここは屋外であるのだと理解する
すると、遠くからパカッパカッと馬の足音が聞こえる
慌ててさっと身を低くする
自分の現状が認識出来ないのだから仕方ない
こんな見知らぬ場所に座り込んでいるのかについては理解も説明も出来ない
たいまつのようなものを持った人が馬に乗って…いや、馬と合体して走り去っていった
あれは、私の知識が正しければ…
「ケンタウロス……」
私の呟きは暗闇に吸い込まれていった
数時間後私はフラリと立ち上がりケンタウロスの走り去った方向に歩き出した
あの出来事から初めての昼……
小さな町に忍び込んだ私
宿無し、職無し、金無しの私が何か出来るわけも無く…この町で底辺中の底辺
ホームレスのような町の汚点的存在になりつつある
人目につかないように逃げ回って辿り着いたのは寂れたスラム街のような場所だった
この世界はどうやら獣が二足歩行をして暮らしているらしい
始めは野生動物とかち合ってしまったのかと慌てたが、布を腰に巻いている獣たちはとてもシュールだった
まるで人間のように笑い合い、建ち並ぶ家に入って生活している奇妙な姿
但し、何を話しているのかが理解出来ない
獣の言葉なのだから当然だとは思う物の、まるで外国人同士が会話をしているかのように発音だけは聞こえるのだ
真似をするように口を開いてみれば、フグフグと口に何かを含んでいるかのような音しか出なかった
相変わらず肌寒さと息苦しさを感じたまま、歩き回った私の疲労は精神と共に限界に来ていた
何故か体は軽い状態である事が余計に疲労を加速させているのだろう
「ーーーーー?」
ふらふらと道端を歩いていると誰かが声をかけてきた
しかし生憎、何を言っているのかが理解出来ない
声をかけられているのは自分だろう、と心を決めて振り返ればそこにいたのは茶毛の兎だった
「ーーーーー」
兎は小さな鞄から器を取り出して宙から注ぎ出た水を器で受け止めた
そっと私の前に差し出した
器を受け取った私の手は皺だらけで、水に映った顔は酷く歳老いた老婆の姿
「ヒッ!?」
恐怖を感じて器を手放すと器と共に中の水も全てこぼれ落ちてしまった
「ーーー……」
そっと背中に添えられた手に縋りつきたい気持ちになる
兎は落ちてしまった器を拾って、もう一度宙から水を注いで私に差し出す
今度はギュッと目を瞑って器の水を少し口に含んだ
まるで獲れたてのリンゴを搾ったかのように甘い味が口の中に広がる
「ぉ……」
カラカラに乾いていた喉が潤っていく感覚に思わず呟いたが、空気が私の体を通過する事を拒否しているかのように音が出ない
「ーーー」
器を返すと手をそっと握られて誘導するように歩き出す兎
抵抗する力も無ければ、気力もない私はただ静かに着いていった
もしもこの兎が悪い兎だったとして、私を解剖して調べる目的があったとしてもどうせのたれ死ぬだけの存在だ
ちょっと優しくされた
そんな事で命を差し出すほどの馬鹿では無いつもりだったけれど、今は精神的に可笑しくなっているのかもしれない
「ーーーーー」
兎の声に顔を上げると目の前には教会のような建物が建っていた
掲げられているのは十字架ではなく、星のような形が描かれた旗だ
「ーーーーーー」
兎に催促されて中に入るの、ドラマでよく見る教会のように長椅子が列をなしている
しかし、一番前に掲げられているのはやはり十字架ではなく13の角を持つ星だった
「ーーー」
何やら呟いて目を閉じて祈る兎
組まれている手を見て、猿の指のようだと奇妙さがぶり返す
捧げる祈りなんてないし、神なんか信じちゃいないけど、兎の真似をするのが一番有効なのだろうと思いながら胸の辺りで手を組んで目を閉じる
そんな事をしていると辺りが光った様な気がして目を開けた
夕食も風呂も洗い物も済ませ、寝る前にテレビを付けながら母の遺品整理をしていると足下が青色に光った
そう思った瞬間、ズドンッと凄まじい音と共に目の前が真っ白になり、一瞬で暗闇に包まれた
「嘘…」
携帯は何処に置いただろうか、勿論ひとり暮らしの部屋に懐中電灯なんて買っていない
きっと雷が落ちたのだろう
木造の古いアパートである家は数分もしないうちに火が回るのだろう
今すぐ逃げないとならないが、こんな暗闇の中では動くに動けない
確か机の左手側に携帯が…と手を伸ばして心臓が嫌な音をたてる
ない、机がない
宙をきる左手を伸ばして辺りを探っても手に触れる物が無い
手の届く範囲を探って腕をめいっぱい伸ばす
確か届きやすい位置に缶ビールを置いていた筈だ
「…ッ!?」
やっと手に触れたのは冷たくさわさわと揺れる物
「…草?」
そう、それは草、それも1本や2本ではない
暗闇に馴れてきた目には広がる草原のような…
しかしそんなはずはない
だって私がいるのは部屋の中、絨毯の上の筈だ
そう言えば心なしか呼吸がし辛い
まるで山頂にでもいるような空気の薄さだ
ソレと同時に肌寒さを感じてやはりここは屋外であるのだと理解する
すると、遠くからパカッパカッと馬の足音が聞こえる
慌ててさっと身を低くする
自分の現状が認識出来ないのだから仕方ない
こんな見知らぬ場所に座り込んでいるのかについては理解も説明も出来ない
たいまつのようなものを持った人が馬に乗って…いや、馬と合体して走り去っていった
あれは、私の知識が正しければ…
「ケンタウロス……」
私の呟きは暗闇に吸い込まれていった
数時間後私はフラリと立ち上がりケンタウロスの走り去った方向に歩き出した
あの出来事から初めての昼……
小さな町に忍び込んだ私
宿無し、職無し、金無しの私が何か出来るわけも無く…この町で底辺中の底辺
ホームレスのような町の汚点的存在になりつつある
人目につかないように逃げ回って辿り着いたのは寂れたスラム街のような場所だった
この世界はどうやら獣が二足歩行をして暮らしているらしい
始めは野生動物とかち合ってしまったのかと慌てたが、布を腰に巻いている獣たちはとてもシュールだった
まるで人間のように笑い合い、建ち並ぶ家に入って生活している奇妙な姿
但し、何を話しているのかが理解出来ない
獣の言葉なのだから当然だとは思う物の、まるで外国人同士が会話をしているかのように発音だけは聞こえるのだ
真似をするように口を開いてみれば、フグフグと口に何かを含んでいるかのような音しか出なかった
相変わらず肌寒さと息苦しさを感じたまま、歩き回った私の疲労は精神と共に限界に来ていた
何故か体は軽い状態である事が余計に疲労を加速させているのだろう
「ーーーーー?」
ふらふらと道端を歩いていると誰かが声をかけてきた
しかし生憎、何を言っているのかが理解出来ない
声をかけられているのは自分だろう、と心を決めて振り返ればそこにいたのは茶毛の兎だった
「ーーーーー」
兎は小さな鞄から器を取り出して宙から注ぎ出た水を器で受け止めた
そっと私の前に差し出した
器を受け取った私の手は皺だらけで、水に映った顔は酷く歳老いた老婆の姿
「ヒッ!?」
恐怖を感じて器を手放すと器と共に中の水も全てこぼれ落ちてしまった
「ーーー……」
そっと背中に添えられた手に縋りつきたい気持ちになる
兎は落ちてしまった器を拾って、もう一度宙から水を注いで私に差し出す
今度はギュッと目を瞑って器の水を少し口に含んだ
まるで獲れたてのリンゴを搾ったかのように甘い味が口の中に広がる
「ぉ……」
カラカラに乾いていた喉が潤っていく感覚に思わず呟いたが、空気が私の体を通過する事を拒否しているかのように音が出ない
「ーーー」
器を返すと手をそっと握られて誘導するように歩き出す兎
抵抗する力も無ければ、気力もない私はただ静かに着いていった
もしもこの兎が悪い兎だったとして、私を解剖して調べる目的があったとしてもどうせのたれ死ぬだけの存在だ
ちょっと優しくされた
そんな事で命を差し出すほどの馬鹿では無いつもりだったけれど、今は精神的に可笑しくなっているのかもしれない
「ーーーーー」
兎の声に顔を上げると目の前には教会のような建物が建っていた
掲げられているのは十字架ではなく、星のような形が描かれた旗だ
「ーーーーーー」
兎に催促されて中に入るの、ドラマでよく見る教会のように長椅子が列をなしている
しかし、一番前に掲げられているのはやはり十字架ではなく13の角を持つ星だった
「ーーー」
何やら呟いて目を閉じて祈る兎
組まれている手を見て、猿の指のようだと奇妙さがぶり返す
捧げる祈りなんてないし、神なんか信じちゃいないけど、兎の真似をするのが一番有効なのだろうと思いながら胸の辺りで手を組んで目を閉じる
そんな事をしていると辺りが光った様な気がして目を開けた
1
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる