はじけろ!コーラ星人 ~残念宇宙人が地球にやってきた~

文字の大きさ
上 下
19 / 40

第18話 脳筋科学者と激弱格闘家

しおりを挟む
 今日の食堂は異様な雰囲気だった。
 戦闘服を着たハカセと、白衣を着た大人しいサクラ氏が本を読んでいる姿を目にするからだ。
 サクラ氏が本を読む姿なんて、二度と見ることはできないだろうから貴重な瞬間であることは間違いない。

 エディ氏が面白がって写真を撮っていたが、さすがにボス氏に怒られていた。
 そりゃそうだ。誰のせいだと思ってる?

 そういう俺、イチローも催眠術の本を買ってきた張本人なので、さっきまでボス氏に怒られていた。
 確かに買ってきたけど……まさか本当にやるとは思わないよね。
 この手のトラブルが起きると、いつも俺のせいにされている気がするんだよな……。
 
 さて、問題の二人だが……解決方法が分からないので、しばらく様子を見ることになった。
 女性同士なのでシャワーやトイレの問題が無いというのが、せめてもの救いだ。

「なんで酒がダメなのよ?いつも飲んでるだろ!ケチ!ハゲ!悪人顔!」(注:ハカセ)

 そう言ってボス氏に食ってかかっているのがハカセ。どうやら、酒を飲もうとしてボス氏に止められたようだ。
 サクラ氏は大食いなのだが……そこは本能が拒否したのか、酒だけを要求していた。
 ボス氏が酒を止めるのは当たり前なのだが、娘のようにかわいがっていたハカセが悪口を言うもんだから、今まで見たこと無いような落ち込み方をしている……。

 一方でサクラ氏は……酒も飲まず、少量の食事を礼儀正しく食べ、食堂の隅で何やら難しい本を読んでいる。
 よく見ると眼球は動いていないので、本は見ているだけで読んではいないのだろう。
 本体はサクラ氏なので、内容の理解はできないだろうし。

 食後、ハカセがカトー氏に何やら話している。

「カトー、食後の運動に付き合ってちょうだい。軽く組手でもするわよ!」(注:ハカセ)

 カトー氏の目が泳いで、必死に俺の方を探した。
 そりゃそうだ。ハカセに怪我でもさせたら何を言われるか分かったもんじゃないからね。
 
 結局、ハカセに引きずられて訓練室に向かうカトー氏。
 仕方がないので俺も見学をさせてもらうことにする。

「じゃあいくわよ!準備はできてる?」(注:ハカセ)

 そう言って裸足になり、サクラ氏と同じ構えをするハカセ。
 サクラ氏は感覚派なので、訓練のときは裸足になることが多い。

 催眠術とはいえ、なかなか細かいところまで再現できている。
 得意分野は全く違うのだが、普段からよく見ていることが伺える。

「ちょっとまった!」

 カトー氏が慌てて止めてハカセに駆け寄る。

「何なんだ!早く構えろよ!」(注:ハカセ)

「サクラ、親指は握り込んじゃだめだ……怪我をするからな。親指は外に出して……そう、そうやって握るんだ」

 カトー氏がハカセの拳を直す。
 そうか、こういう細かいことまでは知らないだろうから、再現はできないのか。

「カトー、あんたも結構細かいのね。拳がダメなら足で蹴ればいいじゃない!」(注:ハカセ)

「…………。まあいいか、準備オッケーだ」

「じゃあ、いくわよ!サクラ様の妙技を味わえ!」(注:ハカセ)

 ハカセがカトー氏に向かって突撃していく。
 そして、カトー氏に攻撃が当たるのだが……ポコンポコンとマヌケな打撃音が聞こえてくる。
 カトー氏はというと、直立不動でただ攻撃を受け続けている。

 どれだけサクラ氏になりきろうとも、やはりハカセはハカセなのだ。
 ひとしきり攻撃をして息の上がったハカセは、無表情で立ち尽くしているカトー氏に向かって衝撃の一言を放つ。

「今日はこのくらいにしておいてやる」(注:ハカセ)

 ――

 放心状態で立ち尽くすカトー氏を訓練室に放置し、俺はハカセの研究室にやってきた。
 当然のようにサクラ氏が座っており、何かの作図作業をしていた。
 
「あ、イチロー。お茶でも入れるから、そこに座って」(注:サクラ)

 慣れた手付きでお茶を入れるサクラ氏。
 その後姿は紛れもなくハカセのもので、俺は目を疑った。
 ハカセは身長140センチの小柄な体型なので、長身のサクラ氏とは30センチ以上も差がある。
 普通なら見間違えるはずがないのだが、それほど似ていたのだ。

「はい、どうぞ。ん?私の顔に何かついてる?」(注:サクラ)
 
 ハカセのように優しい笑顔でサクラ氏が微笑んでいる。
 普段は酷い毒舌なので忘れているのだが、サクラ氏は絶世の美女なのだ。
 その絶世の美女が優しく微笑むと、脳内が麻痺するような感覚に陥る。
 サクラ氏も普段からこんな笑顔ならいいのに……と思うと同時に、大人になったハカセは……すごい美女になるかもしれないと妄想してしまう。

「ハカセ、何か不自由なこと、困ったことはない?」

「え?大丈夫だよ。イチロー、いつも気にかけてくれてありがとう」(注:サクラ)

「いや、いつも俺のせいで迷惑を掛けてしまうから……今日も申し訳なく思ってるんだ」

「ううん、別にいいの。私はイチローと一緒ならそれだけで楽しいから……」(注:サクラ)
 
「そうなの?これからも迷惑掛けるかもしれないよ?」

「うん、それでも。これからもずっと一緒にいたい……私、イチローじゃなきゃダメみたい……」(注:サクラ)

 そう言って、サクラ氏は俺の肩に寄りかかってきた……。
 なんだこれは!
 冷静になれイチロー!こんなときは素数を数えるんだ!

「そっか、じゃあ早く大人になる方法を見つけなきゃね」

 そう言って、平静を装いつつ慌ててサクラ氏を引き剥がす。
 相手がサクラ氏だというのに、まだドキドキしている……。

 そうか、そうだったのか!
 俺はやっと気付いたのだ。
 
 ――
 
 俺は会議室に全員を呼び出し、こう宣言した。

「二人を元に戻す方法が分かったよ!」
 
「それは本当かい?私はあんなハカセを見ていられないんだ……早く戻してくれ!」

 ボス氏がもう限界だとばかりに訴えてきた。
 他の仲間達も大体同じ気持ちのようだ。

「じゃあ、ハカセ、サクラ氏……元に戻れ!」

 そう言って、二人の目の前で手をパチンと叩く。

「あれ?私……何やってるんだろう?」(注:ハカセ)

「私も……一体何を……。なんで白衣なんて着てるんだ……」(注:サクラ)

「戻った!イチローよくやった!」

 歓喜の声が会議室に響く。
 催眠術騒ぎは無事解決となったのだ!

 だが、俺にはまだやることが残されていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

古道具屋・伯天堂、千花の細腕繁盛記

月芝
キャラ文芸
明治は文明開化の頃より代を重ねている、由緒正しき古道具屋『伯天堂』 でも店を切り盛りしているのは、女子高生!? 九坂家の末っ子・千花であった。 なにせ家族がちっとも頼りにならない! 祖父、父、母、姉、兄、みんながみんな放浪癖の持ち主にて。 あっちをフラフラ、こっちをフラフラ、風の向くまま気の向くまま。 ようやく帰ってきたとおもったら、じきにまたいなくなっている。 そんな家族を見て育った千花は「こいつらダメだ。私がしっかりしなくちゃ」と 店と家を守る決意をした。 けれどもこの店が……、というか扱っている商材の中に、ときおり珍妙な品が混じっているのが困り物。 類が友を呼ぶのか、はたまた千花の運が悪いのか。 ちょいちょちトラブルに見舞われる伯天堂。 そのたびに奔走する千花だが、じつは彼女と九坂の家にも秘密があって…… 祖先の因果が子孫に祟る? あるいは天恵か? 千花の細腕繁盛記。 いらっしゃいませ、珍品奇品、逸品から掘り出し物まで選り取りみどり。 伯天堂へようこそ。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

あやかし憑き男子高生の身元引受人になりました

森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
キャラ文芸
【あやかし×謎解き×家族愛…ですよね?】 憎き実家からめでたく勘当され、単身「何でも屋」を営む、七々扇暁(ななおうぎあきら)、28歳。 そんなある日、甥を名乗る少年・千晶(ちあき)が現れる。 「ここに自分を置いてほしい」と懇願されるが、どうやらこの少年、ただの愛想の良い美少年ではないようで――? あやかしと家族。心温まる絆のストーリー、連載開始です。 ※ノベマ!、魔法のiらんど、小説家になろうに同作掲載しております

事故って目が覚めたら自販機だった件

沙々香
キャラ文芸
小説家になろうのリメイク。 ズボラな引きこもりの青年【斎藤陽斗】 そんな彼がある日飲み物を買いにコンビニに行こうとした……。 が!!!しかし所詮はニート、超絶面倒くさがり! 当然、炎天下の中行く気力も無く、自宅のすぐ前の自販機で買おう……そう妥協したのだった。 しかし…………自販機の前まで来た時だった、事件が起こってしまった。 青年はボーッとしていて気付か無かった、車が横まで迫っていた事に……。 目が覚めると動かない、辺りを見渡しふと見た車のドアガラスに映る自分は……自販機?! 自販機になってしまった青年のファンタスティックでちょっとクレイジーな非日常的コメディ!!! ※この小説は、他のサイトと重複投稿しています。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...