迷宮転生記

こなぴ

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第1章

第8話 別れと新たな仲間

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 エルフちゃんが来てから50年が経っただろうか?
 俺が転生してきて100年だ。時が経つのは早い。
 その間にもいろんなことがあった。
 獣人たちがやってきて、ダンジョンの中の森に住み着こうとし、ドワーフたちが地下を開拓しようして、ダンジョンの再生力と勝負し始め、竜人ドラゴニュートのことを知らない冒険者がダンジョンの魔物のリザードマンと勘違いしていざこざを起こし、そして何故か、ダンジョン内に自警団というのが見回りするようになった。
 こいつらはおそらくイルムド帝国の軍人だったヤツらだ。
 俺も詳しく知らないが、アルから聞いた話によると、性懲りなくダンジョンにきたイルムド帝国の軍人50人程は、ダンジョンに入ると同時に1号と2号に取り込まれたらしい。
 それからしばらくすると、クリスに従順な自警団が出来上がったというわけだ。
 そのおかげで今までわからなかった東側の地理も大体わかってきた。
 大陸の中心の魔の森、その北側のセリア王国、右周りでドワーフの国スパウト、その隣が獣人の国ドラム共和国、その隣が竜人ドラゴニュートの国ドラゴニア、そして南側、幻想の森にエルフの国シルフィスがあり、イルムド帝国、ローラ聖教国で一周だ。
 大陸の周りは海で囲まれている。
 この小さな大陸で世界が完結しているとは思えないので、海の向こうにも別の大陸があるはずだ。
 現に、ジョイナがマールは東の国で取れた貴重な物と言っていたらしいから、この国の東ならば貴重という言い方はしないだろう。
 そして、ドワーフ、獣人、竜人ドラゴニュートがダンジョンに来たとなると、魔の森の端から端に移動してきたことになる。
 まぁ、この三種族は体力お化けのイメージがあるから、あながち間違っていないのかもしれない。
 ダンジョンまでの道のりは、幻想の森は大抵の者が迷ってしまうため、通り抜ける者はいない。
 かといって、魔の森を突っ切ろうにも魔物が強すぎて到底たどり着けない。
 残りはセリア王国周りとなるが、これは1ヶ月以上かかってしまうが、1番安全で確実な移動手段と言える。
 そこで俺は、思いきって東側にもダンジョンを増やすことにした。
 魔の森のスパウト側には鉱物が出る洞窟型だ。
 魔物はゴーレムやロックワームにロックモール等の岩石系で常に掘削されて地形が変化している。
 ランクはBで30階が最下層、いかにもドワーフが好きそうなダンジョンだ。
 それに、エルフの次に精霊と相性がいいのはドワーフで、メイグウダンジョンにドワーフが訪れた時に、ディーネはドワーフと接触しコソコソと話し込んでいた。
 また何か企んでいるようだ。
 ドラム共和国側には、森や草原、荒野が主なフィールドだ。
 魔物はゴブリン、オーク、オーガ、ウルフ系、ボア系、ベア系だ。
 獣人は本能的に追いかける習性があるようなので、ウルフ系やボア系の四足獣を配置した。
 こちらも30階が最下層でランクもBだ。
 少しアスレチックを取り入れて、遊び感覚で作ってしまったが大丈夫だろうか?
 次はドラゴニアだが、ここは一番悩んだ。
 竜人ドラゴニュートは長命種のため知能、体力、筋力が他の種族よりも高い。
 まぁ長命だからといって必ずしもそうなるわけではないが、これは種族的な問題と言えるだろう。
 長生きしてるエルフに限ってプライドだけは高くなるというように。
 そして、竜人ドラゴニュートと言っても見た目は普通の人間に尻尾がはえた程度で、ドラゴンの血が濃ければ濃いほど竜の姿に近く、ダンジョンでトラブルが起きた原因もこれだ。
 これは獣人たちの容姿にも当てはまる。
 それに竜化や獣化というのがあるらしいが、それができるのは先祖返りや古竜エンシャントドラゴンと呼ばれる者、王族だけのようだ。おそらく固有スキルとかになるのだろう。
 そういうわけもあり、ドラゴニア側のダンジョンは万能型として、ドワーフと獣人のダンジョンをミックスさせ、火山地帯や沼地のフィールドを追加して、魔物も少し強めのダンジョンにした。
 魔物はゴブリンキング、オークキング、オーガキング率いる群れや、スネークキングやワイバーン等のドラゴンの亜種も配置した。
 魔物は群れを率いる統率者がいるだけで、2段階ほど討伐のランクが上がると言われているのでちょうどいいはずだ。
 最下層は30階だが、ランクはAとなっている。
 様子を見て物足りなさそうなら、魔物も強いのに変えるか、Sランクに引き上げればいいだろう。
 最後はイルムド帝国側で、こちらはかなりの鬼畜仕様にした。
 あいつらは何度やっても懲りないからな。
 1階層をCランク、2階層をBランク、3階層をAランク、4階層をSランクだ。
 たどり着ける者がいるかわからないが、4階層にはケルベロスやヒュドラまでいる。
 そして5階層は自警団見習いの訓練場になっている。
 クリスの分身の3号、4号、5号がどこかの階層をランダムで徘徊しており、弱いスライムだからと言って手を出すと、とんでもない目に合う。
 主に取り込まれて、中でどういう目に合っているかは不明だが、必ず改心して5階層に送り込まれる。
 しかし、自警団も300人以上となるとさすがに手に余るのだが、どうやって連絡を取ったのか知らないが、クリスはメイグウ市の騎士団を連れてきて引き取らせた。
 騎士団も人手が足りないのか、喜んで回収していき、定期的にダンジョンの自警団と訓練の約束を結んでいた。
 こんなに大量の人が流出してイルムド帝国という国は大丈夫なのだろうか?
 いずれダンジョンに攻めこんできそうだ。
 まぁ攻めてきても無駄だが。
 主に取り込まれて・・・のループだ。
 一応、もしものことををふまえて、一定期間ダンジョンに入らなければ、少しずつ魔の森がイルムド帝国側に侵食していくようにした。
 ダンジョンを放っておけば大変なことになるということだ。
 造ったダンジョンは4つで、本体とは繋がっていない独立したダンジョンだが、入口にはちゃんとメイグウダンジョンと書いてある。
 そのおかげで、イルムド帝国以外のダンジョンが出来た各国は、セリア王国と連携をとり、攻略というよりは、利益や経済の安定化を図ってはかっているようだ。

 ◇◇◇
 そうして、ダンジョンを作り終えて穏やかな日々を過ごしていたところ、クリスとエルフちゃんが現れた。
 この2人は50年間、毎日寝食を共にし、本当に姉妹のように生活していた。
 いや、魔力的に繋がっている俺とクリスとエルフちゃんは家族と言っていいだろう。
 そんな風に考えながらエルフちゃんの顔を見ると、少し寂しそうな顔をしていた。
 俺は一向に言葉を発しない2人を不思議に思いながらクリスに話しかけることにした。

「クリス。どうした?何かあったか?」

『・・・うん。エルフがもう少ししたら外に出るって』

「そうか・・・。前からわかってはいたが。寂しくなるな・・・」

 俺とクリスの態度を見てか、エルフちゃんがオロオロし始めた。

「魔神様。クリス姉様。一生会えないというわけではありませんので。それにまだ少し先の話しですし、しばらく外の世界を回ったら顔を見せに戻ってきますよ」

『長命種のしばらくは信用できない』

「うっ・・・。確かにそうですが、私たちは魔力で繋がってますよ」

『ん。その点については信用できる』

「そうだな。俺たちは家族のようなもんだからな」

『「家族・・・?」』

「えっ?なんでそんな不服そうなんだ?」

『なんでもない。マスターは鈍感だからしょうがない』

「そうですね。クリス姉様」

「な、なんのことだ?」

『それでマスター。エルフに名前をつけて欲しい』

「しれっと話をそらしたな。まぁいいだろう。では明日、みんなの前でエルフちゃんの名前を決めるから、みんなを集めておいてくれ」

『わかった』

「ありがとうございます。魔神様」

 ◇◇◇
 翌日、47階層にある闘技場に全員が集まった。
 正確には思った以上に人数が多くて、闘技場に入りきらず、闘技場前の広場になるが。
 100年も経てば、どれだけ増えたかわからないほどの人数になったということだろう。
 俺は集まった全員の前で、さてどうしたものかと考えた。
 すると俺の前にディーネが現れ、いきなり四つん這いになった。
 さも、私の上に立ちなさい!という表情でこちらを見ながら。
 俺は顔をひきつらせながらディーネを無視し、創造魔法で浮遊と結界を作った。
 そして3メートル程上空に円形の結界を作り出し、浮遊で飛んで結界の上に乗った。
 下では、そんなっ!真人さまぁ~!という声が聞こえるが無視だ。
 ディーネはいない者として扱おう。
 そんな俺に気付いたのか、みんなが注目し始めた。
 俺が片手を軽く挙げると、全員が口を閉ざし静かになった。
 そこで下にいたエルフちゃんを結界で持ち上げ、俺の隣に並ばせた。
 いきなり宙に浮いたエルフちゃんはアワアワしている。
 キュロットを着用しているが、ここにいる精霊たちは特に性別はないので気にしなくていいだろう。
 少し軽率だったかと思いいつつも、エルフちゃんに落ち着くよう声をかける。
 それにクリスは不満だったのか、俺の足元に転移してきた。
 ビックリした俺は結界から落ちそうになった。

「クリス!ビックリするだろ!」

『マスター!私もエルフと一緒に持ち上げて欲しかった!』

「す、すまん」

 少し怒っているクリスに謝りつつ、エルフちゃんにクリスを抱えさせた。
 気を取り直して再度前を向いた俺は、全員に聞こえるよう風魔法の応用で声を増幅させた。

「みんな、集まってくれてありがとう。今日集まってもらったのはエルフちゃんがしばらくしたら外に出るという報告のためだ。前から言っっていたがエルフちゃんは自分の目的のためにここで鍛えてきた。その努力を俺たちはわかっているし、認めている。少し寂しいが嬉しくもある。あとどれだけの間ここにいるかはわからないが、これからも仲間として、家族として接して欲しい。それではエルフちゃんに名前をつけたいと思う」

『マスター。待って。私も』

「いいぞ。クリス」

『エルフ。よく頑張った。私もエルフの努力を認める。でも成長に限界はない。これからも努力は続けること』

「ありがとうございます。クリス姉様」

「それではエルフちゃんの名前は・・・。オリヴィアあらためヴィアと名付ける!」

 それと同時にクリスもヴィアに向かって魔力を流しこんだ。
 精霊たちは歓声をあげている。
 するとヴィアの体が光り輝き始めた。
 輝きがおさまるとヴィアが姿を現した。
 そこには少し身長が伸び、大人びたヴィアがいた。

「少し成長したかエルフちゃ・・・いや、ヴィア」

「ありがとうございます。旦那様」

「・・・えっ?」

 旦那様と呼ばれ困惑する俺だったが、クリスの触手の手が伸びてヴィアの頭を小突いた。

『ヴィア。お前にはまだ早い』

「いたっ!クリス姉様ひどいっ!冗談だったのに」

『冗談はもっとダメ。早くマスターに謝る』

「そうですね。申し訳ありませんでした。真人様」

「あ、あぁ・・・」

 頭を下げるヴィアに対して、困惑していた俺は軽い返事しか返すことができなかった。

『マスター。下に降りる』

「そうだな。あとで会議室に集まろう」

 上空から精霊たちに解散を言い渡した俺は、下にいる精霊王たちの元に降りた。
 少し先にはうなだれたディーネがいる。
 見なかったことにしよう。

「アル。今日の食堂の当番は誰だ?」

「今日は私の配下ですわ。主様」

「ちょうどよかった。昼食を会議室に手配するように頼んくれ。今後の話をみんなでしよう」

「わかりましたわ」

 俺が会議室に着くと、みんなは食事を食べずに待っていたようだ。

「すまん。待たせたか?先に食べててよかったのに」

「いえ。そういうわけにもいきませんわ。今日はヴィアのめでたい日ですもの。みんな揃ってからの方がいいですわ」

「それもそうだな。名前がついたわけだから、ヴィアの誕生日と言っていいかもな」

「た、誕生日・・・。うぅ・・・。ま、真人様。ありがとうございますぅ」

「お、おいっ。ヴィア。泣くな」

『フフッ。ヴィア。おめでと。早く食べよう』

「はいっ。クリス姉様」

 今日は特に豪勢な食事を用意してくれたようだ。
 ディーネは先程とは違い、目を輝かせながら料理を見ている。今にもヨダレが垂れそうだ。
 他の精霊王たちも待ちきれなさそうだ。

「よし。それではいただこうか」

『「「「「「「「いただきますっ!」」」」」」」』

 みんなは食べながら、ヴィアがここにきた時の懐かしい話や、他愛ない話で盛り上がり、ディーネとクリスはいつものように言い争いを始め、終始笑顔で食事を終えた。
 食後の飲み物を飲んでいるところで、俺はヴィアに問いかけた。

「ヴィア。外に出るのはいつごろか期間は決めてるのか?」

「はい。真人様。大体1年か1年半後だと思います」

「そうか。あっという間だな」

『ヴィア。焦ることない』

「いえ。私は先に出て、外の世界を調べて周ります。それに真人様もクリス姉様もいずれ外の世界にと考えていますよね?」

「そうだな。それもいいかもな。だが今のままじゃ俺は外に出れないからな。どうしたものか」

『マスター。私も一緒に外に出たい。マスターなら出来るから大丈夫』

「そうですよ。真人様なら出来ますよ。その時に備えて一足先に調べておきます。」

「しかしな~。核の俺がダンジョン外に出られると思うか?ダンジョンにどう影響がでるかもわからんぞ?」

「主様。代わりの核を用意するとかどうでしょう?」

「ん!?アル。何か案があるのか!?」

 俺はあることを秘密裏に動いていたため、アルの提案に興味をもったが

「い、いえ。ただの思いつきですわ。ただ私も主様はここのダンジョンにおさまる器でないと思ってますわ」

「そ、そうか。まぁ気長に色々と試してみるか」

 そこで黙っているリアとリムに目を向けると、珍しく真剣な表情をしていた。
 眠ってる?わけではなさそうだ。
 しかし、口を開くことはなかった。
 ディーネの方を見ると、また3人でコソコソ話していた。
 そこで俺は先手を打つことにした。

「ディーネ!」

「は、はいっ!」

「絶対ダメだからなっ!」

「真人様っ!まだ何も言ってないのに!あっ!」

「ほう?何を言おうとしたんだ?」

「い、いえ。なんでもありませんわ。オホホ」

「聞いてよ!ご主人様!ムググ・・・」

 今回ルタはディーネの手によって口をふさがれてしまった。
 そこでサラを見ると顔を真っ赤にして俯いてうつむいていた。
 ディーネは相変わらず懲りないな。
 それにしても何を言ったんだ?どうせろくでもないことだろうが、今に始まったことでもないため、少し罰を与えることにした。

「ディーネ!お前は3日間飯抜きな!」

「えっ!?そ、そんな・・・」

 ディーネはこの世の終わりのような顔になった。
 まぁ精霊に食事は必要ないからどうこうなるわけでもないんだが。

「まぁディーネのことは置いといて、ヴィアのステータスを確認していいか?」

「はい。私も楽しみです」


 ヴィア(ハイエルフ) LV450 魔術剣士
 
 HP―――     MP―――
 
 称号  魔神の左腕、精霊の加護、聖女の加護
 
 スキル  水魔法、風魔法、土魔法、火魔法、剣術、武術、索敵、隠蔽、身体強化、魔力操作、魔力感知、気配察知、状態異常無効、マッピング、料理
   
 固有スキル  生活魔法、特殊魔法、限界突破


 称号にあった魔神の眷属が魔神の左腕に変わっている。
 右腕のクリスが攻めだとしたら、左腕のヴィアは守りってとこだろう。
 クリスは放っておけばどんどん前に出て行きそうだし、それを見て困った顔をするヴィアが頭をよぎる。
 これは性格的な問題だからしょうがないかもしれない。
 それにスキルにレベルがついてないな。
 俺の最初のころはレベルがあった気がするが、まぁいまさらか。
 しかしスキルってのは誰がつけてるんだろうな?
 精霊神がいるように、この世界にも他に神がいるのだろうか?
 考えれば考えるほど謎だ。

「かなり強くなったな。いや、強くなったのもあるが、技術を磨いたというべきか。しかし、光魔法と闇魔法は覚えられなかったのか?せめて回復魔法が覚えられたらいいが」

「はい。私には全く適性がないようで、元々光属性と闇属性は持ってる人が少ないようです。それに回復魔法は使えませんが、聖女の加護のおかげで怪我をしても重症でない限り自然と治療されるので」

「そのへんはリアとリムに聞いてみるか。ん?聖女の加護?いつの間に聖女に会ったんだ?」

「えっ!?そ、それは・・・」

 ヴィアは不思議な顔をしながらクリスを見た。
 しかしクリスは体を左右に振っていた。

「なんだ?クリスも知ってるのか?」

「いえっ!真人様!乙女の秘密ですわっ!オホホ」

「なんかディーネみたいだな」

『マスター。乙女の秘密を詮索するとはいい度胸』

 背中にブルッと悪寒を感じた俺は、これ以上追及するのをやめて、話題を変えることにした。

「限界突破はおそらくクリスが無理させた結果だとして、特殊魔法ってのはなんだ?」

「私も今日初めてステータスを見たのでわかりません。名前通り何か特殊な魔法でも使えるんでしょうか?」

『マスターが名前をつける時に、私が一緒に魔力を流した。ヴィアの命に危険があると聖魔法が発動するはず。それと同時に私にもヴィアの居場所がわかるようにしたから特殊魔法になったんだと思う』

「ク、クリス姉様ぁ~」

「ほんとうかクリス?それなら少し安心できるな」

『わからない。今回初めて試したから期待はしないで。それに命が危険になる状況にしないことヴィア!』

「はいっ!クリス姉様。命あってのことですから」

「そうだな。そんな状況に陥らないようにすることが一番だな」

 ヴィアはクリスを抱えて楽しそうにしていたため、俺は2人から少し距離をおいた。
 しかし、その2人は真人に聞こえないように、こんな話をしていた。

「クリス姉様!もしかして真人様に聖女のことを言ってないんですか!?」

『ん。時がくるまで内緒にしとくつもり』

「時がくるとは?」

『もちろん別の聖女に会った時。そいつはきっと偽物だから』

「まさか人化出来ることも話してないんですか!?」

『えっ?そうだけど?』

「はぁ~。なんで話さないんですか?」

『マスターは人化出来ないのを気に病んでいる。私まで人化するとマスターはきっと寂しい顔をすると思う。だから私が人化するのはマスターが人化出来たあと。これは私が心に決めてるからヴィアになんと言われようともマスターには話さない』

「そうですね・・・。私もこの間真人様に寂しそうな顔をされた時、心が痛かったです。わかりました!ここはやはり乙女の秘密ということでいきましょう!」

『ん。ヴィア。約束。破ったら・・・取り込む』

「えっ!?」

 ヴィアは足がガクガク震え始めた。
 どうやら何度となくクリスに取り込まれた恐怖がよみがえったようだ。
 取り込まれた中でどのようなことが起きてるかは、知る人のみぞ知ることである。

「は、はいっ!わかりましたっ!必ず守りますぅ!」

 そんなやり取りをしていると知らない俺は、2人の様子を見ながら温かい気持ちになっていた。

「クリスはだいぶ変わったな。やはり友達や姉妹のような存在がいるといいもんだな。俺もここでは作ることはできそうにないが、外に出ればいるかもしれないな。少し真剣に外に出ることを考えてみるか」

 ◇◇◇
 そして1週間後、俺は再びクリスとヴィアを呼び出した。
 今度は、50階層の俺の空間だ。
 初めてここに来たヴィアは周りをキョロキョロ見ている。

『マスター。何?この部屋に呼び出すなんて珍しい。それにヴィアまで一緒だなんて・・・。はっ!?マ、マスター!ま、まさかついに・・・!?』

 クリスはよくわからないことを言いながら、モジモジ、クネクネし始めた。
 ヴィアも顔を真っ赤にしている。

「ん?お前は何をよくわからないことを言ってるんだ?」

『・・・。だよね。マスターだもんね』

「そうですね・・・。クリス姉様」

「な、なんだ!?俺が悪いのか!?まぁいい。それより2人共、刀はちゃんと扱えるようになったか?」

『当たり前。あれから何年経ったと思ってる』

「私の方も、クリス姉様までとは言えませんが、ちゃんと扱えてると思います」

「そうか。それならいい。2人共、刀を貸してくれ」

『マスター。何するの?』

 2人から刀を受け取った俺は、右手と左手に載せて魔力を流した。
 すると、2本の刀が光りに包まれ、1本の新たな刀が現れた。
 いや、元の姿を取り戻したと言った方が正しい。

『えっ!?それはもしかしてマスターの!?』

「そうだ。元々これは俺の鉄幹だ。2つにわけたら少し刃長も短くなったし、銘も消えていたがな」

『えっ!?それじゃあ私たちの武器は・・・?』

 クリスとヴィアが落ち込み始めた。

「安心しろ。ちゃんと作ってある。今度はお前たち専用の刀だ。言っただろ?何回も動きを見るって。少し遅くなってすまんな」

『ま、ますたぁ~』

「ううっ。ぐすっ・・・。」

「お、おいっ!こら、離れろ。しょうがない。このまま転移するからな」

『転移?マスターの手元にないの?』

「ああ。人前に出せないのは全部そっちに保管してあるからな」

 そして49階層に転移した。

『マ、マスター?こ、ここはどこ?ダンジョンの中にこんな所ないはず・・・』

 転移した先は、上下左右真っ白な空間で、距離感も全くつかめないが、500メートル程先に、30メートル四方はありそうな真っ黒の箱のようなものが置いてある。

「ここはな。49階層だ。ここだけは創造魔法で作ってあるからな。クリスもリムも入ってこれないぞ」

『そ、そんな。マスターが私に隠し事するなんて・・・』

「いやいや。隠してたわけじゃないぞ?時がくるまでってヤツだな」

『そっ。それならしょうがない』

「え、えらい簡単に引き下がったな」

『考えてみれば誰にでも秘密はある。そんなことよりあの黒い箱みたいなのは?』

「あれは、アダマンタイトで作られてる倉庫みたいなもんだ」

「ア、アダマンタイト!?伝説の金属じゃないですか!」

 俺たちは会話をしながら歩いていき、黒い倉庫の前に着いた。

『マスター。入口は?』

「ちょっと待ってろ」

 俺が黒い壁に手をかざすと、幅1メートル高さ2メートル程の扉が現れた。

『マスター。どうやったの?』

「これは魔力認証と言ってな、俺の魔力を流せば、扉が出てくるんだ。もしかしたら俺の魔力が流れてる2人でも出てくるかもな。やってみるか?」

『やる!』

「やってみたいです!」

 しかし、2人が手をかざしても、魔力を流しても扉は現れることはなかった。
 その理由は簡単だ。
 前世の記憶で指紋を知っている真人の体は指紋まで再現されており、魔力と同時に、魔力で出来てる指紋ごと登録してしまったのだ。
 もちろんこの世界に指紋というのが存在していることを知るものはいない。
 そうとは知らない2人は何度も挑戦するが

『出てこない・・・』

「悔しいですぅ・・・」

 と渋々諦めた。

「ははっ!残念だったな。まぁここにくることはないからそんなに気にするな。中に入るぞ」

『「す、すごいっ!』」

 部屋の中に入ると2人は感嘆の声を出した。
 そこには左右に棚があり、天井付近まで高さがある。
 天井付近には虹色に輝く不思議な生物がたくさん飛んでいた。

「真人様。あそこを飛んでる虹色のはなんですか?」

「うん?ああ。あれか。俺にもわからん。元々はただの羽根だった気がするんだが、ここの魔力に当てられたのか気づいたら飛ぶようになってたな」

 クリスの方を見ると、手のひらに虹色に輝く羽根を乗せていた。
 どうやらクリスに懐いたようだ。
 天井から視線を外し右に目を向けると、右側の棚半分には、武器や武具、もう半分には服や装飾品が置いてあった。
 左側の棚には、半分がポーションや魔石、鉱石、もう半分には魔道具や魔法書や歴史書と思われる本が置いてあった。
 クリスは特に興味がないようだが、ヴィアは興味津々で目をキラキラさせながら、キョロキョロしている。

「真人様。あの虹色に輝いているポーションみたいな液体はなんですか?」

『ヴィア。あれはエリクサー。マスターと私は作れる』

「エ、エリクサー!?伝説のエリクサーがあんなにたくさん!?初めて見ました。あっちにある魔道具もみたことないのばっかりですっ!」

「あ~。ここの魔力にあてられてるからな。神器に近い物になってるかもしれん」

「じ、神器!?もう驚き疲れてきました。それにあれは魔法書ですか?あんなにあるなら読んでみたかったです」

「やめておけ。一応確認はしているが、呪われてたりするのもあるからな。開いたら謎の空間に取り込まれるのもあったな。本というより罠のたぐいだったのかもしれん。俺は転移ですぐ戻ってこれたが、転移が使えても魔力が相当ないと無理だろうな」

「な、謎の空間・・・」

 ヴィアはクリスに取り込まれた時のことを思い浮かべたのか体をブルッとさせた。

『それにしてもマスター。なんでこんなに外の世界の物がある?どうやって集めた?』

「別に集めたわけじゃないぞ?ここにあるほとんどは冒険者を取り込んだ時の物だ。特にSランクの階層が出来た時は命知らずが多くてな。階層を造り直そうと思ったくらいだ。しかし冒険ってのは自己責任だからな。気にしないことにしたんだよ。ここのダンジョンが出来てからそれなりに経つからこれだけの数になってるんだ。それに、ここにあるのは人前に出すのはヤバそうな物だからな。宝箱で出すわけにもいかないから、アルと相談してこの場所に保管することにしたんだ」

『そういうこと。私も昔、ヴィアを取り込んで身ぐるみを剥いだことがある!フフン』

「ク、クリス姉様!昔のことですから!」

「そんなことより、武器の所に行くぞ」

「そ、そんなことって・・・」

 俺たちは、正面奥に置いてある長机の所に向かった。
 机の上に置いてあったのは4本の刀だった。
 まず俺は、右側の2本を取った。

「クリス。こっちの銘は白蘭ハクラン、こっちは白菊シラギクだ」

『ん。マスター。ありがと。大事にする』

 次に左側の2本を取った。

「ヴィア。こっちの銘は白桜ハクオウ、こっちが白桃ハクトウだ」

「真人様。ありがとうございます。大事に使わせていただきます」

 2人に渡したのは、刃長が60センチ、それぞれの銘の花の形をした鍔がついた刀だ。

「いいか2人共。柄は精霊樹、鞘はアダマンタイト、刃は俺の魔力が具現化するまで圧縮したものだから材質は不明だ。あえて言うなら俺の魔力だがな。前の刀と刃長は一緒にしてあるが、今まで使ってきたのは刃先がつぶしてあったからな。今回のは切れ味が比べ物にならないから気をつけるように!それと、今はまだ不壊しか付与してないが、2人の成長と共に刀も成長していくはずだ」

「・・・ほとんど神器じゃないですか!それに精霊樹ですか?どうやって手に入れたんですか?」

「ああ。ヴィアがここに来てしばらく経った頃に、アルの家に届いたらしい。送り主はわからなかったそうだが、おそらくシルフィードだろうな。きっとヴィアを守ってくれるだろう」

「シ、シルフィード様・・・」

『マスター!マスター!抜いてもいいっ!?』

 ヴィアは刀を大事そうに抱えていたが、クリスが待ちきれないようだ。

「いいぞ」

 触手の手で刀を持ったクリスは、アダマンタイトで出来た真っ黒な鞘を勢いよく抜き去った。
 すると、シャリーンと心地よい鈴のような音色と共に、真っ白な刃が現れた。
 刀身が高密度の魔力のため、抜く時に鞘が震えて不思議な音が鳴るのだ。
 当然、形が違えば鳴る音も変わる。

『す、すごいっ。綺麗!』

「・・・・・」

 クリスは感嘆の声を出し、ヴィアは驚きのあまり言葉にならないようだ。

「それとヴィア。お前にはもう1つある」

「は、はいっ!何でしょうかっ!?」

「ん?なんでそんなに緊張してるんだ?」

「えっ?すごすぎてもう何がなんだかわからなくて・・・」

「そ、そうか。それでもう1つはこの腕輪だ」

「こ、これは?もしかしてあの首飾り・・・?」

「よくわかったな。これは首飾りを圧縮成型して腕輪にした物だ。そして、創造魔法で作った闇属性の魔石を付けてある。魔石には空間魔法が付与されていて、使えるのは空間収納と転移だ。収納は無制限だが、転移は登録した10ヵ所の地点だけだ。それ以上登録しようとすると魔石が負荷に耐えられなくて砕けてしまってな。悪いが10ヵ所だけになった。1ヵ所はここのダンジョンを登録しておけ」

 ヴィアは俺から腕輪を受け取り、震える手のひらに載せた腕輪を観察しながら言った。

「こ、この腕輪一つで収納と転移ができるんでしゅか?」

『あっ。噛んだ』

「ははっ。ヴィアは少しついていけてないようだな。そうだ。収納には旅に必要な物を好きなだけ持っていけ。それに転移があればいつでも帰ってこれるだろ?」

「ま、真人さまぁ・・・」

「あっ!おいっ!」

『むぅ。ヴィアだけズルい。マスター。私も』

 ヴィアが俺に抱き付いてきたせいでクリスは抱き付く場所がなくて不満のようだ。
 しばらくして落ち着いたヴィアが離れたが、顔を真っ赤にしていた。
 するとクリスが不思議そうな顔をして言った。

『マスター。一つ聞いてもいい?』

「なんだ?」

『外から見た時より中が狭い気がする』

「するどいなクリス。空間魔法を持ってるからか?まだ奥に一つ部屋があるからな」

『何があるの?』

「うーん。ここから先は俺しか知らないんだが、2人になら見せてもいいか。俺も久しぶりだしな」

 俺は長机より奥に進み、壁に手を当てて魔力を流した。
 すると、入口の時に現れた無垢な扉とは違い、細部まで金細工の装飾が施された重厚な扉が現れた。
 これだけでも部屋の中の物が重要だということがわかる。

『マ、マスター。ほ、ほんとに見てもいいの・・・?』

 クリスがビビり始めた。
「ん~?クリス君はビビってるのかなぁ?」

 俺はニヤニヤしながら言った。

『ビ、ビビってないもんっ!』

 そこでヴィアの方を見ると、顔を真っ青にしていた。

「お、おいっ!?ヴィア大丈夫かっ!?」

「は、はいっ・・・。なんとか・・・」

「まぁ少し脅かしすぎたか。そんなにビビらないでくれ。そんなに重要な物じゃないからな。いずれは2人にも関係してくるかもしれないから今の内に見といた方がいいだろう」

『私たちにも関係ある物?』

「ああ。見れば分かるさ。部屋に入ろう」

 扉をくぐり、部屋の中に入った2人は声を失った。
 その部屋は、幅20メートル、高さ20メートル、奥行き10メートル程で、中央には2メートル四方の台があり、その台座には直径1メートル程の巨大な透明の球が載っていた。
 最初に声をあげたのはクリスだった。

『マ、マスター。こ、これは魔石!?』

「えっ!?これが魔石!?こんな巨大な魔石が存在するんですか!?」

『目の前にあるのが証拠・・・。マスター。もしかして核を作ろうとしてる?』

「えっ!?」

「さすがにクリスにはわかるか。そうだ。これは無属性の魔石だ。50年前に創造魔法で作った時は、手のひらぐらいだったんだがな。魔力を与え続けてやっとここまで大きくなったが、まだ足りないらしい」

「こんなに大きいのにまだ足りないんですか!?それに魔石って成長するんですか!?」

『マスター。このままダンジョンに繋ぐとどうなる?』

「俺の予想だと、この3倍は欲しいな。無属性の魔石は成長するけど、属性を付与するとそれ以上大きくならないみたいだ。ヴィアの首飾りに闇属性を付与した時試したからな。それにこのまま繋いでも魔力層からの大量の魔力が流れ込んで砕けるだろう」

『あとどれぐらいかかる?』

「うーん。この魔石だけじゃ何かあった時に対処できないからな。この魔石の他に安全機構を付与した魔石を補助として、あと3つは欲しいな。50年はかかるかもな」

『これが出来たらマスターは外に出れる?』

「いや。無理だろうな。核の方はともかく俺の体がな。実体化か人化しなければ外に出れないだろう。それにこの核が傷つけられないように確実に保護しておかないといけないしな」

『そんな簡単にこの中に入ってこれると思えないけど・・・。でも確かにこれは私たちに関係ある。この魔石が核になって傷つけられたら、マスターに繋がってる私たちもどうなるかわからない』

「そこは安心しろ。安全機構をつけると言っただろ。お前たちはちゃんと守る」

『・・・。どういうのなの?』

「ん?核が傷つけられたら、俺の魔力がお前たちに流れないようにするだけだぞ?」

『・・・。それはマスターだけ犠牲になるってこと・・・?』

「まぁ、早い話そうなるな」

 その瞬間、クリスが膨大な魔力で威圧しながらその場から消えた。

「うわっ!?」

 気づいた時には俺の目の前にいた。
 俺は両手を出してクリスを抱えると、クリスの魔力は怒りをおさめるように徐々にしぼんでいった。
 俺の横にはいつの間にか涙を流してるヴィアがいた。

『マスター!そんなこと私は望んでない!みんな絶対納得しない!』

「そうです真人様!私たちは何があっても真人様と共にします!だからそんなこと言わないで下さい!」

『私たちは最後までマスターと一緒にいる』

「そうか・・・。2人共ありがとな。ヴィアもこっちにおいで」

 俺はクリスとヴィアを抱き締めた。

『マスター。ちゃんと私たちにも相談して!』

「私も外で何か力になれることがあるかもしれません!」

「そうだな。その時は2人にも頼ることにしよう。そろそろ戻ろうか」

 俺は2人を抱えたまま倉庫から出て転移した。
 50階層に戻ってきて2人を見ると、泣き疲れたのか寝ていたため、ベッドに連れていき、ゆっくりとおろしてその場を離れた。
 たねき寝入りをしていた2人は真人が離れたのを確認すると・・・

「クリス姉様。真人様の匂いがしますぅ。ハァハァ」

『フフッ。ヴィア。ヨダレが垂れてる』

 このあと、2人は戻ってきた真人に怒られたのは言うまでもない。

 ◇◇◇
 それから1年が経った。
 クリスもヴィアも二刀流になったが、なんなく使いこなせるようになったようだ。
 旅の準備も順調のようで、特に料理の方を大量に収納していた。
「ヴィア。そんなに持っていかなくても、帰ってこればいいんじゃないか?」と言うと
「そうしたいのは山々なんですが・・・。一度戻ると離れられなくなりそうなので、帰ってくるのは最低限にしておきます・・・。それに外でも料理は作れますけど、ここの料理は特別ですから・・・」と言っていた。
 まぁその気持ちもわかる。
 ここは居心地もいいし、仲間もいるからな。
 俺も外に出る時はこんな気持ちなのだろうか?
 そんなしんみりした俺の気持ちを吹き飛ばすように、今日もクリスは47階層でヴィアを追いかけ回し・・・訓練しているようだ。
 クリスいわく、最後の仕上げらしい。
 その様子を眺めていると、確かにヴィアはクリスの攻撃を綺麗にかわしながら逃げていた。
 クリスが転移で目の前に触手を振りかぶった状態で現れても、刀で受け流しており、戦いというよりかは生き延びることを前提にしているような感じだ。
 俺に気づいた2人がこちらに近づいてきた。

『マスター。ヴィアも強くなった。ドラゴンにも負けないはず。もう教えることは何もない』

「そうか。クリスが言うならそうなんだろうな。ヴィアよく頑張ったな。しかし、地上からは上空のドラゴンは厳しいだろ?飛行魔法でも覚えたのか?」

「真人様!ありがとうございます。さ、さすがに空までは飛べません。私は魔術師じゃないですので。でも大丈夫です!必殺技がありますから!」

「ほう。必殺技か。見ることは出来るか?」

「はいっ!見てて下さい!」

 するとヴィアは右足を前に出し、軽く腰を落とし、左腰に2本さしてある刀の片方の柄を右手で握り、左手で鞘を持った。
 そして

「ハァァァァ!メイグウ流第一秘剣!白一閃ハクイッセン!」

 するとシャーンと音を奏でながら鞘から抜刀して振り抜いた瞬間、三日月型の白に輝く斬撃が放たれた。
 あれは魔力か!中々かっこいいな!しかし俺の聞き間違いでなければ、おかしなことを口走っていたな。

「な、なぁ?メイグウ流ってのはなんだ?」

「えっ?それはもちろんこのダンジョンで生まれた剣術ですから当然だと思いますけど」

『ん。マスターの剣術を広めるため』

「そ、そうか。だが今のは居合い斬りだろ?横にしか放てなさそうだが、ドラゴンが飛んでるとして上向きに放てるのか?」

『「あっ・・・」』

「ま、まあ他にもありますから」

『そ、そうそう。マスターはヴィアの活躍を楽しみにしとけばいい』

「ならいいんだが。人に向かって使うような技じゃないな。みんな真っ二つになるぞ」

 そこで遠くから、ドォーン!という何かがぶつかったような音が聞こえてきた。
 3人は不思議に思い、音がした方向を見ると、どうやら先程ヴィアが放った斬撃が山の斜面に当たってクレーターが出来たようだ。
 そして3人は顔を見合せ、そのことに気づくと徐々に顔が青くなっていった。

「な、なぁ?あの山って確か・・・」

『ん。確かルタがいるはず』

「・・・。た、確かルタ様はあの辺に住んでたような・・・」

「『「・・・・・」』」

『マ、マスター。大丈夫。斬撃を放ったのはヴィア。私たちは何も悪くない』

「そ、そんな!クリス姉様!」

 そこに髪がチリヂリとなったルタが現れた。
 いやいや、あれは斬撃系だったから爆発系みたいな髪にならないだろ!
 これはちょっと怪しいな。
 ルタは何か企んでいそうだ。

「さて、申し開きはあるかな?3人共」

『ルタ。違う。私とマスターは見てただけ。悪いのはヴィア』

「そうなんだね。じゃあヴィアは罰として、ボクに付き合ってもらうことにしよう!」

「えっ?ルタ様。真人様とクリス姉様も一緒に・・・」

「ヴィア!早く行くよ!」

「ヴィア。頑張ってな~」

『ヴィア。頑張れ』

「そ、そんなっ!?」

 ヴィアはルタに引きずられていった・・・。

「・・・まぁルタだからな。悪いようにはしないだろ」

『ん。なんだかんだ言ってルタとサラもヴィアのことを気に入ってる』

「そうなのか?あんまり話してるところを見たことないが」

『ヴィアはあの2人に土魔法と火魔法を教えてもらってる。それに鉱物の加工とか武器の手入れの仕方なんかも聞いてた』

「考えてみればそうだな。魔法のことは精霊王たちに習った方がいいのか。これから外に1人で出るってなると、色んな知識を持ってた方がいいだろうな」

『ん。ヴィアは頑張ってる』

「帰ってきたら、少し褒めてやるか」

『マスター。私は?』

「ああ。クリスも頑張っているからな」

 俺はそう言いながらクリスを両手で抱えた。

『フフッ。マスター。ありがと』

 俺たちは遠くに引きずられてるヴィアの姿を目にしながら、昼食のために転移するのであった。

 ◇◇◇
 一方、ヴィアの方はというと。
 引きずられていたことからようやく解放されて地面に佇んでたたずんでいた。
 場所はルタが住む山の麓で、斜面に出来たクレーターがよく確認できる。
 ヴィアは顔をひきつらせながらルタに問いかけた。

「ル、ルタ様。い、一体何をするのでしょうか?」

「うーん。とりあえず山を直して・・・と」

 ルタは自身の魔法ですぐに山を直した。

「えっ?ルタ様。私に直させるつもりだったんじゃ?」

「そんなの土魔法使えばすぐに直せるでしょ!さっさとボクのウチに行くよ!」

 ヴィアは困惑しながらも、ルタの住む家へと向かって山の洞窟を歩き始めた。
 土魔法を習う時に何度も訪れているため、特に迷うことなくルタの家に着いた。
 ルタの家は鍛治がしやすいように、何ヵ所も工場のような部屋がある。
 その一番奥がルタの住居で、装飾品のたぐいはなく、必要最低限な家具だけで少し殺風景だ。
 住居の方に向かうと思い、ルタの後ろを歩いていたヴィアは、今まで入ったことのない2階建て程の高さの建物に案内された。
 その建物の前には何故か不機嫌そうな顔をしたサラがいた。

「サ、サラ様。ど、どうされましたか?」

 サラは親指を立てて背後にあった扉に向かってクイッとした。
 入れってことだろう。
 ヴィアは何をされるのかと思いながら、恐る恐る扉を開けた。
 すると、そこには部屋一面に大量の鉱石や魔石がちらばっていた。
 おそらくヴィアの斬撃で生じた揺れでちらばったのだろう。
 それを察したヴィアはすぐに2人に頭をさげた。

「ルタ様!サラ様!申し訳ありませんでした!」

「いやいや。別にいいよ。ただ落ちただけだし。ついでに種類ごとに仕分けしてもらおうと思ってね。それがヴィアにしてもらいたいこと。ただし丁寧に扱うこと。あとわからないのがあったらボクかサラに聞くこと」

「は、はいっ!喜んでやらせていただきますっ!」

 ヴィアは当初、これが罰?と不思議に思っていた。
 しかし、鉱石や魔石に触れていると、キラキラ輝いている物だったり、真っ黒な闇色に引き込まれそうな物だったりと次第に興味がわき始め、気づけば夢中になってルタとサラに質問していた。
 ここには、銅や鉄、ミスリルはもちろんオリハルコン、ヒヒイロカネ、アダマンタイトの伝説の鉱石、Sランクの魔石、希少な闇属性の魔石まであった。
 それにルタとサラは、加工の仕方や魔石を粉末状に砕いて魔法陣が書けることなど色んなことを教えてくれた。
 ヴィアは気づいてしまった。
 これは私に教えるために機会を与えてくれたことに。
 少し感動しつつ、体感的にそろそろ日が沈む頃合いで片付けが終わった。
 ヴィアは種類やランクごとに仕分けされてることをちゃんと確認してからルタとサラに終わりを告げた。
 ヴィアが額の汗をぬぐっていると、ルタが話しかけてきた。
 隣にはサラもいる。

「ヴィア。お疲れ様だったね。助かったよ。ここにあるのは、ヴィアに用意した物だから全部持っていくといいよ」

「えっ!?」

 ヴィアは開いた口がふさがらなかった。
 これを全部?伝説の鉱石、希少な魔石まで?そう思っていると

「外に出た時、もし金銭に困ったら売却するといいよ。これはボクとサラからヴィアへの贈り物」

「ルタ様ぁ~。サラ様ぁ~。ぐすっ。ありがとうございますぅ~」

 ヴィアは2人に抱き付き、2人はヴィアの背中を優しく撫でていた。
 しばらくして落ち着くと、ルタとサラが真剣な表情をしてヴィアを見てきた。

「いい?ヴィア。ボクから言えることは、物を大事にすること。刀もご主人様の不壊がついてるかもしれない。でも武器にだってちゃんと心が通ってるんだ。だからちゃんと手入れをするように。きっとヴィアを助けてくれるはずだよ」

「はいっ!ルタ様!物にも愛情を持って接します!」

「ヴィア。火は怖いものだ。扱いを間違うと大怪我を負うし、他人も巻き込んでしまう。でも生活を豊かにしてくれるし暖かさもくれる。状況をよく見て優しく使ってやるんだ。そうすればきっと力になってくれる。ヴィアにならできるだろう?」

「はいっ!サラ様!火の怖さはこの身に刻んできざんでありますからっ!」

「よし!ではご主人様も心配・・・はしてないかもだけど、遅くなる前にみんなで食堂に行こう」

「なんでですかっ!ちゃんと真人様は私のことを心配してくれてますよっ!」

「ははっ。ご主人様はみんなのことを把握してるからね。ボクたちのことも信頼してくれてるから心配してないと思うよ」

「それもそうですね!心配されることより、信頼されることの方が嬉しいですよね。ルタ様!サラ様!早く行きましょう!」

 ヴィアは1人で走っていってしまった。

「ははっ。ヴィアは元気だね。でも、寂しくなるねサラ・・・」

「ああ。最初魔法を教えた時に爆発させてどうなるかと思ったが・・・。成長するということは案外嬉しいもんだな・・・」

 2人は今まであった出来事をしみじみと思い出しながら食堂に向かうのだった・・・。

 ◇◇◇
 翌日、クリスと朝食を食べていると、興奮した様子でヴィアが現れた。

「真人様!クリス姉様!おはようございます!聞いて下さいよ!」

 と、挨拶を返す暇なく、昨日あった出来事を嬉しそうに話始めた。
 どうやら見捨てたことは根に持ってないようだ。
 少しホッとしつつもヴィアの話を聞いていると、ディーネとアルが現れた。

「みんなー!おっはよっー!」

「主様、クリス、ヴィア。おはようございますわ」

「・・・。アル。おはよう」

『ん。アル。おはよ』

「アル様。おはようございます」

「えっ!?なんでみんな私には返してくれないの!?」

「・・・ディーネ。お前はまた何か企んでるのか?」

 俺は朝からとんでもないハイテンションのディーネにドン引きしながら問いかけた。

「失礼なっ!なにも企んでませんよっ!ちょっとヴィアを借りようと思ってるだけですよっ!」

「それを企んでるって言うんだよっ!一体何をするつもりだ!?」

「主様。私からもお願いしますわ。ヴィアを少々お借りしたいのですわ」

「ん?いいんじゃないか?俺じゃなくてヴィアに聞いてくれ」

「アル様。私はかまいませんが・・・」

「真人様っ!私の扱いひどくないですか!?」

『ディーネ・・・。どんまい・・・。ププッ』

「ク~!リ~!ス~!」

『ふっ。ディーネじゃ私に追い付けない』

 またいつものヤツが始まった。
 こいつらはほんとに飽きないな。

「ではヴィア。行きましょうか」

「はい。アル様」

「ディーネ!先に行ってるわ」

「え!?ちょ、ちょっと!?アル!?待って!クッ!クリス!覚えてなさいよ!」

 ディーネは三下のようなセリフを叫びながら外に出ていった。

「まぁ、ヴィアはあの2人を姉のように慕っていたからな」

『アルはそうかもしれないけど、ディーネのことは違うと思う』

「ん?じゃあヴィアはディーネのことをどんな風に思ってると思う?」

『うーん。手間がかかる出来損ないの妹?』

「そ、そうか。中々言うな・・・」

 ディーネも悪いヤツじゃないんだけどな。
 やる時はやるヤツだし。
 でも普段があのポンコツだからな。
 そんな話をしていると、リアとリムが現れた。

「ん?珍しいな2人共。朝食か?」

「少し真人に話しがあってのぅ~」

「そうそう。真人ちゃん。クリスちゃんとイチャイチャしてる時にごめんね~」

 いつものようにめんどくさそうに話すリムと、ニヤニヤしながらクリスをからかってくるリアだ。

『・・・大丈夫』

 するとクリスが目の前から消えて、リアの背後に現れた。
 しかし、リアはすぐに振り向き、なんと!クリスを抱き抱えてしまった。
 なんだと!?クリスがあんなに簡単に捕まるのか!もしかしてリアとリムが一番強いんじゃ・・・?

「あらあら。クリスちゃんはお姉さんに甘えたかったのね。フフフ」

『むぅ。離せ』

「お主たちは相変わらず仲が悪いのぅ~」

「な、なぁ?2人共。もしかしてクリスよりも強いのか?」

「そうじゃのぅ~。我らはこう見えても勇者や魔王の時代から存在してるからのぅ~。まだまだ若いモンには負けてられんのぅ~」

「な、なに!?勇者と魔王だと!?この世界にいるのか!?」

 俺はいきなり落とされた爆弾発言を聞き、テーブルにバンッと手をつきながら立ちあがった。

「び、びっくりしたのじゃ。な、なんじゃ真人。勇者と魔王を知っておるのか?」

「す、すまん。いや、知らないんだが、少し気になってな」

「安心せい。勇者と魔王はもう存在せんぞ。二千年も昔の話しじゃ。それに別の大陸じゃったからのぅ~」

「べ、別の大陸!?やはり世界はこの大陸だけじゃなかったかっ!」

「お、おう。えらく興奮しておるのぅ」

「ま、まさか。どこかの国が勇者を召喚したとか、魔王が封印から復活しようとしてるとかの話しか!?」

「え?お主ほんとは勇者と魔王を知っておるじゃろ・・・?」

「い、いや。ただの勘で言っただけだ。それで本当の話しなのか?」

「ふむ。まぁよいか。我らもそのころに造りだされたからのぅ~。あんまり詳しく覚えておらんのじゃ。そこでここにきた本題じゃ」

「リム。ちょっと待って。少し確かめたいことがあるわ。真人ちゃんいいかしら」

「な、なんだ?」

「そんなに身構えなくてもいいわよ。確認するだけだわ」

「何を確認したいんだ・・・?」



『???』

「うん?メイグウダンジョンがどうかしたのか?」

『マスター。なんて言ったかわかったの?』

「な、なにっ?まさかっ!?」

 どうやらリアは日本語で話したらしい。
 何故知ってるんだ?

「そういうことね。やっぱり真人ちゃんは・・・」

「そういうことじゃったか・・・。しかしリアよ。どこで気付いた?」

「誕生祭でダンジョンの入口に出た時ね。リムはほとんど寝てたから見てないかもしれないけど。入口に書いてあったわ。私たちは最初ここに来た時もリムの転移で入ったから気付いてなかったわ」

『どういうこと?リアとリムもあの古代文字みたいなのが読める?』

「ん~。そうね。あれは勇者が使っていた古代文字と言うべきかしらね」

『勇者!マスター。すごい!でもマスターの方がきっと勇者より強い!』

 クリスはそう言いながら俺の膝の上に転移してきた。

『マスター?』

 俺は今どういう表情をしているだろうか・・・。
 身体はないはずなのに冷たくなるような、自分が遠くにいるような感じがしていた。
 これが恐怖なのか不安なのかはわからない、心の内では転生者と知られるのが怖かったのかもしれない。
 しかし、クリスの言葉のおかげで安心している自分がいた。

「クリス。ありがとな」

 俺は膝の上にいるクリスを優しく撫でた。

『私は何もしてない』

「真人」

「真人ちゃん」

「お主が何を気にしているかわからんが、クリスも我もリアも、そしてここにいるみんなが家族だと思ってるし、仲間だと思っておるぞ。それはお主も同じことじゃろう。だからお主の正体なんて我らには関係ない。そのことだけは伝えておく」

「そうよ。真人ちゃん。私は確認してよかったと思ってるわ。だってこのダンジョンはまだまだ発展していくわ。勇者のいた国も不思議な力と文字を使ってすぐに大きくなっていったもの。この世界の暦と時間というのも、その時に出来たものなのよ?それに今となっては、このダンジョンがこんなに早く大規模になれたのも納得したわ」

「そ、そうか・・・。2人共ありがとう・・・」

『マ、マスター。泣いてる?』

「そうだな・・・。クリスもありがとうな」

『大丈夫。マスターには私がいるし、ヴィアもいる。みんなもいる』

 するとクリスが淡い光りに輝き始めた。
 そして俺は、温かい何かに包まれているような、水の中に浮かんでいるような不思議な感覚になっていた。
 まるで物語に出てくるのようだと・・・。

「ク、クリスちゃん。あなたもしかして!?」

「むぅ。まさかこうなるとは」

『リア。言わなくていい』

 落ち着きを取り戻した俺は、少し顔を赤らめながら話しを再開させることにした。

「す、すまんな。それでリムの本題とは?」

「うむ。実はな。勇者は人間だったことから亡くなったのはわかっておる。まぁ子孫はどこかにおるじゃろうが。だが、魔王の方は勇者に倒されたのか封印されたのかわかっておらんのじゃ。少し嫌な予感がしてな、当時を知る者に心当たりがあるもんじゃからリアと会いに行こうと思うてな」

「少し嫌な予感?それってフラグってヤツじゃないのか?」

「ふらぐとはなんじゃ?」

「い、いや。気にしないでくれ」

「そうか。それでヴィアが外に出るのに合わせて、我らもここを出ようと思うてな。もちろんダンジョンの疑似太陽と疑似の月はそのままに出来る」

「それでヴィアに名前をつけた時に考えてたのか。外に出るのはいいが条件があるぞ?」

「な、なんじゃ?」

「一つはヴィアをしばらく見守ってやってくれ。そうだな。セリア王国を出るまででいい。あいつは少し危なっかしいとこがあるからな。もう一つは、俺にも他の大陸と魔王の情報がわかったら教えに帰ってきてくれ。精霊ってのは自由だからな。しかし、ここで過ごした以上は家族だ!だからたまには帰ってくるように!」

「ま、真人ぉ~」

「真人ちゃ~ん」

『マ、マスター』

「あっ!おいっ。抱き付いてくるな。クリスまで」

 なんとか3人を引き剥がした俺だったが、(もちろんクリスは膝の上にいる)リムがさらにとんでもないことを言い始めた。

「なぁ真人よ。この大陸は出来てまだ千年ほどなんじゃが・・・」

「まてまてっ!元々ここに大陸はなかってことか!?どうやってこれ程の大陸が出来た!?」

「大陸程の大きさが出来ることは珍しいが、島ぐらいなら割りと簡単に出来るぞ?その逆で島が消滅することもあるがのぅ~」

「なにっ!?それは原因がわかってるのか!?そんな危険なとこに住めないだろう!?」

「ああ。それは大丈夫じゃ。お主も知ってる魔力層じゃよ。この大陸は膨大な魔力が湧き続けて出来たもんじゃな。その湧き出た魔力が安定しないと魔力が散って自然と島も消滅するのじゃ。魔力が多いところには強力な魔物も発生するからのう~。誰も近づいたりせん。お主がダンジョンで魔力を制御しなければ、もしかしたらこの大陸もいずれは失くなっていたかもしれんな。それにまだ魔力は湧き続けているんじゃろ?この大陸はまだまだ大きくなっていけるってことじゃ。まぁそれはお主次第じゃがな」

「な、なんだと!?それじゃあ他の大陸にも俺みたいなのが存在して魔力層を制御してるってのか!?」

「いや。それは絶対ない。他の大陸は確かに魔力層は制御されておるが、魔力が湧き続けてることはない。それに他の大陸は大昔に創造神様がこの世界を作ると同時に出来たと言われておる」

「おいおいっ!とんでもないことばっかり言うな!創造神だと!?やはり神が存在してるのか!?」

「どうじゃろうな~。我らも神界で精霊神様には会ったことはあるが、さすがに創造神様には会ったことがないからのぅ~。真人よ。お主も神じゃろうが。創造神様や精霊神様がいない今、この世界で一番偉いのは魔神であるお主じゃぞ。神が地上に降臨してるもんじゃからな」

「はぁ!?神界!?俺が一番偉い!?」

『そう。リムはわかってる!マスターが一番偉い。フフン』

「神界の場所は神だけが知っているとされておる。お主もいずれは行けるじゃろう。我らも精霊神様に回復させられて、すぐにこちらに送られたから場所の存在すらわからんのじゃ。しかしクリスは相変わらず真人にベッタリじゃのぅ~。ほれ。我の方にも抱き付いてこい」

「あっ!クリスちゃん!私の方でもいいのよっ」

『いや。マスターがいい』

「うーん。なんか孫を可愛がる婆さんたちに見えてきたな」

 本人たちは嫌がられてショックを受けてるみたいだ。

「少し遠回りをしたがそれでじゃな」

「まだ何かあるのか!?」

「まだ話の途中じゃったじゃろう!それでこの大陸が出来て千年ほどなんじゃが・・・」

「なぁ?それって聞かないとダメか?」

「これはヴィアにも関係してくることじゃぞ?」

「なにっ?ヴィアに?なら聞こう!早く話してくれ!」

「お主のぅ・・・。娘を溺愛する親バカに見えてきたのぅ」

 本人は鼻息を鳴らすほど張り切ってるみたいだ。

「まぁいい。それでこの大陸になったのが千年前。それから人が住み着き今の国となったのじゃが、今から800年前、現在はシルフィスとなっている場所じゃな。二千年前の魔王大戦で存在していたとされる白銀の狼が現れたらしいのじゃ。現れた原因はわからんが、その強大な魔物の前に人類も精霊も多大な犠牲を払いながらも戦い、ローラ聖教国の勇者の子孫とされていた聖女とシルフィスのハイエルフたちでどこかに封印されたらしいのじゃ」

「まさか、その封印を守ってるのが精霊樹だってのか?」

 白銀の狼?まさか神話のフェンリルとかいうヤツか?

「おそらくな。我らも別の大陸におったから詳しいことはわからんし、当時を知るハイエルフは残っておらん。だが、今でもどこかに封印されておることは確かじゃ。それに、その狼は魔王に操られていたとも言われておる。勇者はその狼を助けようとしていたのかもしれんな」

「それで?なにが言いたい?」

「・・・。ヴィアは封印を解くことが出来るじゃろうな」

「なんだと!?」

「まぁ、あやつ自身は解くつもりはないじゃろうがな。しかし、封印が弱まってる可能性もある。それに封印を解くにしても媒介が必要となるじゃろうな」

「その媒介とは?」

「おそらく血じゃろうな・・・。条件であるハイエルフというのもクリアしとるしな」

「まぁ、ヴィアに限って封印を解くことはないだろう。だが問題は封印が弱まってる可能性があるってところだな。いつ解けるかわからんことを今話しても意味ないだろうが、こっちやヴィアに被害が出ないように対策だけはしておくか」

「それでじゃが真人・・・。」

「なんだよ?まだ何かあるのか?」

「あそこにはシルフィードがおるんじゃが・・・。何かあったら助けてやってくれんか!?この通りじゃ!」

「真人ちゃん。私からもお願い」

「お、おいっ。そんな土下座なんかしなくても助けてやるぞ」

『私も助ける。それにヴィアは私が守る』

「ほ、ほんとうか?」

「ああ。ヴィアも世話になったしな。だが俺は外に出れないからな。出来る範囲になるぞ?」

「それで十分じゃ。ありがとう真人。クリス」

「ありがとう。真人ちゃん。クリスちゃん」

「いいって。気にするな」

「我らも封印や精霊樹のことを調べてみるのじゃ」

「リム。あの人に聞けばわかるんじゃない?どうせ魔王のことも聞かないといけないし」

「それもそうじゃな。我らはヴィアが旅立つ時までその辺におるじゃろうから、何かあったら呼ぶのじゃ。ではな。真人」

「真人ちゃん。またね」

 そこで2人は転移していった。
 それにしてもとんでもない話しをしてくれたもんだ。
 勇者に魔王、白銀の狼に勇者の子孫の聖女、それに当時を知る者だと?本当の話だとすると二千年生きてるってことになるぞ?気になる情報ばかりだ。
 仮に白銀の狼の封印が解けたとしても、ここのダンジョンは大丈夫だろう。
 魔の森には被害が出るだろうが、魔物しかいないからなんとかなる。
 しかし、メイグウ市はなんとか守れないものか。
 せめて俺が外に出れるようになればなんとか出来ると思うんだが・・・。
 まぁ、無い物ねだりをしてもしょうがないか。
 とりあえず出来ることだけはしておこう。
 準備しておくだけなら損にはならんだろうし。
 そう考えながら俺は49階層に転移してきた。
 そして再びアダマンタイトの倉庫に入り、歴史書を調べるのだった。
 しかし、49階層は真人しか転移することが出来ず、クリスを置いて転移してしまったため、あとからクリスに怒られる真人であった・・・。

 ◇◇◇
 一方、アルに連れられて46階層にきたヴィアは・・・。

「アル様!ディーネ様がいませんっ!」

 後ろをキョロキョロ見渡すが、先程までいたディーネがいなくなっていた。

「どこかに寄り道してるのよ。いつものことだわ。ほっといて行きましょう」

「えっ?いいんですか?」

「いいのよ。そのうち現れるわ」

 アルとヴィアは、綺麗に咲き誇ってる色んな花を眺めながら精霊湖のほとりを歩き、ディーネの家に着いた。
 アルがノックをしても出てこないため

「ディーネ。入るわよ~」

 勝手知ったる我が家のように足を踏み入れた。
 アルの背中からちょこんと顔を出し、ディーネの家の中を初めて見たヴィアは

「意外と綺麗ですね」

 と失礼なことを口にしていた。

「まだ戻っていないようね。先に私の家に行きましょうか」

 扉をくぐり外に出ると、ディーネが現れた。

「モガッ。モガッ。モゴモゴッ!」

「・・・。ディーネ。食べ終わってから話しなさい・・・」

「・・・。ディーネ様・・・。何言ってるかわかりません・・・」

「ムグッ。ゴクッ。2人共遅かったね!」

「「・・・・・」」

「ヴィア。行きましょうか」

「そうですね。アル様」

「ちょっとちょっと!せっかく来たんだからお茶でも・・・じゃなかった。私もヴィアに用事があるんだから!」

「・・・。その手に持ってる袋はなんですか?」

「これ?もちろんパンケーキよ!2人共食べるよね?」

「いえ、私はさっき朝食をいただいたので・・・」

「私も今はいらないわ」

「そう。おいしいのに。モグモグ」

「ディーネ様・・・。まだ食べるんですか?」

「・・・。ディーネ。お行儀が悪いわよ」

「えっ?食べ歩きしようと思ってたのに・・・」

「ディーネ!時と場合を考えなさいっ!」

「もう!しょうがないなぁ~。じゃあヴィア!あっちの方に行こう!」

「えっ?はい。わかりました」

 ディーネは上機嫌で歩いて行った。
 ヴィアは先を歩くディーネを見ながらアルに尋ねた。

「アル様。もしかしてディーネ様の家が綺麗なのってずっと食堂とか屋台とかにいるからじゃないですよね・・・?」

「・・・。どうかしらね。私もずっと一緒にいるわけではないのだけれど、可能性は・・・あるわね。そういえば、私といる時も何か食べてる気がするわ」

「・・・。ディーネ様は体の中に空間収納でもあるのでしょうか?」

「クリスみたいね・・・」

 少し話し込んでしまい、ディーネとの距離が開いたところで、先を歩いていたディーネが振り返った。

「おーい。2人共何してるの~?早くきてよ~」

 2人は顔を見合わせてから歩き始めるのだった。

 ◇◇◇
 しばらく歩き、着いた場所は、高さは5メートル程だが幅が50メートルはありそうな大きな建物がある所だった。
 建物の後ろには色んな野菜が植えてあるのが見える。
 さらにその先には広大な小麦畑が広がっている。

「ヴィアはたまに水やりとか収穫を手伝ってくれるからこの建物わかるよね?」

「はい。収穫した物を一時的に集めて保管しておく倉庫ですよね?」

「そうそう!それでヴィアに渡したいのは裏にあるんだよね」

「裏ですか?裏には何もないはずじゃあ・・・」

 3人は倉庫の裏に移動した。

「・・・・・」

 するとヴィアが絶句した。

「な、なんですか!?この量は!」

 そこで目にしたのは、倉庫に負けないぐらい高く積まれた野菜、300は有りそうな米樽、500近い小麦袋、大量の肉類に乳製品だった。

「ヴィア。食は元気の源。豊かな食事はみんなを笑顔にしてくれる」

「ディーネ様。どうみても1人で使うには考えられない量ですよ!」

 しかし、ヴィアがディーネを見ると、真剣な顔をしていることに気づいた。

「ヴィア違うよ。外の世界を回ればきっと貧しい村やお腹をすかした子に出会うことがある。そんな時に手を差しのべてあげる優しさをもつこと。それが私がヴィアに伝えたいこと。私たちだって真人様に手を差しのべていただいたその気持ちを忘れないようにね!」

「デ、ディーネ様・・・。は、はいっ!わかりました!ありがたく頂戴していきます!」

「それにヴィア!真人様の素晴らしさをこの世界の住人に広げなければいけないのよ!」

「ディーネもたまにはいいこと言いますわね!食いしん坊なだけかと思ってましたわ!ヴィア!主様の素晴らしさをもっと世界に広めなくてはいけませんわよ!」

「そうですね!ディーネ様は食い意地が張ってるだけだと思ってましたが、ちゃんと考えてるんですね!はい!アル様!任せて下さい!」

「・・・。2人共ひどくない?褒めてないでしょそれ」

「えっ?褒めてるんじゃないかしら?ねぇ?ヴィア」

「はいっ!ディーネ様は食べ物のことに関して信用できますっ!」

「・・・。なんか納得いかないんだけど」

「次は私の家に行きますわよ。ヴィア」

「はいっ!わかりました。アル様」

「ディーネはどうしますの?」

「・・・。私も行く」

「どうしたんですの?元気がないですわね。ウチにきても食べ物はありませんわよ?」

「えっ?ハチミツは・・・?せっかくパンケーキ持ってきたのに・・・」

「ヴィアに全部渡す予定ですわよ?」

「ならしょうがないか・・・。ちょっと取ってくる」

 ディーネが消えた。
 家にハチミツを取りに行ったのだろう。
 いや、もしかしたら食堂に取りに行ったのかもしれない。

「アル様。ディーネ様は戻ってくるでしょうか?」

「どうかしらね。私は戻ってこないと思うわ」

「そうですね。私も戻って来ないと思います」

「そんなことより、ここから私の家までは少し距離があるからワープで行きますわよ」

「わかりました」

 2人はアルの家の前に着き、扉を開けて中に入った。
 リビングに案内されたヴィアは、テーブルの上にあるたくさんのハチミツに目が釘付けになった。

「アル様。こんなにたくさんのハチミツどうしたのですか?キラービーのハチミツはこの間採取したので、次に採取出来るのはそこそこ期間がかかるはずですけど・・・?」

「ヴィアはキラービーたちの世話もしてくれたわよね?そのお礼だそうよ。あの子たちもヴィアがいなくなると知って寂しそうにしてたわ。あとはそっちのハチミツもね」

「キラービーたちが?あとでお礼を言いに行きます。この白いのもハチミツなんですか?でも今まで見たことありませんよ?知ってたらディーネ様が自慢してくるはずですし」

「しっ!ディーネの話をするとほんとに来そうだからやめておきましょう。ディーネが都合よく抜けてくれて助かったわ。このハチミツはキラービーが進化した女王、クイーンビーの物なのよ。1年かけてようやく10瓶出来たらしいわ。希少すぎてまだ出せないのよ」

「確かに。ディーネ様は食べ物の話になると飛んできますね・・・。え?もしかして私の分だけですか?そんな貴重な物もらっていいんですか?私も甘い物は好きなので嬉しいですが・・・」

「大丈夫よ。私たちは待てば手に入るけど、ヴィアはそうもいかないわ。主様も、快くヴィアに渡すことを賛成してくださったわ」

「真人様は相変わらずお優しいですね・・・」

「えぇ。主様は私たちのことを第一に考えていらっしゃるもの・・・」

「私も何かお返しが出来ればよいのですが・・・」

「主様はそんなこと気にしないわよ。ヴィアが元気でいることが一番の恩返しだと思うわ」

「そうですね。でも真人様が外に出られるようになった時に恩返しできるように頑張ります!」

「そうね。それでヴィア。もう一つあるのだけれど」

「まだあるんですか?」

「こっちはローブね」

 アルに手渡されたのは、不思議と安心感があり、白地に紫のラインが入ったフード付きのローブだった。

「こ、このローブはなんですか・・・?」

「そのローブは、アルゴンスパイダーの糸を使って主様の魔力で編み上げた物よ。それと主様が認識阻害、体温調整、防汚、浄化、物理防御、魔法防御を付与してくださったわ。もちろん魔力を通せば色も変えられるし、透明にして隠れることもできるわ」

「真人様の魔力で・・・。どうりで安心感があるわけですね!まるで真人様に包んでもらえるようです!アル様!ありがとうございます」

「お礼は主様に言いなさい。羨ましいわね・・・私も作ってもらおうかしら・・・」

「はいっ!もちろんです!」

 どうやら最後のつぶやきは小さくてヴィアには聞こえなかったようだ。

「それと私から言えることは、常に周りの状況を確認すること!情報は価千金だと思いなさい!そのローブも手助けしてくれるだろうし、ヴィアになら風の精霊たちも力を貸してくれるわ」

「はいっ!アル様!肝に命じます!」

「では、食堂に行きますわよ。主様もいるはずですわ」

「そうですね。食べ物ばっかり見てたら私もお腹がすきました」

「フフッ。そうね。ディーネにパンケーキ貰えばよかったかしらね」

 2人は家の外に出て、心地よい風を感じながら食堂へとワープするのだった。
 しかし、食堂を訪れた2人だったが、真人の姿はなく、おまけにディーネが、食堂にある全てのパンケーキとハチミツを食べ尽くしたあとであり、その時パンケーキとハチミツ気分でいた2人は軽く殺意を覚え、4日間ほどディーネと口を聞かないことにしたのだった。
 食い物の恨みは恐ろしいと身に染みたディーネであった。

 ◇◇◇
 それから1ヶ月が経ち、ついにヴィアが旅立つ時がやってきた。
 俺は今、転生してから初めてダンジョン入口と外の境に立っている。
 隣にはクリス、後ろには精霊王たちがいる。
 冒険者がいない夜のうちにヴィアを見送るためだ。

「真人様、クリス姉様、アル様、ディーネ様、ルタ様、サラ様、リア様、リム様今まで大変お世話になりました。ここで過ごしたことは決して忘れません」

 ヴィアは深々と頭を下げながら言った。

「ヴィア。頭を上げてくれ。ここにいるのはみんな家族だ。俺たちはヴィアの悲しい顔を見たいんじゃないぞ」

『ヴィア。離れてても私たちは家族』

「そうですよね。少しの間、離れるだけですよね・・・」

「ヴィア。体調に気を付けるんですのよ」

「食べ過ぎないようにね!」

「頑張るんだよ。ヴィア」

「無理するなよ」

 1人だけずれたことを言ってるヤツがいるが、ついにヴィアは嗚咽をあげながら我慢していた涙を流し始めた。
 そこにリアとリムがヴィアの隣に並んだ。

「リア様?リム様?」

 ヴィアは少し驚いた表情で涙を含んだ目でリアとリムに顔を向けた。
 すると、リムが言った。

「みなも知っておると思うが、我とリアも少し用が出来てのぅ。それを済ますためにここを出ることにしたのじゃ。しばらくはヴィアの近くにおるから安心するのじゃ。それにすぐまた会えるじゃろ」

「えっ!?そんなの聞いてませんよ!リア様!リム様!」

 ヴィアは驚きの余り涙も引いたようだ。

「はて?言ってなかったかのぅ?」

「あら。不満かしら?ヴィアちゃん」

「いえ。不満というわけではないのですが・・・1人だと思っていたので、びっくりしたのと安心しました」

「ヴィアよ。我らは近くにおるとは言ったが、手助けはせんぞ?ちゃんと1人で自立できるようにするのじゃ」

「そう・・・ですよね・・・」

「ヴィア・・・」

「なんでしょうか?真人様」

「ハンカチは持ったか?武器は?収納はちゃんと確認したか?忘れ物はないか?ちゃんと栄養ある物を食べるんだぞ!歯磨きも忘れずに・・・」

『マスター・・・。過保護すぎる・・・。母親みたい』

「真人様っ!私は子供じゃないですよっ!」

「そ、そうだな。まぁ、つらくなった時や寂しくなった時はいつでも戻ってこい。ここはヴィアの家のようなもんだ。帰ってくる場所があることだけは覚えておけ」

「はいっ。真人様ぁ~」

 ヴィアが抱き付いてきてまた泣き始めた。

『むぅ。ヴィアは最後まで泣き虫』

「ははっ。確かにヴィアはいつでも泣いてるな」

「う~。そんなことないですよっ!真人様!クリス姉様!」

「ヴィア。先に行ってるぞ」

「そんなっ!待って下さいよ!リム様~」

「ヴィアちゃん。旅立ちは笑顔の方がいいのよ。だから笑顔で行きましょう」

「そうですね!ではみなさん!行ってきます!」

「ああ。行ってこい!」

『ヴィア。行ってらっしゃい』

 こうしてヴィアは、暗闇の中を歩いてメイグウ市の方向へと消えていった・・・。

 ◇◇◇
 ヴィアは行ってしまったか。それにリアとリムも。
 少し寂しくなるな。
 隣にいるクリスを見ると、やはり心なしか落ち込んでいるようだ。
 リアには、なぜ日本語がわかるのか聞いたが、ついに教えてもらえなかった。
 いずれわかるとそれだけを口にしていた。

 ◇◇◇
 アル、ディーネ、ルタ、サラたちが先に戻り、複雑な感傷に浸りながら真人とクリスもダンジョンへと戻ろうとした時、ダンジョンの外から1人の気配が近付いてきた。
 真人は隠密を使い姿を消し、クリスは警戒し身構えた。
 しかし、その人物に心当たりがあったクリスが声をあげた。

『・・・。ジョイナ。なぜ生きてる』

「まぁ。クリスは随分と失礼なことを言うのね。私はクリスから貰ったエリクサーを飲んだのよ?長生きすると思わない?」

『そういうこと。そういえば昔渡したことがある』

「クリス。約束は覚えてる?」

『約束?』

「ええ。エルフの子が外に出たら魔神様に会わせてくれるって」

『・・・。したかも』

「それで会わせてもらえるのかしら?」

『2つ確認したい』

「何かしら?」

『何故今日エルフが出て行くとわかった?』

「私はエルフの血が少し混じってるみたいで、同じ種族の魔力はなんとなくわかるのよ。それにクリスのエリクサーを飲んだからあなたの魔力もわかるようになったわ。もう1つは?」

『なるほど。納得した。もう1つ。マスターに会う理由は?』

「そうねぇ。今まではダンジョンの謎を解ければいいと感じるぐらいだったわ。でも人間より長命の私は、どんどん周りの知り合いがいなくなっていくのが寂しくなったのかもしれないわね。それで魔神様の配下になれば精霊やクリスみたいな定命から外れた存在と一緒にいれると思ってね。人間たちは長命の私のことを疎ましく思っている者もいるようだし、早い話、疲れたのよ」

『確かにそれは長命種の宿命みたいなもの。それでマスターの配下になると?マスターが悪い存在だったらどうする?』

「そうね。配下になることを望むわ。悪い存在?それは絶対ないわね。ここのダンジョンはそんな悪い存在じゃないわ。それはあなたたちを見ればわかるもの」

『わかった。マスター!ジョイナを中にいれる!』

「いいだろう。ちゃんと面倒みるようにな」

「っ!?い、今の声は!?」

『ジョイナ。まだマスターに会うのは早い。鍛えて強くならないと』

「わかったわ。望むところよ!」

 こうして、ヴィア、リア、リムが出ていくと同時に、寂しさを紛らわせるようにジョイナが入ってくるのだった・・・。
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