はじけろ!コーラ星人 ~残念宇宙人が地球にやってきた~

文字の大きさ
上 下
11 / 40

第11話 走馬灯⑤

しおりを挟む
 それから3年が経過した。
 ベラは真綿が水を吸収するように、凄まじい速度で知識を吸収していった。特に科学分野では才能が開花し始めており、様々な設計図も作成するようになっていた。
 設計書さえあれば3Dプリンタ機器の作成が行えるため、ベラの学力向上と共に生活環境も充実していった。

 だが……ベラの精神的な成長をあざ笑うように、彼女の体は子供のまま成長しなかった……。
 同様の不思議な現象は他にもいくつか報告されている。トレーニングをしても筋肉がつかない、ダイエットしても痩せない、抜け毛が無くなったなど……。

「これは何か大きな問題が起きているようだ……まさかとは思うが……調べてみる必要がありそうだ」

 医師のフレデリックは問題の原因に心当たりがあるようだ。
 全員の血液を採取し、何日も調査を続けた。
 その結果、俺達の身に降り掛かった悲劇の正体を知ることとなる。

「不老不死だよ……」

 そんなものは……おとぎ話の世界だけだと思っていた。
 独裁者であれば諸手を挙げて喜ぶだろうが、俺達は状況が違うのだ。
 この国には俺達以外の人間はおらず、星も少しづつ死に近づいている。
 不老不死は無間地獄そのものなのだ……。

「フレデリック……私はずっと子供のままなの?」

 ベラが悲痛の叫びをあげた。
 フレデリックは答えることができず、ただ無言で頷くだけだった。

「この地獄のような星で不老不死なんて……まるで呪いじゃない……」

 そう言って、ベラは泣き崩れた。
 本当にそうだ。
 特にベラは……素敵な大人になることを夢見て、これまで頑張ってきたことを皆知っている。

「何故こんなことになってしまったのか……理由は分かるのかい?」

 ダニエルがフレデリックに尋ねた。
 リーダーという立場上、平静を装っているのだろうが内心穏やかでないはずだ。

「以前、【レーサ】と殺人ウィルスがお互いに攻撃をしたことで病を克服したという話をしたのを覚えていますか?その際の副反応によるものだと思われますが……病を克服するために驚異的な回復力を身につけたと思われます」

「驚異的な回復力とは……具体的にどのようなものなのか?」

「病気を克服した時点の細胞を維持しようとしている。例えば、体の多くを欠損したとしてもすぐに再生するだろうし、病気で死ぬこともない。その代わりに……外見の変化も一切無くなる」

「なるほど……確かに不老不死と言えるだろうな……。もし死ぬことがあるとすれば、それはどんな状況なのだろうか?」
 
「頭部が大きく欠損するか、切断されることがあれば死ぬでしょう。あとは飢えですね。何も食べなければ回復に使うエネルギーが足りなくなるだろうから」

「他に何か分かったことはあるか?」

「これは個人差があると思うが……身体能力がかなり向上している可能性がある。エマの驚異的な身体能力はその代表的なものでしょう」

 そう言われて、一斉にエマを見る。
 確かに……エマの身体能力は常人を遥かに超えている。チャールズもエマほどではないが、身体能力の向上を実感しているらしい。

「そうね……そう言われてみれば色々おかしいわ。病気になる前は戦おうという気持ちなんて一切湧かなかったもの……。それが今じゃ、戦いの神になったような気分よ」

「フレデリック……私達の体を元に戻すことは可能だと思うかね?」

「私達の体にある超回復力を無効化できる……何か薬のようなものがあれば……可能性はあるかもしれません」

「そうか、分かった……みんな、明日改めて今後について話し合おう。今日は各自で不老不死と向き合って、気持ちを整理してほしい」

 ――

 翌日、俺達は再び会議室に集まった。

「我々の今後について、何か案がある人はいるかい?」

 ダニエルがそう尋ねるのだが、手を挙げる人は誰もいない。
 俺も真剣に考えたものの、思考はマイナス方向にグルグルと回っているだけだった。

「そうか……ならば私が考えた2つの提案を聞いてほしい。」

 全員、固唾を呑んでダニエルを見つめている。

「まず1つ目……。この星を捨てて、宇宙を旅するというのはどうだろうか。旅の目的は新たな移住先と不老不死の特効薬……もしくはそのヒントを探すことだ。我々は7人しかおらず、不老不死研究にはマンパワーが足りていない。これを他の惑星に求めるということだ。また、昨日ベラが言ったようにこの星は地獄のようなものだ。もっと住みやすい星に移住先を求めるのは自然なことだと考えた」

「なるほど、そいつは完璧なアイディアだ。我々が宇宙船を持っていないことを除いてな……」

 ジョージがオーバーアクションで反応する。

「宇宙船はこれから作るんだよ。何年掛かるか分からないが、やる価値はある。研究所にある設計図を元に必要なカスタマイズを加えていく。その設計データから部品を作成して宇宙船を組み立てるのだ。この作業はベラとジョージを中心として行う」

「なんてことだ……こいつはとんでもない仕事になりそうだな。どうだいベラ、君はやれるかい?」

「はい、やれます!」

「よし、良い答えだ。みんな安心しろ。俺とベラがお前達を宇宙に上げてやる!」

 反対意見は特に無く、1つ目の案は全員に承認された。

「2つ目だが……旅の目的が達成される日まで、私達の名前を封印する」

「今の名前を捨てて、新たな名前を名乗るということかしら?」

「私達の名前は親から貰った大事なものなので捨てることはしないが、目標達成のためにコードネームのようなものを名乗るということだ。つまり願掛けのようなものだ」

「それは面白いわね。例えばダニエル……あなたなら【ボス】なんていいんじゃないかしら?」

「なんか微妙に悪そうな名前の気がするんだが……」

「悪人顔なんだから丁度いいじゃないの。前から思ってたんだけどさ、政治家ってなんでみんな悪人顔なのかしらね」

 エマがからかうように言い放つ。
 ダニエル本人は納得がいかな様子だったが、満場一致で【ボス】に決定した。
 その後、エマは【サクラ】、チャールズは【カトー】、フレデリックは【ナカマツ】、ジョージは【エディ】となった。
 いずれも特に理由があるわけではなく、なんとなくの思いつきで決まった。

 さて、俺の名前なのだが……。

「アダムは【イチロー】がいいと思うの」

 ベラがそう言った。
 昔飼っていたペットになんだか似ている気がしたというのが理由。
 いや、ペットの名前なんておかしいだろと抗議したのだが、俺を除く全員が賛成してしまった。

「さて、残るはベラだね。」

 ボスがそう言うと、すかさずベラが答える。

「私、【ハカセ】がいい」

「理由を聞いていいかい?」

「私の担当は研究だから……。もっと学んでその力でみんなを救いたい。そういう決意を込めました」

 こうして、俺達の進むべき方向が決まった。
 俺、やっぱりペットの名前なんて嫌だなあ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

妖狐

ねこ沢ふたよ
キャラ文芸
妖狐の話です。(化け狐ですので、ウチの妖狐達は、基本性別はありません。) 妖の不思議で捉えどころのない人間を超えた雰囲気が伝われば嬉しいです。 妖の長たる九尾狐の白金(しろがね)が、弟子の子狐、黄(こう)を連れて、様々な妖と対峙します。 【社】 その妖狐が弟子を連れて、妖術で社に巣食う者を退治します。 【雲に梯】 身分違いの恋という意味です。街に出没する妖の話です。<小豆洗い・木花咲夜姫> 【腐れ縁】 山猫の妖、蒼月に白金が会いにいきます。<山猫> 挿絵2022/12/14 【件<くだん>】 予言を得意とする妖の話です。<件> 【喰らう】 廃病院で妖魔を退治します。<妖魔・雲外鏡> 【狐竜】 黄が狐の里に長老を訪ねます。<九尾狐(白金・紫檀)・妖狐(黄)> 【狂信】 烏天狗が一羽行方不明になります。見つけたのは・・・。<烏天狗> 【半妖<はんよう>】薬を届けます。<河童・人面瘡> 【若草狐<わかくさきつね>】半妖の串本の若い時の話です。<人面瘡・若草狐・だいだらぼっち・妖魔・雲外鏡> 【狒々<ひひ>】若草と佐次で狒々の化け物を退治します。<狒々> 【辻に立つ女】辻に立つ妖しい夜鷹の女 <妖魔、蜘蛛女、佐門> 【幻術】幻術で若草が騙されます<河童、佐門、妖狐(黄金狐・若草狐)> 【妖魔の国】佐次、復讐にいきます。<妖魔、佐門、妖狐(紫檀狐)> 【母】佐門と対決しています<ガシャドクロ、佐門、九尾狐(紫檀)> 【願い】紫檀無双、佐次の策<ガシャドクロ、佐門、九尾狐(紫檀)> 【満願】黄の器の穴の話です。<九尾狐(白金)妖狐(黄)佐次> 【妖狐の怒り】【縁<えにし>】【式神】・・・対佐門バトルです。 【狐竜 紫檀】佐門とのバトル終了して、紫檀のお仕事です。 【平安】以降、平安時代、紫檀の若い頃の話です。 <黄金狐>白金、黄金、蒼月の物語です。 【旅立ち】 ※気まぐれに、挿絵を足してます♪楽しませていただいています。 ※絵の荒さが気にかかったので、一旦、挿絵を下げています。  もう少し、綺麗に描ければ、また上げます。  2022/12/14 少しずつ改良してあげています。多少進化したはずですが、また気になる事があれば下げます。迷走中なのをいっそお楽しみください。ううっ。

事故って目が覚めたら自販機だった件

沙々香
キャラ文芸
小説家になろうのリメイク。 ズボラな引きこもりの青年【斎藤陽斗】 そんな彼がある日飲み物を買いにコンビニに行こうとした……。 が!!!しかし所詮はニート、超絶面倒くさがり! 当然、炎天下の中行く気力も無く、自宅のすぐ前の自販機で買おう……そう妥協したのだった。 しかし…………自販機の前まで来た時だった、事件が起こってしまった。 青年はボーッとしていて気付か無かった、車が横まで迫っていた事に……。 目が覚めると動かない、辺りを見渡しふと見た車のドアガラスに映る自分は……自販機?! 自販機になってしまった青年のファンタスティックでちょっとクレイジーな非日常的コメディ!!! ※この小説は、他のサイトと重複投稿しています。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...