132 / 149
第二の世界
小さな大家族
しおりを挟む隠れ、迷いながら何とか城門の辺りまで来た時には空はいつのまにか薄暗く、夕方になっていた。そして当然、城門には門兵が居た。
あそこを抜けるのには一体どうしたらいいだろうか。
ーーオルを一緒に連れてきて、門を開けさせればよかった?無理無理、そもそも多分私の能力がそんなに長くは保たなかったわ
ブンブンと首を振る
ーーそれとも交代を待ってその隙を狙う?これも現実的ではないわね
門兵は今見えるだけでも2人は居る。門は閉ざされているのできっと反対側にも2人以上は居るだろうし、もしかしたらここから見えて居ないだけで他にももっと居るかもしれない。
ーーそうなると能力を掛けて開けて通して貰うのも無理でしょうね
今の私の限界人数がわからないが、先程オル1人に掛けただけでもかなり体力を持っていかれた。今の私のレベルで何人にも同時に能力を使うのはできる気がしない。
ーーそういえばオルと初めて会った日にオルが使っていた裏門なら………!
あそこは確か門というか、ひたすら抜け道だったのでお城としてはアウトだが今の私にすれば天の導きかと思うレベルで誰も見張って居なかった。
ーーこの国、きっと平和なのね
しかしはたと気がついて足を止める。
ーー待って、道がわからない………!
一体どちらへ進めばいいのか。確か大きな橋を渡ったのは覚えている。
ーーていうか橋!ダメじゃない?あんな目立つ所通ったら絶対見つかるんじゃない?
もう橋が先だったか抜け道が先だったかも曖昧な上に橋は薄暗いとはいえ通るとなるとやはり目立つ。
ーー夜になったらなったで私が見えないし
早速行き詰まっていると、ふと足元の花に目が止まる。
ーー祈りの花ではできた………
ダメ元で芝生っぽい草やその周りの花にそっと能力の糸を絡ませてみる
ーー私に、人に見つからずにお城から出る道を教えて
するとふわりと草花が揺れる。そのままゆっくりと自らの身体を倒すと次はその近くの草花がどんどんと身体を倒し一本の道が出来た。
「! ありがとう!」
小声で草木にお礼を言い、草花が作ってくれた道を歩く。
ーーあれ?かなりの量の草花に能力がかかった筈なのに全然疲れてない
やはり小動物や植物との相性の方が良いのだろうか。そんな事を考えながら薄暗い道を1人で歩く。
途中、空腹を感じて近くの木に能力でそのまま食べられる果実などが無いかを聞いてみるとゆらゆらと揺れた後、ぽとんと数個の果実を分けてくれた。
「ありがとう」
果実を齧りながらひたすら歩く。
ーーなんだか森とお友達になった感覚になるわね
そして多分だが、人に見つからない道と言ったお陰で橋は渡らずに少し迂回して行くルートの様だ。その分歩くのは覚悟しなければいけない。
ーーピンヒールじゃない靴で本当によかった………!
靴が無ければ間違いなく足の裏がズルむけである。想像しただけで痛い。
暫く歩いていると崖といっても良いくらいの岩場の傾斜に差し掛かった。
「待って、これ降りるの?いや頑張れば行けない事もない、か………?」
恐る恐る足を踏み出し少しずつ降りて行く。途中何度かヒヤッとはしたが何とか下まで降りられた。
ーーこれもしかしなくても降りた分また登ったりする………?
そろそろ脚が限界だ。先程残しておいた果実を齧り岩場に腰掛ける
「お城から出た後はどうしよう」
とりあえず、アリネスや護衛騎士達の事は気になるが今はまだ会えない。
きっと私と会う事によって彼らの立場が危うくなるだろう。
ーーそうだ
ポケットからペンダントチェーンを取り出して着け、声が聞こえるのを待つ。
ーーあれ、いつもならすぐに幼女が反応するのに
まあ2人だっていつも暇な訳ではないだろう。ペンダントチェーンは付けたまま置いておこう。
「ん?」
ふと眩しくて目を開けた。どうやら眠ってしまっていたらしい。
「痛っ!」
立ち上がろうとすれば足が痛くてもう一度岩場へ座り込む
「うわぁ………」
靴を脱いで足を見てみると沢山マメが出来、そして潰れていた。明るい所で見ると結構痛グロい。
「薬草なんてわかんないしな………」
辺りを見渡すが岩場に雑草らしき物は生えているがその中に足の痛みを和らげる物があるかどうかなど知る由もない。
ガサガサッ
「!」
岩場の間の雑草が揺れる
ーーもしかして眠っている間に王城の兵達に見つかった?
ハラハラしながら見つめていると、そこから現れたのはリスっぽい生き物だった。物凄く黄色い。着色した?ってくらい黄色いが見た目は完全にリスだ。そして頬袋がパンパンになっている。
きっと沢山収穫して今から住処に帰るのだろう
「こんにちはリスさん。驚かせてごめんね。ほっぺた、パンパンね」
ホッと一息つきなからリスに話しかけるとリスはこちらを怖がる様子も無くトトトと近付いてきた。
ーーあれ、人間に馴れてる?
そしてそのまま私の膝の上まで乗ると徐に口をオエオエし出した。
「え、ええぇえ?!」
苦しいのかと思ったがどうする事もできず、リスの近くに手をやりアワアワとしているとリスが んべっ! と頬袋から何かを吐き出した。
「あ、びっくりした。これを出そうとしただけなのね。これからお食事?
ふふ、それにしてもよくそんな小さなお口にこんな大きな塊が入っていたわね」
真っ黄っきのリスが取り出したのは草木っぽい塊だった。恐らくリスの唾液で少しベタついているのだろう。固まっている。
「てっきり木ノ実でも出すのかと思った。リスって葉っぱも食べるの?」
するとリスは塊を食べたりせずに鼻先でツンツンと突き出した。
ーー何してるのかな
そのまま眺めているとリスは突くのをやめ、塊を私の膝に乗せたままひらりと近くの岩に飛び乗った。
トトトトトトトト
「ん?!」
リスは突然ウサギの様に後ろ足でタッピングを始める。すると周りから沢山のこれまた真っ黄っきのリス達が集まってくる
「多いなー大家族だなー」
もう初めにいた子がどれだかわからなくなった。そしてリス達は初めのリスが私の膝に置いていった塊をそれぞれ少しずつ齧って行き、私の足元へと向かう
「何を……って、ちょ!あはは!まってやだくすぐったい!」
さわさわと柔らかい感覚と先程の塊だろうか。少し硬い物が足裏に擦り付けられているが物凄くくすぐったい。
「………お、おわった…………」
笑い過ぎてぐったりしながら足裏を見ると、茶色い汁が沢山付いている。
ーーもしかしてこれ、薬草か何かをつけてくれた?
リス達を見ると、リス達もまた私の事をじっと見つめている
「薬を塗ってくれたのね、ありがとう。何だか痛みが引いてきた気がするわ」
するとその言葉を聞くとリス達は満足そうに鼻をフンフンと少し動かすと一斉にどこかへと帰って行った。
そして本当に足の痛みが引いている。
「この森?森かな?私に至れり尽くせりね」
ーーよし、行くか
気合いを入れてまた歩きだす。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…
雪見だいふく
ファンタジー
私は大学からの帰り道に突然意識を失ってしまったらしい。
目覚めると
「異世界に行って楽しんできて!」と言われ訳も分からないまま強制的に転生させられる。
ちょっと待って下さい。私重度の人見知りですよ?あだ名失神姫だったんですよ??そんな奴には無理です!!
しかし神様は人でなし…もう戻れないそうです…私これからどうなるんでしょう?
頑張って生きていこうと思ったのに…色んなことに巻き込まれるんですが…新手の呪いかなにかですか?
これは3歩進んで4歩下がりたい主人公が騒動に巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んでいく3歩進んで2歩下がる物語。
♪♪
注意!最初は主人公に対して憤りを感じられるかもしれませんが、主人公がそうなってしまっている理由も、投稿で明らかになっていきますので、是非ご覧下さいませ。
♪♪
小説初投稿です。
この小説を見つけて下さり、本当にありがとうございます。
至らないところだらけですが、楽しんで頂けると嬉しいです。
完結目指して頑張って参ります
みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜
ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。
年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。
そんな彼女の癒しは3匹のペット達。
シベリアンハスキーのコロ。
カナリアのカナ。
キバラガメのキィ。
犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。
ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。
挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。
アイラもペット達も焼け死んでしまう。
それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。
何故かペット達がチートな力を持って…。
アイラは只の幼女になって…。
そんな彼女達のほのぼの異世界生活。
テイマー物 第3弾。
カクヨムでも公開中。
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる