サクササー

勝瀬右近

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第1章 第22話 船乗りの心得

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 トスアレナ教皇国最北端の港ホレスレットは貿易港です。荷揚げや出航を待っている様々な大きさの船が所狭しと並んでいました。マストはまるで林のようです。
 まだ夜が明け切らぬ朝もやの中に霞む港に双眼鏡を向けている船長のとなりでシャアルは目をこすっていました。
「さすがにまだ静かなものだな。入港はもう少し待とう」
「アイアイサー。停船位置はここで?」
「これだけ港から離れていれば問題ないだろう。向こうから発見されやすいように念のため発光クリスタルを多めに点けておいてくれ」
「了解です」
「それじゃ僕は朝食をとってくるよ。船長、君もそうしたまえ」
「公爵。カル様御一行は」
「まだ寝かせておこう。ここまで三日半の強行軍だったし、慣れない船旅で疲れてるだろうからね」
「我々もさすがに堪えます」
「すまない船長。ノスユナイア王国についたら全員に寝心地のいいベッドと麦酒をおごるよ」
「ノスユナイア王国に酒場はありますかね」
「あるさ。きっと踊り子もいる」そう言って白い歯を見せて二っと笑います。「じゃあとで」





 朝食を済ませ、甲板に戻ったシャアルは瓶詰めの飲み物をラッパ飲みしながら朝靄に煙る港を静かに見ていました。明滅する発光クリスタルが暗い中に星のようにきらめいています。
 彼は活気あふれる港の喧騒も好きでしたが、慌ただしくなる前の静寂も好きでした。
「あら、おはようございます、サンフェラート公爵閣下」
「やあミニ、おはよう。朝食は?」
 やってきたミニはさすがに寒いのか厚手の羽織を纏っています。
「済ませてまいりましたわ。・・・それはお酒?」
「これかい?違うよ、ただの水」
「まあ。つまらないものをお飲みなのね」
 フフフと白い歯を零して微笑むシャアル。
「ここまでくるとさすがに寒いですわね。あれが港ですか?」
「ああ、もうすぐ夜が明けるから、そうしたら上陸だ」
「どうして接舷しないのです?」
「まあそのうちわかるさ」
「教えて下さらないの?」
「人生は驚きがあったほうが退屈しないで済むっていうだろ」
「驚くことが?それを早くおっしゃって。いじわるされたかと思うではありませんか。・・・ところでサンフェラート公爵様はここへは来たことが・・・」
「その呼び方」
「はい?」
「シャアルでいいよ。君の事はカルからよく聞いていたし、会ってからもう三日も経ったんだから、・・・どうかな?」
「あら。でもお父様からは殿方はそうしてお呼びしたほうが良いと言われてますの」
「へぇ。それはどうしてだろう」
「さあ。お父様のお考えはわかりませんけど、私はそうすることを好んでますわ」
「なぜ?」
「なぜって。名前で呼び合ったりしたらまるで恋人同士みたいじゃありません?私、公爵様は私の理想とはかけ離れていらっしゃいますもの」
 シャアルはそれを聞いて瓶から口に含んだ水をブーっと海に吐き出しました。
「あら、大丈夫ですか?」
 手すりに突っ伏してしばらく肩を震わせていたシャアルは笑い出しました。
「失礼!ははっ。君はハッキリ物を言うんだねぇ。驚いた」
「はっきり言うのはお互いのため。あまり隠し事はしたくないのです」
 やれやれ、カルの神経が逆立つのもわかる気がする。そう思ったものの、腹蔵なく話せることをシャアルは喜びました。この子に遠慮はいらなそうだ、と。
「君は変わった子だね」
「そうかしら?私に言わせれば嘘を言って保たれる親交なんて、疲れるだけだと思いますけど」
 シャアルは答えに窮しました。嘘で保たれることだって世の中には沢山あると知っていたのですが、ここはミニの顔を立てることにしました。ここで言わなくてもどこかで学ぶはずだと。
「そりゃあ・・・そうとも言える、かな」
「お分かりいただけて光栄ですわ。兄上にもわかって頂ければ嬉しいのですけど」
「それは・・・うん・・・」
「いいのです。わかっていますわ。兄には兄のお考えがあるのでしょうし・・・。でも兄上は兄上。私は私ですから・・・あら?」
「ん?」
「向こうから船が・・・ほら」
 マストにトスアレナ教皇国の国旗を翻した船が近づいてきたことを知ったシャアルは伝声管に向かって叫びました。
「総員準備!総員準備!衛兵隊は持ち場に付け!船長は甲板へ!」
 その途端、船のあちこちからカランカランと鐘が鳴り響きます
「準備ってなんですの?」
「警戒だよ。朝靄がかかってるというのに君は目がいいな。見張りも僕も気がつかなかった」
「ふふふ」
「ミニ。君は船室に行きたまえ」
「戦争でも始まりますの?」
「そんなことはない」
「それでは閣下とここに」
 なるほど。カル。君の気持ちがわかる気がする。
「どうなっても知らないよ」
「こういったことに慣れている公爵様が危険が無いというのなら私はそれを信じます。それにわたくしこう見えても自分の身は自分で守れますわ。よろしくて?」
 一瞬呆気にとられた顔になり、直ぐに笑顔を浮かべるシャアル。言うことに筋は通ってるじゃないか。反論の余地も時間的余裕もなかったので、笑って言いました。
「わかったよ。君の好きにするといい。但し、僕から離れないように」
「恐れ入ります公爵閣下」
 ミニがニッコリとすると後ろから「シャアル!」カルが近衛兵を伴ってやって来ました。
「おはようカル」
「おはよう。どうした?突然騒がしくなったけど」
「ミニ様!こんなところで何をしていらっしゃるのです。早く船室へ!」
 そう言ってミニの近くに来たのは近衛隊士の一人でした。女です。
「いいのよサリ。危険は無いと公爵閣下から太鼓判をもらったから」
「でも万が一・・・」「私の判断でここに居るのです。お下がり」少し不機嫌を装ったミニがそう言うと、サリと呼ばれたその近衛もよくわかったものでそれ以上の諫言(かんげん)は口にせず浅く頭を下げて彼女の斜め後ろに立ちます。
「では、ご一緒させていただきます」
「なによ。あなたも一緒に見たかったんじゃない」
「姫」
「わかったわよ。そんなに睨まないで」
 近衛の気苦労も省みることなく肩をすくめたミニはトスアレナの船に好奇心に満ちた視線を移しました。
「トスアレナの船か」
 カルが霧の中をこちらに向かってくる船に目を凝らします。
「ああ。来るとは思ってたけど、港の管制塔からは発光信号なしだったからすこし慌てた」
「近づいてくる。どうするんだ?」
「いまやってる」
 シャアルはそう言って少し離れた場所から何かの装置を操っている船員たちを指差しました。
「発光信号だ」

 発光クリスタルを使った発光信号によるやりとりが行われ、それを固唾を飲んで見守るミニとカル。ミニは少し上気した表情でしたが、カルは全く正反対。
「なんて言ってる?」
「こちらは・・・トスアレナ・・・教皇国・・・ホレスレット港湾・・・守備隊。・・・貴船の・・・来訪を・・・心より歓迎する。よし!」
 表情を柔らかくしたシャアルを見ていったいどういうことなのかと怪訝そうな顔のカル。反対にミニといえば何も起こらないことにちょっとがっかりして言います。
「来ることは予め連絡してあるのでしょうに、こんなに大騒ぎしなくても・・・」
「それは違うよミニ」
「どう違いますの?」
「船乗りは長く本土との連絡がない状態で航海することも多い。その間に政局に変化があって、それを知らずに他国に接触したら我々はあっという間に虜囚となってしまう・・・なんてこともある。だから儀式的ではあるけど、船乗りにとってこう言った方法による情報交換や挨拶は必要不可欠なんだ。通常はこっちから上陸隊を編成して沖から様子を見るんだけど・・・」
「ふうん。でも騙し討ちかもしれませんわよ」
「そう。だから・・・」
 船腹に施された小窓には弓兵が、甲板には魔法使いが目を光らせています。
「いつの間に・・・」
 トスアレナ教皇国の船が声の届く距離にまで近づいてきました。
「今回は相手の方から来たから、敵意がないのはある程度わかるけど・・・ね」
 シャアルがそう言うや、トスアレナ教皇国の船上から守備隊の制服に身を固めた男が腕を大きく開いた格好で、「ケルファール大公国、そしてフラミア連邦王国御一行様!来訪を歓迎します!私はホレスレット港湾守備隊副隊長の・・・」大声で歓迎の意と、身分を名乗って深々と頭を下げました。
「儀式終了だ」
 甲板の兵士たちは矢を弓から外し、魔法使いたちは魔法陣を元素に還元させ消し去りました。上陸準備の声がそこかしこから復唱され船上は俄かに慌ただしくなります。
「いろいろ面倒なんだな」
「言ったろ。言うほど楽じゃないって」「よくわかったよ」
 シャアルとカルは笑顔を交わしました。
 港湾守備隊の副隊長を名乗った男が海王号に乗船し、船長やシャアルたちと挨拶を交わすと、港の方からスリング発動機の音を響かせながら船が数隻近づいてきました。曳航船です。
「さあ入港だ」
「いけない!準備しなくっちゃ!何を着ていこうかしら!」
「あ、姫!」
 カルは、妙な格好してきたら海に放り出すぞと心の中でつぶやいてそれを見送りました。
「さて、僕たちも準備しよう。思ったより入港が早まったからな。礼装なんて堅苦しくて嫌いなんだけど・・・」

 港では出発まであまり時間がないことから、儀礼的な挨拶のみが行われました。
 トスアレナ教皇国の弔問団は僅か5名。ケルファールやフラミア連邦王国は従者も含めて30名前後の大所帯であるのに比べると少ないものでした。
 弔問団代表は、教皇の命を受けた大司教ハルス=ドメイル=エフゾン。
 トスアレナ教皇国は国が十三の教区に分かれていて、その教区に一人ずつ大司教が存在ます。そのひとりがエフゾンでした。彼ら大司教は十三使徒と呼ばれていて、その誰もが国家の中核を担う重要人物です。そして彼に同行するのはエフゾンとは同じ教区のケッヘルベクト=カニーノ=ミンマーという司祭と、サホロ公国の領事とその配下が二人という面々です。
 人数で気持ちの大小を測るわけにはいかないが、他国に赴くというのにいくらなんでも5人とは。カルがなんとなく言った一言に、「行くのは隣の国だし、感覚が違うんだよきっと」シャアルは気にするでもなくそう言っただけでした。
 港に立っていた大きな教会の中の大広間で歓迎会が行われましたが、そしてその日の日暮れ直前に、高速艇海王号はマルデリワ湾の中程にある河口の港町チピアに到着したのでした。





 河口の街チピアはノスユナイア王国ではニンフォルに継ぐ水量を誇るタルマ河の河口にある城塞都市です。海にそそぐ直前に河は幾筋にも別れ、あちらこちらに湿地が広がっているので水鳥の繁殖地となり、そして肥沃な土地は北の大地に農産物をもたらす貴重な地域でもありました。
 現在は農閑期なので農地はひっそりとしていますが、その代わりに湿地は白鳥などの渡り鳥がたくさんいました。

 弔問客一行はこの日のために用意された建物一つをまるごとあてがわれ、一夜を過ごすこととなりました。内装は立派なもので、もともとは貴族の館だったので、調度や水周りもしっかりしており、快適に過ごすことができそうでした。
 今日は来ないと思われていたらしく、チピア城塞都市の出迎えも慌ただしかったのですが、夕食の準備だけは滞りなく終えていたようでした。
 大広間には大きなテーブルが置かれています。
 席についているのは、カル、ミニ、シャアル、エフゾン大司教。壁際にはそれぞれの近衛や衛兵が並んで立っています。
 彼らが席についてしばらくすると、何人かの貴族らしき人々とひとりの老人が入って来ました。全員が起立をして出迎えます。
 最期に入ってきた老人がにこやかに一同を見て両手を上げます。
「そのままそのまま。どうぞお座りください。ようこそいらっしゃいました。私はマルデリワ地方の領主でドナウ=ステッカと申します」
 そう言ってステッカは皆に椅子を進め、すべての人の紹介をし始めました。紹介された人は子爵であったり地元の有力者であったり、それぞれに挨拶を返します。
 ようやく紹介が終えて、ミニが今度はこっちかと小さく嘆息します。
「私はドメイル=エフゾンと申します。お目にかかれて光栄です。ステッカ公爵閣下」
「こちらこそ。エフゾン司教猊下」
「私はカル=エール。フラミア連邦王国より参りました。若輩者ですがよろしくお願いします」
「そちらの可愛らしいご婦人は・・・」
「私の妹でミニと申します。ご挨拶して」
「ミニと申します。ご招待ありがとうございますステッカ公爵閣下。もう少しで食べそびむぐ・・・」
「シャアル、君の番だ」ハンカチを持った手でミニの口を抑え、シャアルを促します。ステッカはなんとなく事情が分かったようで苦笑いしただけでした。
「あ、・・・僕は、シャアル=サンフェラートと申します。ケルファールより参りました。まさか自分がこのような立派な方々と晩餐を共にするとは思いもよらず、いささか緊張してます。若輩の物知らずゆえ、失礼の際にはどうかご容赦を願います」
「お若いのに公爵でいらっしゃるそうですな。長旅ご苦労様でした。では」
 ステッカが手を叩くと次々と皿に盛られた豪華な料理が運ばれ、テーブルを華やかに飾りはじめます。
「どれもこの地方で取れる海、山の幸です。お口に合えば良いのですが、どうぞご賞味ください」
 ”カル”
 突然ヒソヒソ声で耳打ちするシャアルにカルが耳を寄せます。
 ”ミニを叱るのはあとにしろ。暫く好きなように話させたほうがいい”
 ”しかし・・・”
 ”こういう席はほとんどの場合無礼講だし、よほどのことがない限り大丈夫だろ?”
 よほどのことをするんだよ。このバカ妹は。カルはそう言いかけて口をつぐみました。それまでエフゾン大司教と話していたステッカがカルに水を向けたからです。
「カル皇太子殿下。船旅はいかがでしたかな?」
「あ!は・・・はい。見るものも多く、とても有意義でした。海王号も素晴らしい船で、旅を満喫できました」
「それは良かった。私も海王号を拝見させていただきました。立派な船ですな」
 そう言われたシャアルがニコリとして浅く頭を下げます。
「ステッカ公爵閣下。僕も驚いています」
「ん?」
「先ほど街中を少し歩きましたが、街を行く人々の身なりや立ち居振る舞いに洗練を感じ、また建物だけでなく道路に至るまできれいに整備されているのを見て、かなりの豊かさを感じました」
「予想が外れましたかな?」
「いえ、そんなとんでもない。失礼をお詫びします。ただどこの街でも貴族の方々の壮麗さ、華やかさは変わりません。ただ一般市民までが身なりを正している姿はあまり見ないのです」
 ステッカ公爵は満足げに頷きます。
「実は30年ほど前まではあなたの仰る通り、市民の形(なり)はお世辞にも良いとはいいがたいものでした。労働した服装のままベッドで寝るなど当たり前だったのですよ」
 カルもシャアルも興味深げに頷きます。
「しかし25年ほど前でしたかな・・・今は国務院で働いている者がここへきて是非働かせてほしいと言って訪ねて来ましてな。しかも農園経営をやらせてくれとね。まあ物は試しと雇ってみたのですが、驚いたことに有能な男で農園の収益が3倍にまでなりましてな」
「さすが、人を見る目があるのですね」
「いやいや、それが恥ずかしい話ですが、もちろん素性も何もわからぬ輩を簡単に信じるわけにはいかんので、最初は追い払おうとしたんですが、その男はエミリアのアゼグランドで学んだという証書を見せたのですよ」
「本当ですか?じつは僕たちも、なあカル」
「閣下、私とシャアルもアゼグランドで学んだ学友なんです」
「ほお」少し驚きの顔をしたステッカは「実は私も若いころにアゼグランドで学びました。もう50年も前ですがね」
「そうだったのですが。大先輩だったとは」
 優しげなほほ笑みを浮かべるステッカ。
「そのころに親善訪問団の一員として貴国へ伺ったこともありました。おそらく先代大公の頃だった」
「50年前なら祖父が治めていた頃ですね」
 シャアルが答えます。
「あのころの一緒に学んだ友人は殆ど他界してしまった。・・・友は人生の宝です。お互いを大切になさい」
「ありがとうございます」
 こんな当たり障りのない話で終始する中で食事は終えられました。
 弔問という事から話題には気を遣いましたが、招待側で年長者でもあるステッカがそのあたりは心得ているようで、カルたちは思いのほか気疲れせずに済んだのでした。





 あてがわれた部屋へとたどり着くと、カルはベッドに腰掛けて腕を大きく広げて伸びをします。
「やれやれ。他国への訪問とはこんなに疲れるものだったかな」
「カルはケルファールとエミリアぐらいしか行った事がないからなあ」
「経験不足は認めるよ」
「ふふ。まあこれからいくらでも経験できるさ」
「ミニさえおとなしくしていてくれれば、心おきなく経験を積めるんだけどね」
「まあそう言うなよ。彼女だって君を憎んでいるわけじゃないんだから」
「それはわかってるけど・・・」
 窓辺から離れたシャアルは、フウっと息を吐いてソファの背もたれに身を沈めました。
「なかなかいい部屋だな。眺めもいい。・・・それにしても驚いたね」
「何が?」
 そう言いながらカルはドサッとベッドに身を長くします。
「ジェミン族の里でもあるレアン共和国と密接なつながりがあるとはいえ、軌道サーリングの高性能さにだよ」
「そうなのか?」
「ここからノスユナイアの王城まで約500kmだが、朝出れば夜前には到着だそうだ」
 カルはガバッと身を起こします。
「500kmを半日で?時速50kmは出るってことだぞ?」
「ああ。うちの軌道サーリングはどんなに頑張っても一日はかかるんじゃないかな」
「驚いたな・・・いやでも」
「ん?」
「王族専用の特別仕様なんじゃないか?維持費が飛びぬけてるとか」
「かもしれない。だけど早いのは事実だ。すごいよ」
「明日一緒に見に行こう」
「ああ。楽しみができた」
 シャアルはそう言って微笑み、ベッドに座ります。

「それにしても、軌道や道路網を充実させているからとはいえ、どうしてジェミン族は輸送にあまり船を使わないんだろう。我々は主に船で輸送しているのに」
「う~ん」
 シャアルは少し考えてから言いました。
「彼らは動力機械の開発が得意だし、お国柄や地形的な問題もあるんだろうけど船も全く使わないというわけじゃない・・・だけど、なにより経費の問題だろう」
「経費か」
「それと事故だね」
「事故?」
「うん。確かに船は早いけど一度事故を起こすと損害は莫大だからな」
「なるほど・・・。君が言っていたように海は気まぐれで裏切ることもあるってことか」
「でも船の方がいいって言う貿易品もあるんだぜ」
「へえ。それは何だい?」興味を持ったカルがシャアルを見ます。
「酒さ」
「さけ?陸送と海上輸送とで違いがある?そんな馬鹿な」
「本当さ」
 シャアルは得意げに話し始めました。
「サホロで醸造されたワイン。あれは船で僕の国に運ばれてくる。この距離がだいたい1000kmなんだけど、樽の中の酒がゆらりゆらりと程よくかき混ぜられて、味と香りがよくなるんだ。船が南下してくるから”下りもの”って言われてワイン愛好家に好まれてる」
「あやしいなあ」
「ほんとさ。・・・それじゃあ帰ったら同じ銘柄を陸送品と飲み比べてみよう」

 実際、ジェミン族があまり船を使わない理由は事故による損害を最小限に抑えるというのが大きな理由でしたが、ノスユナイア王国との条約や、隊商警備によって傭兵たちに雇用機会を与えるという理由もありました。
 特に傭兵に仕事を常に供給することは、戦力の国内温存という意味合いからも重要でした。ノスユナイア王国の兵士たちに不評であっても、国境防衛要員に組み入れるなどして、戦力の国外流出を防いでいるのもその一環だったのです。

「ただ海王じゃだめだ」
「どうして」
「速すぎるんだ。一般的な船舶だと、サホロ公国の港からケルファールまでは約10日ほどかかってしまう」
「そんなに?」
「天候が悪ければもっとさ。だけどその10日っていうのが微妙な線らしい」
「ふ~ん。」
「さあ、明日は早朝に出発と言っていたし、寝るとするか」
「そうだな」
 二人はお互いのベッドに潜り込み、眠ろうと目を閉じましたが、いつまでたっても眠くならないことに気が付きました。
 長旅で疲れているはずなのに・・・。
 しかしカルはその理由がわかっていました。突然自分が明日到着するノスユナイア王城の事を考え、そこから本のページがばらばらとめくられるように頭に浮かんだ想像が心を埋め尽くしてしまったからです。
「シャアル起きてるか?」
「うん」
 その声を聞いてカルは、シャアルも自分と同じ思いを抱いているかもと考えながら話し始めました。
「ノスユナイア王国は今、14歳の国王が治めているんだよな」
「実際に治めているのは後見人か、閣僚だろ?」
「いや・・・そういう事を言ってるんじゃないんだ」
「ん?」
「その国王が14歳で両親を失ってしまった事を考えてた」
「ああ・・・気の毒にな」
「私はもう22だし、いや、両親を失えば悲しいし寂しさにやるせなさを感じるだろうけど・・・もしもそれが14歳の時だったらと考えると・・・」
「ゾッとする?」
 ゾッとする。そんな言葉で足りるだろうか?カルはそう思い応えられませんでした。
「シャアル」
「ん?」
「君だったらどう?」
「わからない」
 即答にカルは少し驚きましたが、すぐに続けられたシャアルの言葉で納得しました。
「仮定の質問には答えられないよ。14の頃の自分は覚えているけどね」
 確かにそうだ。
 しかしシャアルはそれ以上に現実主義者なんだ。
 船乗りは夢を見ない。
 船板一枚隔てて地獄という世界に生きていれば自然そうなるだろう。
 とはいえそれを責める気にはなれませんでした。彼には彼の人生観や死生観があるのです。
「・・・私が、国王と友人になりたいと言ったら?」
「え・・・」
 シャアルは応えられませんでした。
「どうして友人になりたいと思うんだい?」
「僕は国王じゃない。突然王子と国王とで友人関係になりたいなんて図々しいかな?」
 いつもは言葉に遠慮や躊躇いがない自信家のカルの口調に幾らかの奥ゆかしさを感じたシャアルはしばらく黙ってから応えました。
「なあカル」
「ん?」
「僕らは弔問で訪れたんだ。あまり深入りはしない方がいいと思うぜ」
 それは用心深いシャアルらしい答えでした。
「・・・うん」
 ようやく眠気を感じ始めたカルは、そのまま睡眠という名前の温かい川へと滑り込んでいきました。









■王室へ



 侍女の装いは地味なものですが、決して粗末ではありません。国王付きともなれば礼儀作法も然(さ)ることながら見目の良さも問われてきます。
 普段エデリカは髪の毛はほとんど引っ詰めた感じで後ろでまとめて前髪もたらす程度でしたが、髪を解いて垂らせば長さは胸辺りまである天然ウェーブです。
 まず前髪をキチッと切りそろえて眉を隠します。こうするだけでエデリカであることを判別するのが難しくなり、さらに薄化粧をして、他の侍女と同様にレースをあしらった頭飾りをすることで重たい剣を振り回して大男をやり込める乱暴者のイメージは完全に払拭されました。

「お化粧が取れてしまうから顔には触らないようにね」
「これ、毎日やるんですか?」
 エデリカは鏡の前の自分とは思えない自分を見ながら、後ろにいた女官に言いました。
「ええそうですよ。身なりももちろんですが、匂いにも気をつけてね。入浴も毎日です」
 はああっと息を吐くエデリカ。
「面倒だなぁ・・・」
「ダメダメ。陛下の周辺には華がなければね。注目されるというのはそれに応えるだけの華があるということなのですから、あなたもその一部なんですよ。隙があってはならないの」
 フウっと吐息するエデリカ。
「ほらほら、ため息もダメ。侍女がそんな顔をしていたら、陛下のお心も曇ってしまいますよ」
「はぁい・・・」
「返事もシャキっと”ハイ”とハキハキね」
「ハイ」
「よろしい」
 ああ、もしかするととんでもないことを引き受けてしまったのかもしれない。エデリカは父であるローデンが後見人を引き受けた時の気持ちが今になってよくわかる気がしました。
 するとそこへドアをノックする音が聞こえます。
 誰かしらと女官がドアを開けると。
「あら先生」
 ギクッとするエデリカ。
「すみませんツェーデル院長から迎えに行けといわれまして・・・」
「ちょ・・・まって・・・」
「まあまあそうですか。さあどうぞ支度は整っていますよ。エデリカさんお迎えよ」
 立ち上がって隠れるところを探したエデリカでしたが、そんなところはどこにもありません。手で顔を隠そうとして”顔には触らないように・・・”ハッとしたところでローデンと目が合いました。
 とたんに顔を真っ赤にするエデリカ。口は半開きです。
 化粧映えのする顔立ちの女が狼狽している顔というのは男心をくすぐるものなのかもしれません。
「・・・・」
 ローデンもエデリカを見た途端に言葉を失いました。亡き妻に生き写しだと、一瞬にして凍りついたのです。娘のスカート姿などいったい何年ぶりかとほうけた顔をしてます。
「先生?」
 女官の呼びかけに我に返ったローデンは。「あ!・・・し、失礼。エ、エデリカ。陛下にお目通りだよ」
「う・・うん」
 女官が咳払いします。
「あ。は、ハイ」
 エデリカは満足そうに頷く女官に内心でうんざりしながらローデンについて部屋を出てゆきました。
「驚いた。綺麗だよエデリカ」
「・・・」
 数日前。エデリカを国王付きの侍女にするという話をツェーデルに聞かされたとき、ローデンは冗談だろうと思いました。ところが本人も承諾したというのを聞いて二重に驚いたのです。
 しかしその真意をエデリカ本人から聞いたときには、彼女の心変わりに驚くより、大人の都合に半ば翻弄された格好で侍女になるなど、よほどの決意だったのだろうと、ローデンは彼女に不憫を感じたのです。
 それでもローデンは少しだけ嬉しさも感じていました。自分の娘が女らしい振舞いを学べるのと、王室要員という意味で自分と同じ舞台に立てることを。
「一緒にがんばろう。近衛にだってすぐになれるさ」
 後見人という立場を受け入れ覚悟を決めた父の言葉にエデリカも、自分で決めたことを全うしようと決意を新たにし、頷きました。
「それからもう知らされていると思うけど・・・」
「分かってる。お父さんとは人前で口を聞かないこと。でしょ?」
 うんと言ってローデンは首を横に振ります。
「モルドやツェーデル院長の配慮とはいえ、親子じゃないふりをするというのは難しいな・・・」
「あたしだって・・・」
 少し間が空いてからローデンは微笑んで言いました。「でもよかったな」
「え?」
「これで陛下のお側にずっといられるよ。きっと陛下も喜んでいらっしゃる」
 それこそが目的。近衛と侍女という違いはあってもそうしたいと思っていたことが実現するのはエデリカにとって喜びであり、心の支えでもありました。
「うん」
 暫く二人は無言のまま歩き、国王の居室に続く廊下の前で足を止めます。
「さ、ここから先は一人で行くんだ。何かあれば私は隣の部屋にいるからね」
「うん」
 離れてゆくエデリカの後ろ姿を見ながらローデンは、エデリカにすべてを託さねばならない大人の不甲斐なさを思い、情けない表情になってしまいました。
 ドアの前でこちらを振り向いたエデリカに慌てて笑顔を作って手を振るとドアの向こうに消え行く娘の姿に一抹の切なさを感じながら、国王の居室の隣の部屋へと向かいます。


 重厚なドアを開けると、国王の居室に入る前に次の間という小さな部屋があります。そこにはツェーデルがいました。ツェーデルは微笑んで椅子から立ち上がると、エデリカに近づいて言いました。
「ありがとうエデリカさん。辛い選択をさせてしまったことを許してね」
 首を振って微笑むエデリカ。
「自分で決めたんです。後悔はしてない・・・と思います」
 ツェーデルは済まなそうに笑います。「既に聞いていると思うけど、学友としてお側にいる時とは違うことを忘れないでね」
「わかってます」
「陛下はあなたとは普段通りに接するでしょうが・・・」
「先生。私、今はどうしたらいいかわからないんです。でも、そばにいてあげることがとても大事なことだってことだけはよくわかるんです」
 何度か項いてツェーデルは言いました。
「困ったことがあったらなんなりと言いなさい。一人で抱え込んではダメよ。約束して」
「はい」
「暫く隣の部屋にいますが、いなければ私は魔法院にいます。お願いね」
「はい」

 部屋に入ったエデリカは本を読んでいるアレスに近づきました。すぐそばまで行きましたがアレスはまだ本を読んでいます。しかしその目はどこかうつろで、読んでいるというより本を眺めていると言ったほうが当てはまる感じでした。
「アレス」
 ふと顔を上げるアレス。
 声でエデリカと分かりましたが、暫く目を見開いたまま。そして一度瞬きします。「エデリカ・・・なの?」
 視線を外してうんうんと二度頷くエデリカの頬は薄紅色です。「エデリ・・・」笑顔になったアレスが立ち上がって近づこうとすると。
「だめ」
「え?」
「侍女と国王陛下は必要以上に近づいたらいけないんだって」
「・・・そっ、か・・・」
「約束」
「・・・?約束?」
「いつも一緒にいるっていったでしょ」
「・・・うん。だけど」
「・・・」
「ごめん。僕のせいで近衛に・・・」
「いいの。自分で決めたんだから」
「でも・・・」
「ねぇアレス」
「え」
「確かに近衛には、今はなれないけど、ずっとアレスの近くにいるっていう自分の目標は達成できてるの。だからアレスは私に謝ることなんてないわ。別にがっかりもしてない」
「・・・本当に?」
 微笑んで頷くエデリカ。
「剣術の稽古だってやれないわけじゃないし、私はまだ夢を諦めたわけでもないもの。それより見て・・・」
 見てと言われてキョトンとしているアレスにふくれっ面になって言いました。
「国王陛下。私の格好はおかしくありませんか?」
「あ・・・」
「あのね。この格好、毎日するの。すごく面倒。でもアレスが褒めてくれたら少しは楽になるかな・・・」
 少しの間が空いてからアレスはうっすらと微笑んで言いました。
「うん。・・・とってもいい。勇ましいエデリカもカッコ良かったけど、いまのその服装も・・・」
「ん?」
「い・・・今の服装も好きだよ」
 エデリカは、照れくさそうに言うアレスを見て満面の微笑みを浮かべたのでした。






 後見人の執務室としてローデンにあてがわれた部屋は驚くほど立派なものでした。いつもここに来るたび、自分に似つかわしくない佇まいだとため息が出ましたが、後見人の部屋ともなれば重臣や元老院議員などを客人として迎え入れることもあるので、必要最小限というわけにもいかないのだろうと居心地の悪さを我慢するしかなかったのです。
 大きな執務机の上には明日の夜には訪れるであろう弔問団の資料があり、それを見てまたまたため息をつきましたが、仕方ないとそれを手にとって読み始めました。
「医学書なら飽きずに読めるんだが・・・。どれどれ・・・。フラミア連邦王国弔問団名簿・・・。なんと三十人も来るのか。ケルファール大公国は二十人、やれやれ大所帯だな・・・トスアレナ教皇国は・・・五人?随分少ないんだな・・・」

資料に記されていた各国の訪問者内訳は以下のようなものでした。

●フラミア連邦王国
 ロネルト=カル=エール皇太子。
 フェルエンヌ=ミニ=エール皇太女。
 第二近衛隊長オズネル=ゴル=ニックス中佐以下隊士五名、第三近衛分隊長アリア=サリ=グラッド大尉以下隊士二名
 ほか従者21名

●ケルファール大公国
 大公子息ニアガ=シャアル=サンフェラート公爵。
 衛兵12名従者7名。
 ※高速艇海王号乗組員48名は船にて待機。

●トスアレナ教皇国
 ハルス=ドメイル=エフゾン大司教(トスアレナ十三使徒)
 ケッヘルベクト=カニーノ=ミンマー司教。
 ベン=クスコ=モラレス。サホロ公国領事。
 ほか従者2名


「海王号か・・・。見てみたかったな。・・・十三使徒ってのはいったい・・・。それにしても第二とか第三とか、フラミア連邦王国には近衛隊がいくつあるんだ」
 ブツブツと言いながら文字を目で追ってゆき、年齢を見て「みんな若いな。カル王子とシャアル公爵は24歳で卒業した学校も同じ?友人同士らしいな。王族にはよくある事か・・・エミリアのアゼクランドで学んだのか。・・・ミニ姫は、16歳?エデリカと同い年じゃないか。どんな子なんだろう・・・。エフゾン大司教は60歳・・・、おや?ミンマー司教は28歳とは、随分若い司教さんだな・・・」
 ここまで読み進めたローデンはふと違和感に襲われました。人の経歴をこうやって読むことになんとなく罪悪感のようなものを抱いたのです。
 そこへツェーデルがやって来ました。
「お邪魔?」
「院長。いやあ、大丈夫です」
 それでもローデンの様子が少し変だということに気がついたツェーデルは彼の手元に視線を落としました。
「経歴書ですか。国務院からですね・・・。これがどうか?」
 ローデンは今しがた自分が抱いていた違和感を話すとツェーデルは穏やかな表情で言いました。
「そういうものを読み慣れていない人は少し戸惑うかもしれませんね。それでも必要なことなのですよ。政治というより、相手のことを知っておくのは相手に対しての礼儀と言えます。自分はあなたを知っている、だから私のことも知ってほしいという意思表示にもなります」
「そういうものですかね・・・」
「そういうものです」
 そう言われてふとローデンは思いました。
「私のことも先方は既に知っているんでしょうか」
「国務院が適切と判断すれば知らせている可能性はあります」
「そうですか・・・」
「何か問題でも?」
「・・・ああ、いやあ。私はこの通りの男です。政治に識も深くなく、それどころかおよそ縁遠い人間・・・というのはこの国の人間ならば知っていますが、他国の人にはおそらく”後見人”とだけ伝えられているのだろうと思うと・・・」
 なるほど。それはたしかに気が重くなることだとツェーデルは思いました。
「そのための王国評議会です。ご心配なさらないで」
「すみません。面倒をおかけして・・・」
「こう申してなんでしょうけど、弔問の主役は亡くなられた国王陛下と王妃様ですからね。問題はアレス陛下が喪主を務められるかどうかです」
 フウっと息を吐いてローデンは言いました。
「そうですね・・・。会見の場を設けるのは悪くないとは思うのですが・・・。エデリカはその時陛下のお側に?」
「ええ、そうしてもらうつもりです」
 思案顔でローデンは肩をひとしきり上下させます。
「それにしてもエデリカはよく承知したものだと、驚きましたよ」
「私も感心しています。てっきり断られると思っていました」
「一体何故・・・」
「カーヌのおかげですね」
「アー様の?」
「ええ。エデリカの教育には特に熱心でしたから。・・・今のエデリカを見ればカーヌの教育が実に的を射たものだったと感心せずにはいられませんね。さすがはセノン族です」
「私の魔法医術もあの方の助言でどれだけ上達したことか・・・。アー様には頭が上がりませんよ。あ、ところで何用ですか」
「あ、これを渡そうと思って」
「ん?・・・あ、日程表ですか」
「後で目を通しておいて」
 微笑むツェーデル。「さて。申し訳ないのですけど、しなくてはならないことがありますので失礼します。もしも御用があれば魔法院にいますから」
「わかりました」
 ツェーデルが出てゆくとローデンは資料を手にとって、今度は遠慮することなく読み始めました。
「知っておくことも礼儀・・・か」




■本

 カーヌ=アーは彼の仕事場でもある蔵書館の奥にある小さな整理机で一冊の擦り切れた1cm程の厚さの古い本を読んでは書き写していました。
 クリスタルの光が弱まり、ふと筆を止めてそれに魔法力を注ぐと明るさが安定します。それを見ながらカーヌは静かに息を吐きました。
「裏切者。恥知らずの謀反人ゴドレス・・・。なにかを見つけたのでしょう?それをいったいどこへ・・・」
 そう呟くと暫くの間じっと考え、そしてまた筆を動かし、本の内容を書き写し始めたのでした。



第23話へつづく



【十三使徒】
トスアレナ教皇国には国を十三に区切った教区というものが設置されている。その教区に一人ずつ存在するのが大司教で、その教区の管理全般を任されていた。それら十三人の大司教を称して十三使徒としている。

トスアレナ教皇国はその国名のとおり、教皇が国家の頂点に君臨している。そして教皇はこの十三使徒が一室にこもってお互いの中から選挙によって選ばれる。
だが実は十三使徒はすべて血族で、教皇の地位の継承は血族による世襲。なので実際には世襲君主制形態をとる国家である。もしもこの国でトップを目指すのであればこの血族と婚姻することが唯一の手だが、そういう意味では可能性がゼロではないところが面白い政体であると他国の政治家や学者が言っている。
そして当然、国王的な立場の教皇のもとには莫大な富が築き上げられることとなる。この富の出どころは実は税金ではない。
行政は各教区の大司教(十三使途)が独断で執り行うため、教区によって法律が微妙に違ったりする。国民からは税金は取らないが寄進や寄付という形で金を徴収する。ゆえに法の下では人間は平等と謳っておきながら、市民の間には寄進の金額を基にしたヒエラルキーが存在する。
しかし属国であるサホロ公国からは属州税という名目で売り上げの2割ほどが吸い上げられている。
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