迷宮転生記

こなぴ

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第2章

第15話 ラルゴ村の小さなダンジョン

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 ザムと別れの挨拶をした真人は、ガイレンが何か言いたそうな顔をしていることに気づき声をかけることにした。
 真人の後方では、アルに見つかったら取り上げられそう。だの、メイグウ商会で販売しよう。だの、コソコソと話し合いをしている3人がいる。

「ガイレン殿?どうかしたのか?」

「真人殿・・・真人様。折り入って相談があるのですが・・・」

「普段通りの話し方をしてくれ。俺も同じ冒険者だからな。それで相談とは?」

「わかった。大したことではないんだが、真人殿は今噂になっている件を知っているか?」

「ああ。ゴブリンが出たとのことだろう?そういえば俺も聞こうと思っていたんだ。しかしゴブリンが出た程度でこんなに噂になるもんなのか?」

「それには少し理由があるんだ。ここから北東に徒歩で3、4日程のところにラルゴ村という小さい村があるんだが・・・」

 するとコソコソと話しをしていたヴィアが話しに入ってきた。

「あっ!はいっ!真人様!その村なら昔行ったことがあります。確か薬草がたくさん採取できるとこです」

「ヴィアの姉御が知ってる通り、少し遠いですが薬草が有名な村で、以前からゴブリンの目撃情報は入ってたんだ。その当時は村人に聞いても知らないと言うばかりで、我々も周辺を探索したんだが、見つからなくて手を引いたんだ・・・。しかし、先日ゴブリンの集団を見かけたと商人が報告してきてな。それで以前も見つからなかったことから、ダンジョンがあってそこに潜んでるんじゃないかと噂が流れたってわけだ」

「真人様。たしかにあそこの村の近くの森には水源となる湖があって、その付近に魔力が濃い場所がありましたけど、ダンジョンはなかったはずですよ?魔力が濃いから薬草も育つみたいですけど。それに薬草ばかり育って、野菜や植物類に関しては育たずで、私が訪れた時は食料に困ってるみたいでしたよ?当時のことなので今はわかりませんが」

「ふむ。話しはわかったがそれで相談とは?ゴブリンの殲滅とかなら、俺たちだと過剰戦力だぞ?わざわざ他の冒険者たちの仕事を奪ってまですることじゃないだろう?」

「真人殿たちには、万が一のことを考えて待機、もしくは後方支援をお願いできないかなと。まずは人海戦術で調査。それで見つけ次第殲滅できればいいんだが・・・」

「万が一?何か懸念事項があると?」

「ああ。最初にゴブリンの目撃の報告があってから3年は経ってるんだ。その間にも何件か報告があったんだが、やはり発見には至らずで、村人からの討伐の依頼もこないことから、何かしらの理由があるのかもしれんと思ってな。それこそダンジョンに潜んでるか、上位が指揮を取ってるとかな。それに今回は以前とは違い、集団という報告だからな」

「まぁ、話しはわかった。要は依頼を受けた冒険者が対処できなかった時の保険になれってことだな」

「そういうことだ。お願いできないだろうか?」

「マスター。受けよう!冒険したい!」

「真人様。道なら私が知ってるので任せてください!」

「真人様。ようやく旅に出れますね!」

「待て待て!まずは冒険者の調査の報告があがってきてからだろう。ガイレン殿。俺たちはとりあえず後方待機でいいぞ。ただ、調査に向かう冒険者には、被害が出る前に撤退するように言い聞かせておいてくれ」

「了解した。調査依頼は2日後に出すことになっている。出発はその2日後だ。真人殿たちは1週間程ゆっくりしていてくれ」

「わかった。では俺たちはこれで失礼するとしよう」

「ガイレン!次はあの受付以外を寄越すように!」

「ガイレン!あの受付をもっと教育しておきなさい!」

「ガイレン!あの受付によく言い聞かせてよね!」

「は、はいっ!申し訳ありませんっ?」

 ガイレンはなんのことかわからず、困惑しながら返事をした。
 4人は執務室を退出し、1階に降りると、3人は周りをキョロキョロ見渡して、目的の人物がいなかったのか、上機嫌で扉をくぐり外へと出ていき、真人もため息をつきながらそのあとを追った。
 4人が通りを歩いていると、クリスが言った。

「マスター。このあとは?どこ行く?」

「とりあえずローニャのとこだな。ゼーニャには残念だが、今回は俺たちの出番はないだろうな。ゴブリン程度で、そうそう万が一ってのは起きないだろうし」

「真人様。それってふらぐって言うんじゃ?」

「うんうん。真人様がそんな言うなら出番があること間違いなし!」

「えっ?そ、そんなはずは・・・」

「マスター。1週間後が楽しみ」

「ま、まぁ、そろそろ街を離れようと思ってたんだ。この依頼が終わったら、そのまま旅に出てもいいかもな」

「「「っ!?」」」

「マスター!早く商会に行こう!」

「真人様!旅の支度ですね!」

「真人様!何を買いましょうか!?それともダンジョンに一度戻って補充しますか!?」

「おいおい。まずはローニャのところで話しをしてからだ。物資は十分だろう?それに遊びに行くんじゃないぞ・・・」

 真人が声を出してる途中で、3人は駆けていってしまった。
 4人がメイグウ商会に着くと、今朝あった冒険者たちの行列はなく、店内には何名かの客の姿があるのみだった。
 真人が支払い口の方を見ると、ローニャが立っており、身振り手振りするお客を、困った顔で相手にしていた。
 そして、その客の後ろ姿は、真人たちも見覚えのある金色の髪をしていた。
 しかし、旅に出ることで頭がいっぱいの3人は、その様子を確認すると

「マスター!ローニャが悪漢に襲われてる!早く助けないと!」

「真人様。早く行かないと準備する時間がなくなります!」

「真人様!私たちに任せてください!」

「おいっ!待てっ!」

 3人は真人の制止の声を聞くことなく、ローニャの元へと向かった。
 一番先にたどり着いたクリスは、ローニャが相手をしている者の肩口を掴んで、振り向かせながらそのまま走り抜けた。

「な、なんだ!?」

 困惑の声をあげて、振り向かされたのは、やはりザムだった。
 そうとは知らずに、次にたどり着いたヴィアは、左手でザムの肩口を掴み、クルッと反転しながら懐へ潜りこみ、そのまま背負い、そして投げた。

「えっ?ガッ、ガハッ!」

 ザムは宙を舞い、床に激しい音ともに叩きつけられると、肺の空気を全て吐き出すような声をあげた。
 最後にジョイナは、仰向けで放心しているザムの左横に周り、脚でザムの上半身を押さえ込み、左腕を伸ばして

「う、腕がぁ!うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!うっ・・・」

 そしてあまりの痛さからか・・・気絶した。
 真人が止めようと近づいた時には既におそかった。
 3人の素早い連携にたいしてか、それともザムをグランドマスターだと知っていてか、ローニャは口を押さえ驚いていた。
 未だにザムと気づいていない3人は、真人が近づくと、ドヤ顔をしてきた。

「ふーっ。マスター。いい仕事をしたっ!」

「真人様。これでまた一つ安全になりましたねっ!」

「真人様のお膝元で悪は許しませんっ!」

「「・・・・・」」

 ローニャは真人を無言で見つめた。
 ローニャに見つめられた真人はスッと視線をそらし、3人を手招きした。
 3人は期待に満ちた目で見てきた。
 そして真人は、近くに寄ってきた3人にゴンッと拳骨をした。

「なんでっ!?」
「「イッタッー!」」

 2人は頭を押さえて痛がったが、クリスは人化した当初とは違い、物理攻撃は効かなくなったようで、平気な顔をしていた。

「・・・・・」

 真人が無言でザムの顔の方に指を向けると、その指を目で追った3人は目を細めながら、ザムの顔を確認し、ようやくザムだと気づくと、顔を青ざめさせて、ローニャと真人の顔を交互に見た。
 クリスは、ソッとザムに近づき回復魔法をかけると、ヴィアとジョイナに目配せして、3人は3歩程下がった。
 真人とローニャが何をするのか見ていると、3人はゆっくりと膝をつき、両手をつき、頭を下げて土下座した。

「「「すいませんでした!」」」

 すると2階の売り場からゼーニャが慌てた様子で降りてきた。

「すごい音が聞こえましたけど何事ですか!?あっ。支配人。それに真人様も?何かあったんですか?」

 どうやらゼーニャの方からは、床にいるザムと3人の姿は見えないようだ。
 ゼーニャが真人たちの方に近づき、その様子を見ると困惑の声をあげた。

「な、なんですか!?誰が倒れてるんですか!?えっ?そちらにいる3人はなんで土下座を・・・?」

 3人はスッと何事もなかったように立ち上がると、クリスが悔しそうに言った。

「く、屈辱。ゼーニャに見られた。クッ!殺せ」

「あっ。先に言われちゃいました」

「うーん。クリスお姉様。なんかちょっと違う気がします。もっとこうオークとかに・・・」

「確かにもっと切羽詰まった状況が欲しいとこだな。って!お前ら何言ってんだ!?またゼノに言われたのか!」

「ん。ゼノが女騎士が屈辱を受ける時に言うって言ってた」

「あいつはまた!何を教えてるんだ!とりあえずお前たちは俺に謝るんじゃなくて、起きた時にザム殿に謝るんだ!いいか!わかったな!ローニャ。場所を変えよう。ザム殿を寝かせる場所があるか?」

 3人は真人に叱られシュンと項垂れた。うなだれた

「真人様。お知り合いですか?それでしたら事務所に行きましょう」

「ああ。すまんな。ところでローニャは知らないのか?冒険者ギルドのグランドマスターだぞ?」

「えっ!?この方はグランドマスターなんですか!?そんな方にこのようなことをして大丈夫なのでしょうか?」

 真人は、気にするな。悪いのはあの3人だ。と言いつつザムを結界魔法に乗せて浮かびあがらせると、ローニャは口を半開きにし、ゼーニャは驚いて叫んだ。

「なっ!?ななっ!?なんですか!?どうなってるんですか!?」

 真人はゼーニャの叫びを気にすることなく先に進むと、3人は大人しくついてきた。
 ローニャとゼーニャもハッとなり、あとをついてきた。
 そして、店舗を出て事務所に移動する際に、店員や住人、冒険者たちとすれ違うと、仰向けのザムが空中に浮いている姿を見てギョッとなり、一時の間、ザムのことは死体が空を飛んでいると噂されることとなった。
 ローニャとゼーニャに事務所の応接室に案内された真人は、ザムを隅にあるソファーへと寝かし、クリス、ヴィア、ジョイナの3人は、クリスが指輪の空間収納から椅子を4脚出して座った。
 ローニャとゼーニャは自警団とのやり取りで収納魔法を見慣れているのか、驚くことはなかったが、応接用のソファーに座りながら、クリスが出した椅子に注目していた。
 普段使う簡素な物ではなく、王族が使うような、贅沢に装飾が施された豪奢な椅子だったからだ。
 そしてクリスとヴィアの間には、さらに豪華な装飾、意匠が施された玉座のような椅子が置かれていた。
 もちろん真人が座るだろうとクリスが出した物だ。
 2人はその椅子に目が釘付けだ。
 そして真人は口元をヒクヒクさせながらその椅子を無視し、ローニャとゼーニャの対面にあるソファーに座った。

「「「っ!?」」」

 当然椅子に座ると思っていた3人は、びっくりして真人を呼んだ。

「マスター!ここ!ここが空いてるよ!」

「真人様!さぁこちらに!」

「真人様にふさわしい椅子を準備しました!」

 真人は興奮している3人を呆れた顔で見た。

「・・・またお前たちはくだらない物を作って。ルタに作らせたのか?」

「ん。もちろんルタの渾身の力作」

「そ、そうなのか。俺は座らないから、仕舞ってくれ」

「えー。せっかく」

「真人様のために」

「作ったのに・・・」

 3人は先程と同じように見事に連携して、ウルウルとした目で真人を見た。

「うっ。しょうがないな。少しだけだぞ・・・」

 真人が椅子に座ると、おー!と歓声をあげ3人とローニャとゼーニャまで拍手した。

「マスター!かっこいい!」

「真人様!似合ってます!」

「さすが真人様です!」

「よし。満足したな。クリス仕舞ってくれ」

「う、う~ん」

 そんなくだらないやり取りをしていると、どうやらザムが起きたようだ。

「う、ううん?ここは?あれ?真人様?どうしてそんな椅子に?」

「い、いや。これはなんでもないんだ。クリス早く仕舞え。ザム殿、うちの者がすまなかったな。何が起きたか覚えているか?」

「いえ。宙を舞って、気持ちよく寝てたとしか・・・。そういえば左腕が痛・・・くないですね。どうやら私の勘違いのようです」

 ザムはクリスたちにされたことを覚えていないのか不思議そうに首を傾げた。

「ならいいんだ。ちょっとした手違いだ。それでザム殿はなぜメイグウ商会に?」

「ああ。それは王都へ帰る前に寄るところが、このメイグウ商会だったのです。以前ローラ聖教国で、ポーションとマナポーションがメイグウ商会で手に入ると聞いてここに来たのです」

「そうだったのか。それで?ローニャ。ポーションは?」

「はい。真人様が今朝見たとおり、冒険者たちが購入してしまって売り切れたのを説明している最中に真人様たちが訪れたというわけです。もちろん冒険者の方たちには、1人1セットしか販売しておりません」

「私がなんとかならないかと交渉していたんです」

「なるほど。そういうことだったか。それよりザム殿は急がなくてはいけないのでは?」

「はい。ポーションが手に入り次第、街を出ようと思ってましたが、どうやら諦めるしかなさそうです」

「ふむ。ザム殿。何本欲しいんだ?」

「えっ?もしかして真人様の手持ちを譲って頂けるのですか?1本でもあれば嬉しいですが・・・」

「5本ずつあればいいか?」

「え?そんなに頂けるのですか・・・?私としては十分ですが」

「まぁ、こちらも迷惑かけたから構わんだろう。クリス。ポーションを10本作ってくれ」

「うーん。マスター。今は容器がない。ローニャ。ポーションの空の瓶ある?」

「はぁ。ありますよ?少し待っていてください。取ってきます」

 ローニャは不思議そうに首を傾げながら部屋を出ていき、10本の空の瓶を籠に入れて持ってきた。
 クリスは15センチ程のフラスコ型をした瓶を手に取ると、魔力を込めた。
 すると、空の瓶は光り輝き、光りがおさまると空だったはずの瓶の中には、赤色に淡く光る液体で満たされていた。
 ザムとローニャとゼーニャは口をポカーンとあけて、クリスの手元を見ていたが、急にザムが声をあげた。

「えっ!?なっ、なんだ!?何が起きた!?ポーションがいきなり現れたぞ!?しかもこれは中級ポーション!?」

 クリスは1本目のポーションを作り終えると、そのまま真人に渡した。

「はい。マスター」

「おう。サンキュ」

 クリスから中級ポーションを受け取った真人は、さらに少し長い時間魔力を込めた。
 長いといっても、10秒程度だ。
 すると、赤いポーションは光り輝き始め、次第に青色へと変化した。
 クリスから真人へと渡された瓶を目で追っていた3人は、真人が一瞬で中級マナポーションを作ったのを見て、口をパクパクさせていた。
 その間にも、次々とポーションとマナポーションは作り出され、2分程で5本ずつのポーションが出来上がった。
 ザムはその様子を見て、隣にいたローニャとゼーニャに声をかけた。

「な、なぁ?私は夢でも見てるんだろうか?ポーションとマナポーションが一瞬で出来ていくのが見えたんだが・・・」

「いえ。夢ではないです。でも私たちが作れないのに納得できました。ポーションはああやって作られてたんですね」

「やっぱり真人様はすごいです!」

 ポーションを作り終えた真人は、なんとも言えない顔をしていたザムに向かって言った。

「ザム殿。これでいいか?」

「あ、ああ。ま、真人様?ポーションとマナポーションは貴殿らが作ってるのか?」

「いや。ここに卸してるのは別のヤツらが作ってるぞ?俺たちが作るとどうしても最上級やエリクサーになるからな。加減が難しいんだ」

「えっ?エリクサー?今、聞き間違いじゃなければエリクサーと聞こえたんだが・・・?」

「うん?エリクサーと言ったが?それがどうかしたか?」

 ザムは俯いて、いや、ないない。俺の聞き間違いだ。とブツブツ呟いていた。

「真人様。普通はこんな反応ですよ。私も見た時はびっくりしたんですから」

「私はどうだったかな?前のことだから覚えてないや」

 ジョイナは覚えていたが、ヴィアは覚えていないようだ。

「たしかにヴィアとジョイナも驚いてた気がするな。それでザム殿、このことは他言無用で頼むよ」

「は、はい。わかってます・・・。真人様。感謝します。それでお代はいくらでしょう?」

「いや。いらないぞ。言っただろう?迷惑かけたからって」

「いえ。そういうわけには・・・」

「なら今度おれたちが王都へ訪れた際に、うまい店にでも連れて行ってくれ」

「そういうことでしたら。今回はありがたく頂いておきます」

「ゼーニャ。ザム殿を通りまで送っていってくれ」

「わかりました。真人様」

「みなさん。ありがとうございました。ではお元気で」

「ああ。ザム殿もな。また会おう」

 しばらくすると案内を終えたゼーニャが戻ってきた。
 真人は冒険者ギルドでのことをローニャとゼーニャに説明した。

「では、真人様たちは報告次第では、その村に向かうことになるということですね?」

「ああ。そうだ。しかし、俺たちの出番があるようなことがあればゼーニャは連れていけないだろう」

「えっ?なんでですか!?私も戦えますよ!」

「ゼーニャ。言うことを聞きなさい。何かあってからじゃ遅いのよ」

「で、でもっ!お母さんっ!」

「ふむ。ではゼーニャにはこれをやろう」

 真人は空間収納から一つの腕輪を取り出した。
 ゼーニャは嬉そうな顔をして真人の方へと手のひらを差し出し、真人は手のひらにその腕輪を置いた。

「真人様。この腕輪は魔道具ですか?」

「ああ。そうだ。その腕輪には収納魔法が付与されていてな。容量はメイグウ商会の倉庫ぐらいだ。その中には、自警団たちに与えている片手剣やポーション類をいれておいた。まずはローニャに心配かけないように強くなれ。まぁ腕輪を利用して別店舗を出すってのもあるが、それはゼーニャに任すことにしよう」

 ゼーニャは胸に腕輪を抱き、真剣な表情をして答えた。

「真人様。ありがとうございます。私、決めました!まずはAランクを目指すことにします。そのあとは、メイグウ商会を他の国にも出します!そしたら真人様たちも旅の途中で寄ることができますよね!」

「そうだな。その時は必ず寄ることにしよう」

「ゼーニャ。頑張りなさい。真人様、私たちにも出来ることがあればおっしゃって下さい。支援は得意ですので」

「ポーション類の在庫を多めにしとくぐらいだな。あとで届けさせよう。まぁ俺たちもしばらく街にいるから何かあったら言ってくれ。ではまた来るとしよう」

「「真人様!ありがとうございました」」

 ローニャとゼーニャは深々とお辞儀をした。
 4人が事務所を出て、宿の方へと歩いているとクリスが声をかけてきた。

「マスター。何も買わなくてよかったの?」

「クリス。何か買う物があるか?」

「うーん。ないかも・・・」

「だろ?必要になったら買いに行くさ」

「真人様。買わなくてもダンジョンに戻ればいいのでは?」

「いや。ジョイナ。金というのは巡らせないと価値が生まれないからな。ここではできるだけ買うようにした方がいい。他の国でどうするかはわからんがな」

「さすが真人様ですっ!ん?あれは?」

 ヴィアが何かに気づき、通りの先の方を指差した。

「あの後ろ姿はザム殿だな。しかし哀愁漂う背中だな」

「どうしますか?声をかけますか?」

「いや。ヴィア。やめておこう。あの背中は疲れてる男が出す雰囲気だ。そっとしておくのがいいだろう」

「そうなんですか?あっ!真人様も疲れてるなら肩でも揉みましょうか?」

「ヴィア!ずるい!マスター!私は足でも揉む?」

「あっ!クリスお姉様!ヴィア!ずるいです!真人様!なら私は・・・えーっと、胸でも揉みますか?」

「「「胸っ!?」」」

 ジョイナの言葉に3人は叫んでしまったため、周りを歩いていた人たちから一斉に注目された。
 そして、注目されたことに気づいた4人は、恥ずかしくなり、そそくさと逃げ帰るように宿へと戻ってきた。
 その夜、宿の1階で食事を取っていた4人は今後の話しをしていた。

「マスター。ギルドの依頼が終わったらどうする?」

「以前から言っていたように、シルフィスに向けて旅に出ることにしよう。問題はどのルートで向かうかだな。ルートによっては護衛の依頼なんかを受けてもいいかもな」

「ん。シルフィスのあとは竜人の国」

「ク、クリス姉様まだ言ってるんですか!」

「ヴィアの婚約者探し」

「いりませんってば!そんなことより、どの道を通るかですよ!大体は案内できますし、転移でもいけますよ?あっ。東側は行ったことないですけど」

「ふむ。東方面の遠回りのルートか」

「私はイルムド帝国の現状が気になりますけどね~。ヴィアはどう思う?」

「あそこは勝手に潰れていくはずだから、行くとしたら後回しかな。私としては乗り損ねた船に乗りたい!」

「クリスはどうだ?」

「私は・・・ローラ聖教国はあまり行きたくないかな」

「ん?なんでだ?」

「あそこには聖女がいるから」

「そういえばあそこには聖女がいたな。クリス。聖女がどうかしたのか?まぁ俺も会おうとは思わないが」

「「えっ?」」

 真人の言葉を疑問に思ったヴィアとジョイナは、対面に座っていたクリスの方を一瞬見ると、真人とクリスに聞こえないように、コソコソ話し始めた。

「ジョイナ。もしかしてクリス姉様はまだ真人様に聖女って言ってないんじゃ?」

「うーん。多分言ってないよね。言っても変わらない気がするけど」

「たしかにね。でもローラ聖教国に行きたくないってのはどう思う?」

「私もそれに賛成だけど、クリスお姉様が会いたくないのか、真人様に会わせたくないのかどちらかだね」

「でもそんなの決まってるよね」

「「真人様に会わせたくないっ!」」

「うわっ!びっくりした。な、なんだ?いきなり」

 クリスには2人の話しは聞こえていなかったが、なんとなく伝わったのか、2人に親指を立てていた。
 そして2人もクリスに親指を立て返した。
 そんな3人の様子を見て首を傾げていた真人は、目先の問題としては、まずは依頼をこなすこと、次の目標としてルートだけは決めておくことにした。
 結局、ヴィアの船に乗りたいということ、クリスの聖女に会いたく?会わせたく?ないということ、真人自身もこの世界の船に興味を抱いたこと、ジョイナも特にこだわりがなかったことにより東周りのルートとなったのだった。
 そして、2日後には冒険者たちがラルゴ村へと向かうのをギルドで見送った。
 待機している間に、真人は旅の必需品を作り、他の3人は各々過ごしていたようだ。
 1週間程経つと、ポツポツと冒険者たちが戻ってき始めた。
 しかし、その足取りはあまり良くないことを連想させるような感じだった。
 表情も明るいものではない。
 だが暗いという感じでもない。
 特に怪我などしてるようには見えないが、どちらかというと悲しそうな雰囲気だ。
 真人は、その様子を不思議に思いながら冒険者ギルドへと向かい、ガイレンからの報告をうけることになった。
 今回は珍しく真人1人だ。
 他の3人はというと、真人が旅の必需品を作ってる間に、ゼーニャに手ほどきしており、今日も朝早くから意気込んで宿を出ていった。
 真人が執務室に入ると、Aランクパーティで、見送りの時に冒険者たちを率いていた1人がガイレンの横にいた。
 ガイレンがその男に報告をしてくれと言うと、男はいきなり泣き出した。
 真人とガイレンは驚き、2人で必死に宥めて落ち着かせると

「俺にはあいつらを手にかけることはできねぇ・・・あんないいやつら・・・うぅっ。ひぐっ」

「そんなに手強かったのか!?場所と規模は!?」

「ギルドマスター。俺からは何も言えねぇ。他のやつらも言わないだろう。ただ一つ言うとしたら、見た方が早いということだ」

「それじゃ報告にならんだろう!」

「ギルドマスター。俺たちも村人を危険にさらすわけにもいかないから言わないことに決めたんだ。わかってくれ」

「・・・。真人殿。どうする?これじゃ討伐の依頼は出すことはできん。しかし、村の様子は確認せねばならん」

「ふむ。聞きたいんだが、ゴブリンがいることは事実で、村人が助けを求めてるとかではないんだな?」

「ああ。そうだ」

「ガイレン。俺たちがその村に行ってこよう」

「なっ!?あそこの村は助けを必要としてないんだぞ!?もしあんたがゴブリンを討伐するようなことをしたら・・・」

「まぁ、落ち着け。何も討伐しようと思っちゃいないさ。それにお前はいいやつらと言ったな?俺も少し気になってきたし、このままじゃギルドも納得しないってことだ。だから俺が様子を見て村人と話し合ってこよう」

「真人殿。感謝する。調査としての依頼で報酬は出せるようにしておこう」

「金はいいんだが・・・。まぁ依頼として受けるなら必要か。ガイレン。こっちはいつでも出発できるぞ?」

「なら明日の朝にギルドに寄ってくれ。依頼書を準備しておこう」

「わかった。ではまた明日の朝にくるとしよう。そのままその村に行くことにするよ」

 真人はギルドを出ると、その足でメイグウ商会へと向かった。
 メイグウ商会に着き、クリスたちがいるはずの倉庫の方に行き、邪魔しないようにと、こっそりと物影から様子を窺った真人は首を傾げた。
 ゼーニャ、クリス、ヴィア、ジョイナが長机の前に立ち、なにやら箱の中を見て話し合っているのだ。
 それに、なぜか4人共エプロンをつけており、長机の反対側に1人いるゼーニャが3人に何か指示をだしている。
 真人が料理でも作るのか?と不思議に思っていると、3人はじゃんけんをし始め、ガクッと項垂れたことからヴィアが負けたようだ。
 そしてヴィアはそっぽを向きながら、恐る恐るといった手つきで箱の中に手を伸ばした。
 箱の半分程度に腕が中に入ると、何かに触れたのかビクッとなったが、一度深呼吸をして体に力を入れるような動作をした。
 生き物を掴んでいるのか、ブルブルと動いている腕を箱から引き抜くと、そこに現れたのは・・・ロックワームだった。
 真人は、ロックワームで新しい料理でも作るのかと思い、報告はあとでいいかと戻ることにした。
 来た道を戻ろうと振り返り、2歩程進んだところで、あることに気づき足を止めた。
 そういえば調理する器具がなかったなと。
 そして、真人はまた振り返り、物影から4人の様子を窺うことにした。
 ヴィアはロックワームを上に掲げた状態から動いておらず、他の3人もロックワームを見上げながら、頭を落とすんです!だの、早くやれ殺れだの叫んでいる。
 その間もロックワームはヴィアの手の中でブンブンと暴れている。
 ヴィアは3人の言葉にコクンと頷くと、上に掲げたロックワームの頭を狙ってウィンドカッターを放った。
 ロックワームの頭がポトリと地面に落ちた次の瞬間、ヴィアが暴れないようにと、おもいっきり握っていたロックワームの中身の白い液体がぶちまけられた。
 そして見上げていた4人の顔にビチャビチャと降り注いだ。

「「「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」

 3人は同時に叫び、ヴィアとゼーニャは頭をブンブンと振り、ジョイナは目に入ったのか、顔を押さえて地面をゴロゴロ転がっている。
 真人はその様子を見ながら呆れた顔をしたが、クリスがいないことに気づいた。
 どうやら転移で逃げたようだ。

「あの3人は何やってんだか」

「まったくだ。わざわざ上に掲げなくてもいいだろうに。・・・ん?」

 真人は聞き覚えがある声に、思わず返事をしてしまったが、不思議に思い横を見てギョッとなった。

「おわっ!クリス!いつの間に!」

「ん。マスターがチラチラ見てたのはわかってた。あの3人は気づいてなかったみたいだけど」

「そ、そうか。それで何を作ってたんだ?」

「何って?ナニだけど?」

「質問で返されても困るんだが?」

「それは乙女の秘密」

「乙女の秘密?ロックワームなのにか?」

「新しい商品だからマスターは気にしないで大丈夫」

「逆に気になるんだが・・・。化粧品かなにかか?まぁいいか。それでクリス。依頼を受けることになった。明日の朝、ギルドで手続きして例の村に向かうぞ」

「っ!?わかった!」

 するとクリスは、巨大な水の塊を3人の頭上に作った。
 ブンブンと頭を振っている2人は気づいていないが、ゴロゴロと地面を転がっていたジョイナは上を向いた瞬間、顔を押さえていた指の隙間からそれが見えたようで、一瞬動きが止まり、範囲から逃れようと必死にゴロゴロと転がった。
 しかし、ジョイナの必死の転がりもむなしく、水の塊が落下してくるとジョイナが叫んだ。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 その叫び声に気づいたヴィアとゼーニャはジョイナを見ると、上を見上げていたため、2人も上を見上げたところで水の塊に呑まれた。
 水の塊がバシャッー!と激しい音をたてて流れたあとには、ずぶ濡れの3人の姿があった。
 地面に転がっていたジョイナに至っては、泥まみれだ。

「「「・・・・・」」」

 ヴィアは転がっているジョイナに近づき、手を差し出して起こした。
 3人はトボトボと事務所の方に向かって歩いていくと、真人とニヤニヤしたクリスがいることに気づいた。
 ヴィアは真人に駆け寄り、ジョイナはクリスに駆け寄った。

「真人様。汚されてしまいました・・・」

「だ、大丈夫か・・・?」

「クリスお姉様!あの水はクリスお姉様の仕業ですかっ!」

「ジョイナ。対応が甘い。気づいたなら結界魔法使う。あれが攻撃魔法だったら死んでる」

「そ、それはそうですが・・・」

「それにロックワームの幼体だからって、いくら害がないと言っても魔物は魔物。油断しないように。外見が同じだけの変異種だったらどうする」

「はい・・・。申し訳ありません。クリスお姉様」

 ジョイナはシュンとなり、ヴィアとゼーニャにクリーンをかけて綺麗にしていた真人が言った。

「そうだな。いくら大人しい魔物だからって危機感を持たず扱うのはよくないだろう。いつでも防御、撤退できるよう日頃から訓練しとくのが今後の課題だな」

 そして次の瞬間、クリスは一瞬でスライムの姿になり、ジョイナを取り込もうと飛びかかった。
 しかし、ジョイナは結界魔法を張りながらサッと横にかわした。
 クリスはすぐに人の姿に戻った。
 もちろん裸ということはなかった。

「ジョイナ。それでいい。やればできる。その心構えを忘れないように」

 クリスはジョイナにクリーンをかけて綺麗にした。

「はいっ!ありがとうございますっ!クリスお姉様っ!」

 ヴィアはその様子を見て、クリス姉様ならこっちにもくるかもと警戒していたが、隣にいたゼーニャが驚いた顔で声をかけてきた。

「ヴ、ヴィア様?い、今、ク、クリス様がスライムになった気がしたのですが・・・?」

「ゼ、ゼーニャ?気のせいじゃないかしら?オホホ」

 ヴィアは口元に手をやり笑って誤魔化し、ゼーニャは何度も目をこすってクリスの姿を確認していた。

 ◇◇◇
 メイグウ商会の事務所の応接室をローニャに借りた真人は、ヴィアとジョイナにも依頼を受けたことを話した。
 ちなみにゼーニャは、不思議そうな顔でクリスのことをチラチラ見ながら店舗の方へと戻っていった。

「というわけで、明日の朝、ギルドで依頼の手続きをして、村に向かうことにする。他に何かあるか?」

「真人様。歩いて向かいますか?」

「クリスお姉様のゲートで、見える範囲で進んでいくとか?」

「めんどいから却下」

「それに関しては考えてある。旅と言えばアレだからな」

「「「あれ?」」」

「ちょうどいいか。先に見てもらって何か意見があれば手を加えよう」

 4人は事務所を出て再度、倉庫の方へとやってきた。
 しかし真人は、先程の惨状を目の当たりにして眉間にしわを寄せた。

「・・・クリス。あの水溜まりをどうにかしてくれ」

「ん。わかった」

 クリスは地面に手を当て、魔力を流すと次第に水溜まりは消え、瞬く間に元の姿を取り戻した。
 真人は一歩前に出ると、空間収納から1台の豪華な装飾が施してある白銀色の箱馬車を取り出した。

「マ、マスター。これは馬車?」

「えっ?ミスリルの馬車・・・ですか?」

「もしかして車輪はアダマンタイトなんじゃ・・・?」

「ああ。よくわかったな。俺はここ1週間こいつを作ってたんだ」

「いつの間に。でも重そう。普通の馬には引けない」

「真人様。目立ち過ぎじゃないですか?」

「2頭立てでしょうか?かなりの大きさですね」

「これはローブと一緒で、ミスリルにアルゴンスパイダーの糸を混ぜ合わせてあるから色も自在なんだ。車輪もアダマンタイトだからまず壊れることもない。重さも重量軽減が付与されてるし、魔法、物理の防御魔法が付与されてるんだ。中の広さも空間魔法が付与されてるから見た目よりずっと広いぞ?」

「「楽しみですっ!」」

「マスター。中に入ってもいい?」

 真人が馬車に触れ、魔力を流すと、後ろ側に地面までの階段が現れた。
 ヴィアとジョイナが横並びでいち早く上ろうと、階段に足をかけたところで前を向くと、扉がないことに気づき、2人が立ち止まった。
 クリスは2人のあとを追うような形だったため、急に立ち止まった2人にぶつかりそうになった。

「ま、真人様?扉がないんですが・・・」

「どうやって入るのでしょう?」

「マスターのことだからきっと勝手に開く。早く上る!」

「「ひゃあんっ!」」

「クリス姉様!お尻を叩かないでくださいっ!」

 ヴィアがビクッとなったことで、ジョイナが我先にと階段を上りきると、ブゥンと音がして1人分が通れる大きさで壁が消え、驚いてジョイナはまた立ち止まった。

「わっ!?すごいっ!」

「あっ!ジョイナ!ズルい!あー!止まらないでっ!?」

 ヴィアが慌ててジョイナを追いかけると、壁の前で急に立ち止まったジョイナにヴィアはぶつかった。

「「いたた・・・」」

「何やってる2人共。お先に。こ、これは・・・?ダンジョン・・・?」

 クリスは倒れている2人を追い抜き、先に行くと見慣れた光景に驚いて立ち止まった。
 倒れていた2人はすぐに起き上がり、慌てて進もうとして、立ち止まっていたクリスにぶつか・・・ることはなく、クリスの横に並んだ。

「草原?庭?ひ、広いっ」

「あれはクリスお姉様の家でしょうか?」

「ちがう。私の家より大きい。多分マスターの家に近いかも」

 真人は階段を上がり3人に追い付くと

「これは空間収納を付与してあるんだ。もちろん生物用のな。家はダンジョンにある俺の家を参考にしてあるが、中は宿みたいに客室がたくさんあるから大きくしてある」

「真人様。空間収納を付与して魔石が耐えられるんですか?以前は砕けると言ってましたが・・・」

「ああ。それは腕輪みたいに小さな魔石に付与する時だな。この馬車の外観には、正確に言うとミスリルとアルゴンスパイダーだけじゃなく、大量の無属性の魔石も砕いて混ぜ合わせてあるんだ。魔石に囲まれてると言ってもいい。だから魔力や体力の回復なんかも早いぞ?まぁ俺たちにはあまり関係ないが」

「そういうことですか。ダンジョンみたいなものですね」

 すると、クリスが家の左方向に指を差しながら言った。

「マスター。あの建物は?ヴィアとジョイナの?」

「なんで私たちだけ別なんですか!クリス姉様!」

「あれは厩舎でしょうか?何かいるんですか?」

「いやまだ何もいないぞ?」

「そうなんですか。それにしても気持ちよさそうな草原ですね」

「寝っ転がると最高ですっ!」

 ヴィアとジョイナはゴロゴロと転がり始めた。
 真人が微笑ましくその様子をみていると、クリスが近づいてきて言った。

「それでマスター。何に引かせるの?もしかしてヴィアとジョイナに?」

 クリスはチラッと草原に寝転んではしゃいでいるヴィアとジョイナの方を見た。

「いや。それについては考えてある。シロツメとクロツメに引かせる予定だ」

「シロツメ?クロツメ?そんなのいたっけ?」
「まぁ、会えばわかるさ。ところで何か要望はあるか?」

「「ありませんっ!」」

「ん。特にない」

「それならそろそろ出るか」

 ヴィアとジョイナはフカフカの草原から名残惜しむように立ち上がり、4人は壁の方へと向かった。
 壁を見ると、わかりやすいようにその部分だけ1人通れる程の黒い影になっていた。
 ヴィアがそこに近づくと、ブゥンと音をたてて外が見えるようになった。

「真人様。これは近づくと勝手に開くということですよね?走ってる時に開いたら危なくないですか?」

「それは階段が現れてる時しか開かないし、走ってる時はロックがかかってるぞ?あとから3人の魔力を登録して階段を使えるようにしとこう」

 階段を降り、外に出るとローニャとゼーニャが驚いた顔をして待ち構えていた。

「これは真人様のでしたか。それでしたら納得です」

「なにかあったか?」

「いえ。従業員が派手な馬車が置き去りにされていると報告にきたものですから。ここまで豪奢なのは王族でも持っていないはずなので困っていたところです」

「そ、そうか。それはすまなかった」

 真人は隠すように空間収納に馬車を収納した。
 すると今度はゼーニャが声をあげた。

「あっ!?もっと見たかったのに・・・」

「ゼーニャ。また今度な。そういえばローニャ。俺たちは明日から依頼で村に行くことになった。期間は不明だが、終わり次第、冒険者ギルドに報告に戻ってくるつもりだ」

「そうですか。真人様たちのことですから心配はいらないと思いますが、気をつけて行ってらして下さい」

「真人様ならすぐ終わらせて帰ってくるよね!」

「どうだろうな。村が危機に陥ってるわけではないが、何か訳ありのようなんだ」

「それで真人様たちが行くことになったと?」

「ああ。まぁ原因がわかり次第戻ってくるさ。じゃあ俺たちは帰るから、次は戻ってきた時に寄るとするよ」

「真人様!頑張ってねっ!」

 真人たちが歩き始めると、ローニャはお辞儀をし、ゼーニャはブンブンと手を振って見送った。

 ◇◇◇
 翌日、4人が冒険者ギルドに着くと、いつも通りの光景で、受付には依頼を受けようとする冒険者で列ができていた。
 しかし、受付の一つが誰1人として並んでいないことに気づいた真人が受付を見ると、そこには渋い顔をしたガイレンが座っていた。
 4人は笑いを堪えながらガイレンの方に近づいた。

「ぷっ。ガイレン何してんの?何かの罰?」

「ガイレン。そんな顔してたら誰も並ばないよ!笑顔、笑顔!ぷっ」

 ヴィアとジョイナがガイレンをからかっていると、ガイレンは無言で1枚の紙をカウンターの上に置いた。
 真人がその紙を確認すると調査依頼書と書いてあり、内容は住人からの聞き取り、原因の調査、周囲の探索、帰還後の報告と書いてあった。
 しかし、期限と報酬は書いてなかった。

「ガイレン殿。期限と報酬が書いてないんだが?」

 真人が不思議に思い、ガイレンに声をかけると、ようやくガイレンが声をあげた。

「ああ。この依頼は村からの依頼ではなく、ギルドからの依頼だからな。報告の内容次第で報酬が変わってくるんだ。支払われないってことはないから安心してくれ。期限の方は1ヶ月程度を目処にして欲しいが、その辺は真人殿に任そう」

「まぁ金のことは心配してないんだが、ところで何故受付を?」

「受付たちはみんな反対してたんだが、真人殿たちを見送りついでと思ってな・・・」

 ガイレンがチラッと受付たちの方を見ると、一斉に目を逸らし、笑いを堪えていた。

「わざわざ受付の制服まで着ることなかったんじゃないか?似合ってないぞ?」

 そう。ガイレンは受付の女性用の制服をパツパツになりながら着ていたのだ。

「いや。一応規則だからな・・・」

「そ、そうか。俺たちは行くとするよ」

 4人が外の方に歩き始め、真人が扉をくぐる前にチラッと受付の方を見ると、ガイレンはトボトボと奥の方へと引っ込んで行っていた。
 外に出ると、ヴィアとジョイナは腹を抱えて笑い始めた。
 クリスも笑っているようだ。

「マ、マスター。あれはひどい」

「まぁ確かにひどかったな。それにしても男用の制服はなかったんだろうか」

 ヴィアとジョイナはピタッと笑うのをやめると顎に手を当て考えた。

「そういえば、他の国のギルドでも男の受付はいませんでしたね」

「たしかに。でも東側は私も行ったことないから楽しみ!」

 4人はそのまま街の門を出てしばらく歩き、3方向の分かれ道にたどり着いた。
 真ん中は王都へと向かう馬車2台分の整備された広い道、右側は魔の森、精霊湖へと向かう馬車1台分の踏み均された道、左側は真人たちが今から向かう村へと続く道だが、馬車が通った跡はあるものの、車輪が通る場所以外は膝ぐらいまでの草がはえている。

「真人様。どうされますか?ここから歩いて1日のところに森があるので馬車を使うとしたらそこまでですよ?森を抜けたらまた使えると思います。私たちなら走った方が早いと思いますが・・・」

「ふむ。緊急の依頼じゃないからな。シロツメとクロツメならこの程度の道なら問題なく走れるだろ」

「「シロツメ?クロツメ?」」

 ヴィアとジョイナが真人の言葉に首を傾げていると、真人は空中に手をかざし魔力を込め始めた。
 3人が何が起きるのかと見ていると、縦横3メートル程の黒い門が現れた。
 金色の装飾が施されており、扉はついておらず暗闇になっている。
 3人は驚き、門に目を取られていると、暗闇から白馬が現れ、続いて黒馬が現れた。
 普通の馬の体格より2周りは大きい。

「「っ!?」」

「マ、マスター。この馬はシロとクロが懐いていた・・・?」

「そうだ。この門はダンジョンの46階層に繋がっているんだ。馬車にある厩舎でもよかったんだがダンジョンの方が広いからな。見ての通り、白い方がシロツメ、黒い方がクロツメだ。ちなみにこの門を通れるのはシロツメとクロツメだけだ。間違ってもディーネが出てくることはないから安心してくれ」

 3人は真人の言葉に何故かホッとなった。
 シロツメとクロツメは優雅に真人の方へと近づき頭を下げた。

『『主様。お呼びでしょうか?』』

「「念話!?」」

「たしかこの馬たちはマスターが作り出したはず。それなら念話使えても不思議じゃない」

 真人はシロツメとクロツメの頭を撫でながら答えた。

「シロツメ、クロツメ、すまないが馬車をひいてくれるか?」

『『仰せのままに』』

 真人は馬車を空間収納から出し、白銀の馬具をシロツメとクロツメにつけ、馬車と繋げた。
 馬具の方も馬車に合わせて、ミスリルとアルゴンスパイダーを混ぜ合わせて作った物だ。
 馬車が現れるとジョイナはいち早く近寄り、魔力を流し階段を出現させた。
 その光景にニンマリしながら親指を立てていた。
 ジョイナはそのまま階段を上がり、そのあとにクリスが続くと、ヴィアが声を上げた。

「真人様。道なりとはいえ念のため案内と見張りがいると思います。私は御者席に座りますが一緒にどうでしょう?」

 階段に足をかけていた2人は、ヴィアの言葉に、してやられたという顔でバッと振り向いた。
 真人は顎に手を当てながら

「そうだな。シロツメとクロツメなら勝手に進んで行くだろうが、念のために俺も御者席に座るか。クリスとジョイナは中でくつろいでいるといい」

 真人の言葉にヴィアは口元をニヤリとさせ、クリスとジョイナを方を見た。
 2人はヴィアを睨みながら、渋々と馬車の中へと入っていった。
 馬車の中へ入った2人は、空間収納と言っても面積は無限じゃないはずと考え、急いで広大な敷地走り、家の裏側へと回った。
 2人の狙い通りそこには壁があった。
 クリスは、馬車の前面と思われるその場所に魔力を流すと、目線の高さにある壁の部分だけ透明な窓になり、外の様子が見えた。
 ちょうど真人が先に乗り、ヴィアに手を差し出して乗せようとしているところだった。
 2人は窓が鼻息で白くなるほど顔を近づけて、血走った目で見ていると、その様子に気づいたヴィアは、2人をチラッと見て真人の手を取ると、わざとらしくよろけ、真人に受け止めてもらっていた。
 ジョイナが歯ぎしりをしながら悔しがっていると、クリスから黒いオーラが立ち上がり、ブツブツ呟いていることに気づきギョッとなった。
 思わず悲鳴をあげそうになった程だ。

「ク、クリスお姉様?だ、大丈夫ですか・・・?」

「ジョイナ。ヴィアを社会的抹殺する」

「し、社会的?ク、クリスお姉様?そ、それは?」

 ジョイナはゴクリと喉を鳴らした。

「お腹が痛くなる魔法と馬車酔いする魔法を同時にかけてやる」

「お、鬼ですね・・・。かなりヤバそうです・・・。でも人前ならともかく、ここにいるのは私たちだけですよ?」

「それは仕方ない。でもトイレから戻れないようにして、私たちが御者席に座る」

「なるほど!それはいい考えですね!」

 ヴィアは御者席に座ると、中にいる2人がコソコソと話してる姿を見てブルッと寒気を感じた。
 しかし、真人がシロツメとクロツメに進むように指示したため、気にすることなく道中を楽しむことにした。
 クリスが爆弾を仕込んだのも知らずに・・・。
 駆け足程度の速度で1時間程進んだところ、真人はヴィアの顔が青ざめていることに気づいた。
 窓には今か今かとニヤニヤして見ている2人がいる。

「ヴ、ヴィア?大丈夫か?か、顔色が悪いぞ?馬車酔いか?」

「ま、真人様。馬車を止めてもらえますか・・・?た、体調が・・・」

 真人がすぐに馬車を止めると、ヴィアはヨロヨロと御者席を降り、後ろへと向かった。
 その様子を見ていた2人は歓喜の声を上げ、急いで後ろの壁の方へと向かい、魔力を流して階段を出現させた。
 ヴィアは階段があることに不思議に思いながら、階段を上がり壁が消えると笑顔で2人に出迎えられた。

「ヴィア。お帰り」

「ヴィア。あとのことは任せて!」

 ヴィアは何が起きたか察するも、そんな余裕はなく、口元を押さえながらフラフラした足取りで家へと入っていった。
 その様子を確認した2人は、すばやく階段を降り外に出たが、その場で口論をし始めた。

「ジョイナ!最初に座るのは私!」

「クリスお姉様!ズルいです!そうやって交代しないつもりですよね!?」

「むっ。なぜバレた。こうなったら・・・」

「「ジャンケン!」」

 2人が馬車の外でジャンケンをしている頃、真人は中々戻ってこないヴィアを心配して念話をすることにした。

『ヴィア。大丈夫か?』

『あっ。真人様。大丈夫です。ポーションを飲んだら少し楽になりました。3乗ってるので出発して大丈夫ですよ』

 ヴィアは家に入る前に2人が外に出たことを確認していた。
 そして2人共出たということは、揉めるだろうというのも想定内だった。
 ヴィアはポーションを飲み、適当な部屋の一室で横になりながら2人の慌てる姿を想像して少し気が晴れた。
 偶然にもあいこが続き、ジャンケンに夢中になっていた2人が馬車がいないことに気づいたのは5分程経ってからだった。
 馬車を出発させ、5分程走ったところで、御者席に慌てた様子のクリスが転移してきたため真人は驚いた。

「うわっ!びっくりした!クリスか。なんだいきなり転移してきて。何かあったか?」

「な、なんでもない」

 訝しみながらクリスを見ていると、後ろから真人を呼ぶ叫び声が聞こえた。

「ま、真人様~!まって~!置いてかないで~!」

 その声に真人が後ろを振り向くと、ジョイナが走って馬車を追いかけてきていた。
 馬車を止めてジョイナが追い付いたのを確認して言った。

「ジョイナ。何してたんだ?外にいたのか?ヴィアはみんな中にいると言ってたが・・・」

 真人はジョイナを見ながら言うと、ジョイナは気まずそうな顔をして目を逸らした。
 そしてクリスの方を見ると、クリスも慌てて目を逸らした。
 ヴィアの体調の件かと勘づいた真人は、2人を連れて馬車の中へと入り、草原に正座させた。
 ヴィアはというと、家の外から声が聞こえ、不思議に思い回復した体で立ち上がり、そっと玄関の隙間から外を覗いた。
 するとそこには、正座させられ真人に怒られているクリスとジョイナの姿があり、それに驚いたヴィアは慌てて駆け出し、2人の横に正座した。
 その様子に真人は眉根を寄せながらヴィアに問いかけた。

「ヴィアも何かしたってことか?」

「はい。申し訳ありません。真人様。私がクリス姉様とジョイナを煽ってしまったことが原因です」

「そうか。正直に申し出たことは偉いぞ。だが互いに足を引っ張り合うようなことはするな」

「「「すいませんでした」」」

「よし。拳骨で許そう」

「「えっ?いったーっ!」」

 3人は拳骨されたが、クリスだけはやはり平気な顔をしていた。

「3人は罰として今回の依頼中の料理当番をすること。1人ずつするか3人でするかは任せる」

「「「はい・・・」」」

 そして真人は、公平にするために1時間交代で1人ずつ御者席に座らせすることにした。
 それから5時間程進むと森が見えてきたため、隣に座るヴィアに声をかけた。
 ちなみに、クリスにかけられた呪いのような魔法は解かれ、体調もすっかり回復したようだ。

「思ったより早かったな。ヴィア。以前来た時はどうしたんだ?」

「私は徒歩だったのでそのまま森を抜けましたが、馬車だと進めないですし、ここで野営して明日の朝に抜けましょうか?急いでるわけでもないですし」

「そうだな。森の中で日が暮れるのは避けたい。少し早いがここで野営しよう」

「野営と言っても、馬車の中の家ですよね?それとも気分を味わうためにテントでも出しますか?」

「ふむ。テントもいいが今度にしよう。この辺は魔物の気配がないからシロツメとクロツメは放してもいいだろう」

 真人は森の手前に野営出来そうな広場を見つけるとそこに馬車を止め、シロツメとクロツメの馬具を外し、頭を撫でながら日が落ちる前に戻ってこいと声をかけ放した。
 シロツメとクロツメは嬉しそうにブルルッと声を上げ駆けて行った。
 そして日が落ち始める前に3人も調理の支度を始め、真人は戻ってきたシロツメとクロツメの世話をして、リンゴやオレンジなどの果物、ニンジンなどの野菜を与えた。
 シロツメは果物、クロツメは野菜が好きなようだ。
 そこにクリスが不安そうな顔でやってきて言った。

「マスター。ご飯ができた・・・」

「お、おう。なんでそんな顔してるんた?食べるのが怖いんだが・・・」

 せっかくだからと、馬車の外に椅子と机を出し、並べられた料理を見ながら真人は席についた。
 そこには鍋に入った白い物、パン、ベーコン、スクランブルエッグが置いてあり、クリスが不安そうな顔をしている一方で、ヴィアとジョイナは自信ありげな顔をしていた。
 ヴィアが空の器に鍋に入っている白い物をよそうと、真人は怪訝そうな顔で器を受け取った。
 4人が手を合わせていただきますといい、各々食事を始めるとクリスはチラチラと真人を見ていた。
 真人が白い物をスプーンですくうと具も何も入ってなく、不思議に思い、まさかロックワームの中身か?と警戒した。
 しかし、匂いをかぐとシチューの匂いがしたため、3人が注目する中、意を決して口に運んだ。
 次の瞬間、真人は目を見開いた。

「うまいじゃないか!」

 その様子にクリスは、ぱぁぁっと笑顔になった。

「しかし、なんで何も入ってないんだ?材料がなかったのか?その割りには味がしっかりしてるが」

 真人が疑問を口にすると、ヴィアが答えた。

「真人様。最初は色んな野菜が入ってたんですよ?でもクリス姉様が旨味を凝縮させるとか言い始めて、重力魔法をかけながら混ぜてたら全部つぶれてなくなっちゃって。私たちは美味しければ気にしないですって言ったんですけど」

「そういうことか。クリス。うまいぞ。今まで食べた中で一番美味しいシチューかもしれん」

「マ、マスター?ほんと?」

「ああ。野菜がなくなるまで煮込まれたってことだからな。まずいわけがない。パンにも合うしな。3人共、この調子で明日も頼む」

 3人は元気に返事をすると黙々と食べ始めた。
 ジョイナは相変わらずスクランブルエッグに大量のマヨネーズをかけていた。
 4人は食べ終わると片付けを済まし、馬車の中へ入り、明日に備えて寝ることにした。
 真人が家に入ろうとすると、3人は気持ちいいから外で寝ると言い、そこで真人は上に手をかざし魔力を込めると、天井が透明になり、色鮮やかな星たちが映し出され、あまりの綺麗さに言葉少なく寝ることとなった。

 ◇◇◇
 時刻はちょうど日付が変わる頃、真人は馬車の外に気配を感じ目を覚ました。
 同時にシロツメが念話してきた。

『主様。夜分に申し訳ありません。人の気配です。おそらく盗賊です』

『盗賊?こんな商人も誰も通らない道にか?』

『はい。私たちが昼に王都への道付近で見かけたのがこちらにきたようです』

『王都への道?そんな遠くまで行ったのか。何にせよ、外に出て出迎えねばならんな』

『いえ。私とクロツメで対処します』

『そうか。頼んだ。そのままイルムドのダンジョンに跳ばしてやれ』

『かしこまりました』

 シロツメとクロツメは盗賊が来ることを予想していたのか、馬車とは離れた森近くで休んでいた。
 シロツメとクロツメは音を立てずに立ち上がり、シロツメは膨大な魔力を込めて光魔法を使った。
 すると辺り一面、昼間のように激しい光で包まれ、馬車を囲んでいた20人近い盗賊は、あまりの眩しさに一瞬で視力を失い転げ回った。
 そこにクロツメが膨大な魔力を込めて空間魔法を使い、1人残らずイルムドのダンジョンへと転移させ、跳ばされた盗賊たちは何が起こったのかわかることなく全滅するのだった。
 気配が無くなったことを確認中したシロツメとクロツメは満足そうにブルッと鳴いた。

『主様。終わりました』

『ご苦労。早かったな。それにしても街から少し離れただけで盗賊がいるのか。物騒だな』

『こちらの道にはいないと思いますが、王都の道となればそれなりにいるようです。私たちは耳がいいですから、距離が離れていた商隊の話を聞きました。壊滅させてきましょうか?』

『いや。止めておこう。依頼が出ていれば受けるが、騎士団なんかの仕事をとるわけにもいかないからな。襲ってくる奴らや、襲ってる奴らは別だが』

『承知しました』

『この馬車は結界が張ってあるから大丈夫だ。お前たちもゆっくり休め』

『かしこまりました』

 ◇◇◇
 翌日、朝食を食べ、馬車を空間収納に収納し、早々と出発した4人だったが、森を進む際にシロツメとクロツメがダンジョンに戻ることを嫌がり最後尾を歩かせることにした。
 シロツメとクロツメも楽しんでるようだ。
 森を3時間ほど歩いたところで森を抜け、さらに馬車で3時間程度進んだところで野営できる場所をみつけ、この日は何事もなく進めた。
 夕食の方はシロツメとクロツメが狩ってきた、ニビウサギのステーキ、じゃがいものポタージュにパンで、クリスがせっせと肉を焼いていた。
 ニビウサギは、耳のようなしっぽが2本あり、前後の見分けがつきにくく警戒心が強い魔物だが、味が濃く身も柔らかいためステーキにすると絶品だった。
 食事をしながら村のことをヴィアに聞くと、日暮れ前に少し遠くに見えた山の麓に村があるようで、馬車を使えば明日の午前中につくようだ。
 さすがの3人も歩き疲れたようで、家の中にはいると、布団に潜りすぐに寝たようだった。

 ◇◇◇
 さらに翌日、馬車で進み、山の麓が近づいてくると、ポツポツある家の屋根が見え始めた。
 門番などの姿はなく、木で作られた大人の背丈ぐらいの粗末な柵があるだけだ。
 村の入口に着き、真人が馬車を収納すると、ヴィアが気にすることなく歩き始めたので、3人はヴィアのあとに続いた。
 シロツメとクロツメは渋々とダンジョンへと戻っていった。
 4人が人の気配がする村の中心の方へと歩いていくと、そこには衝撃的な光景が目に入り唖然となった。
 4人はすぐにハッとなり駆け出した。
 30人程の土下座している村人の正面に、10体の緑色をした150センチ程のゴブリンが村人を見下ろしていたのだ。
 そのゴブリンの手にはナイフのような物、反対の手には野菜のような物が入った籠、そして背負っている籠からは血のような赤い液体が滴りしたたり落ちていた。
 クリスは白蘭と白菊、ヴィアは白桜と白桃、ジョイナは白百合を取り出し、真人は後方から支援、観察することにした。
 ゴブリンたちは4人の姿を見ると、ナイフ以外の持っていた荷物を落とし、一目散に逃げ出した。
 その様子を見た真人が魔物なのに襲ってこない?と不思議に思っていると、40代に見える1人の男性が真人たちに気づき、近寄ってきた。
 土下座をしていた村人たちも頭を上げ、真人たちを見ていた。

「ぼ、冒険者様でしょうか・・・?」

 真人は前に出て男性と対面した。

「ああ。そうだが。あんたは?」

「私はこの村の村長です。どうか、どうかあのゴブリンたちを・・・」

「倒せばいいのか?」

 村長は頭を深く下げながら言った。

「いえ・・・。ゴブリンたちをどうか見逃してやっていただけませんか?」

 村長の予想外の言葉に、真人だけでなく後ろにいた3人も驚いた。
 真人は一呼吸置いて答えた。

「まぁ、俺たちも討伐の依頼できたわけじゃないからな。だが理由は聞かせてもらうぞ?」

「わかりました。ここではなんですから私の家へ行きましょう」

 村長が歩き始め、真人はそのあとに続こうと思い、ふと集まっていた住人たちの方を見ると、先程のゴブリンたちが落としていった籠に祈りを捧げるような形をしてから持ち帰っていた。
 真人はその様子を目にし、少し考える素振りを見せたが、何も言わず村長のあとを追いかけ、3人も武器を仕舞いあとに続き、村の中心にある一番大きい家へ案内された。
 家の中へと入ると1人の女性が出てきた。

「あら。あなた。お客様かしら?」

「ああ。冒険者様方だ。これから理由を話すから茶を頼む。皆様。こちらは家内です」

「すまない。お邪魔するよ。ところで村長、他の住人もそうだったが、ここの村は子供はいないのか?みんな若そうだったが。村長もまだ若いだろう?」

「その件に関してもお話しますので、どうぞこちらに」

 4人が居間の床に座るとお茶を出され、村長がポツポツと話し始めた。

「最初にゴブリンたちが現れたのは4年程前でしょうか。ここの土地は乾燥して野菜類は育ちませんが、魔力は多く含んでいるらしく質のいい薬草が取れるのです。貧しいながらも商人とのやり取りで薬草を買い取ってもらったり、食料と交換したりと、ギリギリの生活をしていました。本来なら森に入って動物なり狩ればいいのでしょうが、村には若者がおらず私たちも歳のため動くことができずに、なんとか薬草を煎じて飲んだり、刻んで食べたりしておりました。もちろん味はよくありませんが、薬草のおかげか見た目だけはこの通りで、言うほど若くないのです」

「なるほどな。ポーションを飲んでるみたいなものだからな。それであのゴブリンたちは?」

「はい。時代の流れか、4年程前から商人たちもわざわざこの寒村に足を運んでくれる物好きもいなくなり、食料がなく困り果てていたところ、村に3匹のゴブリンがいきなり現れたのです。もちろん私たちは戦うすべを持ちませんので逃げました。しかしゴブリンたちは一番大きい家だとわかってか、この家に入ってきたのです。私たちは恐れて隅の方で震えていました。ところがゴブリンたちは私たちがいるとわかっておりながら襲ってこず、保管してあった飲み薬や傷薬、薬草を持って出て行ったのです。住人に被害もなく安堵していると、次の日にまたやってきたのです。ゴブリンたちは私たちが隅の方で震えていたところにやってきて、頭を下げて籠を置いて出て行きました。不思議に思いながらその籠の中を見ると、この土地では育たない野菜や果物が入っていたのです。希にですが野生の動物も狩ってきてくれます。それ以降、言葉は通じませんが、飲み薬と傷薬を食べ物と交換するという一種の取り引き先となったのです。少し前に冒険者の方々にもそのお話をしました。私たちはゴブリンがいなくなると生きていけませんっ!ですから何卒、ゴブリンたちを討伐しないでいただきたいのですっ!」

 村長と奥さんは土下座をしてきた。
 3人も少し涙ぐんでるようだ。

「そうだったのか。あの籠から出ていた血は動物のだったんだな。村長。頭を上げてくれ。さっきも言ったが俺たちは討伐依頼を受けてきたわけじゃないんだ」

 村長と奥さんは頭をあげ、ホッとなったようだ。

「ありがとうございます。ではどのような依頼でここに?」

「とりあえず村の現状確認と調査だな。ひとまず村には被害は出てないってことでいいな?あとはゴブリンたちがどこからくるかわかってるのか?それと森に詳しいのは?」

「ゴブリンたちが私たちに危害を加えたことは一度もありません。それは間違いないです。森に詳しいのは私だと思います。森の中心近くに湖がありますので、普段はそこで薬草を採取してます。湖までは開けた道が出来てるのですぐわかります。ゴブリンとは出会いませんのでそれより奥から来ていると思いますが、湖より奥は道がなく、魔力も濃くなっているため誰も行ったことがありません。代々受け継がれてきた手記には、険しい山になっていてそれを越えると海になっていると書いてありました」

「そうか。この土地で育たない物をゴブリンたちが持ってきているとなると、おそらくダンジョンがあるな。その場所の魔力が濃くなってるならなおさら可能性が高い」

「ダンジョンですか!?それはゴブリンの他にも魔物がいるということでしょうか!?」

「その辺も含めて調査する。俺たちは森の手前で野営をするから何かあれば教えてくれ。あと食料が必要なら出すぞ?」

「えっ?いいのですか?しかし、見たところ手ぶらのようですが・・・」

「ヴィア」

「はい。真人様」

 真人に呼ばれたヴィアが前に出ると、村長は目を見開いた。

「今、ヴィアとおっしゃいましたか・・・?あなたはもしかして随分昔にもここに来られたことがあるのでは・・・?」

「ええ。ここには薬草を採取しに寄らせていただきました。しかし変ですね。当時はオリヴィアと名乗っていたはずですが・・・」

「当時私はまだ小さく、その時のことは覚えておりませんが、先代に聞かされていました。それに私も用事で街に行くこともありますから噂を耳にしておりました」

「そういえば、めんどくさくなって途中から言い慣れたヴィアを名乗ってた気がします。それで村長さん。食料はどこに置きますか?」

「ここで構いませんが・・・?」

「うーん。真人様。あんまり日持ちしないのは出さないで小麦とかお米の方がいいですよね?たしか前回もそうしたはずです」

「そうだな。保管できて、できるだけ長持ちするのがいいだろう」

 村長と奥さんは不思議そうに首を傾げ、真人とヴィアのやり取りを見ていたが、何もないところから次々と小麦袋や米樽を出し始めたヴィアに、飛び上がるほど驚いた。

「こんなに!?一体どこから・・・?それよりありがとうございます。こんだけあれば住人たちで分けても1年は暮らせます」

 村長と奥さんが深々と頭を下げてきた。

「では俺たちは森の方へ行くとしよう。村長。明日の朝から調査して、終わり次第報告に寄らせてもらう」

「よろしくお願いします。冒険者様。食料もいただき無礼だと承知の上でお願いがあります。ゴブリンたちは毎回、飲み薬と傷薬、薬草を持っていくのです。それには何か理由があると思っています。もし彼らが正当な理由で薬を使用しているなら温情を与えていただきたいです」

「ふむ。それは怪我している者がいれば助けろと?」

「もちろんできる範囲で構いませんし、冒険者様の判断に任せます。見たところ冒険者様方はかなりの高ランクと思いましたので。それにあのゴブリンたちは普通の魔物の違って知性があると思うのです。でなければ奪っていけばいいだけのはずを、その対価として施しのように食料を与えることなどしないと思います」

「そうだな。おそらくある程度知性を持っているのだろう。まぁ話しはわかった。できる限り善処しよう」

 4人は村長の家を出て森の方へと向かい、野営出来そうな場所を見つけると、馬車を空間収納から出し、周りを軽く散策だけして、この日は早めに眠ることにした。

 ◇◇◇
 翌日、朝食を食べ終え、馬車を仕舞い、森に向かうと村長の言う通り、4人が並んで歩ける程の開けた道があった。
 1時間程、何事もなく進んでいると大きな湖が現れた。
 おそらくこれが出発前にヴィアが言っていた村の水源になっている湖だろう。
 水深は深そうだが水が透き通っているため底がみえる。
 湖の周りを見渡し、淡い光を帯びた薬草が生えているのを見つけると、ヴィアが声をかけてきた。

「真人様。ここの薬草はダンジョンの薬草にも劣らない品質ですよ。魔力が多いせいか冬場でも枯れることがないそうです」

「たしかに魔力を多く含んでいるな。湖も魔力を含んでいるだろう。湖の水と薬草を使えばここでもポーションが作れそうだ」

「真人様。村の人達と協力して特産品にしてはどうでしょう?人は現金ですから、得る物があれば商人もきますし、自然と人も集まってきますよ」

「マスター。早く進もう」

 メイグウ市が一から発展してきたことを見ているジョイナが言うと、クリスが急かしてきた。

「そうだな。ジョイナ。少し考えてみよう。今はクリスの言う通り先に進もう」

 湖を通りすぎると、また森になっていた。
 そこには道がなく、人が立ち入った形跡がないことから、以前きた冒険者たちは、湖付近までを探索としたようだ。
 4人は草をかき分けながら探知を使い、魔力が濃く発生している場所へと歩いた。
 湖から30分程進んでいると、いきなり急斜面となった。
 どうやら村長が言っていた険しい山のことだろう。
 しばらく山を登っていると、中腹に洞窟があった。
 近づいてみると、洞窟の中は松明で照らされていて、ずっと奥まで緩やかな下り坂が続いているようだ。
 松明があることから何かいるのは確実だが、酸素不足にならないのだろうか?と真人は心配になった。
 同時に俺がダンジョンに転生した時もこんなんだったか?と懐かしい気分にもなった。

「マスター。これは間違いない」

 クリスの言葉に真人は頷きながら洞窟に一歩入り迷宮掌握を使った。
 発動できる時点でダンジョンだということがわかる。

「これは間違いなくダンジョンだな。2階層しかないが、やはり奥に上位種がいるな。しかし反応が弱い。それに、ここのダンジョンマスターじゃないせいかよく把握できないな。魔力でゴリ押ししてもいいが洞窟が崩れそうだ」

「マスター。全部わかったらつまらない」

「そうです。真人様。冒険も楽しみの一つです」

「真人様!宝箱があるかわからないんですか!?」

「そうだな。倒すつもりはないが、ゴブリン程度なら遅れをとることはないからこのまま進もう。ジョイナ。宝箱はないな。おそらく出来たばかりで核もないのだろう。それでゴブリンたちも外に出れるんだろうな」

 洞窟に入り20メートル程進むと、ゴブリンたちが粗末な武器を構えて立ちはだかった。
 しかし、クリスがスライムの姿になると、何かを感じ取ったのかゴブリンたちは構えていた武器を下ろした。
 ゴブリンたちは洞窟の脇に寄り、4人に道を譲った。
 どうやら後ろをついてくるようだ。
 数は20体で、その内の1体は体格もよく、前に出てきてるためホブゴブリンだと思われる。
 4人が下り坂を進んでいると、引き返す形で折り返し地点が現れた。
 ここまで歩いた距離と同じ時間下り坂を歩いていると急に広場が現れた。
 どうやらここが最下層のようで、奥の方には10体のゴブリンたちがいた。
 ゴブリンたちが気づき、警戒して4人に武器を向けると、後ろにいたホブゴブリンがギギャッと言いゴブリンたちの武器を下ろさせた。
 10体のゴブリンたちがホブゴブリンたちに合流し、最奥が見渡せるようになると、そこには簡素な藁のベッドのような物に、1体のゴブリンが寝かされていた。
 周りには木の器に入った飲み薬や傷薬、薬草が置いてあった。
 4人は寝かされていたゴブリンに近づき、真人が顎に手を当てながら言った。

「こいつはゴブリンキング・・・?いや、違う?それにしてもかなり魔力が乱れてるな」

「マスター。違う。クイーンの方。多分、クイーンに進化しようとして魔力が制御できてないんだと思う」

「魔力暴走か。このままだとまずいな。しかし村長は村には4年前にゴブリンたちが現れたと言っていた。それほど前からこの状態だということか・・・?」

「マスター。多分だけど魔力を放出するスキルを得たんだと思う。魔力暴走するたびに体外に魔力を放出してしまえばいい」

「なるほどな。だとすると放出された魔力で2階層が出来たのか。まぁ鑑定を使えばわかることだが・・・。さて、お前たちはどうしたい?」

 真人は3人の顔を見た。

「マスター。言うまでもない」

「真人様。助けます」

「真人様。いい工場が手に入りましたね」

 3人はすぐに答えが、ジョイナなだけは違うことを考えていたようだ。

「ジョイナ。その話しはあとでな。さてどうするか・・・。エリクサーでもいいが名付けするのが一番早いか」

 すると、後ろにいたゴブリンたちが一斉に膝をついて頭を下げてきた。
 この行動に真人は口を開けて驚き、3人はさも当然といった顔で頷いていた。
 そこで横たわっていたゴブリンの目が薄く開いた。

「・・・ダ・・・レ?タ・・・スケテ・・・」

「しゃべれるのか!?ちょっと待ってろ。今助けてやる」

 真人はゴブリンの体に手を当てて魔力を流した。

「そうだな。お前の名前はリンだ」

 するとゴブリンの体が輝き始めた。
 4人はその様子を見守り、輝きがおさまったそこには、白い髪をした色白い少女がいた。
 リンは目を開けるとゆっくりと立ち上がった。
 身長は140センチ程で小さく、目はくりっとした黒眼で、額には2本の小さな黒い角がはえていた。
 しかし、リンが立ちあがると、すぐに真人は視線を逸らした、というより3人の手によって無理矢理体の方向を変えさせられた。
 案の定、リンは裸で、3人により服を着せられたが、合うサイズがなくブカブカのようだった。
 真人があとで服を調達しようと思っていると、リンが目の前に歩いてきて頭を下げた。

「あ、主様。助けていただきありがとうございます。誠心誠意尽くさせていただきます。おかげ様で他の者も進化したようです」

 真人はその言葉を不思議に思い、後ろを振り向きゴブリンたちを確認すると、ホブゴブリンはゴブリンキングに、ゴブリンたちは全員ホブゴブリンへと進化していた。
 そこで真人はリンに鑑定を使いステータスを確認した。


 リン(???)  LV1  巫女

 HP―――     MP―――
 
   称号  Sランクモンスター、魔神の眷属
 
   スキル  魔力放出、魔力吸収、怪力、光魔法
 
   固有スキル  人化、祈祷


 そこには当然のごとく人化の文字があった。

「俺が名付けると何故か種族が出ないんだがなんでだ?」

「マスター。この世界にいない種族になったからだと思う。あと人化してるから」

 真人はなるほどと思いつつ、もう一つ気になる文字を見つけた。

「なぁ?リンは巫女になってるんだが、なんの巫女だ?ヴィアの時のように精霊樹の巫女というのだったらわかるんだが」

「懐かしいですね。真人様が名付けて巫女になったのならダンジョンの巫女なのでは?」

 リンは首を左右に傾げながら真人たちの話しを聞いていた。
 クリスはそんなリンを見て抱きついていた。

「ふふっ。かわいい。リン。私の名前はクリス」

「あっ!クリス姉様!ずるい!リン。私はヴィアよ。ヴィアお姉ちゃんと呼んで」

「あっ!ちょっと2人共!リン。私はジョイナだよ。ジョイナお姉ちゃんと呼んでね」

「そういえば名乗ってなかったな。俺は真人だ。好きに呼んでくれ」

「はい。主様。クリスお姉ちゃん。ヴィア様。ジョイナ様。よろしくお願いします」

「「なんで私たちだけそんなよそよそしいのっ!?」」

「ふふっ。リンは賢い」

 クリスがリンの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。
 真人はその様子を微笑ましく見ていた。
 そして顎に手を当てながら言った。

「ギルドへの報告はなんとかなるとして、問題はここのダンジョンをどうするかと、村の食料のことだな」

 リンの方に顔を向けると、クリスに背中から抱きつかれ撫でられてるリンの前にヴィアとジョイナが、私はヴィアお姉ちゃん、私はジョイナお姉ちゃんと必死に呼ばせようとしていた。
 真人の言葉が聞こえていたジョイナは急に真人へと詰め寄った。

「真人様!やっぱりポーションの生産工場でいいのでは?階数増やして、薬草と野菜なんかを育てれば村の食料もなんとかなりますし」

 さらにそれを聞いたヴィアも真人へと詰め寄った。

「真人様!ここにも街を作りますか!?」

「うわっ!落ち着け2人共!とりあえずジョイナの案で考えてみるか。ん?そういえばリン。村に持ちこんでいた野菜や果物はどこで育ててるんだ?」

「主様。それは私のスキルで生み出していた物です。祈祷で神様に食料を祈り、その後に魔力放出を使うと何故か食料が現れるのです。このスキルを使うと体調が楽になっていたので大分助けられました。野生の動物は狩っていたようですが。それにやはり神様は実在していたのですね」

 リンはクリスに抱きつかれながらキラキラとした目で真人を見ていた。
 しかし、リンの話しを聞いたヴィアとジョイナの様子が少しおかしいことに気づいた。

「2人共どうかしたのか?」

「真人様?リンは神様に祈りをと言いましたが、もしかしたらメイグウダンジョンからの物では・・・?」

「そういえば以前、アル様が果樹園の果物が失くなると言ってました。その時はディーネ様だと思ってましたが、全部ディーネ様のせいではないのかもしれません・・・」

「あ、主様?私は何かいけないことをしたのでしょうか・・・?」

 ヴィアとジョイナを見て、涙ぐみながらリンが言うとクリスが答えた。
「リンは何も悪くない。ヴィア!ジョイナ!リンをいじめるな!」

「「いじめてませんよっ!?」」

「よし。ここは二手に別れよう。今からリンたちの住居を建てる。ヴィア、ジョイナ。馬車を置いていくからその間にリンたちに色々教えてやれ。あとヴィアは村長に報告しといてくれ。俺とクリスは街に戻ってギルドに報告だ。1週間程で戻ってこれるだろう」

「「わかりました!」」

「主様。お気をつけて」

 真人は仮住まい用の建物、1軒はリンが住めるように、もう1軒はゴブリンキングたちが住める広い建物を建てた。
 もちろん台所や風呂なんかもあり、あとから2人が教えることだろう。
 それが終わると真人とクリスは転移を使い、洞窟の外に出た。

「クリス。周りにある草や木を伐採して道を作ってくれ。俺はその間にダンジョンの核を準備する。あっ。木は村の住居を建てる時に使うから火魔法以外でな。あと切り刻むのは無しで」

「わかった。任せて」

 するとクリスは左足を思いっきり引き、地を這うような体勢になり、指輪の収納から白蘭を取り出し、抜刀の構えをして膨大な魔力を注ぎこんだ。
 真人は冷や汗をたらし焦った。

「おいっ!クリス!それじゃこの辺一帯吹き飛ぶぞ!」

 しかし真人の忠告は一歩遅く、クリスは小さな声で呟いた。

「メイグウ流第一秘剣。白一閃ハクイッセン

 そしてチリーンと音を奏でながら鞘から抜刀して振り抜いた瞬間、白に輝く膨大な魔力の斬撃が放たれた。
 以前見たヴィアの時とは抜刀の音も込められた魔力も桁違いな斬撃は、地を這うように山の斜面に生えていた木々を斬り飛ばし、さらに遥か先まで斬撃は飛んでいった。
 真人はその光景を見て唖然となった。
 通ってきた湖が綺麗に見えたからだ。
 クリスは、かいてないはずの額の汗を拭うそぶりをして満足そうな顔をした。

「ふぅー。マスター。見晴らしがよくなった」

 真人は思っていたより被害が少なかったことに安堵したが、思っていたより広々となってしまったため、ついでに開墾させることにした。

「クリス。やり過ぎだ。次来た時に整地するように!」

「えっ?じゃあルタも連れてくる」

「・・・。ふむ。向こうのダンジョンと繋げて見るのもありか?なんにせよ核がなければダンジョンの掌握ができんな。核の準備はできたが一応ガイレンに聞いてみてからの方がいいか。さっさと報告して戻ってこよう」

「マスター。んっ」

 クリスは繋げとでも言うように手を差し出してきた。
 真人は仕方ないなと思いつつ、手を繋ぎ転移を使った。
 転移先に着くとクリスは首を傾げた。

「マスター?なんでこんなとこに転移したの?」

 そこは来る時に通った3方向の別れ道だった。

「クリス。創造魔法が使えるだろ?ラルゴ村まで道を整備しといてくれ。とりあえず荷馬車が通れればいい」

「えっ?なんで私が・・・わかった」

 真人はクリスが一瞬ニヤリと笑った気がして嫌な予感が頭によぎったが、他に手がないためクリスに任せることにした。
 
 ◇◇◇
 しかしその予感は当たることになる。
 いきなり現れた王都に向かう道より幅も広く繋ぎ目もない豪華な装飾で施された道には、マスターロードと看板が立てられていたことにより、瞬く間に商人や冒険者、貴族たちの噂になった。
 以前、野営した場所にあった森の姿は跡形もなく、無人だが教会のような豪華な建物が数棟建てられ、誰でも利用できるようになっており、その建物の中には真人の銅像が立っていた。
 大半の人はその銅像が誰なのかわからず、首を傾げるだけだったが、メイグウ商会の関係者、自警団、さらにはギルドマスターや領主までもが祈りを捧げていたことから、マスターロードを通る者は必ず祈りを捧げるようなった。
 後日、その噂を耳にし、それを確認しに見にきた真人が頭を抱えたのは言うまでもない。
 
 ◇◇◇
 そんな道作りに精を出してるクリスとは知らずに真人は転移を使い、メイグウ商会の倉庫近くに転移した。
 倉庫に誰もいないことを確認すると、事務所へと向かい、ローニャとゼーニャを呼び、ラルゴ村のことを話した。
 もちろん他言無用と念を押し、ゼーニャのいい経験になるだろう判断して、ラルゴ村にメイグウ商会の支店を出してみるか?と話した。
 ローニャとゼーニャは即決断し、すぐに準備にとりかかっていた。
 次に真人は事務所を出て、冒険者ギルドへと向かった。
 ギルドへ入り、受付を見ると、そこにはガイレンがい・・・ることはなく、出来る方の受付女性がいた。
 以前真人へと寄り添ってきた出来ない方の受付はいないようだった。
 出来ないと言っても勝手にクリスたちがそう言っているだけだが。
 真人が受付の女性と目が合い、依頼の件だと気づいたのか、すぐに2階の執務室へと案内された。
 そして、ガイレンは不思議そうな顔をしながらソファーへと移動し、真人も対面に座った。

「真人殿。えらく早い帰還だが、もう調査が終わったのか?報告ってことでいいんだよな?」

「ああ。報告だ。村の現状と調査結果だな」

「そ、そうか。さすがだな。こんなに早くわかるとは。それで?冒険者たちが揃って口をつぐむ理由があったのか?」

「まぁそうだな。冒険者たちがそのまま報告して大事おおごとになっていれば村は危機的状況になっていただろうな」

「そ、それほどのことが・・・?」

「簡潔に言えば、ラルゴ村は商人がこなくなり食料難に陥っていた。そこにゴブリンたちが薬と引き換えに食料を持ってきた。それで住人たちはゴブリンとの共存を選んだってわけだ。冒険者たちがその話しを黙秘することを選んだのは、ゴブリンたちが討伐されたら、村人たちが生きていけなくなるからと判断したからだろうな。今回俺たちは、何故ゴブリンたちが薬を必要としたかまで調査して解決したから報告にきたんだ」

「たしかにそれは冒険者ギルド内だけなら箝口令を出せばよかったかもしれないが、商人たちにまでゴブリンを見られて、冒険者ギルドが動かないってなると、騎士団に話しがいくだろう。騎士団が動けば確実に討伐されるだろうな。人の口に戸をたてられんし、どこからその話しが漏れるかわからんしな。それでゴブリンたちは?原因がわかったんだろう?」

 真人は他言無用を念押しした上で、ゴブリンたちのことを話した。

「なるほどな。ゴブリンたちも薬を必要として、対価に食料をな。なかなか知性を持ったゴブリンだな。それでゴブリンを従魔にしたと?」

 ほんとは眷属なのだが、そのことを言うとめんどくさくなりそうなので、真人は従魔としたようだ。

「ああ。中々優秀になりそうだ」

「真人殿がそういうなら俺は何も言わないが・・・。それで?このあとはどうするんだ?あそこはダンジョンがあったんだろう?」

「ここからが本題なんだが・・・。あのダンジョンは俺たちで管理しようと思う。まぁあそこにはゴブリン以外の魔物はいないからダンジョンとして活用するんじゃなくて生産工場として利用しようと思ってる」

「なるほどな。ラルゴ村の少し先まではメイグウ市の領地だから大丈夫だと思うぞ?あの辺はうちのギルドの預かりだからな。真人殿が管理してくれるなら領主様も喜ぶんじゃないか?」
「しかし、俺たちはダンジョンの管理とメイグウ商会の立ち上げまでしかしないぞ?ギルドの支所を作るなり、領地を繁栄させるかまでは領主様やガイレン殿に任すことになるぞ?」

「メイグウ商会ときたか・・・。少し考えさせてくれ。ちなみにメイグウ商会は何を取り扱うんだ?ダンジョンで取れる素材はないんだろう?何を生産するつもりだ?」

「素材はこっちのダンジョンで取れる方が等級が高いからな。だからメインはポーションだな。あとは食料関係をと思ってる」

「そうか。商人が行き来すれば護衛依頼も増えるということか・・・。それに商人が通るとなれば、盗賊もそれなりに出てくるだろうしな」

「ちなみにだが、あそこのダンジョンにはまだ核ができてない。理由は言えないが、ゴブリンたちを引き上げればダンジョンは崩壊することになる」

「それは困る!村や町が発展していくにはダンジョンが不可欠だ。利益が生まれるからこそ人は繁栄していく。せっかく巡ってきたチャンスなんだ。真人殿。どうか繋ぎ止めておいてくれないだろうか!」

 ガイレンは急に立ち上がり、勢いよく頭を下げた。

「ガイレン殿。頭を上げてくれ。元々そのつもりだから気にしないでくれ。たださっきも言ったが、俺たちがするのはダンジョンの管理とメイグウ商会の立ち上げだけだ。それにいいのか?領主に相談しないで」

「それだけで十分だ。あとは人が集まれば自ずと発展していくからな。もちろん領主様にも相談するが、ここの迷宮都市は、冒険者の街とも言われているからな。ある程度の裁量は冒険者ギルドが持ってるんだ。まぁさすがの領主様も真人殿の相談は断ることはできないだろう」

「それなら俺たちは俺たちで動くとしよう。それとラルゴ村までの道はもう手配してるからな。めざとい商人は勘づいてるかもしれん」

「道が手配してある・・・?真人殿どういうことだ?」

「まぁ行けばわかるさ。ただ、開通するには、あいつのやる気次第だが、3日程はかかるだろうな。じゃあ俺は戻るとするよ。何かあったらまた声をかけてくれ。といっても俺たちはしばらくしたら街を出るからな。報酬は受付でいいのか?」

 ガイレンは、あいつ・・・?ラルゴ村までの道を3日で・・・?とブツブツ呟いていたが、真人が報酬の話しをしたことで我に返った。

「本来なら現場を確認してから依頼完了なんだが、真人殿のことだから嘘はないんだろう。受付に伝えるから少し待っていてくれ」

 しばらくして真人は受付で報酬をもらいギルドを出た。
 通りを歩き、リンたちのことを考えながら街の門をくぐると、いきなりビーッという警報音のようなものが鳴り、2人の門兵たちが現れ真人の腕をガシッと掴んだ。
 周りを見渡すと、人だかりができ始めていた。
 真人は、そういえば依頼を受けて出門して、戻ってきたのはメイグウ商会に転移で入ってきたなと、今さらながらに気づき、あっ!と声をあげるが時既に遅し。
 真人は取り調べを受けるために連行されたのだった・・・。
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