迷宮転生記

こなぴ

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第2章

第17話 千差万別

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 その日、4人の精霊王、アル、ディーネ、ルタ、サラはクリスに拉致られて、ラルゴ村のダンジョン麓の湖の前にいた。
 その後ろには草を食んでる、シロツメとクロツメの姿もあった。
 なぜシロツメとクロツメもいるのかというと、クリスがディーネを探しに食堂に行くと、珍しいことにそこに姿がなく、中位精霊たちと野菜の収穫をしているようだった。邪魔しているとも言える。
 ディーネの所に転移すると、クリスの魔力を感じとったのか、シロツメとクロツメが現れ、服の両裾を噛んで放さなかったのだ。
 念話を使えるはずなのだが、シロツメとクロツメはジッとクリスの目を見つめてくるだけで、つぶらな瞳で、連れていけ。と訴えてくるのに困ったクリスは渋々つれてきたのだった。
 4人は理由を説明されることなくいきなり連れてこられたため、急を要する状況なのかと困惑した。
 しかし、刈られた草の上にシートが広げられ、様々な料理が並べられていたことから、特に切羽詰まった状況ではないと判断することができ安堵した。
 そして、そこにはヴィアとジョイナ、初めて目にする少女が待っていた。
 その少女を横目にアルが口を開いた。
 ちなみに、ディーネは状況についていけず、口をポカーンと開けて呆けており、ルタとサラは周りをキョロキョロと見渡して、久しぶりの外に嬉しそうにしていた。

「クリス。いきなり帰って来たと思ったら、なんですの?急にこんなとこに連れてきて。それにその少女は誰ですの?主様の魔力を感じますわ」

「この子はリン。この場所に街をつくる」

「説明が雑すぎますわ!ちっとも理解できないですわ!もっとしっかり説明してくれませんと!」

「むー。仕方ない。ヴィア!」

「私ですか!?クリス姉様が言うと思ってたのに!」

「ん。なんかディーネの顔見てたらやる気がなくなった」

「私のせいっ!?ひどくないっ!?」

 そこにリンが緊張した面持ちおももちで一歩前に出て、丁寧なお辞儀をして言った。

「はじめまして。私はリンと申します。主様に付けていただいた大切な名前です。主様には私が魔力暴走で苦しんでいるところを助けていただきました。誠心誠意尽くす所存ですのでどうかよろしくお願いします」

 これには聞いていた全員が唖然となった。
 シロツメとクロツメまでリンを見て、ブルルッと鳴いている程だ。

「ん。やっぱりリンは賢い。ディーネとは違う」

「いい子ですわね。さすが主様が名付けしただけはありますわ!ディーネより賢いですわね」

「なんで私だけ!」

 ディーネが地団駄を踏んでいると、ルタとサラが顎に手を当てながら言った。

「クリス。この子はいい才能持ってるね」

「ふむ。たしかに近接の技を教えて鍛えるのがおもしろそうだ」

 どうやら脳筋気味の2人にリンの才能怪力が見抜かれたようだが、クリスが待ったをかけた。

「ルタ。サラ。リンは私が鍛える。4人は別のことして欲しい」

 すると、クリスに任されたヴィアが説明を始めた。

「では・・・。ここの村は以前訪れたことがありまして、薬草が有名なラルゴ村と言うんですが・・・」

 ヴィアは冒険者ギルドの依頼でこの村にきたこと、ゴブリンと村人たちの関係、ダンジョンを見つけリンを治療したこと、ダンジョンに核がないためこのままでは崩壊してしまうことを話した。

「それで主様は何をしてらっしゃるの?」

「マスターはダンジョンが崩壊しないように核を設置してる。多分階層も増やすはず」

「なるほどですわ。ダンジョンがあれば人が増える。それでここにも街をというわけですわね」

 すると、ディーネが不思議そうな顔で聞いてきた。

「ねぇ?来た時から気になってたんだけど、あそこに見える地面が抉れた跡は何?一直線にどこかに向かってるんだけど何と戦ったの?地上にあんな大規模な魔法の跡が残るような魔物がいるとは思えないんだけど・・・」

「マスターが捕まったから、その元凶ごとメイグウ市を吹き飛ばそうとした跡」

「主様が捕まった!?」

「真人様が捕まった!?」

「ご主人様が捕まった!?」

「主が捕まった!?」

 4人の叫び声が重なった。

「どういうことですの!?クリス!」

「ん。任せた。ジョイナ」

「次は私ですか!?」

 ジョイナは4人に、真人が自分で作った魔道具が反応して不法侵入で捕まったこと、ヴィアとジョイナで極級魔法、クリスが神級魔法を放ち、それのせいであの跡が出来たこと、こちらの落ち度で、解決済ということを話し、なんとか4人を落ち着かせた。
 その話しを聞いて顔を険しくさせたアルが言った。

「そんな恩知らずな街いらないんじゃないかしら。でもクリスの神級魔法で無事だということは、主様が守ったってことですわね」

「ん。だから私たちはマスターの意向に従って手を引いた」

「いっそのこと、メイグウダンジョンとここのダンジョンを繋げてもらうのもありかもしれないわね」

「ん。それはマスターも考えてるはず。だから先に整地して下地作りをして欲しい」

「そうですわね。私たちが一から携わるならメイグウ市なんて目じゃないわ。そんなことより久々の再会ですわ。食事しながらにしましょう。ディーネも待ちきれないみたいだわ」

 アルの言葉に1人を除いて全員が座った。
 座れなかった1人のリンがオロオロし始め、キョロキョロ見渡したが空いてる場所はなく、泣きそうになっていると、クリスが手招きした。

「リン。こっち」

 リンはパアッと顔を輝かせ、クリスに近寄るが、座れるような場所は見当たらず、不思議そうな顔をして首を傾げた。
 するとクリスは、隣に座っていたジョイナに指を差して言った。

「ん。そこの椅子に座るといい」

 ディーネは驚いた顔で、私は椅子じゃない!と反論するも、リンは遠慮することなくディーネのあぐらをかいて座っていた足の真ん中におさまった。
 これには言い出したクリスを含む全員が驚いた。
 ディーネはまんざらでもないようで、ふふっ。可愛いかも。とリンの頭を撫でていた。
 クリスはそれを横目に色んな種類の飲み物を出し、アルはディーネのことをうらやましそうに見ながら料理と飲み物を配っていった。
 全員に飲み物が渡るとアルがカップを掲げ、クリスに目配せした。
 リンもキョロキョロと周りを見ながら同じようにカップを掲げた。
 そしてアルから視線を受けたクリスが言った。

「マスターと、リンと、ダンジョンの繁栄を願って・・・。乾杯」

「「「「「「かんぱ~いっ!」」」」」」

「かんぱい?」

 リンは不思議そうな顔をしてみんなとカップを合わせ、リーンのジュースを一口飲むと、美味しい。と呟いて目を見開き、一気に飲み干した。
 その姿を全員で微笑みながら見ていると、ディーネはリンをほったらかしにして、次々と料理をたいらげていった。
 リンはその様子にあっけにとられながら、クリスから渡される各料理の一番美味しいと思われる所を取ってもらい笑顔で食べていた。
 食事もそこそこに、リンへの自己紹介が終わると、アルが真剣な顔をしてクリスに声をかけた。

「それで、クリス。私たちは何をすればいいのかしら?」

「ん。まず、ルタとサラはあの抉れた跡を埋めて欲しい。そのあとに私が街道を作る。アルはヴィアを連れてキラービーの森と同じぐらいの森を作って欲しい。場所は以前野営した辺りで、ヴィアがわかる。ディーネとジョイナは山に沿って湖を広げて欲しい。村の入口付近まで水路も引いておいて」

 クリスとアルはディーネを見て眉根を寄せた。

「ディーネ!聞いてますの!?」

「はふっ?はぐはぐもぐごくっ!(なにっ?ちゃんと聞いてるよ!)」

「ならいい」

「クリス。今のでわかったんですの!?」

「わかるわけない。でもちゃんと伝えたんだから怒られるのはディーネ。悪いのは私じゃない」

「たしかにそうですわね。その時は連帯責任でジョイナもですわね」

「えっ!?私もっ!?そんな・・・。嘘ですよね・・・?」

 ジョイナがこの世の終わりのような絶望した顔をしていると、そこにリンがおずおずと手を上げて言った。

「あの・・・?私は・・・?」

 クリスはリンを見てニヤリと笑い、それを見たリンはブルッと体を震えさせた。

「リンはここを出発、到着地点として、みんなの所を走って巡ること。まずは体力作りから。あとはわからないことがあればちゃんと聞くこと。魔力制御と身体強化を得ることも意識するように」

「おっ。懐かしいね~。ヴィアとジョイナも通った道だね」

「あの頃のヒーヒーなっていた2人が懐かしいな」

 ルタとサラがヴィアとジョイナをからかうと、2人は頬を膨らませながら言った。

「あれは最初のうちだけだったじゃないですか!誰でも最初はあんなもんです!」

「そうです!あれはクリスお姉様が鬼だったんですよ!」

「私が鬼・・・?」

 クリスがゆらりと不穏な雰囲気を漂わせて立ち上がると、ジョイナは跳び跳ねて立ち上がり、一目散に逃げ出してどこかに行ってしまった。
 するとアルがリンを見ながら不思議そうな声を出した。

「そういえば、鬼で思い出したのだけど、リンの種族はなんになるのかしら?額に小さい角があるからオーガかしら?」

「アル。リンをそんな低俗なのと一緒にしたらダメ。今は種族不明。だけど、リンが望むものになればいい」

「私が望むもの・・・?」

「でもクリス姉様。リンは今のままが一番真人様に可愛がってもらえる気がしますよ?」

「っ!?なら私はずっとこのままでいいですっ!」

「ヴィア。甘い。それは女としてじゃなくて子供としてでしょ」

「っ!?なら私は大人になりますっ!」

「クリス姉様。何言ってるですか。私たちは定命からかけ離れた存在ですよ?そうなると恋愛に大人も子供も関係ないですよ!」

 リンはクリスとヴィアの顔を交互に忙しなくせわしなく見ていた。

「なるほどですっ!子供から大人まで自由に姿が変えれれば、ずっと可愛がってもらえるってことですねっ!」

 そして胸の前で両手を握りしめて、フンスッ!と鼻息を鳴らした。

「「っ!?リンは天才!」」

 するとリンの身体がいきなり淡く輝き始めた。

「「えっ!?」」

 クリスとヴィアが驚いた声を出すと、全員が注目した。
 しかし、リンの輝きは一瞬だけですぐにおさまり、アルたちには見えなかったようだ。
 リン自身も変わった様子はなく、何が起きたのかわかっておらず、首を傾げていた。
 クリスは自身のスキル、鑑定を使い、リンのステータスを確認すると、予想外の出来事に目を疑った。
 その様子を見ていたヴィアがクリスに声をかけた。

「クリス姉様?リンに何かありましたか?」

「固有スキルの人化のあとに(千差万別せんさばんべつ)ってのがついてる・・・」

「千差万別?どういったものでしょう?」

「私の鑑定じゃ効果までわからない。マスターに聞くしかない」

「でもクリス姉様。私たちがあんな話しをして、リンが子供から大人までの姿を望んだってなると・・・」

「おそらく。ヴィアの考えてる通りだと思う。魔力制御も覚えてないうちは使わせないでおこう。何があるかわからない」

「そうですね。真人様にも報告して調べてもらいましょう。それにしても固有スキルが進化したということでしょうか?そんなことあり得ますか?」

「出来るなら私もとっくにやってる。でもあり得ないことなんてない。それを今、リンが証明した。だから私もまだまだ努力しないと」

「ですね!私も負けてられません!」

 クリスとヴィアがコソコソ話していると、アルがリンの頭を撫でながら、不思議そうに声をかけてきた。

「クリス?リンがどうかしましたの?」

 クリスはアルに、なんでもない。と告げると、アルたちにとりあえず今日は下見や場所の確認をしておくようにと指示したのだった。

 ◇◇◇
 クリスはアルたちと別れると、ダンジョンにいる真人の元へと転移した。
 真人はダンジョンの核である魔石に魔力を注いでいた。
 すると、クリスが真人の様子を窺いながら言った。

「マスター。固有スキルが進化することってある?」

「クリスか。いきなりどうしたんだ?固有スキルが進化?うーん。わからん。だが可能性としてはあるんじゃないか?なんでそんなこと聞くんだ?」

「ん。リンの人化に千差万別ってのが追加されてた。千差万別ってどんな意味?」

「千差万別か・・・。手早く言えば、ありとあらゆる種類、形、色になれるってことだな」

「なるほど・・・。でも簡単に進化するようなものなの?・・・ありとあらゆる?なんでもってこと?」

「リンはスキルに祈祷があるからな。そのせいでスキルが得やすいのかもしれん。人化のあとにってことは身体に関係するものだろう。自身がどんな姿、形にでもなりたいとでも願ったんじゃないか?」

「やっぱり」

「やっぱり?心当たりがあるのか。やろうと思えばクリスも出来ると思うぞ?要は人化する時のイメージだ」

「ほんとに?それを続けたらスキルが進化する?」

 「進化するかはわからん。だが止めておいた方がいい。多用すれば自分自身の姿を見失うことになるぞ?」

「ん。たしかに。自分の姿が何種類もあったらどれに戻ればいいかわからなくなるかも」

「リンのもそんなに便利なものではないだろうし、長生きすればするほど使わなくなるだろう。姿を変えて人を騙すってのは生きづらくなるだけだからな。リンには俺が注意しておこう」

「ん。わかった。マスター。ありがと」

 ◇◇◇
 クリスから相談を受けた翌日、真人がリンの元を訪れると、家の前でピョンピョン高く跳び跳ねていた。
 リンは真人に気づくと、嬉しそうに駆け寄った。

「あっ!主様。おはようございますっ」

「ああ。リン。おはよう。どこか出掛けるのか?」

「はいっ!今日からみんなの所を走って周ります!クリスお姉ちゃんに準備運動を必ずするようにって言われてしてたとこですっ!」

「そうか。気をつけて行ってくるんだぞ。・・・じゃなかった。その前に少しいいか?」

「はい?なんでしょう?」

 真人は少し悩んだが、正直にリンに千差万別の効果を明かすことにした。

「リン。お前は千差万別というスキルを持ってるんだがな・・・」

「せんさばん・・・べちゅ?ん~。難しいです」

「・・・・・」

 あまりの可愛さに真人はリンの頭を撫で回した。

「あははっ!主様っ!くすぐったいですっ!」

「あ、ああ。すまんすまん。その千差万別の効果なんだがな、自分が望む姿や形に変わることができるんだ。例えば子供の姿になったり大人の姿になったりな」

「おおっ!それはすごいですっ!私も早く大人になりたいですっ!」

「リンは大人になりたいのか?」

「ん~。よくわかんないですっ!でも早く大人になれば主様の役に立てますっ!主様・・・?」

 真人は悲しそうな顔をして言った。

「リン。俺はな。子供だろうが大人だろうが元気に幸せに過ごしてくれればそれでいいんだ。役に立とうが立たなかろうが人にはそれぞれいい所が必ずある。リンは1人しかいない、かけがえのない存在ってことだ。だからそんなスキル使わ・・・」

「わかりましたっ!」

 リンは目を瞑って両手を組み、祈る仕草をすると、ほんの一瞬体が輝いた。

「な、なんだっ?」

「主様を悲しませるスキルなんて必要ありません」

 そして、真人がリンのステータスを確認すると、人化から千差万別が消えていた。
 これにはさすがの真人も驚いた。

「ははっ。リンは素直でいい子だな!」

 真人はリンの頭を撫で回し、そのまま抱えた。

「エヘヘッ」

 そして真人はリンを下ろすと、手を繋ぎ歩いてダンジョンの入口まで送っていった。
 入口につくと、真人はリンに視線を合わすようにしゃがみ、空間収納から1つの白い腕輪を取り出した。

「リンはいい子だからな。これをやろう」

 リンは腕輪に目を取られながら首を傾げた。

「えっ?主様これは?ほんとにいただけるのでしょうか?」

「ああ。これは魔石に空間収納や物理防御、魔法防御が付与されてある。必要な物はあらかた入れておいた。あとは御守りにもなってくれるだろう。使い方はわかるな?」

 リンは顔を輝かせて元気に返事した。

「はいっ!クリスお姉ちゃんが使ってるのをみたことあります!」

「そうか。みんなの所に寄ったら渡してもらいたい物が入ってるから渡しておいてくれ。但し、みんなに渡したら必ず休憩すること。」

「はいっ!わかりました。頑張ってきます!」
「気をつけて行ってくるんだぞ」

「はいっ!行ってきましゅっ!あっ・・・」

 真人は走り去っていく小さな背中を見送りながら微笑ましい気持ちになった。

 ◇◇◇
 リンの千差万別は使われることなく消えたのだった・・・。
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