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第24話 太っている人に「太った?」と聞いちゃダメでしょ
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ある日のこと、俺はハカセに呼び止められた。
「あのさ、イチロー……」
「ハカセ、何?」
「まさかと思うんだけど、イチローって最近太ってきていない?」
「えっ?そんなはずはないと思うんだけど……」
太るわけないじゃん。
不老不死になってから体型が全く変わらないんだし。
「私にはそう見えるのよ。一応、ナカマツに確認してもらいましょう」
二人で医務室に向かい、ナカマツ氏の診察を受けてみた。
身長・体重・血液の成分などは定期的に検査しているので、その数値と比較することになる。
「イチロー君、確実に太ってるよ……これは一体どういうことなんだ?」
ナカマツ氏がそう言って首を傾げる。
ハカセの言ったとおり、どうやら太ってきているようなのだ……。
そのとき、訓練室の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
怪我の可能性もあるので、一旦話を中断して訓練室へ向かう。
「やった!ついにサクラに一撃を入れたぞ!」
「…………」
興奮して飛び跳ねているカトー氏と、無言でうなだれているサクラ氏の姿がその事実を物語っていた。
当然ハンデは付けていたと思うのだが、それにしてもサクラ氏が一撃をもらってしまうなんて……。
「これはもしかして……。サクラ君、ちょっと医務室まで来てください」
ナカマツ氏は落ち込んでいるサクラ氏を抱えて医務室に連れて行く。
俺が太った件と何か関係があるのだろうか……。
俺と同じ様に血液を採取し、真剣な表情で成分分析を始めた。
――
3日後、俺達全員は会議室に集合した。
そして、ナカマツ氏から驚愕の事実が明かされた。
「イチロー君とサクラ君の血液を分析したところ、2人の不老不死が弱くなっていることが判明しました」
「ナカマツ、それはどういうことなんだ!?」
ボス氏が大声を上げる。
「先日、ハカセ君がイチロー君の体型が太ってきていることに気付きました。また、あの無敵だったサクラ君がカトー君に一撃を入れられるという事件もありました。そこで私は2人の血液を分析し、不老不死の原因となっている回復能力が減少していることを確認しました。イチロー君は40%、サクラ君は30%程度の減少が見られます」
「やはり……不老不死が解除されつつあるということかしら?」
どうやら、ハカセは確信していたようだ。
『これで大人になれる』という期待を込めた真剣な眼差しでナカマツ氏を見つめている。
「そうですね。サクラ君がカトー君に一撃を入れられた件も、サクラ君が徐々に弱くなっているという事なんだと思います」
「くそう、俺が強くなったからじゃなかったのか……不老不死解決が見えたのは嬉しいことなんだが、素直に喜べないな」
そう言って悔しがるカトー氏を見て、ニヤニヤするサクラ氏。
「原因は……恐らく炭酸飲料ね。2人の共通点といったらそれしかないじゃない」
ハカセが自信満々で言い切った。
「えっ、私はそれほどコーラを飲んでいないけど?」
驚いたサクラ氏が反論する。
「サクラは毎日ビールを飲んでいるじゃない?あれだって炭酸飲料でしょ」
「あ、そうか。水みたいな感じで飲んでたから、炭酸だって忘れてたわ」
「ハカセ君の言う通り、炭酸飲料が理由なのだろうと思う。何にしても、私達は探していた特効薬が見つけたということになるね」
「これで大人になれるのね……」
ハカセは俯いて涙を滲ませている。
その姿を見て、俺も涙が溢れてきた。
いつの間にか全員集まって、抱き合って大声で泣いた。
俺達最大の目標はついに達成されたのだ!
「イチロー、お前よくコーラを持ち帰ったよな。イチローが舌貧乏で良かったぜ」
「サクラ氏、それは褒めているのか?馬鹿にされているようにしか聞こえないんだが。というか、サクラ氏も似たようなもんじゃないか」
「もちろん褒めてるさ。それとハカセも……イチローが太ったことに気づいたのは凄いぞ。あ~そういうことか~」
サクラ氏はニヤニヤしながら、ハカセの耳元で何かを呟いた。
ハカセはみるみる真っ赤な顔になって、サクラ氏をポコポコ叩き出した。
「もう、サクラ!」
「ぎゃはは。た~す~け~て~」
大爆笑しながら、サクラ氏がハカセから逃げる。
それを見ながら、皆も大爆笑をしている。
不老不死になって10年と半年くらいか……。
早かったのか遅かったのかは分からないけど、やっとここまで来たのだ。
そして、共に歩んできたのがこの仲間たちで本当に良かったと思う。
「ところでイチロー君、サクラ君、君たちは毎日どれくらいの炭酸飲料を飲んでいるんだい?」
盛り上がりが一段落したあと、ナカマツ氏がそう訪ねてきた。
「俺は……500mlのペットボトルで7~8本くらいかな……」
「私は缶ビール10本くらいかしら……って、イチローは意外と少ないのね」
「サクラ氏の胃袋と一緒にしないでほしいんだが……」
「なるほどね。イチロー君の方が飲んでいないにも関わらず、より解除されているのは単純に二酸化炭素の摂取量によるものかもしれないね。しかもトータルで結構な量を飲んでいることを考えると、解除はかなりゆるやかなのだろう」
「ということは、少しずつ飲んでいけば不老不死の度合いをコントロールできるっていうことかしら?」
「その可能性が高いです。例えば50%に調整したとすると、歳を取るスピードを半分にできるかもしれませんね」
ナカマツ氏がそう言うと、ハカセが俺の顔をチラっと見て何やら考え込んでいた。
「あのさ、イチロー……」
「ハカセ、何?」
「まさかと思うんだけど、イチローって最近太ってきていない?」
「えっ?そんなはずはないと思うんだけど……」
太るわけないじゃん。
不老不死になってから体型が全く変わらないんだし。
「私にはそう見えるのよ。一応、ナカマツに確認してもらいましょう」
二人で医務室に向かい、ナカマツ氏の診察を受けてみた。
身長・体重・血液の成分などは定期的に検査しているので、その数値と比較することになる。
「イチロー君、確実に太ってるよ……これは一体どういうことなんだ?」
ナカマツ氏がそう言って首を傾げる。
ハカセの言ったとおり、どうやら太ってきているようなのだ……。
そのとき、訓練室の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
怪我の可能性もあるので、一旦話を中断して訓練室へ向かう。
「やった!ついにサクラに一撃を入れたぞ!」
「…………」
興奮して飛び跳ねているカトー氏と、無言でうなだれているサクラ氏の姿がその事実を物語っていた。
当然ハンデは付けていたと思うのだが、それにしてもサクラ氏が一撃をもらってしまうなんて……。
「これはもしかして……。サクラ君、ちょっと医務室まで来てください」
ナカマツ氏は落ち込んでいるサクラ氏を抱えて医務室に連れて行く。
俺が太った件と何か関係があるのだろうか……。
俺と同じ様に血液を採取し、真剣な表情で成分分析を始めた。
――
3日後、俺達全員は会議室に集合した。
そして、ナカマツ氏から驚愕の事実が明かされた。
「イチロー君とサクラ君の血液を分析したところ、2人の不老不死が弱くなっていることが判明しました」
「ナカマツ、それはどういうことなんだ!?」
ボス氏が大声を上げる。
「先日、ハカセ君がイチロー君の体型が太ってきていることに気付きました。また、あの無敵だったサクラ君がカトー君に一撃を入れられるという事件もありました。そこで私は2人の血液を分析し、不老不死の原因となっている回復能力が減少していることを確認しました。イチロー君は40%、サクラ君は30%程度の減少が見られます」
「やはり……不老不死が解除されつつあるということかしら?」
どうやら、ハカセは確信していたようだ。
『これで大人になれる』という期待を込めた真剣な眼差しでナカマツ氏を見つめている。
「そうですね。サクラ君がカトー君に一撃を入れられた件も、サクラ君が徐々に弱くなっているという事なんだと思います」
「くそう、俺が強くなったからじゃなかったのか……不老不死解決が見えたのは嬉しいことなんだが、素直に喜べないな」
そう言って悔しがるカトー氏を見て、ニヤニヤするサクラ氏。
「原因は……恐らく炭酸飲料ね。2人の共通点といったらそれしかないじゃない」
ハカセが自信満々で言い切った。
「えっ、私はそれほどコーラを飲んでいないけど?」
驚いたサクラ氏が反論する。
「サクラは毎日ビールを飲んでいるじゃない?あれだって炭酸飲料でしょ」
「あ、そうか。水みたいな感じで飲んでたから、炭酸だって忘れてたわ」
「ハカセ君の言う通り、炭酸飲料が理由なのだろうと思う。何にしても、私達は探していた特効薬が見つけたということになるね」
「これで大人になれるのね……」
ハカセは俯いて涙を滲ませている。
その姿を見て、俺も涙が溢れてきた。
いつの間にか全員集まって、抱き合って大声で泣いた。
俺達最大の目標はついに達成されたのだ!
「イチロー、お前よくコーラを持ち帰ったよな。イチローが舌貧乏で良かったぜ」
「サクラ氏、それは褒めているのか?馬鹿にされているようにしか聞こえないんだが。というか、サクラ氏も似たようなもんじゃないか」
「もちろん褒めてるさ。それとハカセも……イチローが太ったことに気づいたのは凄いぞ。あ~そういうことか~」
サクラ氏はニヤニヤしながら、ハカセの耳元で何かを呟いた。
ハカセはみるみる真っ赤な顔になって、サクラ氏をポコポコ叩き出した。
「もう、サクラ!」
「ぎゃはは。た~す~け~て~」
大爆笑しながら、サクラ氏がハカセから逃げる。
それを見ながら、皆も大爆笑をしている。
不老不死になって10年と半年くらいか……。
早かったのか遅かったのかは分からないけど、やっとここまで来たのだ。
そして、共に歩んできたのがこの仲間たちで本当に良かったと思う。
「ところでイチロー君、サクラ君、君たちは毎日どれくらいの炭酸飲料を飲んでいるんだい?」
盛り上がりが一段落したあと、ナカマツ氏がそう訪ねてきた。
「俺は……500mlのペットボトルで7~8本くらいかな……」
「私は缶ビール10本くらいかしら……って、イチローは意外と少ないのね」
「サクラ氏の胃袋と一緒にしないでほしいんだが……」
「なるほどね。イチロー君の方が飲んでいないにも関わらず、より解除されているのは単純に二酸化炭素の摂取量によるものかもしれないね。しかもトータルで結構な量を飲んでいることを考えると、解除はかなりゆるやかなのだろう」
「ということは、少しずつ飲んでいけば不老不死の度合いをコントロールできるっていうことかしら?」
「その可能性が高いです。例えば50%に調整したとすると、歳を取るスピードを半分にできるかもしれませんね」
ナカマツ氏がそう言うと、ハカセが俺の顔をチラっと見て何やら考え込んでいた。
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