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第21話 焦り
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ソーニャと二人してレディナを無言で見上げた。
「あんたたちねぇ……まあいいわ。そんなこと話に来たんじゃないし」
「何しに来たにゃ?」
「お礼を言いに来たの……この間はありがとう。
ソーニャには、あたしとエフティアの決闘を止めないでくれたこと。アヴァル君には、あたしを助けようとしてくれたことと、エフティアを大事にしてくれてること。ありがとね」
「「……どうも」」
僕とソーニャは彼女の次の言葉を待つ。
「……それだけ。あの子のこと、よろしくね」
「待って。よろしくって、まるでもう自分は関わらないみたいな口ぶりだ。それは中途半端だよ」
「そうにゃそうにゃ!」
「今までも中途半端だったの。今さら変わらないよ……多分、あの子にはもうあたしは必要ない。あんたたちなら分かるでしょ? あの子の剣は、本当はすごいんだ。強い剣なんだ」
どこかあきらめたようなレディナを見ると、無性にもどかしくなってくる。
「君だって……強いくせに」
「あたしは、強くなんて……」
「僕は、この世界で最も強い剣使の一人を知っている――それは、未来のエフティアだ。その最強の剣を受け止めた君が強くないと本気で思っているのなら――」
――僕はいったいどうなる。
続く言葉を紡げずにいると、レディナが目線を合わせに来た。思わず身を引いてしまう。
「特待生くんにそこまで言われちゃあね――」
「レディナ……さん?」
「――なんて、なびくわけないでしょ。年下のくせに生意気」
「いてっ」
レディナに額を小突かれる。
彼女は後ろ手で手を振り、教卓の方へ歩いていった。
「説得しようと思ったんだけど、上手く話せなかった……」
「いにゃぁ、効いたにゃぁ」
「……そんなに痛くないよ?」
「そっちじゃなくて、あっちにゃ――」
促されるままに教卓の方を見ると、最前列に座っているエフティアに話しかけているレディナの姿があった。
エフティアはものすごく驚いた表情をしていたが、いつもの柔らかな笑顔を見せていた。
「――フテっち、ああいう顔で笑うんにゃ」
「うん」
そう、僕に笑いかける時の顔をレディナにも見せていた。
よかった、な。
「おぃ~ヴァルっち~」
「な、なに?」
「ほんといい顔するようになったにゃあ……うりうり」
「いでっ……なんで君まで……」
ソーニャがふわふわ拳をこめかみに押し付けてくる。ほんのりとした痛みと包むような心地よさが同居する不思議な感覚――何だか拒み切れない奥深さだった。
◆
リゼ=ライナザルは焦っていた。
教室の前後から漂ってくる甘やかな空気を肌で感じ取っていたからだ。
授業中も、休み時間中も――自分だけはどこにも混ざれない感覚。
(エフティアさんも、アヴァルさんも……ソーニャさんだって、ついこの最近まではわたくしと同じでしたのに……わたくしだけどうして――)
――苦手なお勉強も、頑張ってまいりました。剣術も、皆様のお手本になれるように努めてまいりました。私にはいったい、何が足りないのでしょう。
リゼは、タイトルに『美』と書かれた分厚い本の中にその答えを見つけようとしていた。が、その答えを見つける一文には、未だ出会えてはいなかった。
誰もいなくなってしまった教室の中で、夢中で本を読んでいたリゼだったが――
「ねえねえライナザルさん。なあに読んでんの?」
「うわぁ、難しそー。うちらにも内容教えてよ」
「えっ!? えぇーっ!?」
――突如訪れた他学生からの積極的な交流の機会。
リゼは、かつてない胸の高鳴りを感じるのだった。
「あんたたちねぇ……まあいいわ。そんなこと話に来たんじゃないし」
「何しに来たにゃ?」
「お礼を言いに来たの……この間はありがとう。
ソーニャには、あたしとエフティアの決闘を止めないでくれたこと。アヴァル君には、あたしを助けようとしてくれたことと、エフティアを大事にしてくれてること。ありがとね」
「「……どうも」」
僕とソーニャは彼女の次の言葉を待つ。
「……それだけ。あの子のこと、よろしくね」
「待って。よろしくって、まるでもう自分は関わらないみたいな口ぶりだ。それは中途半端だよ」
「そうにゃそうにゃ!」
「今までも中途半端だったの。今さら変わらないよ……多分、あの子にはもうあたしは必要ない。あんたたちなら分かるでしょ? あの子の剣は、本当はすごいんだ。強い剣なんだ」
どこかあきらめたようなレディナを見ると、無性にもどかしくなってくる。
「君だって……強いくせに」
「あたしは、強くなんて……」
「僕は、この世界で最も強い剣使の一人を知っている――それは、未来のエフティアだ。その最強の剣を受け止めた君が強くないと本気で思っているのなら――」
――僕はいったいどうなる。
続く言葉を紡げずにいると、レディナが目線を合わせに来た。思わず身を引いてしまう。
「特待生くんにそこまで言われちゃあね――」
「レディナ……さん?」
「――なんて、なびくわけないでしょ。年下のくせに生意気」
「いてっ」
レディナに額を小突かれる。
彼女は後ろ手で手を振り、教卓の方へ歩いていった。
「説得しようと思ったんだけど、上手く話せなかった……」
「いにゃぁ、効いたにゃぁ」
「……そんなに痛くないよ?」
「そっちじゃなくて、あっちにゃ――」
促されるままに教卓の方を見ると、最前列に座っているエフティアに話しかけているレディナの姿があった。
エフティアはものすごく驚いた表情をしていたが、いつもの柔らかな笑顔を見せていた。
「――フテっち、ああいう顔で笑うんにゃ」
「うん」
そう、僕に笑いかける時の顔をレディナにも見せていた。
よかった、な。
「おぃ~ヴァルっち~」
「な、なに?」
「ほんといい顔するようになったにゃあ……うりうり」
「いでっ……なんで君まで……」
ソーニャがふわふわ拳をこめかみに押し付けてくる。ほんのりとした痛みと包むような心地よさが同居する不思議な感覚――何だか拒み切れない奥深さだった。
◆
リゼ=ライナザルは焦っていた。
教室の前後から漂ってくる甘やかな空気を肌で感じ取っていたからだ。
授業中も、休み時間中も――自分だけはどこにも混ざれない感覚。
(エフティアさんも、アヴァルさんも……ソーニャさんだって、ついこの最近まではわたくしと同じでしたのに……わたくしだけどうして――)
――苦手なお勉強も、頑張ってまいりました。剣術も、皆様のお手本になれるように努めてまいりました。私にはいったい、何が足りないのでしょう。
リゼは、タイトルに『美』と書かれた分厚い本の中にその答えを見つけようとしていた。が、その答えを見つける一文には、未だ出会えてはいなかった。
誰もいなくなってしまった教室の中で、夢中で本を読んでいたリゼだったが――
「ねえねえライナザルさん。なあに読んでんの?」
「うわぁ、難しそー。うちらにも内容教えてよ」
「えっ!? えぇーっ!?」
――突如訪れた他学生からの積極的な交流の機会。
リゼは、かつてない胸の高鳴りを感じるのだった。
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