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第三の世界
屁っ放り腰
しおりを挟む「そうそう、レイチェルに教えてやっとかないとと思ってたんだった」
何とかリンを肉屋から引っぺがし、神殿への案内を命じた後リンが言う
「何を?」
「ざっくりだけでも龍神様の話だよ。予備知識なしで行くより多少でも知ってる物を見に行った方がいいだろ?」
ーーリンがリンなのにリンらしからぬ真面目な事言ってる…!
無言で口元を手で覆えば頬を抓られた
「いふぁい」
「なんか失礼な事考えてただろ」
ーーリンが鋭い…!
次は頭を小突かれた
「で、龍神様の話しだけど」
「へい」
「まず、龍神様は常に3人いらっしゃる」
「3人?」
「そうだ。どなたかお1人が亡くなられればまた別でお1人が御生れになる」
ーー待って待って神さまなのに死ぬの?
どうやら私の知っている神様事情とは少し違う気がする。その後もリンの話を聞いていればそれぞれの神に呼び名は無く1人であれば龍神様、複数人を指す場合は龍神様もしくは龍神様方と呼ぶらしいがだいたいが纏めて『龍神様』らしい。
ーー神々なのに名前がないのはちょっと新鮮ね
日本でも、外国でも神様と言えばそれぞれ名前があったし『個』としての認識をしていた。
それに神様は『信仰が無くなって消えてしまう』というパターンは聞いた事があるが、この空の世界の常識では神もまた死にゆく定の中にあるものらしい。
「…なるほど」
だいぶ私の思っていた神様像とは違ったなと思いながら相槌を打っているとリンが思い出した様に話す
「あ、そうそう。だから俺たち天人族に母なる樹を与えてくださった龍神様方はもう居られないらしい。
もし生きておられたならお礼の1つでも言いたかったんだけどな」
「へぇー…」
代替わりはどれくらいの頻度なのか、代替わりをしたそのタイミングはわかるのかなどを聞けば「頻度はバラバラだからわからんねーけど、代替わりしたらなんか神殿が分かるらしい」とリン言っていた。
「あ、ついた」
リンの言葉に考えるのをやめて顔を上げるとギリシャのパルテノン神殿の様な形の石造りの建物があった。
ーーあれ?これどこかで…
「あれー?今日トナー誰なんだろ」
ザカザカと敷地に入って行くリンを慌てて着いて行く
「トナーさんって人を探しているの?」
「ん?あーいや、役職名?なのかな。この神殿を回してるトップが仕える者で、龍神様の御言葉を伝える役割をするのが伝える者、掃除やら雑務をするいっぱいいる人達はトナー。
まあ神殿で働いてる人達はみんな纏めて『トナー』だよ」
「ほーう」
ーー宮司さんと巫女さん、雑用みたいな感じかな?
合っているかわからないが覚えやすいので
宮司さん=タン・トナー
巫女さん=ラン・トナー
雑用&神殿関連者全般=トナー
と覚えよう。そうしよう。
「おい、聞いてるかレイチェル」
頭をコンコンとされたので視線をリンに移すと「お前のそれ癖か?」と言われた。
「どれ?」
「…いや、もういいや…」
「?」
神殿の敷地内は割と緑が豊富だった。トナー探しをする為なのかリンは建物内に入らず、裏庭の様な所へとザカザカ進んで行く。そこには芝生と思われる草が敷き詰められており所々に女性や男性の像が置いてある。
男女共に古代ギリシアの様なゆったりとした服を着ていてポーズや表情はバラバラだ。
ーーなんか既視感…
もしかしたら男性や女性の像は女神や男神を象った物なのだろうか。よく見れば顔や背格好も違うようなので同じ人物がモデルではないらしい。
「あ、トナーいたいた!セトじいさーーん」
像を眺めていれば隣で突然あげられたリンの声にビクリと肩が跳ねる
「お前さんねぇ、いつも言っておるだろう?もう少し周りに気を配ってだな…」
そう言って やれやれ と言った風に首を振っているのは草箒を持った優しい色合いの紫髪をしたおじいさんだった。
背は低く、先程見た石像達と似た様な服を着ていた。
ーーパステルじゃなかったらたまに大阪とかで見る髪色…!
おおお、と感動していたが挨拶をしていない事を思い出す
「あの、初めまして。レイチェルと申します。勝手に入ってきてしまってすみません」
するとおじいさんはゆっくりとこちらを向いて首を振る
「ん?ああ、お前さんが謝る事はないよ。どうせここにいるリンが勝手に入ってきたんじゃろう?神殿へようこそ、レイチェル。わしはセトと言う。この神殿でトナーとして働いている。」
セトは話し終わるとリンを見て困った様にため息をつくが、ため息をつかせている本人はケロッとしている。
「だってよ、神殿の中に入ったら声出せねーだろ?」
「え?そうなの?」
ーーそれは確かに不便そう
「声を出すなとはいっとらんだろう。声の大きさを抑えろと言っているんじゃ。全くお前さんはいつまで経ってもガサツじゃの」
ーー違った
「で、今日はなんじゃ」
「うん、レイチェルに神殿案内してやろうと思って。この世界にきたばっかりなんだって。王様のとこはもう行ったよ」
「で、わしに丸投げかい。まあ別にいいがの」
「ああ、頼むぜセトじいさん」
「宜しくお願いします」
箒をしまってくると行ってどこかへ行ったセトさんは戻ってくると神殿内を案内してくれた。
せっかくだからと言ってセトは神殿の正面へと回り、声量を落とせよと何度もリンに念を押して入って行く。
ーーう、わー…
見上げる程高い天井、入ると少しひんやりとした石造り独特のひんやりとした空気。外の光が建物を支えている柱の形に影を作っている。
ーーあれ?でも壁らしい壁はないのに虫とか鳥とか入ってこないのかしら
二階は無く建物に沿う様にしてぐるりと通路が設置されてある。何かに似てると思ったら体育館のカーテンを閉めたり上に上がってしまったボールを取りに行くあの通路に似ている。
「レイチェルや」
セトが少し振り向き、楽しそうに微笑む
「なんでしょう」
「お前さんまで黙りこくらんでもええ。リンは極端じゃからもう本人のしたい様に黙らせておくが普通に話すくらいは構わんよ」
そう言ってホッホッホと笑う
「説明しながら案内するから、気になるところがあれば遠慮なく聞きなさい」そう言ってゆっくりと歩きながら龍神様について教えてくれた。
大体リンが来る前に話してくれたものと同じ内容だったが立派な神殿内で落ち着いたセトの声で話して貰うせいかとても神秘的なお話に聞こえる。
「ふぁああ」
眠たそうなリンの欠伸を見たセトはまた やれやれ といった風に首を振ると「次は絵画や彫刻を見せよう」と言ってくれた。
「なーーーー」
セトを先頭に歩いていたが、私の後ろにいたリンが声を上げる
「ちょっ!声大きい!」
慌てて小声でリンに注意するとセトは諦めた様に「なんじゃ?」と聞いている
「あのさ、絵画とか彫刻もいいけどさ。レイチェルこの世界初めてなら龍神様にまだ会ってないんじゃないか?
俺たちはみんな生まれた時とか、成長する度にちょくちょく来るけどさー」
ーーえ、龍神様?!会えるの?!
するとセトはハッとした顔をする
「そうじゃな、確かにそうじゃった。すまんのレイチェル」
「セトじーさんもう年だからな。いてっ!」
今までで1番早く歩いたセトはすれ違いざまリンと腰辺りをバシィ!と叩いていった。
「あの…大丈夫?」
いたいい、いたいい、と言って腰をさすりながら屁っ放り腰になるリンに近付く
「ああ、大丈夫ありがとう…ってレイチェル、大丈夫かと聞くならせめてそのニヤニヤした顔をどうにかしてから言え」
「ごめん無理…」
正直リンの屁っ放り腰がツボに入って吹き出さないだけでも精一杯だ
「くそーセトじーさんめ。どこにあんな力隠し持ってんだよ」
ブツブツ文句を言いながらまだ屁っ放り腰で歩くリンの後ろ姿を見て、私は我慢できずに吹き出した。
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