迷宮転生記

こなぴ

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第1章

SIDE エルフ

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 私はエルフの国、シルフィスの第一王女エリス・シルフィスだった。
 産まれた時から他のエルフとは違い銀髪、紫眼という容姿をしていたため、呪い子として扱われてきた。
 それでも父と母は優しく接してくれていたと思う。
 しかし、3年後に産まれてきた双子の弟妹を次第に可愛がるようになっていき、食事も1人でとるようになっていった。
 国王の父ドライアド・シルフィスと王妃セレスティーナ・シルフィスは朝食を終えると毎日でかけているようだった。
 一度こっそりつけてみたことがあるが、地下に繋がる扉の前で見失ってしまい詳細はわからなかった。
 そのため政務をおこなっているのは、宰相と家臣たちで、実質的に権力で支配している。
 特にひどいのは宰相で弟のアルスを使い、王家を牛耳ろうとしているフシがある。
 妹のアリスは聡明で、宰相たちが何かしようとしていることに気付いているかもしれないが、まだ子供のため何も出来ないだろう。
 このままでは立場も悪くなりそうで心配だ。
 私は妹たちをどうにか守ることができないかと思いながら日々を過ごしていた。
 2人は教養や武芸を習っているようだ。
 しかし、宰相たちが不利になるような魔法や歴史等は教えられていないだろう。
 あくまでもマナーや算術、形だけの剣術といった感じだ。
 それに私は何も教えてもらえなかった。
 それでも毎日書庫に行って、朝から晩まで本を開き1人で勉強していた。
 私が10歳の時だった。
 その日も書庫で魔法書を読んでいた。
 するとそこにアリスがやってきた。

「お姉様はなんでいつもここにいるの?」

「アリス。私はね。呪い子というやつみたいなのよ。だから私のそばにいるとあなたにまで迷惑かけてしまうわ」

「でも、お姉様は誰にも迷惑かけたことないよね?私はお姉様ともっと一緒にいたい」

 私は涙が出る思いだった。
 しかし、ここで私たちが一緒にいることがわかれば、宰相たちが糾弾してくるだろう。
 なので、私たちは寝る前の1時間だけ、私の部屋で会うことを約束した。
 私は魔法を使えないが、魔法書を読んでいたこともあり、風属性の適性がある妹に教えたりもした。
 やはり妹たちは魔法のことは教えられていないようだった。
 そんな日が3年程続いただろうか、その日も妹と話をしていると、妹は言った。

「この国は、固定観念に捕らわれすぎて新しい変化も受け入れようとしない。お姉様を先駆けとして国を変えるべきです。このままでは国が滅びると思います」

 アリスはやっぱり聡明だ。
 しかし、力もツテもない子供が大人たちに意見しては、立場が危うくなるか、最悪の場合、謀反と捉えられてしまうだろう。
 それほどこの国の有り様はひどい。

「アリス。私も以前そんな考えを持ったことはあったわ。でもエルフ全体がその考えを捨てない限り無理ね。これも仕方ないことなのよ。お父様やお母様がどう考えているのかわからないけど。それにあなたも宰相や家臣たちが何か企んでるのはわかっているわね?まずは自分の身は自分で守れるようになりなさい」

「それはわかってるけど・・・。私はこの国にいても何も学べない気がするし、お姉様はずっとこの国にいるの?」

「そうねぇ。私は15歳のステータス鑑定の儀で自分が何者なのか、それがわかってからこの国を出ていくつもりよ」

「そうなんだ・・・。私も一緒について行きたいけど・・・。それまでは一緒にいれる?」
「もちろんよ」

 しかし、私は翌日に宰相たちに無理矢理連れ出され、ステータス鑑定の儀を受けさせられた。
 その結果も名前以外は表示されず、宰相たちにますます非難される材料を与えてしまった。
 だが、これは当たり前の結果で、エルフよりも上位のハイエルフのため見ることが出来ないのと、エリスにはまだ見ることの出来ないアーティファクトの首飾りが精霊樹の巫女を守るために15歳までは強い隠蔽をかけているからだった。
 唯一、エリスの父である国王だけはこの首飾りは見ることが出来るのだが、ここに国王はいない。
 だが見えても首飾りが言い伝えてられていないのでは意味がないだろう。
 本来なら15歳のステータス鑑定の儀で精霊樹の巫女とわかるはずだったのだ。
 それに宰相たちは幾度となくエリスに暗殺者を差し向けていたが、この首飾りのおかげで、全部失敗に終わっている。
 そのこともあり宰相たちは焦っているのだ。
 さらに翌日、嫌な胸騒ぎがした私は、精霊樹に向かうことにした。
 しかし、これはエリスの勘違いで、宰相からの暗殺者が近くにいたことから、隠蔽の効果を精霊樹が強めたことによるものだった。
 そんなことは知らずに、王宮の外に出た私は、すぐに暗殺者たちに追い込まれた。
 必死に抵抗するが、ついに魔道具を押し付けられ、激しい光りにのみ込まれた。
 光りがおさまり気がつくと、そこは知らない森の中だった。
 これは、宰相が自国ではなんらかの理由で殺すことが出来ないと判断して、裏で繋がっていたイルムド帝国の貴族にエリスを売ったことにより、帝国側に面した魔の森に跳ばしたのだ。
 幸いだったのは、魔の森には真人によって進化した中位精霊たちが見回っていたことだ。
 これに気付いた精霊たちは姿は見せないものの、少女になにかあれば手助けしようとしていた。
 自分たちが真人に助けられたように。
 貴族の周りには20人程の私兵が私を取り囲むようにいて、私は絶望感にとらわれながらも逃げ道を探した。
 しかし、探す間もなく貴族の男が私を捕まえようと手を伸ばしてきた。
 私はシルフィード様に強く助けを願った。
 すると、私の周りに結界のようなものが張られた。
 男は結界に気付かず手を伸ばし、触れた瞬間に弾かれた。
 と同時に真人の配下の風の中位精霊たちが協力して放ったウィンドカッターで男の腕を切り飛ばした。
 そこで逃げ道ができた私はシルフィード様に感謝しながらすぐに走り出した。
 後ろでは貴族の男が痛みと怒りでわめいていた。
 しかし、走り出したはよかったものの、逃げる方向がわからず、戸惑っていた私に、不思議な声が聞こえた。
 私はその声に導かれていることに気付き、その方向に駆け出した。
 私はずっと王宮にいたため、走ったことのない森に苦労すると思っていたが、この森は私を後押ししてくれるように体が軽い。
 しばらく走っていると遠くに湖が見えた。
 どうやらその湖に導かれているようだ。
 意を決し湖に向かおうとすると、後ろから足音が聞こえてきた。
 どうやら貴族の私兵が追い付いてきたようだ。
 それでも湖の方に近寄っていくと

「これは精霊樹と同じ力の感じがする?もしかして繋がってる?」

 だが体力の限界も近く、足を止めてしまったため、私兵がせまってきた。
 仕方なく湖を離れ走り出そうとすると、さらに強い力に導かれていることに気付いた。
 それも今までとは比べものにならないくらいに。
 私はそれに向かって疲れた体を叱咤して走り始めた。
 するとすぐに洞窟が見えた。

「あそこに導かれてる?それもこの気配は精霊様がいる?シルフィード様より気配が強いかも。でも行くしかないわね」

 私は覚悟を決めて、急いで洞窟に入ることにした。
 ぼんやりとした明かりの洞窟を走り抜けると、一際広い空間に出た。
 そのまま走り去ろうとすると、視界の端に1匹のスライムがいることに気付いた。

「あれは?スライム?色が白銀?」

 精霊のような気配がする気がしたが、頭の隅においやって逃げることに集中した。
 しかし、ついに追い付かれて、角を曲がろうとしたところを上級魔法に襲われた。
 そこで私の意識は途絶えた。

 ◇◇◇
 私は夢を見ていた。
 暖かい光りに包まれているような、水中を漂っているような、優しくてふわふわした不思議な感覚だ。
 そんな穏やかで幸せな気分になりながら深い眠りについた。
 次に私が目を覚ましたのは、柔らかいベッドの上だった。
 見たことない天井だった。
 横に視線を向けると、優しく微笑んでる女性がいた。
 起きたばかりでぼんやりとしか見えないが、緑髪で翡翠眼をしているのはわかった。
 私は思わず

「シルフィード様?」

 と声に出していた。
 しかし、その女性は

「いいえ。私はシルフィードではありませんわ。あなたは何が起きたか覚えているかしら?」

「えっ?シルフィード様じゃない?そういえば私は私兵に追われて・・・洞窟に導かれて・・・魔法が当たって・・・あれ?生きてる?怪我もない?どうして?」

 完全に覚醒し、上半身を起こして自分の体を確認して驚いた。

「落ち着きなさい。あなたの怪我は私の主様が治してくれたわ。ここも主様の持ち物の一つですのよ」

 そこで私は、その女性をはっきりと見て、目を見開いてしまった。

「えっ!?精霊様!?えっ!?精霊様に主様がいるんですか!?」

 私は働かない頭をフル回転させて思考した。
 精霊様が人型ということは、確実に上位以上の存在だ。
 その精霊様が主様と仰ぐということは、ここに神様に近い存在がいるかもしれない。
 そんな超越した存在に助けられた私は、どんな運命を辿ることになるのかと戦々恐々となった。
 希望的観測であって欲しいと願ったが、その願いはいとも簡単に破られた。

「ええ。私たちにとって神様よ。いえ、神様よりもっと上の魔神様ね」

 私は驚きで固まってしまった。

「あら?固まってしまいましたわ。今のうちに主様を呼びましょうか」

「えっ!?ち、ちょっと待って下さいっ!心の準備がっ!」

「大丈夫ですわよ。来るのにしばらくかかりますわ」

「は、はいっ!わ、わかりましたっ。そ、それで私は何をすればよろしいのでしょうか!?命を差し出せばよろしいのでしょうか!?」

「い、命?主様はそんなこと望まないわ。それに何もしなくていいと思うわよ?ただ治療のお礼は言うこと。何かしたいのであれば自分で言いなさい。主様は寛大な御方だから大丈夫よ」

 しばらくするとノックが聞こえた。
 私は緊張でガチガチになっていた。
 精霊様の主様を見ると、間違いなく神様だと私は確信した。
 そのあとのことは、全く覚えていない。
 ちゃんとお礼を言えていただろうか?気が付いた時には自分の過去を話し終えたあとだった。
 何か失礼なことを言わなかったか心配になった。
 しかし、そんなことよりも、魔神様が出してくれた食事に目を奪われていた。
 そのピザという料理を食べてあまりの美味しさに涙を流したほどだ。
 そして私は、初めて精霊王様のこと、シルフィード様のこと、自分の役目を知った。
 それにクリス様は、おそらく私が私兵から追われていた時に見た、あの白銀色のスライムと関係があるはずだ。
 もしかしたらあの時、助けを呼んでくれてたのかもしれない。
 でなければ、上位魔法を受けた私は死んでいたはずだ。
 魔神様は見た目もかっこいいし、中身はとんでもなくすごい御方だ。
 それに見ず知らずの私に手をさしのべてくれる優しい御方でもある。
 しばらくの間、アル様やディーネ様、他の精霊様たちと過ごし、なんとなく次の方針が見えてきた。
 私の役目の精霊樹の巫女というのは、国から追い出されたため意味をなさないだろう。
 何より私自身もあの国に戻るつもりもない。
 しかし、あの国のことはどうでもいいが、せめて妹たちはは手助けしてやりたいし、シルフィード様にも感謝を伝えたい。
 それに私が何者なのかハッキリさせたいし、今後このようなことがあっても、せめて自分の身は自分で守れるようになりたい。
 私は強くなろうと決意した。
 そのためにもまずは、自分が本当にハイエルフなのか、ステータスを見て何ができるか知ることだ。
 魔神様はなんとかして下さるとおっしゃった。
 これ程心強い言葉はないだろう。
 いずれ魔神様たちと一緒にいられるようにしたい。
 そう覚悟を決めた私は魔神様の元に向かうのだった。


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