迷宮転生記

こなぴ

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第2章

エピローグ

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 領主との話しも終わり、その2日後、ルファードとベネットはラルゴ村へと向けて出発しようと馬車に荷物を積み込んでいた。
 馬車1台、荷馬車1台の予定で、とてもじゃないが屋敷にある全ての物を持っていけそうになく、必要な物だけを選び、半分は置いていくことになるだろうと少し寂しそうなルファードとベネットだった。
 そして、準備が出来次第、メイグウ商会へ行き、移動に必要な物資を買い、冒険者ギルドで護衛と合流する予定だ。
 荷造りが終わり出発しようとしたところで、前方から人が歩いてくるのが見えた。
 10人以上の大所帯だ。
 しばらく通り過ぎるのを待っていると、目の前に現れた大所帯は、ギルドマスターのガイレン、メイグウ商会のローニャとゼーニャ、メイグウ商会にいる護衛10名だということに気づいた。
 護衛たちはメイグウダンジョンの自警団だ。
 ルファードが面食らった様子でいると、ガイレンが声をかけた。

「ルファード様。勝手ながらこちらで合流させていただくことにしました。護衛の件ですが、冒険者ではなく、メイグウ商会の護衛10名となります。全員手練れだそうですので安心して下さい。現地を確認するため私も同行いたします」

 ルファードが黙って聞いていると、ローニャが言った。

「ルファード様。メイグウ商会も支店を出すため、私とゼーニャも同行いたします。あとは真人様からこれを預かっております」

 ローニャは口が紐で縛られた手のひらに乗る大きさの茶色の布袋を差し出してきた。

「こ、これは?」

「空間収納が付与された袋でございます。屋敷1軒分は余裕で入るとおっしゃってました。盗難防止のため古い見た目の物にしたそうなので、扱いには気をつけて下さいとのことです」

 ルファードはローニャから渡された、初めて手にする収納袋を手に乗せ呆然となった。
 ベネットの、これで全部持ち出せそうですね!という嬉しそうな言葉で我に返ったルファードはローニャに感謝の言葉を述べた。

「お礼は真人様にお願いします。あと、旅や向こうで必要な物はこちらで準備いたしますので、ご入り用の物があれば遠慮なく申して下さい」

 ルファードは頷き、ベネットと屋敷の中へと戻っていった。
 しばらくして荷物を片っ端から収納し終えた2人が外に出ると、おかしな光景が目に入り、また呆然となった。
 ガイレンも状況がわかっていないのか、口をポカーンとあけていた。
 そこには、豪華な装飾、意匠が施された玉座のような椅子に足を組んで座り、優雅にカップを傾けているローニャの姿があったからだ。
 ローニャはルファードに気づくと、ふぅー。と一息ついて言った。

「ルファード様。終わりましたか?」

「あ、ああ。ロ、ローニャ殿?その椅子は・・・?」

「これですか?これは真人様の気分を味わえる椅子です。真人様に譲っていただいた私の宝物です。ウフフ」

 それは以前クリスたちがルタに作らせた椅子だった。
 真人が処分に困っていたところ、ローニャが物欲しそうに見ていたため、小さい収納袋とこの椅子を譲ったのだった。
 ルファードが、ま、真人殿の気分を?と困惑した顔をしていると、親子が言い争いを始めた。

「ルファード様っ!支配人ばっかりズルいと思いませんかっ!?」

「何言ってるのゼーニャ!あなたは腕輪をいただいたでしょう!」

「うぐっ・・・!そうですけど・・・」

 ルファードはギャーギャーと言い争いをしている2人を横目にガイレンに声をかけた。

「ガイレン殿。そろそろ出発したいのだが、貴殿たちの馬車は?」

「ルファード様。私もローニャに歩いて行くと言われまして準備しておりません・・・」

 するとローニャとゼーニャが言い争いをやめ、ルファードの方を向いた。

「ルファード様。街から出てしばらく歩いて行きます。クリス様が迎えにくるとのことでしたので馬車も収納して大丈夫ですよ」

「そうなのか。しかし街の外も歩きなのか?大丈夫か?いくらこの周辺に魔物や盗賊が出ないからと言って。それにラルゴ村までの道は草だらけで、とてもじゃないが歩けるような道じゃないだろう?」

「その辺はクリス様に考えがあるんだと思います。どちらにしろ私たちは指示に従うしかありません」

「それもそうだな・・・」

 5人は自警団の10名をゾロゾロと引き連れて門をくぐり街の外へと出た。
 ローニャが、クリス様はラルゴ村の方向へ歩いて行けばいいことがあるとおっしゃってました。と言いしばらく歩いていると、4人はある場所で立ち止まり顔をひきつらせることとなった。
 そしていち早く異変に気づいたルファードが言った。

「お、おい。王都へ向かう道が無くなってるんだが・・・?この間まであったはずだ!」

 ルファードが焦っていると、1人冷静なローニャが言った。

「ルファード様。あちらをご覧ください。ラルゴ村へ向かう道はちゃんと整備されております」

「さすがクリス様っ!」

 ゼーニャが相づちを打っていると、ルファードとガイレンはさらに顔をひきつらせた。
 ベネットは驚き疲れて無表情になっていた。

「ガ、ガイレン殿?どうみてもこの道は普通じゃないんだが・・・」

「ええ・・・。ありえないことにどうやらミスリルで出来てるようです。それに見て下さい。マスターロードという看板まで立てられてます」

「ミ、ミスリルの道・・・?どうやったらそんなものができるんだ?王都の道より綺麗じゃないか。それに所々棒みたいなのが立ってるんだがあれはなんだ?・・・ガイレン殿?」

 ルファードがあまりの非常識さに、何度も目をこすってミスリルの道を見ていると、横にいたガイレンが顎に手を当て、道を凝視していることに気づいた。

「ルファード様。魔物の気配を感じます。気をつけて下さい!」

「なにっ!?どこからだ!?」

「この道からです」

「大丈夫ですよ。クリス様がいいことがあると言ったのです。早く進みましょう」

「支配人!何が起きるか楽しみですね!」

 マスターロードを見た反応は二つに別れた。
 一つはルファード、ベネット、ガイレンで生きてる気配を恐ろしく感じ、いつ襲撃があってもいいように道の端を歩いた。
 もう一つはメイグウ商会組で、神へと続く道に感動しながら道の真ん中を一歩ずつ進んでいった。
 休憩を挟みつつしばらく歩いていると、遠くに建物が見えてきた。
 ルファードは見覚えない建物が数棟あることに目を細めた。

「ガイレン殿?貴殿はラルゴ村へ訪れたことがあるか?」

「はい。ギルドマスターになる前ですが依頼で何回か行ったことがあります」

「あそこにあんな建物あったか?」

「・・・いえ。ありませんでした・・・。新しいので最近出来た物では?」

「あんな真っ白な建物が誰にも知られず建てられるわけがないだろう!聖教国の神殿より綺麗なんじゃないか!?」

「あっ!建物の前に誰か立ってますね。あれは?クリス様?どうやら待っていてくれたようです」

「ほんとですね。支配人。おーい。クリス様~」

 ゼーニャはクリスに向かって手を振った。
 建物の前につくと、それは教会のような真っ白な建物で入口にはクリスが仁王立ちしていた。

「ローニャ!遅いっ!」

「申し訳ありません。クリス様。あまりに道が素晴らしいものですから、目を奪われてしまい時間がかかってしまいました」

「フフン。ならいい」

 クリスは腰に手を当てドヤ顔をした。

「ところでクリス様。こちらの建物は?」

「ここは休憩したり泊まったりできる建物。無人だから勝手に利用していい。但し奥に設置してあるマスターの像には必ず祈ること。それを出来るだけ広めて欲しい」

「それは素晴らしいですね!私たちも祈って行きましょう!」

 全員が建物の中に入ると、天井も高く、奥に向かって光が差し込むように透明の窓がついていた。
 光が差し込んでいる奥を見ると、3メートルはある巨大な真人の銅像・・・いや、ミスリル像があった。
 ミスリル像は光を反射させキラキラと輝き神々しさを放っていた。
 ローニャ、ゼーニャ、自警団が膝まづき、祈るような仕草をすると、ルファード、ベネット、ガイレンも焦るように膝まづき、わけもわからず祈りを捧げた。
 すると真人のミスリル像が淡く輝くと、メイグウ商会組に光が降り注ぎ恍惚とした表情を浮かべた。
 しかしルファード、ベネット、ガイレンには何も起こらず、ローニャたちを見て困惑しているとクリスが言った。

「信仰が足りてない証拠。マスターは全てを見て、感じている。必ず人を助ける心を持つこと。そうすれば救われる」

 するとローニャが嬉しそうな表情でクリスに問いかけた。

「クリス様。ちなみに効果はなんでしょう?体が軽くなりました」

「ん。効果は体力回復、魔力回復。早く言えば効果が低いヒールってとこ。道にも疲労軽減の効果があるけど、ここで祈ればさらに疲れが癒える」

「それは商人、冒険者、旅人が助かりますね。いっそのことこっちを王都の道へとしましょうか?」

「それでもいいけど王都なんてどうなろうが知らない。マスターが王になるなら別だけど」

「それもそうですね。真人様が支配する場所を徐々に広げていきましょう!」

「ローニャ!名案!王都を乗っ取る」

 2人が騒がしく不穏な話しているのを、ルファードとガイレンは顔を青ざめさせながら聞いていた。
 この2人ならほんとにやりそうだと。
 ルファードとガイレンの不安をよそに、2人が盛り上がっていると、以外にも平気な顔をしたベネットがクリスへと問いかけた。

「クリス様。ここからラルゴ村まではどうやって行くのでしょうか?馬車もないようですが・・・」

 クリスは話すのをピタリとやめ、ベネットの方を向いた。

「ん。どうやって行きたい?」

「えっ?どうやって・・・?」

「身体強化かけて走る?それとも飛行魔法で空を飛ぶ?ゲートでも転移でも馬車でも向かう方法ならいくらでもある。投げ飛ばすって手もある」

 これにはさすがのメイグウ商会組も顔をひきつらせた。

「では馬車で・・・」

「転移でいいか。早いし」

 そしてベネットが答えようとしたところ、クリスに遮られ、目の前が真っ白になった。

 ◇◇◇
 全員がハッとなった瞬間には目の前に巨大な門が現れていた。
 それはラルゴ村の入口にある門で、あまりの大きさや見事な装飾、そして膨大な量のミスリルで作られたと思われる門に圧倒され、言葉を失った。
 呆けている全員をよそに、クリスは巨大な門の横にある、馬車が通る程度の大きさの門に近づき魔力を流すと門が開いた。
 ローニャの提案で自警団は門の前に残すことにして、クリスが門をくぐり歩くと、呆然としながら5人はついていった。
 門をくぐり一歩踏み込むと、5人は見事な街並みに再度圧倒されることとなった。
 綺麗に舗装された道。
 等間隔で遥か先まで建てられた真っ白な壁に黒い屋根の建物。
 立派な街路樹も植えられ、真っ白な壁と真緑の葉が見事な風景を写し出している。
 そんな光景に目を奪われながら、いち早く我に返ったローニャがクリスの横に並び問いかけた。

「クリス様。あの巨大な門は普段閉まってるのですよね?小さな方は常時開きっ放しなのでしょうか?」

「そう。小さい門は昼夜問わず開ける予定。追尾式の魔力認証がついてる」

「つ、追尾式?」

「ん。メイグウ市の水晶みたいに犯罪歴を持った者や悪意を感じとって魔力を追尾してる。ちなみに犯罪をしたら地面に拘束される」

「やはりこれは魔物なのかっ!?」

 ガイレンが道を見ながら叫んだ。
 マスターロードはあきらかにミスリルとわかるような色だったが、門をくぐると茶色の道になっていた。
 しかし、これも色が違うだけでマスターロードという魔物の一部で、クリスの眷属となっているため土魔法で拘束することも出来るし、取り込んでダンジョンへ送り込むこともできるのだ。

「ん。ガイレン。試してみる?」

 ガイレンはクリスの言葉にブルッと体を震わせて答えた。

「い、いやっ!遠慮しておこう・・・」

 そこにようやく我に返ったルファードが声を出した。

「クリス殿?ここがラルゴ村?これはもう村じゃなくて街なのでは・・・?」

「ん。規模は街だけど人がいない」

「来る時も見たのだが、あの道に立ってる細長い棒は・・・?」

「あれは街灯。暗くなると明るく照らしてくれる」

「それは素晴らしいな。犯罪防止にもなりそうだ。ところで村に住んでた住人たちはどこに?」

「住人たちは、こんな綺麗な場所落ち着かないってダンジョンの方に住んでる」

「そうなのか。ここには誰も住んでないってことか・・・」

「ルファード様。ここは薬草の産地です。商人、冒険者問わず訪れるはずです。そうなれば必然的に人が増えますし、店も宿も出来ます。今から忙しくなりますよ!」

 ローニャは鼻息を荒くしてルファードへと詰め寄った。

「いや・・・。私は庭いじりをだな・・・」

「まぁ、いいではないですか。ルファード様。王都よりもやりがいがありそうです」

「確かに王都の貴族連中を相手にするよりかはマシか。真人殿を手伝う約束もしたし。やるだけやってみるか」

 ルファードとベネットはこれから発展していくであろう街に思いを馳せながら歩を進めた。
 クリスを先頭に山に向かって外壁沿いに歩いていると、遠くにキラキラと輝く湖が現れた。
 するとガイレンとゼーニャが驚いた表情で声を上げた。

「これは魔力が混ざってる!?」

「クリス様!精霊湖ですかっ!?」

「ん。どっちも正解。この湖のおかげで薬草が育つ。それに何かあってもギンがいるから大丈夫」

「「「「「ギン?」」」」」

 クリスが湖に近づくと、湖面が盛り上がり巨大な魔物が現れた。
 その魔物は白銀色で太陽の光が鱗に反射してキラキラと輝いていた。
 5人がポカーンと口を開けて唖然としていると、ガイレンが叫んだ。

「ミスリルワームじゃねーかっ!なんでこんなところに!?」

「ん。紹介する。ミスリルワームのギン。ミスリルをあげると喜ぶからよろしく」

「ミュウミュウ♪」

「いや・・・。そんな簡単に高価なミスリル用意できねぇよ・・・」

 ガイレンの呟きをよそに、クリスは指輪の空間収納からミスリルの塊を取り出し、ギンに向かって投げていた。
 ギンはミスリルを口で捕らえると嬉しそうに湖へと戻っていった。
 クリスはギンに手を振り見送ると、唖然としている5人を気にすることなく進み始め、5人は慌ててついていった。
 しばらく山に向かって歩いた5人だが、山だと思っていたのが神殿のような作りになっていることに気づいて、その様子に呆気にとられていると、クリスがいきなり消え、壁にある黒い影の前に現れた。
 そして、クリスの隣に一つの人影があるのを目にした。
 そこには真人が立っていた。
 神殿の神々しさも加わり、5人にはまさに神の出で立ちに見えた。
 すると真人が片手をあげて言った。

「ルファード殿、ベネット、ローニャ、ゼーニャ。よくきたな」

 4人は真人の前に移動すると片膝をつき頭を垂れた。
 ルファードとベネットもダンジョンを前にした真人を見て、ようやく神だと認識したようだ。
 後ろではガイレンが、俺は!?と叫んでいた。
 挨拶もほどほどに、真人とクリスは頭を上げた4人とガイレンを連れて黒い影の中に入ると、景色が一変した。
 そこはまぎれもなくダンジョンだった。
 しかし、魔物の姿はなく、広大な畑となっており、奥の方には倉庫のような建物が建っていた。
 畑には薬草や野菜を世話している人の姿もある。
 畑を眺めているとベネットが目を輝かせながら言った。

「真人様。ここの土は素晴らしいですね!」

「ここは薬草と野菜を育ててるんだ。薬草は奥にある建物でポーションへと精製される。ちなみにそれをしてるのはラルゴ村の住人たちだ」

「真人殿。私たちの住む所もここに?」

「いや。ルファード殿とベネットは湖のほとりに屋敷を用意した。ここよりも過ごしやすいだろう。あと街の中にも職務用の屋敷を準備してある。足りない物があればローニャ・・・いや。ゼーニャに言うといい」

「ローニャ殿ではなくゼーニャに・・・?」

「ああ。ゼーニャはここにメイグウ商会の支店を出すつもりだ。いい経験になるだろう」

「はいっ!お任せください!真人様!ルファード様!」

「そうか。なら必要な物があればお願いしよう」

 真人とクリスは5人を引き連れて近くにある転移部屋に入り、2階層へと降りた。
 2階層に降りると、目に入ったのは広大な草原で、柵で区切られており、その中には様々な動物たちがいた。
 するとガイレンが目を細めながら真人へと問いかけた。

「ま、真人殿?あれは魔物?見たことないんだが・・・」

「魔物じゃないぞ。食用の動物、それに乳製品に卵にと食事に必要な物を提供してくれる大切な存在だ」

「そういえばリンに食事に感謝するように言われたよ。真人殿の教えは素晴らしいと感じた。私もこれから周りに広げていきたいと思う」

 ルファードが微笑みながら言い、ベネットも頷いていた。
 しかし、ガイレンが奥の建物の長屋を指差しながら叫んだ。

「おいっ!ゴブリンがいるぞ!しかもキングが統率してやがる!あいつは俺がやる!」

 ガイレンが殺気立つと、真人の隣にいたクリスがボソッと呟いた。

「ちょうどいい。ガイレンで試すか。ビビッ!」

「キュイッ♪」

 クリスが名前を呼ぶと可愛い鳴き声がした。
 そして、ガイレンはいきなり現れた自分より大きな魔物に驚いて叫んだ。

「こ、こいつはニビウサギ!?いや!こんなでかいのいるわけねぇ!なんだこいつはっ!?」

 ガイレンが拳を構えるより早くクリスが合図を出した。

「いけっ!ビビッ!」

「キュイッ!」

 大きな体格とは裏腹に素早い動きでガイレンを翻弄したビビは、前足でガイレンを吹き飛ばし、ガイレンはあっけなくやられてしまった。

「「「「・・・・」」」」

 その様子を4人は呆然とみていた。

「よくやった。ビビ」

「キュイ!」

「短期間でよくこんなにでかくなったな」

 真人はビビのモフモフの毛に手をやり、頬を緩ませながら言った。

「むっ。マスターがデレてる?私もモフモフになれば・・・」

 クリスがブツブツと呟いていると、ゴブリンたちがビビに近づいてきた。
 ビビは真人とクリスを潤んだ目で見つめていたが、それに気づくまえにローニャが声を出したため、ビビはガックシと項垂れ、引きずられるようにゴブリンたちに連れていかれた。

「ま、真人様?あのゴブリンたちは・・・?」

「あのゴブリンたちはここの牧場の管理をしているんだ。言葉はしゃべれないが理解はできる。覚えておいてくれ」

 真人の言葉にルファードとベネットは言葉を失った。
 反対にローニャとゼーニャは真人を尊敬の眼差しで見つめていた。
 そして、3階層はリンの居住階、4階層は核の部屋のため案内を控えた真人は、ダンジョンの外へと出た。
 ガイレンはクリスが引きずって転移部屋へと押し込んでいた。
 外に出るとちょうどガイレンが起き上がり、真人とクリスは5人を連れて湖の畔を歩き、ルファードの屋敷へとやってきた。
 そしてルファードとベネットは絶句した。
 そこには立派な門に、周りを塀で囲まれた見たことない建物があったからだ。
 これはクリスの家と同じで、瓦の屋根に玄関や縁側まである建物だ。
 庭もあるが、2人が好きに触るだろうと思い何も手をつけてなかった。
 門をくぐり、玄関から入り、建物の中を案内すると、2人は気に入ったようで、興奮しながら真人に質問をしていた。

 ◇◇◇
 それから1ヶ月が過ぎると徐々に移住してくる者が出てきた。
 と言っても、メイグウダンジョンの獣人たちやメイグウ商会で働く従業員たちだが。
 しかし、メイグウ市のメイグウ商会や冒険者ギルドで噂を聞いた商人や冒険者たちも訪れているため、すぐに人口は増えるだろう。
 そんな活気ずきつつある街の様子を見ながら歩いているのは真人、クリス、ヴィア、ジョイナだ。
 4人が向かっているのは街の中央にある噴水の広場だ。
 ラルゴ村の頃から良質な水が涌き出ており、豊富な水のおかげで火の魔石を利用した公衆浴場まで作ることができた。
 4人が広場に着くと、そこにはアル、ディーネ、ルタ、サラ、リン、それにラルゴ村の住人たちにルファード、ベネット、ローニャ、ゼーニャとみんなが揃っていた。
 するとアルが一歩前に出てきて言った。

「主様。この街、ライグウ市のことはお任せください」

「ああ。みんなと協力してな。リンやルファードも何かあったら相談するように」

「はいっ!主様っ!」

 リンは相変わらず元気だ。

「真人殿。何から何まで世話になった。この街の発展のために私も尽力を注ぐよ」

「ルファード殿。頼むよ」

「ところで主様。次はどこに行かれるんですの?」

「とりあえず王都にでも行ってみるよ。急ぐ旅でもないからな。何かあれば転移で戻ってくるさ」

「寂しくなりますわね。でも仕方ないですわ」

 するとアルは春風と夏風を取り出し、膨大な魔力をこめ始めた。

「メイグウ流雷神術一式らいじんじゅついっしき昇雷撃しょうらいげき!」

 そして、魔力を空へと打ち上げた。
 次の瞬間、凄まじい轟音と激しい稲光が降り注いだ。
 稲光がおさまったあとに真人が周りを見渡すと、全員が片膝をついて声を揃えて言った。

「「「「「いってらっしゃませ!」」」」」

 真人は満足そうに頷き、アルに近づいた。

「アル。行ってくるよ。それに夏風を使いこなせるようになったか。よく頑張ったな」

「はいっ!」

 アルは立ち上がり、元気に返事をした。
 真人は、褒美だ。言うとアルの頭を撫でた。
 すると、ディーネ、ルタ、サラが私も!僕も!俺も!と武器を取り出し始めた。
 リンも負けじと何かしようとするが、何も思いつかなかったらしくあたふたとしていた。
 そんな4人を微笑ましく見ながら真人は言った。

「せっかくアルが盛大に見送ってくれたんだ。お前たちは次の機会にな」

 4人は残念そうな顔をしたが、真人が歩き始めたのを見て笑顔で手を振った。
 クリス、ヴィア、ジョイナが真人に追い付き、3人はときたま振り返り、手を振り返していた。
 そして門をくぐり街の外に出た真人は、さて王都へと出発するか!と腕を空へと掲げた。
 3人が不思議に思い見ていると、真人が6属性を混ぜた魔力の球を作り出した。
 3人は自分たちには不可能な所業を見て唖然となった。
 そして真人はアルへお返しにと思いながら、ロクシャクダマ。と呟き魔力を上空へと飛ばした。
 すると6色に輝く、巨大で美しい花火が咲いた。
 それは昼間にも関わらず、ライグウ市から離れたメイグウ市、王都イルアまで見えたという。
 真人はライグウ市から見る花火を目に焼きつけて、王都へと歩を進めるであった。
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