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第三の世界
出会う前と出会ってから。
しおりを挟む女の子を拾った。
朝の早い時間、レイチェルは1人で座り込んでいた。
本当ならすぐに王宮へ連れていくか、そうじゃなくても年頃の女の子だ。ヤーおばさんに相談したりした方が良かったのかもしれない。でもあの時の俺は家に連れて帰って、ずっと触れてさえいなかった母の形見の服を渡していた。流石にラムスが無い時はかなり焦った。両親の最期の様子が一気に頭に浮かんで血の気が引いた。結果的に問題なかったみたいで良かったが本当にびっくりした。
それから王宮へ行ったり、素材集めに行ったりした。自分の事を『レイチェル』だと名乗ったその女の子は時々突然黙り込んで何かを考えている。その間は周りの音なんて全然聞こえなくなる様で本当に危なっかしい。俺に言われるのもどうかと思うが心配になる。
薄々、レイチェルには何か言いにくい事情がある気はしていたが無理に聞く気はなかった。もしかしたらレイチェルに昔母のお腹から流れて行ってしまった会う事も叶わなかった弟か妹にレイチェルを重ねていたのかもしれない。流れると言っても直接母のお腹から出てくる訳ではない。そろそろ母なる樹の元から赤ん坊が運ばれてくる者には兆候があるのだ。女性の腹部がどんどんと大きくなり、その大きさを見て親となる男女は子育ての準備をする。母の腹部は膨らんでいってる途中だった。しかし何人に1人という割合で、突然女性の腹部の膨らみが無くなってしまう事がある。それを皆『流れる』と言った。
小さい時、兄弟は憧れたが生まれてくる事が出来なかった弟か妹を思うと俺よりも両親の方がきっとずっと悲しかっただろうから2人には言わなかった。が、やはり近所の兄弟がいる友達が羨ましかった。レイチェルはここらじゃ絶対に見ない髪の色や目の色をしている。昔はたまにいたらしい異世界からの渡り人の中に、もしかしたらレイチェルと同じ様な髪と目の色の人が居たのかも知れない。
でも、どんな見た目をしていようと余り関係無かった。昔から惚れっぽい所がある自覚はあるが、いい人とそうでない人を見分ける直感は男女限らずいい方だと思っている。レイチェルは直感でいい子だと思ったし、実際一緒に暮らしてみていい子だと思う。レイチェルの方が年上だと言っていたがやっぱり俺には妹みたいに見える。
神殿や、王宮で少し知りたい事があったみたいだけどそれも知らないふりをしておいた。レイチェルから何か言われたら協力できる範囲で力になろう。それからレイチェルは時々魘される。夜中に辛そうに何かを呟いている。目が覚めている時はそんな素振りを見せないが心配だ。
そして今日、王様からレイチェルの事で少し気になることがあるので来て欲しいとデンショバトで連絡があった。なんでも、レイチェルの舞で少し気になる事が出来たので一緒に見て欲しいそうだ。
✳︎✳︎✳︎
「心地いい」
レイチェルの舞を見た感想はこれに尽きる。扇舞を舞っている時のレイチェルは綺麗というか、なんだか神々しく見えた。服もいつもと変わらないのに神殿で龍神様へ祈りを捧げる儀式の様な神聖さがあった。そしてレイチェルの舞に合わせてふわり、ふわりと優しい魔力が緩やかに流れる。まるで産まれたばかりの小さな赤子が、母なる樹に優しく包まれている様な安心感がある。隣で舞を見ている王様も気持ちよさそうだった。
なのにレイチェルは魔力を貯めたり使ったりするのに必要な筈のラムスはやっぱり持っていなかった。
ーーじゃあ何で魔力の流れを作れるんだ?
考えてもよくわからなかった。
その後レイチェルの昔話を聞いた。俄かには信じられない様な話ばかりだったが、レイチェルが嘘をついている様には見えなかった。俺は、家族を失った。けどレイチェルは家族と会えないどころか全然知らない世界に飛ばされて、殺されかけて、友人を目の前で何度も失い、また知らない世界で大変な思いをして…こんな酷い話があるだろうか。
何とか鼻水と涙は止まったが、どうしても色々と考えてしまって眠たくならなかったのでレイチェルには先に寝て貰うことにした。きっと、近い内にレイチェルの魔力を調べる為に王宮の専門家と話をするだろう。そうなれば俺は役に立てない。だからせめてレイチェルが帰ってきた時におかえりって迎えてやろう。本当の家族には敵わないだろうけど、レイチェルはもうちゃんと俺の家族だ。
「ふぁあ…そろそろ寝るか」
何だかんだで眠たくなってきた。ぐっと伸びをする。
「あー…寝る前に傷薬だけ塗っておくかー」
朝の素材集めの時に少し硬くて鋭い葉で手を切ってしまった。いつもならそんなヘマはしないのだが、今日は少し初恋を思い出して集中力がだいぶ散漫だった。
「はぁー…初恋か実らないって言ったのは誰なんだろうなぁ」
カゴッと薬箱を開けて中から薬を出す
ーーん?そういえばあの葉っぱちょっと毒があるから切ったらかなり痛むのに今日痛み少ないな
念の為に巻いていた包帯を外すと、1つの事柄に気が付いた。
「傷が…ない…」
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